二人で一人のウマ娘   作:なまたま

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少数派を切るのも、しのびない。


メイクデビュー

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メイクデビューまであと繧薙@縺ゅ≧?薙←縺ョ縺(3

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『価値観、ブランク』(END)

 

どこまでも澄み渡る青空、程よく整備されたコース。

昨夜調べたとおりに絶好の良バ場。

 

→(...

 

因子継承から六日間、時折必要最低限の休憩を取りつつ行ってきた調教の成果。

固有技能の試運転をするべく久々に僕はターフへと赴いた。

 

→(...ハリボテエレジー?

 

だけど、確かにこの時間までには来ておいてくれ、と昨日のトレーニング後に言っておいた筈なのに。

ハリボテエレジーがいない。

 

初日みたいに食堂に居るのかと思い、探してみるも見つからず。

ならば入れ替わりかとターフに行き、もしかして部屋に来てるのかと自室に戻り。

トレセン学院の施設を虱潰しに探し、人通りの少ない廊下や運搬用の通路まで探しても、見つからない。

 

→(一体、何処に行った...?

 

 

―――

 

―――

 

四週間前、練習の後。

「ねえ、おねぇちゃん。さっきのあれって...」

『多分、ついに来たんだよ!』

 

私達は、ある技能が芽吹き始めたのを感じていた。

 

「私達、ハルウララと同じタイプだったんだ...」

『あの子も基礎能力低いもんね』

 

走っている途中で胸が燃えるように熱くなり、一部のウマ娘にのみ発現する力『固有技能』。

その片鱗を。

 

「トレーナーさんにも、話した方がいいよね」

『...うん、せっかくだし教えようよ』

 

―――

「ハリボテエレジーは、G3ですら勝負にならない」

―――

 

それはすごい事だと、知っていたからこそ。

トレーナーさんの部屋から聞こえて来た声が、聞き間違えなんだって思い込みたかった。

諦めずに私を教え、導いてくれた人がそんなことを言う筈が無い。

私の可能性を私よりも信じてくれている筈の存在が、『私達』を貶めるなんて信じられなくて。

 

「え...」

 

 

―――

「僕は、二人が今まで積み重ねて来た努力を信じてる」

―――

 

おねぇちゃんは、ゼロから一を作り上げる天才だった。

トレーナーさんが褒めてくれてる『認定技能』だって、おねぇちゃんが独学でいくつも生み出したのを劣化コピーしただけ。

適性も、長距離の走り方や素質でさえも。

私は既にあるものを真似することしかできない、凡才だから。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、トレーナーさん...」

 

だから、オリジナルである固有技能はおねぇちゃんに作らせたのに。

私になっても心が燃え続けていて、シンザンの力を感じ取れないままになってしまった。

 

『私なんかよりも、シンザンを信じたくなったんでしょ?』

「ちがう、ちがう...おねぇちゃんは、誰よりも強いんだ...」

『最強の力に手を伸ばしたくなるのは、私も分かるもん』

「助けてよ、おねぇちゃん...」

 

『...もう遅いよ。あの日、自分自身の可能性を捨てて『シンザン』を選んだのは『エレジー』なんだから』

 

駄目だって、分かってたのに。

おねぇちゃんに都合のいいことを喋らせて、目の前の毒餌に飛びつくのを正当化した。

 

「いやだ、いやだ、いやだ...」

『そうやって、イヤイヤって言ってれば。誰かが庇ってくれると思ってるの?』

「...だって、私は選抜戦でも落ちこぼれのまんまで。トレーナーさんすぐには決まらなくて」

 

思い出すのは、ゴールした私を見下すような視線と、どうでも良さそうな対応。

誰にも期待されず、誰の期待にも応えられなかったレース。

 

『そんな私は、安易な力を欲しがってもしょうがないです...って言いたいんだ』

「っ!ちがう!わたしはおねぇちゃんの夢を、叶えるために」

『違わないんだよ。内心私の事をずっと見下してたくせに、都合の良い力をチラつかされた途端に私を見捨てた。裏切り者だ』

 

おねぇちゃんは、失敗したことなんてない。

少なくとも私が知る限りで、やりたいと思ってやれなかった事なんて殆どなくて。

二人で一人の私が『ハリボテエレジー』である限り、失敗は許されないんだ。

 

『...それは、挑戦することを諦めて良い理由にはならないよ?』

 

でも、仕方がなかった...

