地獄のような世界に転生したら死神がやってきた   作:二三一〇

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 最初は丈槍由紀視点となってます。
 後半は九郎視点に変わります。


ひとときの安らぎ

 最近、がっこうが楽しみ。

 本当はこんなこと言っちゃあダメなのは分かってるんだ。

 

 あんな事があって、学校で生活しなくちゃいけなくなった。家に帰って、お風呂入って、お母さんのご飯やお父さんの晩酌のオツマミを頂くことも、もう出来ない。二人が大丈夫だと信じたいけど、周りの状況をかんがえると期待は出来そうにない事も分かってる。それは他のみんなもいっしょ。だから自分のことだけで騒いだりはしないよ? こう見えても高校三年生なんだから(エッヘン)

 

 

 いつも退屈だった学校で暮らす事になるなんて、夢にも思わなかった。最初はこわくて、怖くて……ただ生き延びただけだったから。運良く、屋上を見たいと思って。めぐねえが同意してくれたから起こっただけの、小さな奇跡。

 たぶん私みたいにへっぽこだと、下から上がってくる前に捕まって。『かれら』の仲間入りしていたはず。私だけでも、めぐねえだけでも助からなかったんだ。そういう意味では、私はめぐねえの命の恩人かもしれないね?

 

 でも、本当の意味での命の恩人はハンクさんだ。

 

 夜中に車でやってきた男の人は、まるでゲームのキャラクターのように見えた。ガスマスクに黒づくめの格好で、いかにも強そうな外見。持っているのは銃じゃなくてどこかで拾ったような鉄のパイプだったけど。

 

 彼はそれだけで三階の『かれら』をすべて倒したという。その身体は下に投げ捨てられていて、数えたら十人近くいた事が分かった。

 

 スゴイッ

 

 私たちにはどうにも出来そうもないのに、簡単に倒してしまうなんて。まさにヒーローだよっ、ハンクマンだよっ! グーマちゃんもびっくりだよぉ!

 

 そんな彼には同行者もいた。

 全員女の子で、一人はこの学校の生徒の若狭さん。子供の方はその若狭さんの妹さんとハンクさんの妹さんだそうだ。みんなここに避難してきたらしい。

 

 挨拶も早々に三階に繋がる階段の所にバリケードを作るので手伝ってほしいと頼まれた。それまでなんの役にも立たないと思っていたけど、私だって机くらいは運べる……はず。実際はめぐねえや胡桃ちゃんが二回運ぶ間に一回しか回れなかったけど(テヘッ)

 

 途中、上がってきた『かれら』がいた。黒い靄を纏わせて、ゆっくりゆっくり階段を登るそれは、わざとそうしているようにさえ見えた。じわじわと怖がらせる為に。

 でも、そんな事を躊躇せずにハンクさんは撃退した。立て掛けた机の隙間から突き出した鉄パイプは『かれら』の口へ突きこまれ、それは勢いよく階段を転げ落ちていった。ハンクさんは特に気にした様子もなく……やっぱり少し怖いと感じてしまった。

 

 一連の作業が終わったあとに、ハンクさんがいきなりトイレに向かった。我慢してたのかな、と思ったら女子トイレに入っていった。

 

 さ、さすがにそれはマズくないかな、と思っていたら、私のよく知る人の声が聞こえてきた。閉まっている個室から私の友達、柚村貴依が見つかったのだ。たかえちゃんはよっぽど怖かったのか、私に抱きついてきた。私もホッとしたのか、涙が次々に出てきて二人でおいおい泣いてしまった。そんなふうに騒いでいたら、またしても彼に叱られた。

 

 でも、実はそんなに怖い人じゃない気がした。

 

 『かれら』は音に引き寄せられる。思えば、屋上に恵飛須沢さんが駆け込んできてから『かれら』はやってきたのだ。大声で叫んだり、息を切らせたり、そういった音が『かれら』を引きつけ、押し寄せて来ていたのではないか。

 つまり、彼は教えてくれていたのだ。

 これから先の、生き残る為のやり方というものをだ。ただの怖いひとならそんな事はしない。私達のためを思っての行動だ。

 

