二人で一人のウマ娘   作:なまたま

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選抜戦。大敗

あの時と同じだ、と思った。

私達のことなんて眼中になく、視線を集めるスーパースターが同じスタートラインに立っている。

ならば、その結果も同じになってしまうのだろうか。

 

―――

 

―――

 

両親から聞かされた話に、現実味がなかった。

 

「おねぇちゃんが、自殺...?」

 

ずっと私を支えてくれてた、大切な家族。

普通の学校で唯一ウマ娘だった私が、一緒にいて幸せだと思った人。

絶対に諦めないで、頑張り続けてトップに立った人間。

そんな人が死ぬなんて、有り得ない。

 

嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 

これじゃまるで、私がおねぇちゃんを殺したようなものじゃないか。

そんな筈がない。

そうであって良い訳が無い。

 

あの人は絶対に諦めたりなんかしない。

私なんかより、心も体もよっぽど強くって、一流のアスリートだったんだから。

 

中学からは、地元の学校じゃなくなったから。

おねぇちゃんの入学式の夜に、何があったのかなんて、私は知らない。

 

知らない筈、なのに。

 

「う…ぁ、……ああぁぁ……!」

 

手紙と同封されて送られてきた、出来損ないのマスクと、タグに油性マジックで書かれたウマ娘としてのオリジナルネームを見た時。

 

「どう、して...どうして、おねぇちゃん...!」

 

どうしようもなく、虚しくなった。

虚しくなって、しまった。

 

「...なんで、どうして」

 

こんなことして、何の意味があったんだろう。って。無駄な事してたんだなぁ、って。

悲しい気持ちよりも、どうしようもなく冷えきってて、残酷な言葉ばかりが脳裏によぎる。

 

「...どうして、私。こんなに...」

 

あの人の事が大好きな筈なのに。

どれだけ嫌な事を言われても、大怪我させちゃうから何も出来なかった私を、すごく弱い身体でずっと守ってくれた大切なおねぇちゃんなのに。

 

「嬉しい...の?」

 

むしろ、今まで欠けてた心のピースが嵌ったみたいに、充実感に満ち溢れて身体に力が張る。この感覚。

これじゃまるで、あの...

 

「...因子継承、みたい」

 

ただ立っているだけなのに、体が、羽のように軽くなっていく。

服の重さを感じない。筋力が上がっているのを感じて。

胸の奥の深い場所にとても熱い炎が生まれて、暖かくて。

 

「...もう一回、頑張れる、かな」

 

今なら、行ける気がした。

息をするのがすごく楽で、長距離だって走れそうな。

 

「練習...」

 

来年の転入試験、倍率は決して低くはない。

ウマについての知識はずっと勉強してきたから、座学は出来る。

身体さえ強ければ、中央でもトップ成績だったんだから。

 

 

―――

 

―――

 

座学は余裕で合格。

試験を受けた次の日に、実技の会場への案内が手渡される。

 

「素晴らしい成績だ、エレジー」

「...いえ、この程度は出来て当然です」

「随分と入れ込んでいるな」

 

寮で私の部屋に来たのは、現役のシンボリルドルフさんだった。

主席合格者だかららしい。

 

「この後の実技が駄目なら、全て無駄じゃないですか」

「?これだけの成績ならトレーナーになる事も視野に入って...」

「ウマ娘として、レースに出走できないなら無意味です」

「...そうか」

「私なんかの為にご足労頂き、誠に有難う御座いました」

 

トレーナーとしての道、確かに実技が出来ないのならその道も良いだろう。

でも私は違う。G1をいくつも勝てるスターにならなければ意味がないのだと、睨む。

 

「ああ、一つ忠告しておくが」

「...何ですか」

「あまりそう敵愾心を露わにするな。最後の面接で落とされるかもしれないぞ」

 

そう言い残してシンボリルドルフさんは部屋から出て行った。

 

「...おねぇちゃん」

 

一人になった部屋の中。ランプシェードの上に乗せられた自作のマスクに声を掛ける。

形見のマスク。使われていた生地が生産終了していたため、完成品は微妙に左右で色が違う。

ツギハギの、不格好なダサいデザインのマスク。

 

「絶対に、勝つ」

 

選抜戦まで、あと十数時間。

最後の仕上げをして。マスクを装着した。

 

―――

 

―――

 

初めてのゲートイン。

ギャラリーの視線が飛び交い、勝利を目指すライバルの存在が創り出す独特の雰囲気が漂う空間。

不覚にも、少し高揚する。

 