あの人が最後に出走した『伝説の有馬記念』。

わたしとおねぇちゃんが初めて連れて行ってもらったレース場で、栄光のセンターを飾ったあの人の姿。

私たちの夢の原点にして、やがて届きたいと全てのウマ娘が願った頂点の力。

 

…どうしても、欲しくなってしまった。

その『絶対』が。

 

 

→(ハリボテエレジー!

『...来たね、エレジーを騙したせいで、エレジーに騙された、バカな人が』

 

『ほら、行きなよ。私もやったんだから』

 

―――

 

―――

 

日が沈みかけ、学園の広大な敷地が茜色に染まる頃。

 

→(そんなところで、何をしているんだ

 

安全柵の設置されていない、立ち入り禁止の本棟屋根にハリボテエレジーはいた。

扉は無いから窓枠をよじ登るか、大鐘の場所から飛び降りたのか。どちらにしても足を滑らせたら大惨事になりかねない危険行為だ。

 

「...あはは、バカと煙は高い所が好きって、良く言うじゃないですか」

 

高さはざっと二十メートル。下はレンガで舗装されている。

 

声にいつもの元気は欠片も見受けられず、力なく笑う彼女の姿は今にも消えてしまいそうで。

 

→(僕が聞きたいのは、そんなことじゃない!

 

一歩、また一歩と屋根の端まで足を進め始める姿。

僕の事なんて目もくれず、空を見つめたままの光無き瞳はどこまでも虚ろだった。

 

→(君は、何をしようとしているんだ!

「…私は、駄目なんです」

 

進む脚色は衰えず、声色は平坦なまま。

 

→(何も駄目な事なんてない!だからバカな真似は今すぐ止めてくれ!

「...じゃあ、何処が駄目じゃないんですか」

→(真面目なところ!

「ご飯でトレーニングに遅刻する私が真面目?ふざけないで、くださいよ」

→(勉強を頑張っていた!

「...ごめんなさい」

 

どうして彼女が謝る必要があるのか、分からない。分かりたくもない。

でも、理解できることは一つだけあった。

 

このままだと僕は、また取り返しのつかない過ちを犯してしまうかもしれないって事だ。

 

→(ッ!君は、また僕を死神にするつもりなのか!

 

屋根の端まで来たハリボテエレジーは身体を半回転させ、雲一つない黄昏の空に浮かぶ星を見つめる。

涙を流すことも無く、震える事も無く。

ただ『何もない』。

 

「私の心は、生まれたときからこうだったんです。他人の不幸や幸せを喜べる自分と、何も感じない自分の二人がいて。たまに、どうしようもなく残酷な事を考えてしまう」

 

→(...やめろ

 

「いつもは必ず意見が食い違うんですけど、今日は二人とも『こうしたい』って言ってます」

 

→(『ハリボテエレジー』...っ

 (『エレジー』...っ

 

「...この空を見つめたまま、消えてしまいたいと」

 

倒れるように落下してくる。両手を広げたままの姿勢で、真っ直ぐに。

僕は彼女を...

 

→助けようと、下敷きになる

 呆然と、見つめる事しかできなかった

 

 

 

―――

メイクデビュー終了

―――

 

メイクデビュー当日。パドックにも、ゲートにも。

ハリボテエレジーが姿を現すことは無かった。

 

→(...どうして

 

下敷きになっても、完全に勢いを殺せるはずもなく。

 

→(この世界は、こんなに救いが無いんだよ

 

 

―――

 

―――

 

葬式の場で、彼女の遺体に飾られた、黄色いアフリカンマリーゴールド。

お姉さんが好きだったその花。

 

花言葉は『逆境を乗り越えて生きる』。

そして、キリスト教における最大の裏切り者『ユダ』の色として...

 

姉からの愛情も、家族からの願いも。

死んでしまった彼女を彩るのは、『絶望』でしかなかった。

 

 

 

 




一章おわり
です

ハリボテエレジーにメイクデビュー勝たせたいですか?

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