「はーい、失礼しますねぇ」
「遠いところ、わざわざすまないな」
「いえいえ、トレーナーのためなら、たとえ春も夏も秋も冬も越えて、ですよ。ふふ」
ぞろぞろと入ってきたのはウマ娘だった。
2・・・いや、3人いる。
この学園では見たことのない娘たちだった。
「さて、紹介しよう。
まずこの娘がスーパークリーク。
スタミナ系のトレーニングサポートをするのが得意だ。
また、レース中にスタミナが回復する素晴らしい技術を教えることができる。
引き継いだものは、よくコーナーでの走り方に驚いて『円弧のマエストロ』なんて呼び方までされているくらいだ」
「まあトレーナーったら、あんまりおだてないでくださいな。
ご紹介あずかりましたスーパークリークです。
いままで皆さん、辛いことがいっぱいあったと思います。
でも、モヤモヤした思いも誰かにぶつけることで気持ちが整理できることがありますから。
そんなときは、ぜひ私を頼ってくださいね」
なんという抱擁感・・・優しさが体中から溢れだしている。
つらいとき、迷わず抱きついてしまいたくなるこの安心感はいったいなんだ。
男性でなくても、母性を求める気持ちというのがわかってしまう。
「続いてニシノフラワー。
スピード系のトレーニングを手伝ってくれる。
フワフワした外見だが、サポートする能力は確かだ。
また、直線の走り方には一家言ある。ぜひみんなにその技術を学んでもらいたい。
あとは、こう見えてコミュニケーション能力が高くてな。
君たちとサポーターたちの間をうまく取り持ってくれるはずだ」
「は、はじめまして。ニシノフラワーと申します。
お花を育てるのが好きです。
みなさんとサポーターが仲良くなれば、トレーニングの成果もあがると思うので・・・
みんなで仲良くできるように、頑張りたい、です」
「うむ、ぜひ頼む。(迫真)
さて次はタマモクロス。
差し向きのこのサークルにふさわしい、中盤から巻き返すための技術を多く知っている。
普段はスタミナ系のトレーニングを教えてくれるぞ。
これで結構苦労人だから、なにか悩みがあったら相談してみるといい」
「だ、誰が昔から貧乏で碌なトレセンにも行けず苦労したって!?
大きなお世話や!
ふん、ウチはタマモクロスっちゅうもんや。
トレーナーたっての頼みっちゅうことであんたらの世話することになったけど、手加減せんでビシビシいくからな!
泣いてもしらんで!」
「中距離を走る以上、スタミナは一定以上必要になるからな。
学ぶことは多いはずだ。
以上が君たちのサポートをしてくれるウマ娘になる。
俺は君たちと親しくなるつもりはないが、彼女たちは別だ。
親身になって相談にも乗ってくれるだろう。
困ったことがあったら、聞いてみるといい」
「「「はい!」」」
なるほど、本人はウマ娘と距離を取りつつも、メンタルケアは彼女たちにさせるつもりか。
そうまでしてウマ娘と仲良くなりたくないなんて、なにか理由でもあるのか。
ウマ娘のことがあまり好きではないとか・・・。
「へえ、親しくなるつもりは・・・」
「ないんですね、トレーナーは、今回は・・・」
「ほーう、それはええこと聞いたわ・・・」
「・・・・?」
サポーターたちがなにか小さい声でぼそぼそと喋っていたが、中身までは聞き取れなかった。
まあ、このトレーナーが手放しに褒めるのだ。
有能なのは確かなようだ。
「でも、ウマ娘をサポーターとして雇うなんてあまり聞いたことがありません」
「『アケルナル』ではそうだったらしいな。
人間である自分たちが導くんだと、変なプライドがあったようだ。
俺がいた厩舎では、引退したウマ娘にはよくサポーターとして世話になったものだ。
彼女たちは競争ウマ娘としての経験があり、造詣が深い。
いくら知識として学んでいても、経験には及ばないものがあるからな。
俺はぜひ、彼女たちにその現役時代の経験に基づいたサポートを期待している。」
なるほど、効率重視のトレーナーらしい考えだ。
ひとつひとつの発言は理にかなっているように思う。
そして、前サークルではそれなりに信頼されていたのだろう。
そうでなければ、転職したトレーナーにわざわざついてくるようなことはしないはずだ。
「8人も育成ウマ娘がいるからな。サポーター3人では本来足りないんだが・・・
まあ、みんな経験豊富だ。うまく2,3人に一人着くような形で回してみてくれ」
すると、スーパークリークさんから声がかかった。
「あら、トレーナーさん。
あの二人は連れてこなかったんですか?」
「・・・彼女たちは、まだ若い。
これからは競争ウマ娘としての道もある。
これ以上、俺の仕事に付きあわせるわけには・・・・」
トレーナーの歯切れが悪い。
短い間だが、なんでも歯に衣着せずズバズバと言い切るような人だと思ったが・・・
「では、差し向けであるウオッカ、ナイスネイチャ、オグリキャップはタマモクロスについて体育館へ。
ビワハヤヒデを筆頭に先行グループはニシノフラワーとともに運動場。
残りはスーパークリークとジム室に集合だ。
細かい指示は、彼女たちサポーターから受けてくれ」
「「「はい!」」」
いよいよ、本格的にアケルナル始動だ。
「しかし、トウカイテイオーはまだ保健室から出てこれないか・・・」
「骨折自体は治っているんですけどね・・・長くベッドの上でしたし、基礎体力が衰えていると思います。
こう言ってはなんですけど、1年以上故障の療養をして、以前のテイオーの走りができるとは到底思えませんが・・・」
「ふん・・・まあ、一般論でいえばそうだろうな。
しかし彼女のバネの柔らかさは天性のものだ。
逆に1年休養したことで、筋肉や靭帯の疲弊も少ない。
これをプラスとしてみることもできる。」
「トレーナーがそう言われるのでしたら・・・わかりました。
では、私はトレーニングに行ってきます」
「うむ。無理はするな。
気がかりなことがあったら、なんでもあの3人に相談するんだ」
「はい」
あくまで、自分は相談にも乗らないスタンスなのか。
このトレーナーをどこまで信じていいのか・・・今の段階では、まだわからない。
◇ ◇ ◇ ◇
「ふう、みんな行ったか・・・こうして距離感を持って接するのは、なかなか寂しいものがあるな。
早く慣れなければ・・・」
本当なら、保健室から出たばかりの彼女たちを大いに労ってやりたいところだ。
やさしく撫で回してやりたい。(特にビワハヤヒデの頭)
まあ、こうして空いた時間で全国のウマ娘たちの更なる調査(という名の動画鑑賞)でもするか・・・。
そうパソコンの前に腰を落ち着けた矢先だった。
バン!!!
