よくある元ブラックサークルもの   作:ナップル

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『踊るくらいなら』

『ラップタイム・・・・1分18秒だと!?

 ろくに訓練も受けていない、入園まもないウマ娘だぞ!

 血統、身体能力、将来性・・・申し分がない・・・』

 

『へへーん!ボクはカイチョーを超えるウマ娘だからね!

 これくらいは当然だよ!』

 

『すばらしい・・・!

 ぜひ、我がアケルナルに入りたまえ!

 うちならば、その才能を活かしきることができる!

 それだけの素質、よそのサークルでは持て余してしまうに違いない!』

 

『え、えーと・・・今日は初日だし、いろいろなサークルを見て回る予定だったんだけど・・・』

 

『やめておけ、他のサークルには君を育てるだけの能力のあるトレーナーなどいないぞ。

 他のウマ娘と対して変わらないトレーニングメニューを与えることしかできない。

 私ならば、貴様にマンツーマンで指導をすることを約束する!』

 

『へへへ、そこまで言うなら・・・決めた!ボク、このサークルに入るよ!

 無敗の三冠王になるから、ご指導よろしくね!トレーナー!』

 

 

・・・・ああ、今でも思い出す。

初めてトレーナーとあった日のことを。

あの頃は、希望に満ちていた。

自分の能力をなにも疑わず、この先には自分の望む未来が待っていると、信じてた。

 

トレーナーが言ったことは嘘じゃなかった。

あれからずっと、マンツーマンで指導してくれた。

雨の日も、風の日も、体調が悪くても、とにかく走ることが大事なんだと繰り返し言われた。

 

『あの、トレーナー・・・今日、すごく気分が悪くて・・・練習を休みたいんだけど・・・』

 

『何を言っている!そんなことで無敗の三冠王になれると思っているのか!?

 ライバルたちは、みんな辛いトレーニングをしているんだ!

 そいつらに勝つためにはどうすればいいと思う!』

 

『勝つ、ためには・・・』

 

『そいつらよりもさらに多くの練習をこなすのだ!

 そうして初めて、無敗の帝王となることができる!』

 

『無敗の・・・帝王・・・。

 うん、わかったよトレーナー。ボク、走るよ・・・』

 

だんだんと、走ることが楽しくなくなった。

勝つことがすべてで、それ以外には興味がなくて。

あんなに好きだったウイニングライブも億劫になってた。

踊るくらいなら、早く練習に戻りたかった。

 

サークルのみんなはほとんど自主練みたいになってた。

ボクだけトレーナーに直接指導されてる。

その特別扱いは、正直言って嬉しかった。

 

<お前の素質が、彼女たちの出番を潰したとも言えるな。

 まぶしすぎる最強の血統が前トレーナーを狂わせた。>

 

・・・ボクの、せいなの、かな。

ボクがいなければ、トレーナーももっとサークルのみんなに公平に指導して。

みんなにちゃんと出番があって。

ボクなんて・・・いなければ・・・・

 

涙が滲みでてくる。

この1年、ずっと考えないようにしてきたことだった。

新しく来るトレーナーたちは、みんなボクは悪くないと慰めることしかしなくて。

だから、もう忘れようとしてたんだ。

 

ボクは、本当にこのサークルに入ってよかったのか・・・。

トレーナーが言っていたことはどこまで正しかったのか。

ボクが走る意味はあるのか。

こんなにも長く休んでいたのに、走ることはできるのか。

 

新しくきたトレーナーは、ボクの痛いところを迷うことなく言葉で突き刺してきた。

 

頭の中でぐるぐるとずっと同じ悩みばかりが浮かんでは消えていく。

答えは、でない。

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「今のスパートよかったで!

 第4コーナー回ってから、トモの辺り意識して足振り上げんねん!

 差しウマは最後の直線命や、位置取りがものを言う!」

 

「はい、イチニ、イチニ。

 一番きついところですよ、体力振り絞って!

 ここでどれだけ体力使いきったかで、スタミナの付き方が変わりますよ」

 

「スピードトレーニングはトモの前廻りの筋肉を特に意識してくださいねー

 残り3本、ダッシュ行きます」

 

 

トウカイテイオーが保健室からなかなか出てこない間。

アケルナルのトレーニングは順調に勧められていた。

サポーターとして呼んだ彼女たちの活躍は著しい。

すでにメンバーから一定の信頼を得ており、着々と能力も向上している。

さすがは俺が育てたウマ娘たちだ。

 

しかし俺も負けてはいない。

サークルのためにと、毎夜、一生懸命役割を果たすべく精を出していた。

 

「やはり、あの日の中山競バ場に駿川さんもいたんですね。

 今でも覚えていますよ、ゴールライン手前で差しきったシンボリルドルフの末脚・・・」

 

「そう、そうですよ!まるで会場が轟くがごとく震えて!

