二人で一人のウマ娘 作:なまたま
「...生きてる価値、ないよな」
生きているのが、嫌になる。
何も出来ない。ステージに立つ権利すらない。ないない尽くしの私が出来るたった一つの事。
「早く、死ねよ」
無策ではなかった。
だって、これまでの長い歴史の中で、同名のウマ娘はある程度の周期で生まれて来たと聞くし。生まれ変わりの存在は証明されている。だから私は賭けられる。絶対に。
「...何で震えてるんだよ」
家を飛び出し、郊外の廃墟の屋上に来て、最後の一歩。
「来世は、人間じゃないといいな」
今何を望んでいるのか、誰ともなしに呟いた。
来世。ウマ娘に生まれさせろとは望まない。ただ、中途半端に知恵があって、無駄に憧れて惨めな思いをするのだけは嫌だから。
虫や草に生まれれば、こんな思いをせずに済むと思って。
「さよならだ」
背中から飛び、遠ざかる満点の星空を眺めながら、私は落ちた。
―――
―――
→(その遺書の内容は?
「それは流石に...ただ、お姉さんの意向であの子しか内容を知らないみたいです」
→(すみません、詮索しすぎました
「いえ、彼女は与太話として気にしてませんので...むしろ自分から詮索させようとするんですよ」
→(それは一体...
「『与太話だから』です。彼女の中でお姉さんは生きていますから」
→(...
「それでは、あとはお願いしますね」
そして、たずなさんは秘書としての業務に戻っていった。
姉の死後、一体何があってここ『中央トレセン学院』に入って来たのかがまるで分からないが...
『星屑を、再び輝く一番星へ』(u)
磨き上げる事を心の中で決めた。
―――
『ハリボテエレジー登場』(k)
―――
待つこと数十分、トレーニング終わりのエレジーが此方に近づいて来た。
「あれ、お兄さんが新しいトレーナーですか?」
→(...知っていたのか
「あ、驚いてますね。えへへ、私ちゃんと情報を集めるタイプなんです。ほら、えっと...なんでしたっけ」
→(敵を知り―――
『敵を知り己を知れば百戦殆からず、でしょ』
「それです、ありがとうおねぇちゃん!」
『いいっていいって、気にしないで』
→(『エレジー』は物知りなんだね
(お姉さんは物知りなんだね
「...トレーナーさんもあの噂を信じてるんですか?おねぇちゃんが居ないだなんて、三流ミステリー染みた妄想を」
→え?
「そ、れ、に!私の名前は『ハリボテエレジー』です!間違えないでください!」
→(そうか、よろしく。『ハリボテエレジー』
(いや、それはおかしい
「はい、よろしくお願いしますね!トレーナーさん」
『よろしくね、トレーナー!』
―――
メイクデビューまであと十一週
―――
晴れてトゥインクルシリーズに挑戦することになった二人?だったが…
「ふう、お腹いっぱい...」
→(何をしてるの?
「何って、今日から本格的な練習が始まるんですよね?」
『なら、腹ごしらえは真っ先にやるべしだ!』
練習初日、中々顔を出さない彼女。何かあったのだろうかと思い探してみると。
時間になったにも関わらずご飯を食べ続ける姿を発見する。
→(ターフに引っ張っていく
(好きに食べさせる
名残り惜しそうに茶碗を眺めるハリボテエレジーをやや強引にターフへ引きずり出して、トレーニングを開始した。
やる気がないのかと思ったが、むしろ逆だったらしい。
いざターフに出ると、ハリボテエレジーは左右で微妙に色の違うマスクを被り、凄まじい速さでコースを走り出した。
スプリンターとしての才能が見える、良い走りだ。
→(良い走りじゃないか!
(才能があるな!
一通りトレーニングを終えた後に声を掛けると、彼女は嬉しそうにほほ笑んだ。
『えへへ、そうでしょ!私たちはすっごいんだから!』
→(お姉さんは長距離が得意?
『お、よく知ってるね!ついでに言うと芝ダートどっちも走れるよ!』
→(それなら来週は距離適性と脚質のテストでもしようか
「名案ですね!やりましょう今すぐにでも!」
→(来週から、ね
「むむむ...」
―――
メイクデビューまであと十週
―――
『来る適性調査!』(k)
あれから一週間、基礎能力のトレーニングを積む内に二人の強みが見えて来た。
まずは何といってもその万能性。コーナー上手、直線回復、末脚。
基本的なスキルは指導開始時点で所持しており、たずなさんから聞いた落ちこぼれの影などどこにもない。
身体能力は確かに低いが、この一週間で多少はマシになっただろう。
総合的には現時点でやや優秀なウマ娘である。と。
日誌を閉じ、玄関に向かい、二人と共にコースへ移動した。
→よし、それじゃ早速ダートを走って貰おう
『なら私の出番だ!まかせといて!』
「がんばって!おねぇちゃん!」
『へっへへん、だいじょぶだいじょぶ!』
ハリボテエレジーは相変わらずだ。声の切り替えが上手すぎて時々ホントに二人いるんじゃないかと錯覚しそうになる。
→短距離、計測始めるぞー
1200メートル地点でストップウォッチを構えて腕を振ると、わちゃわちゃした言動が静まり返り、耳が此方を向いた。
『いつでも良いよー!』
→...よーい、どん!
