更新が遅くなって申し訳ありません。
今回の遠征、実のところ食料は二の次である。八人のうち二人は子供。さらには女子ばかりという事もある。持ち込んだ食材と職員室や校長室などに備蓄された物を合わせるとそこそこな量でもあり、一週間程度であれば十分持つはずだ。
そんなわけで今回の第一の目的は、ズバリ服飾品の入手にある。
悠里や俺のように自宅から着替えを持ち込めた人間は別として、めぐねえや由紀、貴依、胡桃などは着替えはほぼない。いちおう備蓄の中にジャージや下着などはあってもそれはあくまで間に合わせ。洗濯をしても替えが2、3着しかないとか男でもキツいと思う。まして女子ならばかなりなストレスになるはずだ。
『三階は防火シャッターが降りていないようだな』
二階は吹き抜けエリアの手前にある防火シャッターが降りていて、時折向こう側の『かれら』がぶつかったり叩いたりしていた。横には扉があるのだけど、『かれら』にはドアノブを回す事は出来ないのでそのままの状態になっているようだ。
対して三階はそれが降りていないため、『かれら』が自由に動いていた。それなりに数がいるのだが、ハンクと胡桃の
各々のショップには個別のシャッターがある。それが降りてる所もあればそのままの所もあった。電気が落ちているようでスイッチを押しても上がらない。よってその店には入れないので、意外と回れる店舗は少なかった。それでも、目的のティーンズ向けの店がいくつかあったのは僥倖だろう。
「あ、あの。わたし、大人なのでこういうお店は……」
「だいじょぶ、だいじょぶ♪ めぐねえ、若いしカワイイから」
店内に並ぶミニスカやホットパンツにたじたじなめぐねえ……あると思います(笑)
そんな空間に男が存在できるわけも無く、俺は早々に離れる事にした。フロアの『かれら』はほぼ殲滅してあるし、胡桃もいる。いざという時は何とかしてくれる筈だ。
『解せんな』
ハンクが頭の中で独りごちた。
彼は四階の吹き抜けから落ちてきたと思しき死体を隅に寄せていたのだが……頭が割れて腐敗し始めた死体をそのままにしておくのは精神衛生上良くないと見えない辺りに動かしたのである。
ちなみにこの辺で倒した『かれら』も一緒にまとめている。ちょっとした山になってるので数を数える気にはならない。
『気付かないか?』
そう問われたので死体を検分することにした。ハンクフィルターがあるので吐き気は大丈夫だ。そして、ハンクの言いたい事が分かった。
『腐敗……が遅い?』
『そうだ。『かれら』は死んでいるにしては腐敗の進行が緩やかだ』
バイオハザードにおいて、t-ウィルスによるゾンビ化した活性死体は外見上腐乱したような姿になる。程度の差はあれ体表の組織が崩れ、死後何日も経った死体のように見えるのだ。
がっこうぐらしでの『かれら』は、直後から腐乱死体のようには変化しない。アニメでは黒いオーラを纏っていたため、詳しくは描写されてはいなかったが、今まで見た『かれら』はそこまでひどい状態ではなかった。
例えれば『死後数日』。そんな感じだ。
『季節を考えればこの死体のように腐敗するのが当たり前だ』
確かに落下した死体の腐敗はかなり進行している。蝿が少ないのは有り難い。
対して倒された『かれら』に、蝿が集る事はない。まるでそれは彼らの食料になり得ないとでも言っているようだ。
『ラクーンでは上も下も活性死体だらけだった。酷い悪臭だったようで、同僚などは『ヘリの上からでも臭う』と喚いていたほどだ』
翻って考えてみると、そこまでの悪臭を俺たちは感じてはいない。確かに臭うが、これほどではないのだ。
『こいつは非感染状態だったのだろう。転落して死んだ。だから感染しなかった』
死んだ者には『かれら』は興味を示さない。たぶんその証拠とも言える。
しかし、こうして比較してみると『かれら』と普通の死とでは明らかな差が浮き彫りになる。
『何か関係あるのかな?』
『それはジーザスの管轄だ。もしくは、お前の管轄だ』
トン、と胸を押されたような感覚。あくまで感覚なのだが、たぶん、ハンクがやったのだろう。
『この世界の異端者なのは同様だが、お前の方がより根深い位置にいる。ただの
……なんかいいこと言ったフリして、逃げられた気がした。
しかし、彼の言う事も尤もだ。俺はこの世界に生を受けた人間である。中身が違うとしてもそれは変わらない。
ちらりと見比べてみる。
体表の組織が崩れ始めウジが湧き始める死体と、損傷はあれど腐敗の進行の殆ど無い『かれら』の死体。
真っ当な世界観で言えば、普通の死体の方が正しい。生き物は死ねば腐って朽ちていく。それが無い『かれら』の方が薄気味悪い存在なのだ。だが。
そんな『かれら』の方が見た目には優しい。そう感じてしまう自分に、少しウンザリした。
『考察も結構だが、上の階への偵察はどうする?』
そうだった。
もう一つの懸念すべき案件があった。
四階も防火シャッターで覆われていて入る事は出来なかった。原作では五階のバックヤードに居たはずなので素通りしてフロアを眺める。五階の半分ほどは映画館のエリアであり、そこはシャッターも閉じていない。映画館の扉が開いているが、そこには近寄らない。生存者のコロニーがあった所だが、そこが開いているという事は……そういう事だ。
彷徨く『かれら』を手早く撃退しつつ、音は常に最小限。学園生活部の面々を連れてこなかったのは、この動きについてこれないからだ。あらためてハンクの驚異的な戦闘力に驚く。
