これは、とあるトレーナーの独白。
やった、やったぞ!!
ついに、トレーナーに舞い戻ることができたぞ・・・
長かった、気の遠くなるような謹慎期間だった。
俺からウマ娘を遠ざけやがって・・・絶対に許さんぞ、協会どもめ。
しかしまさか、あの事件で悪名高い『アケルナル』に配属されることになるとはな。
これも運命かもしれん。
あのトレーナーの虐待のとばっちりで、俺まで謹慎させられたんだ。
憎んでも憎み足りない、前トレーナーのクソ野郎・・・
あれだけの素晴らしいウマ娘たちの、一番大事なジュニア期を棒に振りやがって。
しっかりと適正通りに育てていれば、どれだけ素晴らしい走りを見せてくれたことか。
力強く、熱い気持ちにさせてくれるレースをするウオッカ。
確かな実力がありながら、レース中に発揮しきれないナイスネイチャ。
芦毛の怪物オグリキャップ。
BNWの一角、ビワハヤヒデ・・・
他にも粒ぞろいじゃないか。
そしてトウカイテイオー・・・
1年も走っていないというのに、ひと目でわかるポテンシャル。
リハビリを超えれば復帰は難しくない。
しかし問題はメンタルだな。
前トレーナーに依存していたと聞いていたが、根は深そうだ。
難しくても、ゆっくり、じっくりと前に向かせていかないと・・・
しかし、トウカイテイオーから依存・・・依存・・・
ああああああああああああああ
俺も、依存されてえええええええ
どこ行くにも着いてきてほしい!
いっしょにソファでごろごろしたい!
ちょっと他のウマ娘見ただけで嫉妬されたい!!
オグリキャップにめっちゃご飯食べさせてあげたい!
ナイスネイチャをとにかく褒めちぎって困らせたい!
ビワハヤヒデの大きな頭をこれでもかといじくり回したい!
ウオッカにフリフリのかわいい服着せて連れ回したい!!
ハッ
いかんいかん、また悪い癖が出そうになった。
前のサークルも、あまりにウマ娘に過干渉しすぎてウマ娘人権派のやつらが騒いで追い出されたんだ・・・。
タイミング悪く、アケルナルで虐待が表沙汰になって、ウマ娘に対する扱いがシビアになったからなぁ・・・・
あれさえなければ、俺は今でもあの天国で幸せに暮らしていたはずなのに・・・
とにかく、ここでは理事長からウマ娘とは距離をおけと念を押されているからな。
今のところ、このトレセン学園で俺のことを知る人間は理事長だけのはずだ。
完全に猫をかぶり、クールに、距離感を出していくぞ。
幸い、謹慎期間でよりウマ娘たちの情報は集まった。
日本にいるすべてのデビュー前から引退後のウマ娘のデータ、育成方法、対策、好物、シャンプーの銘柄まで調べてある。
有能なトレーナーであることを全面に出し、距離感を持ちつつも信頼されるトレーナーを目指すのだ。
そうすれば、ウマ娘たちも俺を邪険にはしまい。
あちらから俺に対してコミュニケーションを取ってくるはずだ。
それなら理事長も俺を非難はしないだろう。
距離感を保つ。結果も出す。
両方やらなきゃあいけないってのがトレーナーのつらいところだな。
覚悟はいいか。俺はできてる。
さて手始めにやらなきゃいけないのは、そう。
『駿川たづな』
彼女と親密になり、手を借りることだ。
理事長秘書という立場の傍ら、トレセン学園のウマ娘たちとよくコミュニケーションを取っており、信頼も厚い。
なにより、ウマ娘たちのやる気を出させる声掛け。
バッドコンディションを見抜き解消へと導くアドバイス。
トレーニング時にさりげなくウマ娘の負担を軽減する気配り。
なにこの敏腕トレーナー。サークルに一人はほしい。
伊達にあの若さで理事長秘書に納まっていないな。年齢しらんけど。
まあ人間には興味はないが、ここまで有能であるならば親しくしておいて損はない。
可能であれば、同じくトレーナーをしている名門桐生院家の一人娘、桐生院葵とも仲良くしておきたい。
この世界、コネは非常に大切だ。
前サークルではコネづくりをおろそかにしたせいで、結果は出していたのに孤立無援で誰からも助けてはもらえなかった。
ニの轍は踏むまい。
ついでに理事長ともコミュニケーションは取っておかないとな。
なんといってもこのトレセン学園のトップだ。
ここで働く以上、彼女からの評価から避けては通れない。
極端な話をすれば、すべて完璧にやったとしても、理事長から嫌われてしまえばそれまでだ。
少し話をしただけだが、そう悪い人物ではない。
勢いと思いつきで動いてしまうところがあるが、それもウマ娘のことを思えばこそ。
俺と理念は通じるはずだ。
さて、ウマ娘たちが保健室から出る前に、全員の育成計画を練り上げねばなるまい。
最初が肝心だ。
ただでさえ、冷たいトレーナーだと思われているのだ。
気張らなければ・・・もう一度、天国を作るために・・・・