よくある元ブラックサークルもの   作:ナップル

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『幼稚園のお遊戯を見ている方が有意義ですわ』

私は、ウマ娘界屈指の名門であるメジロ家に生を受けた。

気高さと強さを合わせ持つことが、我がメジロ家の家訓。

何も悩むことなく、私は競争ウマ娘としての人生を、レールの上を進むが如く歩んできた。

 

才能もあったのだろう。

入園当初から期待の新星と呼ばれ、実際に結果を出した。

自分のライバルは、自分自身。

自分のレースをすれば、おのずとレールを外れることなく目的地へと辿り着ける。

そう思っていた。

 

心が熱くなることはない。

ただ、必要なトレーニングを行い、必要な戦略を立て、レースに勝つ。

それの繰り返しが、これからも続いていくのだろう。

 

入園していくつかレースをこなしたころ。

いつものように残ってトレーニングをしていると、コースの逆側を私以外のウマ娘が走っているのが見えた。

こんな時間まで、いったい誰だろう。

そうして目を向けると、そこにいたのは同じく今年入園した、トウカイテイオーだった。

 

入園から無敗。

メジロ家のような名門ではないが、彼女の親はウマ娘史上に名を残す名バだ。

トウカイテイオーも私と同じく入園から期待を寄せられ、その期待通りに結果を残した。

多少の親近感はあったが、それでも自分の方が強いと自然と思っていた。

 

意識していたわけではないが、私と同じ土俵に立たんとするウマ娘だ。

自然と、コースを走る脚に力が入る。

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」

 

このまま追いついてしまえば、違いを肌で感じて帰ることだろう。

そう思い、追いつこうとしたところだった。

 

「なっ・・・」

 

私の意図を察してか、逃げるようにテイオーは脚を速めた。

生意気な・・・

 

元来、逃げ・先行向けで追うのは得意ではないが、そうも言っていられない。

もう日も落ちた。

とっとと追いついて、ゆっくりとシャワーを浴びて帰ろう。

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」

 

・・・・・追いつけない。

差が、縮まらない。

この私が、ほとんど全力を出しているのに、追いつけない・・・!?

 

気を抜くと、むしろ追い抜かさんばかりに食らいついてくる。

身の程知らずにも、この名門メジロ家のこの私に勝とうとしている。

許せない。

この二人だけのレースに負けたら、ずっと後悔し続けるだろう。

そんな確信を持って、最後は意地になってただただ走り続けた。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ・・・なんで・・・走るのを・・・やめないの・・・」

 

「もー・・・とっとと・・・帰ってよぉ・・・」

 

脚が重い・・・もう何十周走ったか覚えていない・・・

相変わらず、テイオーは逆側を走っている。

さすがに彼女も疲れたのか、足取りは重い。

 

「あと、少しで・・・追いつく、帰れますわ・・・」

 

「ボクは、無敗のウマ娘になるんだ。こんなところで負けられないんだ・・・」

 

気力だけで走っていたが、ついに限界が来たようだ。

私は倒れこむようにコースの上に横になった。

名門メジロ家の娘ともあろう私が、何たるザマ・・・。

 

追いつかれてしまうかと思ったが、相手も限界らしく、逆側で倒れていた。

静かなコース場に、彼女の荒い息遣いが響いていた。

 

勝てなかった。

でも負けなかった。

悔しいと思ったし、抜かれなかったことに安堵もした。

 

「はぁー・・・もう疲れましたわ。そろそろ帰らないと、執事や運転手が心配しますわね・・・。」

 

重い体を起こして、シャワー場で汗を流す。

着替えを終え、校門を出る手前で、間の悪いことにトウカイテイオーと鉢合わせた。

 

「あら、あなたは・・・」

 

「あー!っと、君も今帰り?」

 

「え、ええ。そうですわ。少しトレーニングに熱が入ってしまいまして」

 

「へー、そうなんだ。実はボクも、『すこーし』だけ熱が入ってね!」

 

「・・・ふふふ、奇遇ですわね」

 

「そうだね、キグーだね!」

 

我ながら、白々しいやりとりだった。

 

「私は、メジロマックイーンと申しますわ。あなたは?」

 