 

 ただ、そのひとは二面性のある人だった。

 仮面(ガスマスク)を外し、ご飯を食べていない時の彼はとても笑顔の柔らかい……とてもではないけど『かれら』を鉄パイプでやっつけるヒーローのようには見えなかった。

 

 若狭さんが言うには、彼がホンモノの『半澤九郎』であって、怖い人の方が『ハンク』なのだという……どういうこと? 妹のりおちゃんは『自己催眠』と言っていたし、めぐねえは『多重人格』って言っていた。現国苦手な私には分かりにくいよぅ。

 

「どっちでも好きに呼んでいいよ」

 

 彼自身がそう言っていたので、私は彼を『ハンクさん』と呼ぶ事にした。

 大人のめぐねえよりも背の高いハンクさんは、とっても力持ち。昨日は生徒会室で眠ったのだけど、少し狭かったので生徒指導室も使う事になった。置いてある机は私達の使う物と違って大きいのだけど、彼はひょいっと持ち上げて動かしてしまう。なんでも引っ越し屋さんのバイトをしていたらしく、こういうのは得意なんだとか。

 

 掃除も終わって、みんなヘトヘト。汗もかいたけどお風呂なんか入れないよね。そう思っていたら、なんとっ! シャワーが使えるらしいのだ♪

 

実は職員休憩室にはシャワー設備があるのよ。あんまり使ってなかったんだけど

 

 めぐねえ、そういう事はもっと前に教えてよ〜。体育の授業のあととか大変だったんだからぁ。

 

あくまで職員用なのよ。生徒には使わせない決まりがあるの

 

 よく見ると職員用の設備はかなり充実している。給湯器などはともかく、ガスコンロや炊飯器なども置いてあった。理由を聞いたらめぐねえじゃなくてハンクさんが答えてくれた。

 

「昭和の四十年代後半くらいまでは宿直という制度があって、その名残で設備を残しているんだ。災害とかの備えの意味もあるんだけど」

 

 そう言えばそんな題材のホラーゲームもあったような気がする。私は怖くて一人じゃできないけど。ガスは止まっていたから給湯器は使えない。……あれ? シャワーは使えるのはなんで?

 

「あっちは電気で温めているからね。だから、使える量は決まってる。浴びるのならなるべく早くしないと水になるからね」

うひ、いきなり水はイヤだよぉ〜

 

 めぐねえとハンクさんがその場から離れ、私はたかえちゃんと恵飛須沢さんの所に行った。二人にシャワー使えるらしいと言ったらよろこんでくれた。

 

そりゃあ、ありがたいな。まだ水浴びには早いからな

だけど……着替えが無いぜ?

「「あっ……」」

 

 その場にいた全員が言葉を失った。体型がお子様のままな私でも、それが一大事なのは理解している。

 着ている服は制服だけ。夏場にプールの授業があるなら着替えを持ってくるとかありえる。でも、今はそんな季節じゃない。それに服の替えもない。乙女的には一大事だ。

 

シャワー浴びた後に元の下着は……ちっと、気が引けるなぁ

なんとなく同意だ

ど、どうしよ?

コンビニなら売ってるけど……購買には無かったよな

 

 ここには購買とかもあるけど、二階にある。『かれら』がいる中を探しに行くのはさすがに怖い。

 

あ、でもたしか体操服はあったか? 昨日体育あったじゃん?

そ、そうだね。ちょっと汗臭いかもだけど

運動着ならアタシもあるけど、話が違わないか?

いや、そこに洗濯機があるだろ? 洗剤や柔軟剤もあるみたいだし、洗っちまうのはどうだ?

! お前、冴えてんなぁ!

でも……二階だよ?

 

 うちのクラスは昨日の午後に体育があったから体操服は持ってきていたはず。ただ、それはやっぱり二階のクラス教室に置いてある。三年の私達のクラスは全部二階にあるのだ。

 

それに体操服着てても下着無いのは変わんないだろ?

上から見てても履いてないとは分かんないよ。それに男の目なんて一人しかないだろ?

