二人で一人のウマ娘   作:なまたま

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輝き
限界がある理由


―――

メイクデビューまであと四週

―――

 

→(基礎技能は、豊富なんだけどな...

 

ハリボテエレジーは、トレセン学院に入学する以前から『認定技能』を独学で習得していた。

幾ら取得が容易な『基礎技能』とはいえ、専門家の指導無しで完成形迄こぎつけたそのセンスは正しく常人離れしていると言っても過言ではない。

 

 (固有技能...

→(応用技能...

 

ならば、だ。

無理に無いものねだりをしたり、代替品を安易に与えるよりも。

いま彼女が持っている強みを活かしていける方法を取るべきだろう。

 

幸いな事に、応用技能のヒントを手に入れる方法には心当たりがある。

 

→(よし、絶対に勝たせてやるからな...!

 

パンチでレポート用紙に穴をあけ、プラスチックのフォルダーにしまい込んだ。

 

―――

 

―――

 

次の日の朝。

 

「ふんふふ〜ふふふん〜」

 

なにやら鼻歌を歌っている彼女に声を掛けた。

 

→(おはよう、ハリボテエレジー

「お、おはようございます、トレーナーさん!」

『おはよう、トレーナー!』

→(...いつにも増して元気だな

「そ、そうですか?」

 

頬を微かに紅潮させて、ニコニコと笑っている。

一体何がおかしいのかは分からないけれど、まぁ楽しそうならそれで良い。

本題を切り出す。

 

→(今日の放課後って、時間空いてる?

「...へ?」

 

 (本屋さん、行こう

→(ゲーセン行くんだけど、一緒にどうだ?

 

『それってもしかして...』

「で、デートのお誘いですか...?」

 

絶対に言われると思ったよ。うん。

だってトレーナーと担当ウマ娘がくっつくなんてよくある話だし、情報通のハリボテエレジーなら『そういう誘い』なのかと警戒するのも無理はない。

 

→(違うよ、『認定技能参考書』のクレーン

 (そうだよ、一緒に出掛けたくなって

 

なので、ちゃんとやましい意図が全くない事を説明したら、何故かハリボテエレジーは肩を落とした。

 

「あ、そうですよね...知ってました...」

『この!トレーナーめ!』

→(えっと、ついてきてくれるん...だよな?

「はい、特に人付き合いも無いので」

→(そうか、それなら良かった

 

―――

 

―――

 

そんなわけで学園から歩く事十数分。ゲームセンターに到着した。

何故かウマ娘たちを惹きつける魔性の施設。誘われたことも結構多い。

正直なところ、景品なんて欲しいのだけ買えば良いと思うから、滅多に行かない場所。

なのに今日は来てしまった。

 

昔はホントにアホの行くところとしか思っていなかったから、僕も随分丸くなったものだ。

見慣れない機械だらけになった店内を眺めつつ感慨にふけっていると、ハリボテエレジーが肩をつついて来る。

 

『ふっふっふ...トレーナー、軍資金はいくら?』

→(えっと...

「い、良いですよ!自分のお金でやりますから!」

→(僕が誘ったんだし、無理しなくても良いんだぞ?

「お金だって立派な力です、あんまり施されてばっかりじゃ、きっとバチが当たりますよ」

→(だそうだ

『む、無限クレーンの夢が壊れた...!』

 

悔しそうに財布を開き、ピンク色の筐体に五百円玉が吸い込まれて。

 

「...行きます」

 

ハリボテエレジーのプレイが始まった。

 

―――

 

―――

 

十分後、そこには財布をカラにしたハリボテエレジーの姿が。

 

「く、悔しいです」

『あっという間に九千円が...うわぁ...』

 

ワンプレイの料金が高いだけあってアームパワーはかなり強く、見たところ設定は甘そうなのに。

ハリボテエレジーはぬいぐるみを一個しかゲットできなかった。

タマモクロスのぬいぐるみ。残念ながら引換券は入っていない。

 

→(九千円が、これに化けるのか...

『もしかする余地もない下手っぴだよ!』

「う、く」

 

これで終わったら、ただ彼女に散財させただけになってしまう。

 

→(ま、気晴らしも兼ねてたし。僕もプレイするよ

 

このままじゃあんまりだ。

施し無用とは言われたが、普通に遊んで景品をプレゼントする分には問題ないだろう。

五百円玉を投入。

一つしかないボタンを操作し、巨大ぬいぐるみに狙いを定めて。

 

→(ここだ

 

真上に来たタイミングで離す。

すると驚いたことに、手を繋いで三個もぬいぐるみがゲット出来た。

...やっぱりこれ、すごく簡単じゃないか?