「ボクはトウカイテイオー。無敗の三冠ウマ娘になるから覚えておくといいよ!」

 

その日、トウカイテイオーという名前は私の心に刻みつけられた。

おそらく終生のライバルになるだろうと、強く思った。

 

 

 

それからも、来る日も来る日も私とテイオーはコース場で居残りトレーニングをした。

走っている間はお互い喋らず、相手を追い抜こうと必死に走った。

30戦30引き分け。

それが、彼女との戦績。

 

その間、私もテイオーも勝ち星を積み上げた。

お互い走る距離、走るレースが異なったせいで直接対決はなかった。

勝ち続けるとともに、高まっていく名声。

一人では少し重荷に感じていたかもしれない。

同じ立場であるテイオーがいたおかげで、負けるものかとさらなる高みを目指せた。

 

 

自主練ではまだ決着が着いていなかったから、これからも彼女との奇妙なトレーニングは続いていくのだと思っていた。

すると、30日目の最後に、珍しく彼女からコースで話しかけられた。

 

「やあ、メジロマックイーン。今日も奇遇だね」

 

「ええ・・・どうしたんですの。こんなところで話しかけてくるなんて・・・」

 

「んーとね、実はボクのトレーナーが、夜もマンツーマンで指導してくれるって言うんだ。

 だから、自主練は今日でおしまい。

 ずっと一緒に走ってたから、最後くらいは挨拶しとこうと思ってさ」

 

「・・・別に、一緒に走ってたわけじゃありませんわ。

 たまたま、同じ時間に同じ場所で自主練していただけです。」

 

「ハハハ、そうだったね。たまたまだった。

 でも、結構楽しかったんだ。こうして二人で走るの。

 ずっと一人で走ってきたから。

 ボクだけだったらごめん・・・。

 それじゃあバイバイ。マックイーンも、がんばってね」

 

「あ・・・・」

 

あれだけ長く走っていたとは思えないほど、軽い足取りでテイオーは走っていった。

なんで私は、最後だというのに違う言葉をかけられなかったんだろう。

本当はこの会話のない時間を、私も楽しく感じていた。

ずっとこのまま一緒に走れると思っていた。

 

遠ざかっていくテイオーに、言いたいことが浮かんでは消えた。

寂しい。

ウマ娘として走り始めて、初めてそう思った。

 

「・・・ふん、トレーナーからマンツーマン指導なんて。

 ずいぶんと目にかけられているのね。

 私も、気を抜いていたら置いて行かれてしまいますわ」

 

これからも、私とテイオーの向く先はきっと同じはずだ。

私が速く走ることを求め続ければ、また道は交わる。

そのときこそ、改めて決着をつけよう。

私はまた同じコースを一人、走り始めた。

 

 

サークルが違えば、同じ学園内でもなかなか顔を合わせることはない。

たまにトウカイテイオーを廊下や食堂で見かけるくらいだった。

しかし、合うたびに彼女は表情が固くなっているように見えた。

前は誰とでも分け隔てなく接する、天真爛漫とした娘だったのに。

 

テイオーの走るレースは極力見るようにしていた。

テイオーステップと呼ばれる軽快な足取り。

彼女の柔らかい足首と、類まれなる運動神経はダンスにもいい影響を与えているようだった。

テイオーの人気は、レースだけでなく、ウイニングライブの躍動感も大きな一因だったと思う。

 

それが、いつからだろう。

テイオーのウイニングライブが投げやりのように感じだしたのは。

 

『各ウマ娘、最終コーナーを回った!

 折り返して来たのはテイエムオペラオー!

 二番手マヤノトップガンとの差は2バ身!

 このまま決着がついてしまうのかー!?

 いや、外からトウカイテイオーが来てる!

 直前まで脚をためていたのか、これは速い!ぐんぐんとその差をつめる!』

 

『抜いたー!勝ったのはトウカイテイオー!

 最終コーナーから6人抜いて、最後はダントツのトップ!

 これで皐月賞、日本ダービーを制し、無敗でクラシック二冠を手にしました、トウカイテイオー!