一人でもいたらダメだろう……

 

 たかえちゃんの言葉にぐったりする恵飛須沢さん。さすがの私もそれには同意だよ。ハンクさんの前でそんなはしたない真似はしたくない。

 

みんな、着替えよ

「「「え?」」」

 

 この難題を解決してくれたのはめぐねえだった。正確には避難用の物資の中に女性用の肌着類がいくつか見つかったというのだ。

 

さんきゅー、めぐねえ

佐倉先生、でしょ? でも、意外だったわ。生理用品とかもあったのよ

ウチの学校、防災意識高すぎじゃね?

わ、これがいいな〜

 

 ピンクのを選んだらたかえちゃんに『お子ちゃま』と言われた。むんっ、こう見えてもケッコン出来る年齢なんだからねっ? ぷんぷん!

 

 さすがに上着とかは無いけど上下のジャージが三着出てきたのでそれを借りる事にした。そんなふうにしていると、若狭さんと子供達がシャワーへと入っていくのが見えた。

 どうでもいいけど、若狭さんは同い年には見えないなぁ……はあ。

 

 

 

 少女入浴(シャワー)中……

 

 

 

 幸い途中で水になることもなく、シャワーを浴びる事ができた。シャンプーも石鹸もあったので助かったよ。私と一緒に入ったのはたかえちゃんと恵飛須沢さん。二人とも私より背が高いし、ちゃんと大人っぽい身体付きしてるぅ……いいなあ。

 

 出てきたらハンクさんがおいでと手招きした。行くと手のひらに冷たい物が渡された。

 

わぁい、ゼリーだぁ♪

 

 一口サイズのフルーツゼリーが三つ。味はバラバラだけどちゃんと冷えていた。見れば先に浴びた子供達も美味しそうに食べていたので遠慮なくぱくり♪ みかんの酸味と甘さが口いっぱいに広がって、とても美味しかった。

 

 ちなみに、私達の洗い物は若狭さんがまとめて洗ってくれていた。さすがにいっぺんには乾かせないので肌着類だけだ。

 

「さて。じゃあ、俺も浴びてくるよ」

ごゆっくり

 

 瑠璃ちゃんの髪をタオルで拭きながらハンクさんを送る若狭さん。ぬぬぬ……若奥様みたい。よく見れば、彼女は私服だ。少しゆったりしたほわほわのパジャマで、るりちゃんともお揃いである。りおちゃんは普通のTシャツにハーフパンツというラフな格好だ。でも、私と同じで少し丈が合ってない。たぶんるりちゃんの借り物なんだろう。

 

 恵飛須沢さんが近寄っていったので自然に私達も近づく。近くで見ると、本当に……大人だなぁ。

 

若狭さん、私服似合うじゃん

家から避難してきたから、私物を持ってこれたのよ

いやーアタシもそーいうの買おうと思ってたんだけど、似合わないからさぁ

ジェラ○ケとか流行りじゃんよ。私も持ってるぞ?

マジか? パンクやるな

うっせぇ、体育会系

 

 さすが恵飛須沢さん。コミュ力が高い。それとたかえちゃんもいつの間にそんなの買ってたの? わたし見たこと無いんだけどっ?

 

私たちだけ、お洒落してるみたいで申し訳ないわね

そういう事じゃないだろ? こんな状況なんだし。四の五の言えないよ

そーそー。なんだかんだで着替えとかもあったし。気にすんな

そうだよー♪ お泊りみたいで楽しいもん

 

 二人がすかさずフォローしたので乗っかってみる。コミュ力弱い私でも、このくらいは空気が読めるのだ。

 

あ、そういえば……

 

 彼女はハンクさんと一緒に来たんだ。その事に気付いた私はそれまでの話を聞くことにした。

 

 聞いてみて、街も相当ひどい事になっていると言うことが分かった。特にお父さんが警察官で、すでに亡くなっていると聞いた時には対応に困った。

 

あの……ごみん(シュン)

気にしないでいいわ。あなた達のご両親の安否も分からないのでしょう?