壊さんばかりに、勢いよくサークル部屋の扉が開いた。
「はあ、はあ、はあ・・・すいません!川に沈みそうになっていたトラックを引き出していたら遅れました!
こちらがアケルナルのサークル部屋で間違いありませんか!?」
「ちょっと、待ってよキタちゃーん・・・・はあ、はあ・・・
あ、トレーナーご無沙汰です。うふふ・・・」
「き、キタサンブラック、サトノダイヤモンド・・・なぜここへ・・・
俺は君たちになにも連絡していないはずだが・・・」
「なぜって、水臭いですよトレーナー。
1年の謹慎期間があけて、トレーナー活動再開するって。
タマさんから聞きましたよ!
なんで私達に声をかけてくれなかったんですか!?」
「そ、それは君たちがもうそろそろ育成ウマ娘として入園するころだと思って・・・」
「入園まであと2年あります!
それまで、トレーナーについてサポーターとして勉強したほうが、きっと将来のためになります!
それに、ここ・・・テイオーさんがいるんですよね?」
ギラリ、と彼女の目が光ったような気がした。
「トレーナーさん、知ってて私に黙っていたんですか。
私が昔から、テイオーさんのファンだって、知ってましたよね。
次のサークルに、テイオーさんがいるって。
灰家トレーナーとテイオーさんがいるサークル。
フフフ。
私が行かないわけがないじゃないですか」
「そうそう、キタちゃんが行くなら、当然私もついてきますから。
人手、足りてないでしょう?
私とキタちゃんがいれば、スピ2スタ3で回せますよ?
トレーナーの必勝編成ですよね?」
「う、うむ・・・確かに・・・そうだ。
だが君たちはまだ若い、親御さんの許可も得なければ」
「そういうと思って」
「はい、両親の同意書です。これで安心ですね、トレーナーさん」
「・・・段取りがいいな。さすがはサポーターとしてしばらく学んだだけはある・・・」
「ふふん、トレーナーの教えがいいですから!」
「ではでは、我々キタサトコンビ。アケルナルにご厄介になります。」
「・・・・・あ、ああ。よろしく頼む」
来てしまった・・・・
そもそもの1年前のサークルを追い出されたきっかけの二人だ・・・
入園前のウマ娘がサークルに入り浸って働かされてるってタレコミ入って、査察入って、幼い娘とのスキンシップが激しすぎるからってNG入ったんだぞ・・・
このままじゃあのときの二の舞いじゃないか・・・。
もうおしまいだ・・・俺のトレーナー人生は・・・
短い夢だった・・・
さよならウオッカ・・・男友達みたいな距離感で一緒に遊びたかった・・・
さよならナイスネイチャ・・・ぜひ姉プレイをお願いしたかった・・・
さよならオグリキャップ・・・無表情娘をとても甘やかしたかった・・・
ビワハヤヒデ・・・あのもふもふヘアーに頭うずめてクンカクンカしたかった・・・
さよなら、テイオー・・・俺のテイオー・・・・ぐす・・・
「そんなこの世の終わりみたいな顔しないでください、トレーナー。
私達もあれから反省したんです」
「私達の両親が通報したせいで、トレーナーにとてもご迷惑をおかけしてしまいまして。
でも、ちゃんと両親とも『お話』してきましたから。
もう大丈夫ですよ」
「『ひと目のあるところでは』トレーナーとも距離を持って話しますし。
普段は幼年学園にも通って、空き時間にここに来ます」
「それなら問題ないですよね、トレーナー?」
「ほ、本当か・・・・!?」
それなら、確かに大体の問題は解決できる!
理事長のオファーもクリアしている!
ありがてえ、ありがてえ・・・!
「す、すまない、助かる・・・!」
「いえいえ、元はといえば私達が原因ですから。
でも、代わりと言ってはなんですけど・・・
ひと目のつかないところでは、今まで以上に構ってくださいね?」
・・・い、今まで以上、だと・・・
「それと、確かこのトレセン学園にメジロマックイーンさんがいらっしゃいましたよね?
今、確か左脚部繋靱帯炎を発症して、サークルも辞めて引退も考えてらっしゃるとか・・・。
私が言いたいこと、トレーナーでしたらお分かりですよね?」
「はい・・・」
「うふふ、素直なトレーナーさん大好きです。
またいっぱい遊びましょうね。」
それだけ言って、二人はウマ娘たちのトレーニング場へと向かった。
残された俺は、もうあの二人から逃げられないのだと悟って、ひとり、泣いた。