更新が遅れに遅れて、ついに年が明けてしまいました。面目次第もありません。こんな感じですが、今年もよろしくお願い致します。
「元気そうじゃないか、xxx」
「今週退院でしょう? 良かったわね」
病室で暇にしていた俺を見舞ったのは同僚だった。やたら体格のいいアイツともう一人。共に成績優秀で張り合う姿も様になってる、いわゆるライバルのような関係だが、さっさとくっつけとも言いたくなる。似合いの美男美女なのだ、コイツら。
「よくなんかないぜ。危うく殉職するトコだったんだぞ?」
背中から入ったナイフが腹膜を破り、一時は死にかけていたのだ。舐めてないで防刃ベスト着ておくべきだったと後悔したのは、ベッドの上で人工呼吸器を咥えさせられていた時だった。おかげで少し健康になってしまった。入院中は酒もタバコも駄目だからな。
「そんで? 俺はどこに転属?」
任務中の負傷ではあるが、失策には違いない。どっかに飛ばされるかと覚悟していたのだが、彼らが伝えてきた内容はとびきりだった。
「はあっ? オレが特殊?」
「ヘリ操縦のライセンスあるんだろ? 新任の隊長がイチオシしたって話だし」
「新設の部隊なんだって。山岳救助なんかも受け持つからって聞いてるけど」
ヘリの免許はたまたまだ。軍で修得出来たのは運が良かっただけ。
「でも、良かったわ。顔見知りが同期ってなかなか実現できないもの」
「顔見知り? おいおい、彼氏とかじゃないのか?」
「よせよ、クリス。こんなじゃじゃ馬お断りさね」
「そうよ、クリス。こんな根暗オタク、こっちからお断りよ」
「……オーケイ、そういうことにしておくよ」
訳知り顔でニヤニヤする筋肉質な男は、警察学校で知り合ったナイスガイだ。ハイスクールから空軍に入ったのに、さっさと警察官に転身とか意味が分からんが、俺も人の事を言えた義理じゃない。気持ちもサッパリしてるし正義感もアツい。オレが女だったら惚れるとこだね。まあ、筋トレの回数を程々にしといたら、だが。
同期に地元での顔見知り、ジルが居たのも実のところただの偶然だ。顔もスタイルも抜群、その上成績まで優秀だとか世の男どもの羨望を一身に集める才媛だが、その内面はえらく攻撃的だ。地元で何度小突かれたか、把握出来てないからな。
「伯母さん、心配してたんだから。ちゃんと連絡してあげなさいよ」
「はいはい」
「はいは一回!」
「サー、イエッサー」
戯けて敬礼してやる。ガキの頃からおふくろの真似して俺を管理しようとするところは、本当にやめてほしい。そもそも十二も離れたおっさんだぞ、俺は。
「お、おう……?」
「xxx?」
と、いきなり意識が途切れる感覚に襲われた。
「ちょ、傷口開いたの? ドクターッ」
「おい、ちょっと落ち着けジル」
急いで駆け寄る彼女の焦った顔が見える。おいおい、いつもクールに決めていても、それじゃあダメだろうが───
「……きて」
遠くから、誰かのこえがする。
聴いた覚えのある、だれか。
でも、なかなかはっきりとは思い出せない。
ゆらゆらと揺蕩う意識の中で、俺はぼんやりとそう考えていた。
「起きて、お兄ちゃんっ!」
「……莉緒?」
「は、反省するために籠もってたのに、寝コケてるんじゃないわよっ、もうっ!」
俺の身体にしがみつくようにして涙ぐむ、大切な存在。今生での、もはや一人しかいないであろう、俺の家族だ。
頭を振って意識を覚醒させる。
校長室の中には莉緒の他に由紀、悠里、瑠璃がいる。
みんな不安そうな様子である。
「ハンクさんっ、下からアイツらいっぱい上がってきてるの」
「なんだって?」
俺はカーテンを開けて外の様子を見た。どんよりとした雲間から激しい雨が叩きつけるように降っているのが見える。
「あ……雨か」
迂闊だった。
今まで雨が降っていなかったから油断していた。『かれら』は何故か雨が降ると凶暴化してくるのだ。
『で、でも。対処法が無いわけじゃない』
『かれら』は生前の記憶を残している部分がある。原作では下校放送で帰っていくのだ。