 

 そう言って笑う彼女は、疲れているように見えた。それは私達もおんなじだ。

 

りーねえ……ねむ……

あら。そう言えばもう八時ね

あふ……わたしもねむぅ……

 

 年少組の二人が眠そうにしているので、彼女は寝室である生徒指導室へ向かった。部屋割としては私達三人が生徒会室。めぐねえと彼女たちで生徒指導室となっている。そう言えば、ハンクさんはどこで寝るんだろ?

 

へ? あ、あー……男の人だし、一緒ってわけにゃいかないよな?

ま、まあ。そうだな、うん

えー? だからって仲間外れなの? それっておかしくない?

だって……なあ?

ねえ?

 

 二人がなんだかよく分からない。仲間になったのならなるべく一緒にいるべきじゃないの? RPGでもキャンプは皆でやるんだよ?

 

あー、この話はやめやめ!

そうだな、さっさと寝ようか

えーっ?

 

 恵飛須沢さんが寝袋に入り、私とたかえちゃんはお布団。代わろうかと聞いたけど恵飛須沢さんは「この方が気楽だよ」と答えてきた。

 

そりゃあ、よく知らん私と寝たくはないだろ?

そうなの?

……そこは気にしろよ

 

 たかえちゃんの優しいチョップの意味は少しだけわかった。私は気にしないけど、恵飛須沢さんは気になるだろう。そういう事なのだ。

 

ふふ……たかえちゃん、だいすき

へいへい。

 

 たかえちゃんに抱きついて眠るのは実は初めてだ。でも、嫌がりもしないで受け入れてくれる。おかげで、こんな状況にも関わらずにすぐに眠りにつくことができた。

 

 眠りに入るその前に一つだけ気になったことがあった。一人で『かれら』を倒してしまう強いあの人は……ちゃんと眠れているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、見回りに行ってくるか」

 

 寝袋から出てモップを持つ。鉄パイプよりリーチがあって、バリケードから小突くにはこちらの方がやりやすいからだ。

 

奴らの生態から考えれば、夜間の見回りは意味がない気もするが?

 

 ハンクがそう言ってくる。「まあ、そうだけど」と、同意しておくけど、万が一の事もある。さらに他の生存者の侵入とかの可能性も無いわけではない。

 

 寝床は校長室だ。ここにはソファーがあるので寝袋には丁度いい。それに男は俺一人だ。色んな意味で危ないことは出来ない。

 

 三箇所の階段を確認したが、近くには『かれら』はいない。やはり上に登ってくるのはよほどの時だけのようだ。

 

 見回りを終えて戻ってくると。

 

……どこ行ってたのよ?

 

 寝袋の上で腕組みをしている妹様がいた。

 

「あ、いや。見回りだけど?」

は? アンタ、昨日も一人でしてたんじゃないでしょうね?

 

 昨日はそのまま寝入ったせいでやってないけど。そう答えると莉緒は不満そうに言ってくる。

 

夜間の見回りは交代制にした方がいいわよ?

「え?」

アンタがゆっくり寝られないでしょうがっ

 

 少し苛つきながら言うその言葉は、俺を気遣うもののようだ。ちょっと嬉しくなったので頭を撫でると、「子供扱いすんな」と不貞腐れた。

 

くちゅん

「夜はまだ寒いから。早く布団に戻りな」

 

 寝袋に戻りながらそう言うと、莉緒は何故かモソモソと中に入り込んできた。え、おい。どういうつもり?

 

るーにはやらせて、私にはやらせないつもり?

 

 そう言って俺のお腹に手を回す莉緒。そういうことね。息苦しいだろうから、顔の辺りを出るようにファスナーを調整しておく。大きめのソファーだからいいけど、ちょっと落ちそうで怖いな。

 

……ママ、パパ……

 

 そう呟く声は、聴かないフリをする。気休めの言葉が意味もないという事は分かるだろう。聡い子だからね。

 

……ふむ

 

 ハンクの呟きもどことなく感傷的だった。今後はどうなるか分からないけど、守っていかないと。俺に寄り添う暖かさにそう誓った。

 

 




 最近体調を崩し気味で更新がやや遅れるかもしれません。ご容赦下さいませm(_ _)m
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