映画館の横に両開きの扉があり、そこは開放されていた。バックヤードへの扉である。この辺を彷徨く『かれら』はスタッフのような格好をしている奴が多い。そうなってからもお仕事に精を出すとは、日本人とはかくあるべしか。
『日本人は働きすぎだ』
ツッコミ、ありがとナスw
いくつもあるドアの殆どが開け放たれていた。そのうちの一つに強烈な既視感。
『まさか……』
内心緊張してはいるものの、体の主導権はハンクにある。彼は冷静に中を確認。と、同時に鉄パイプを突きこむ。
「ぐぁあ……」
口内から頸椎を折られた『かれら』が静かに倒れた。すぐ脇にいた『かれら』に驚きもせず、鉄パイプから手を放すと頭を掴んでグリンッと捻る。おお、ネックツイストだ。少し感動していると奥から近づく『かれら』に対して左のローキック。体勢を崩すと右の回し蹴りが首の骨を叩き折った。
『クリア』
ハンクがそう呟くように報告する。部屋の中は荒らされた様子はあまりなく、『かれら』がここに侵入してからあまり経っていない事が分かった。
ここはあのアニメでの
『ここに避難していない……やっぱり』
『別の部屋にいるかもしれんが……ココがやられているのなら似たような状況かもな』
相変わらず感情のこもらない声で答えるハンク。少し苛つくが、確かにそうかもしれない。映画館に避難していた筈の生存者グループもいないところを見るに、ここの『かれら』の侵攻は思ったよりも深刻だったのかもしれない。だとすると──。
『携帯電話か。随分古そうなタイプだな』
斃した男の胸元からこぼれ落ちたPHSにハンクが興味を引いたらしい。社内連絡用の電話だと答えると、彼は電源を入れてみた。
『ふむ、電波が入るな』
『あ……ホントだ』
二本だけどアンテナが立っている。ハンクに代わってもらい、試しに外線で学校の職員室にかけてみる。
しばらく待っても繋がる様子は無い。どうもこの中だけでしか繋がらないらしい。
ならばと、着信履歴と発信履歴を調べる。着信の方をリダイヤルしてみたが応答は無かった。だが、最新の発信履歴からかけた方は反応があった。
『も、もしもし……?』
声音からするとかなり若い女性。もしかして巡ヶ丘学院高校の生徒かと聞いてみる。
『お兄さんっ! 無事だったんだね!』
なんだか、いきなりテンションが上がったようだ。それに、この声は……。
『美紀ったらもう死んじゃってるとか言うし。ほら、ちゃんと生きてるじゃん』
『え……ええ? そんな筈は……』
『あの店員さんのヒーローぱわーは凄かったんだよっ! ちゃんと助けに来てくれたんだもの』
ああ、間違いない。どうやら別の場所に避難していたようだ。ただ、俺を誰かと勘違いしているみたいなので訂正しておく。
「このピッチは拾ったんだ。使えるか確認したら君が出たわけだけど」
『へ? 言われてみたら、声がちょっと若いかなぁ? えへへ、ごめんね?』
「いや、別に謝らなくても」
どうやって拾ったかを誰何することもなく、人を間違えた事を謝ってきた彼女。さすがフィーリングで生きる感性の人、祠堂圭である。
『ちょ、圭。代わって』
『え、もう、いきなりなに?』
『もしもし、あなたは何処のどなたですか? 私たちを救助に来た警察の人ですか?』
強引に電話を奪ったのか、直樹美紀が電話口で詰問口調で聞いてくる。この少しキツめの感じ、懐かしい。
「生憎だけど警察とか救助隊とかじゃない。巡ヶ丘学院高校に避難している元卒業生だよ」
『……なんでここにいるんですか? 学校からは離れてますけど』
お? さすが
「佐倉先生と生徒の何人かで物資の調達に来たんだ。知ってるか? 現国の佐倉先生」
「……その程度の情報なら卒業生でなくても得られます」
「嘘をつくつもりなら、救助隊とか言うと思うけど?」
「その電話の持ち主の方はどうなりました?」
「ご想像どおりだと思う」
『……そう、ですか』
いちおう納得はしてくれた様子だけど、あまり長いこと話してもいられない。このPHS、電池がもう殆ど無いのだ。
「学校に避難するつもりなら合流しないか? 君達以外にも女の子ばかりだし、ここよりは安全だとは思う」
少々ナンパ臭い言い回しな気もするけど、彼女たちを助けたい気持ちは本当だ。今のところ安全そうだが、行き詰まるのは確定だ。外に行くと言う圭と仲違いをして別れてしまう未来は辿りたくない。すると、その圭からも援護が入る。
『いいじゃん、行こうよ』
『そんな……簡単に決められないわよ』
『佐倉先生いるんでしょ? あんなでも大人なんだから頼りになるって』
……悲報。
あんなでも、扱いだったよ。めぐねえ(笑)
「悩むのは構わないけど電池が切れそうなんだ。せめて居場所だけでも教えてくれ」
そう言うと、美紀が悩みながらも答えてきた。電池切れでこの機会を捨てるというのはマズイと判断したのだろう。
「五階、バックヤードの支店長室です。確か、奥から三番目の少し大きめのドアです」
「ひっ……ち、近寄らないでっ!」
部屋に着いて開口一番美紀にそう言われた。
「うおっ、サバゲー? まるでバイオのハンクみたいっ!」
一方、圭の方はマイペース運転中だった。
『む……』
そしてハンク。知ってる人間がいたって照れてるなよ。
ともかく。
これで原作の学園生活部は勢揃いできた。
血濡れの鉄パイプを持って、ガスマスクを付けた黒尽くめの男……美紀の反応のほうが残当(笑)