「今すぐ放送室に行って、下校放送をして下さい」
「えっ? な、なんでそんなこと」
「『かれら』を学校から帰すんですよっ」
戸惑う悠里。言ってる事が理解しづらいのは分かるけど、今は素早く行動してほしい。
「君たちも一緒に行って。部屋からは出ないように」
俺は斧を手に取り、警棒とナイフをベルトに留める。そしてバックパックの奥からP226を持ち出し、内ポケットへと収める。皆がギョッとした視線を向けるけど今はそれどころじゃない。早くしないとあの時のような悲劇が繰り返されてしまう。あんな思いはもうゴメンだ。
ドアを開け、素早く中央階段へと向かう。放送室はこの部屋の斜向かいだからそこへのルートを作らねばならない。まだ『かれら』はここまでは来ていないようだが、それも時間の問題かもしれない。
「でりゃあっ!」
「くそ、このっ」
物理実験準備室の辺りで胡桃と貴依が戦っていた。貴依が牽制し、胡桃が仕留めるという連携をハンクの教練どおりに行っている。その後ろにいるロングの髪を束ねた女性は加勢しようか迷っている様子だ。
「めぐねえ、アンタが行っても足手まといだよ」
「く、九郎くん? そ、そんな本当のこと言わなくても……」
「胡桃っ、貴依っ、交代だっ!」
「ハンクッ!、助かったぁっ」
「貴依、押すぞぉっ!」
シャベルを横にして『かれら』を押し出すようにする胡桃。貴依もそれに習って二人で接近する『かれら』が追い払われる。その隙に二人とスイッチする。ふたりとも額は汗びっしょりだし、返り血もひどいことになっている。
「さんきゅ」
「アタシらのせいじゃないからね」
ん? 雨の日は彼女たちのせいじゃないだろ?
二人が下がったのでバックアップにはめぐねえが入る、のだけど。かなりへっぴり腰なのでアテには出来ない。そもそもハンクに任せれば何てことは無いはずだ。
『ハンク、頼む』
『…………へ?』
ハンクからの返答は無い。
『おい、意地悪ならやめろ。洒落にならないっ!』
じわりと、汗が滲む。
一向にハンクの声は聞こえない。
そして俺の身体を動かすことも無い。
けど、現実は非情だ。
追い返されて倒れていた『かれら』を乗り越え、別の『かれら』が近寄ってくる。その距離、二メートル。
『や、やらないと』
ハンクが出てこないというのなら、俺が、自分でやらなきゃならない。途端に脚が竦むのが分かる。どうしても、俺は苦手なのだ。こういうことが。
『かれら』が腕を伸ばしてくる。すぐに届く距離だ。別の個体もいるし、その後からは続々と姿が見える。
『……』
いつか見た光景。
それがゲームなのか、現実なのか、空想なのか、夢なのか。判別は出来ないけど、明らかな既視感。そう、俺は
ぐああ……
『かれら』の、声にならない声が間近で聞こえる。そう、これも覚えがある。聞いたことがある。こんな声を。
その手が、
俺を掴むことは、無かった。
「うぐ……」
「めぐ、ねえ……?」
「へいき? 九郎君」
佐倉慈は。
この期に及んで、人の身を案じていた。
肩を『かれら』に噛みつかれ。
痛いであろう筈なのに。
「アアアア゛ッ!!」
めぐねえに噛みついた奴の頭が消し飛ぶ。彼女には当然、当てない。左手で抱え、右手のみで斧を振るう。近付く『かれら』は、紙切れのように切れていく。
こんな簡単なことが、出来なかったのか。
大振りの一撃で二人まとめて首が飛んだ。
やろうと思えば、出来たことだった。
続けての一撃で三人が脚を切られる。のたうち回る奴は首を踏みつけ、叩き折る。
俺が出来ていたのなら。
「……くろう、くん」
恐れたりしなかったなら。
「もう……やめ、て」
寝コケてなんていなかったら。
「もう……いない、よ?」
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……」
気が付けば。
廊下は血の海となっていた。
冒頭の部分は、決して別のノベルとかではありません。間違いみたいに見えますけど、違うです(言い訳がましい)