 もしこれで菊花賞も取るようなことになれば、シンボリルドルフ以来の無敗の三冠王が誕生します!

 期待が止まりません!』

 

『やはり、彼女の差しウマとしての素質を鍛えたトレーナーの育成の賜物でしょうね~。

 最終コーナーからゴボウ抜きする爽快さにファンになった人も多いでしょう。

 またこのサークルのトレーナーは、入園当初よりトウカイテイオーの非凡さを見抜き、ほぼマンツーマンによる指導を行っていると聞きます。

 しかし、このサークルでは他のウマ娘たちの育成にも手を抜かず、みっちりトレーニングをしているとか』

 

『さあ、それでは勝者であるトウカイテイオーをセンターに、ウイニングライブです!曲は・・・』

 

あれほど昔は楽しそうに踊っていたのに。

踊る時間や体力が惜しいと言うように、適当にリズムだけ合わせている。

これが、あのトウカイテイオー・・・?

 

そもそも、あの娘は脚をためて追い込むようなタイプじゃない。

自由に走る先行の方が合ってるはず・・・

いてもたってもいられず、私は競バ場の出口でトウカイテイオーを待った。

 

それほど待つことなく、テイオーは来た。

そばには彼女のトレーナーもいた。

 

「・・・テイオー、お待ちなさい」

 

「なんだい、マックイーン。ボクのレースを見に来てたの?

 速かったでしょ。

 もうすぐ、宣言通り無敗の三冠王に、なるからね」

 

「ええ、速かったですわ。

 でも、なんですの、あのウイニングライブは。

 あれじゃあ幼稚園のお遊戯を見ている方が有意義ですわ」

 

「・・・うるさいなあ、速く走るのに、ライブなんて関係ないだろ。

 観客は、レースを見に来てるんだよ。

 ライブなんて二の次なんだ。

 速く走ることができれば、あとのことはどうでもいいよ」

 

「な・・・!

 すべてのウマ娘の憧れである、ウイニングライブを、どうでもいいなんて・・・!

 撤回しなさい、テイオー!」

 

「・・・トレーニングがあるからボクは行くよ。

 マックイーンも、こんなところにいないでトレーニングしたら?」

 

「待ちなさい、テイオー!あなた、本当にそれでいいんですの!?」

 

私の声も、テイオーにはなにも伝わらないようだった。

 

「メジロ家のご令嬢は余裕ですな。

 こんなところでライバルに激励ですか?

 次は春の天皇賞でしょう。

 一族の目的である三世代連続のトロフィーを前にして、油を売ってていいのかね」

 

「あなた・・・あなたが、トウカイテイオーを追い詰めたんですわね!

 あれほど楽しそうに走る娘だったのに!

 相手をもてあそぶように最終コーナーで差すやり口・・・とてもあの頃のテイオーからは想像もできませんわ!

 今からでも遅くない、先行に変えて・・・」

 

「・・・うるさい!!!

 トレーナーが、差しのほうが適正があるって言っているんだ!

 最後にみんなぶちぬいたほうが観客も喜ぶって!

 だからこれでいいんだ!これが正しいんだ!」

 

「テイ、オー・・・・」

 

私の言葉は、届かない。

トレーナーのことを信じきったトウカイテイオーにかける言葉は、なにも浮かばない。

 

「もういいだろ・・・次の菊花賞まで、もっともっとトレーニングしないと。

 じゃあね、マックイーン」

 

トレーナーと共に、遠ざかるテイオー。

このままなにも言わなければ、あの夜の自主練最後の日となにも変わらない。

だから、なにか、言わないと・・・

 

「・・・テイオー!

 私は、春の天皇賞で必ず1着になります!

 気高く、強いウマ娘に!

 あなたがライバルだと、目標だと胸を張って言えるような優駿に!

 必ずなる、いえ、そう『ありつづけ』ますわ!

 

 だから、私の走りを見ていなさい!」

 

これは宣言だった。

私が終生のライバルだと認めたトウカイテイオーだけに誓う。

 

その日から、私達の道は分かたれた。




メジロマックイーン引いた!
よーしマックイーンの話書こう!

・・・あれ、このマックイーンよく見たら旧衣装・・・・

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