 歴史的瞬間に立ち会った!って感じで!」

 

「毎年中山ではドラマが起きますけど、あれは一際でしたね」

 

「まったくです!もう私、中山競バ場に定期的にいかないと足が震えちゃって・・・

 あら、うふふ、はしたなくてすいません」

 

「いえいえ、お気持ちはよくわかりますよ。

 おっと、グラスが空になってますね。

 次はシャンディーガフはいかがです?」

 

「もう、こんなに飲ませて・・・トレーナーさんたら、いけない人ですねぇ・・・ヒック」

 

・・・・ちゃうねん。

 

これにはわけがあって。

サークルのためで。

決して浮気などではなく・・・。

 

いやそもそも浮気だなんだと俺は独身だし特別な相手もいないし・・・

 

「ふう、なんだか気持ちよくなってきちゃいましたしねぇ。

 トレーナーさんがこんなにウマ娘に熱い思いを持っていらっしゃるなんて思いませんでしたよぉ。

 最初あったときは、なんだか冷たい人だなって・・・」

 

「いえ、そう思われるように振る舞っていましたから。

 でもアケルナルの現状を聞いて、いてもたってもいられなくて・・・」

 

「優しい人なんですね・・・わかりました!

 不肖、駿川たづな!今まで機会に恵まれなかったアケルナルのみなさんのために、一肌脱ぎます!

 あ、ほんとに脱ぐわけじゃないですよ?もう、トレーナーさんエッチなんですからー」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

そう、俺のサポーター編成、最後のピース。

友人枠とも言うべき、メンバーのメンタル・体力・コンディションの底上げを担う駿川たづなを口説き落とすこと。

それが今最も大切な仕事なのだ。

 

そうでなければ、なぜ俺がウマ娘でもない女性にわざわざおごりで毎日競バ場行って、バー行って飲んで騒いで、家まで送り届けたりしなければならないのか。

人生すべてをウマ娘に捧げると誓ったこの俺がだぞ!?

一生の不覚だ・・・。

 

いやまあ意外とウマ娘のことで話が合うし、正直楽しかったのは否めないのだが・・・。

なんか競バ場で興奮する駿川さん、どっちかというとパドックに出るウマ娘みたいだったし・・・。

今にも走り出しそうに見えたし・・・。

そのまま耳としっぽが生えてくるんじゃないかと思ったくらいだ。

 

「おっと、足元がふらついてますよ、駿川さん。

 送りますから、そろそろ出ましょう」

 

「あらあら、すいません。

 でも、駿川じゃなくて、たーづーな!って、呼んでいいんですよ?

 みんな、そう呼んでますから」

 

「ははは・・・わかりました、たづなさん」

 

「もう、真っ赤になって、トレーナーさん可愛いですねー」

 

この人酒癖わりぃ・・・・

早いこと送り届けてお暇せねば、送られ狼に食われてしまいそうだ。

なんか目がぎらついてるんだよな。

 

協力も取り付けたし、これ以上はなんかいろいろまずい。

 

「はい、たづなさん。

 おうちに付きましたよ。

 ほら、靴脱いで、水買っておきましたからね、寝る前に飲んでくださいね」

 

「はーい、トレーナーさーん。

 あ、せっかくだから中で休んで行ってくださいよー。

 送ってもらったお礼もしたいですし・・・」

 

「いえ、明日も仕事ですから、今日はこれくらいでお暇します」

 

「真面目ですねぇ・・・」

 

「それでは、また明日。学園でお会いしましょう」

 

「はーい、おやすみなさーい」

 

 

ふう・・・ようやく解放された。

今は22時半か、早く寮に帰ってみんなのトレーニング成果の報告書を確認せねば・・・。

 

電車に揺られ、酔いも手伝って気持ちのいい眠気と戦いながら、寮についた。

 

「・・・あれ、電気がついてるな。

 出るときに消し忘れたか。」

 

「「おかえりなさーい」」

 

「はいただいま・・・っとうおおおお!?」

 

な、なぜ俺の自室にこの二人が・・・!?

 

「キタちゃん、ダイヤ・・・どこから入った・・・」

 

「どこからって、玄関からに決まってるじゃない。トレーナー」

「私達ももういい歳ですし、窓からなんてはしたないことできませんわ」

 

「・・・鍵は間違いなく締めたはずだ。」

 

「うん、こないだトレーナー、サークル部屋に自室の鍵置いてトレーニング見に行ってたでしょ?

 あのときに鍵型取って。もう、不用心だなー」

 

「そういう少し抜けてるところも可愛らしいですけどね」

 

・・・合鍵作るのははしたなくないのかよ・・・!!

問い詰めたい。しかし、2対1で勝った試しがないのだ。

俺にできることは、ただ守りを固めることのみ・・・。

 

「それで、トレーナーさん。夕方のトレーニングを私達にまかせて、こんな時間まで何をされていたんですか?」

 

「その襟についた口紅・・・たづなさんのだよね?」

 

・・・今日は・・・長い夜になりそうだ。

 




こんな話書いてるおかげか、ビワハヤヒデ引けました。
ありがとうございます。
これでビワハヤヒデの性格もよくわかったので出番増やせそうです。

しかしこの子育成難しいな・・・
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