 

それに、引換券も二枚ゲット。

 

→(非根幹距離

 (二の矢

→(鋼の意志

 

「おお、応用技能が一個...!」

→(は、鋼の意志かぁ

 

自分からバ群に突っ込んでいくようなタイプでもないとまず役に立たない、ちょっと微妙な技能。

追い込みや差しだとそこそこの頻度で使える為、ハリボテエレジーだと姉の方に向いてる性能ではある。

非根幹距離は...トップレースだと『有馬記念』と『宝塚記念』くらいか。

十分有用な技能だけど『根幹距離』に比べると汎用性で少し欠ける印象だ。

 

 

→(もう少しだけ、やるか

 

―――

 

―――

 

...やってしまった。

 

ぬいぐるみは沢山取れるのに、途中から引換券を全く当てられなくなり。

『二の矢』一つ取るのに一万円もかけてしまった。

やはり、ちょっと美味しい思いをしたからってのめり込むのは良くない。

 

「筐体のぬいぐるみ、全部取っちゃいましたね」

『てことは、もうおしまい?』

 

後ろでぬいぐるみを抱きかかえながら、ハリボテエレジーが残念そうにつぶやいていた。

 

→(何かあるなら、いくらでも付き合うぞ

 

せっかく街中まで出かけたのに、お金を全部使わせて荷物持ちさせるだけなのも申し訳ない。

財布の中身を見せると、ハリボテエレジーの表情が驚愕に染まる。

 

「で、でも...」

→(持ってるのに貰うのはアレだけど、もうお金残ってないだろ?

『お昼だし、ご飯食べに行こーよ!』

→(僕もお腹空いて来たしね

『お寿司たべたい!』

「...良いんですか?」

 

彼女のトレーニングを見たり、たまに連れ出す事くらいしか僕は出来ない。

実際に走りを代わったり、才能を与えることは難しいから。

 

→(遠慮しないで良いよ、こんな事しか出来ないし

「...ごめんなさい、トレーナーさん」

 

―――

 

―――

 

口数少なくお寿司を食べるハリボテエレジー。

どうも申し訳なさそうというか、気まずそうというか。相変わらず食事に集中できていない様子。

 

「あの...」

→(何さ

「トレーナーさんは、止めないんですね」

→(どういうこと?

「パパとママには、もう止めろって、良く言われたんです」

『あんまり優しくなかったよ、二人とも』

 

思い出すだけで悲しくなってくるのか、じわじわと目じりに涙が浮かんできている。

 

→(それは...

 

ウマ娘の食費は高く、それを先延ばしにするためにトレセン学院へ入学させようにも、知識と身体能力が求められる。学費も当然必要だ。

 

小等部の頃のハリボテエレジーが、トレセン学院の入学試験を受けたという話は聞いたことが無い。

それは当時から能力が低かったせいじゃないかと勝手に考えていたが...

もしかして、試験費用を捻出することが出来なかったのか...?

 

「...トレーナーさん。あの二人の事は、絶対に信じないでください」

 

いや、ならそれほどまでに経済的余裕が無い家庭だったとして、だ。

それなら僕に以前送られたあの手紙は何だったんだ?

好きだった花、墓地の場所、そしてお金が入っていた。手紙の内容も特段おかしなものではない。

 

→(あくまで、そういう時期もあった。ってだけの話なんじゃ…

 

 

 

「おねぇちゃんと私の事を散々罵倒した挙句、トレセン学院で男を捕まえろと言ってきた、正真正銘のクズですから」

 

そこまで考えを巡らせたところで、彼女の発言に全てを壊された。

 

→(...は?

 

『一回の契約で大体3~5年。それで一億くらい稼ぐってなると年収2、3000万?良いカモに見えたんだろうね』

「あのシンザンのトレーナーですし、お金を貯めこんでるだろうと思ったんでしょう」

『実際お金すごい持ってたし!』

 

...そう言われてみれば。

 

彼女を担当すると決めた時、承諾書の返事が随分と早かった。

僕の都合もでかなり早めに送付したので、期限は他の子たちよりも長く一か月も取ったのに。

二日後には、保険も入っているので何があっても構わないという返事が来ていた。

 

→(いや、そんな筈が

 (心あたりは、ある

 

『私なんて、死神に売り飛ばすくらいの価値しかない。そう思って来てみれば、なんとびっくりトレーナーさんが居たってわけだよ』

「...パパとママは、私がスターになる可能性なんてこれっぽちも信じてくれなかった」

『他の人は、素質がないからあきらめろって言ってきた』

 

―――

「絶対に、勝たせてやるからな...!」

―――

 

まさか、あの手紙は僕への心証を良くするための行動でしかなく。

日付を知らせた訳でもないのに、お姉さんの墓へ行く途中で出会ったのも偶然じゃなくて、実家に招かれた後の話も...僕のお金目当てだったのか?

 

「...あなただけが、違ったんです」

 




限界の必要性。
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