「さて、本日の主役達が登場だ」

 

トレーナーの声がほんの微かに響く程静まり返ったパドック。次々に並び立つウマ娘。

さあ、私はいつ名前を呼ばれるのか。

 

「今季転入生の中では頭一つ抜きんでた足を持つ、葦毛の怪物!オグリキャップ!」

 

一人目はオグリキャップ。先代と同じく白っぽい色のロングヘア―と装飾を頭に携えて、ゆったりと歩いていく。

 

「そのライバル、同じく葦毛の怪物!タマモクロス!」

 

二人目はタマモクロス。オグリキャップの方をじぃっと見つめながらゲートイン。

...まぁこの二人の注目度が高いのは仕方がないだろう。

私は全くの無名なのだ。地方の英雄が転入試験に出ているのとは比べる方がおかしい。次辺りだろうか。

 

「そしてこのウマ娘、二人に引けを取らぬ実力者!スーパークリーク!」

 

三人目はスーパークリークだった。ギャラリーに手を振りながら悠々とゲートに入る。

 

「さらにこのウマ娘、東京大賞典を制し中央へと挑む!イナリワン!」

 

四人目はイナリワン。周りの声にストレスを感じるのか、地面をダンダン蹴りつけながら歩き始めた。

 

「さあ、三強とそのライバルを打ち倒すウマ娘は現れるのか!各ウマ娘のゲートインが始まります」

 

...へ?

 

「えーと、一番のエレジーさんですね?一枠での出走になります」

 

結局名前を呼ばれる事は無く、スタッフの人にゼッケンを渡され、流されるままに私はゲートインを終え。

誰にも期待されてないという事実だけが、私の心から高揚感をかっさらってしまった。

 

「...そんなに睨みつけないでくれ」

 

隣にいるのは、地方の英雄。憎らしいほど余裕の表情でコースを眺めているのが腹立たしい。

どうせ勝つのは自分だとでも思っているのだろうか。才能と自信を兼ね備えたようなこの人は。

 

「いえ、緊張してないみたいなので。随分と余裕なんですね」

「これはトレーナーの指導の賜物だ。静と動を使い分けろ、と」

「へぇ、随分と恵まれているみたいで」

「...?キミはトレーナーと仲が悪いのか?」

「いませんよ、そんなの」

「いない?」

「わたし、普通の中学校から転入試験受けに来てますから」

「いきなり中央に挑戦するなんて...すごいな」

「お世辞はいりません。私が勝ちます」

 

その時響くトレーナーの声。

 

「さあ、全ウマ娘ゲートイン完了。出走の準備が整いました」

 

この声が聞こえたという事は、あと数秒でゲートが開くという事。

 

「...集中、しないとな」

 

オグリキャップさんは腰を下ろし、前傾姿勢を取る。

私も同じく重心を下げて...

 

...ゲートが開かれ。

 

―――

 

―――

 

圧倒的な脚を持つ四人。その影を踏むことすら敵わず、私は五着。

 

「ああ、やっぱりかぁ」

「しょうがないだろ、あれじゃ勝てる筈ないって」

 

レース終わりに聞こえてくる落胆の声。

ハナ差で決まった四着までと、三馬身差をつけられた五着への評価は天地の差だった。

 

「まぁ入選してるし、合格。かね」

 

おまけ扱いみたいに手渡された紙切れ。

これの為に努力してきた日々が馬鹿らしく思えてくるような口ぶりで。

 

「...くそ」

 

誰にも見られないように、歯を噛み締めた。

やっぱり落ちこぼれのままじゃないか、と。

 

―――

 

―――

 

寮に戻り、マスクを外した瞬間。

強気な自分のハリボテが崩れて、悔しい怒りや、勝つための情熱が勢いよく覚めてゆく。

 

姉のように熱くもなれない。悲しむことすら下手くそで。

努力が報われても幸せになれない自分が、ただただ虚しい。

 

「寂しいよ、おねぇちゃん」

 

こんな思い、前は感じなかった。

姉が私の心を全て代弁してくれていたから。

きっとさっきだって、姉がいたら怒ってくれた。私を守ってくれたに違いないのに。

もう、いない。

 

「一人はいやだよ、守ってよ、お願い...」

 

これからも馬鹿な人だとは思い続ける。内心見下してしまう。

こんな、最低の私をずっと愛してくれていた姉の存在が、恋しくてたまらない。

 

帰ってきてほしいと強く願いながら。

びしょ濡れのマスクを握り締め、眠った。

 

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