『おりゃーーー!』
適正にするとBと言ったところか。
それからも二人が立ち代わり入れ替わりで、『ハリボテエレジー』の適正調査は終了した。
二人の総合でD以下は存在しなかった。基礎能力と技能を磨けばありとあらゆるレースで活躍できるだろう。
特に高いのが、妹の短距離と姉の長距離。この2つはAに届いている。
なんというか、本当に正反対のウマ娘が合体しているみたいだ。思い込みと執念だけでここまで歪に成長できるものなのかと思ってしまう。
「どうでしたか!」『いいかんじだったでしょ?』
→(本当に幅広い適性を持っているんだな
(以前は練習があまり良くなかったんだな
「ふふふ、これが私たちの本当の力です」
『ステイヤーとスプリンター!二人そろえば最強っ!』
ニコニコと食堂に向かう二人を見送り、その日の練習は終わりにした。
―――
メイクデビューまであと九週
―――
夜。日課のランニングをしていると、トレーナー寮の前にたづなさんがいた。
なにか急用でもあるのだろうか。
→(こんな時間にどうしました?
「あ、トレーナーさん。お待ちしておりました」
→(何かあったんですか
「ハリボテエレジーさんが模擬レースに出走できるようになったので、その旨をお話ししようと思いまして」
→(模擬レース、ですか
「はい!来週末、ターフ2000メートルで行われます。締め切りは今週中ですので、忘れずに申し込んでくださいね」
→(分かりました
次の日の朝。
準備運動の終わったハリボテエレジーに模擬レースの事を伝えた。
参加を希望するなら届け出を出すが...
→(どうする?
「...ぜひお願いします。丁度いい、私達の実力を証明するいい機会です」
『レースだレースだ!絶対勝つぞ!』
どうやら、聞くまでも無かったらしい。二人とも元気よく頷いた。
→(よし、それじゃレースに向けてしっかり仕上げていくぞ
『りょーかい!がんばる!』
―――
メイクデビューまであと八週
―――
模擬レース当日。
辺りには未来の新進気鋭ウマ娘と、少数ながら現役トップランカーが跋扈していた。
...すごい盛り上がりだ。
→(どうしてただの模擬レースなのに...?
「君、知らないのか?」
余りにも異常な熱気に違和感を覚え、ふと漏らしたつぶやきに隣の人が反応する。
→(?
「オグリキャップだよ、『次の』ね。彼女が入学後初めて走るのがこの模擬レースなのさ」
そう言われてみると、確かにみんなの注目はある一人のウマ娘に注がれているようだった。
中心で威風堂々と屈伸をしているウマ娘、『芦毛の怪物』オグリキャップに。
この距離なら触らずとも分かる、あの鍛え上げられた脚。
ここに居るギャラリーは、彼女の低重心の差しが決まるのを楽しみにしているのだろう。
「お、見てみな。アレがオグリのトレーナーさんだ」
そう言われて指差した先には、何とも筆舌しがたい男が立っている。
なんというか、こう、特徴が無いのが特徴、みたいな。
「何でも理事長一押しの新人。素質に溢れ、どんなウマ娘でも育てられる才能の持ち主だとか」
そう言われても、傍目に見ればただの新人にしか見えない。
それにどんなウマ娘でも育てられるというのは、些か贔屓が過ぎるんじゃないだろうか。
「ほら、レースが始まるぞ」
件の新人トレーナーを観察している内に、ゲートインが完了していた。
慌ててハリボテエレジーを探す。
この疑似レースの目的は実戦での対応力を見る事。
内枠か外枠かすらトレーナーには知らされず、レース開始寸前になって電光掲示板に表示されるのだ。
ウマ娘自身が判断し、作戦を立てて走る。
ハリボテエレジーは...一枠一番。スタートダッシュで出遅れさえしなければかなりいい。
数多くの視線が飛び交う中、ランプと共にゲートが開かれた。
スタミナですら
スプリンターウマ娘>>>>>人間では無敵のステイヤー