二人で一人のウマ娘   作:なまたま

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模擬レース

トレーナーさんが持ってきてくれた模擬レースの話。

事前に仕入れていた情報から、オグリキャップが出走するというのは既に知っていた。

その話が、私達に回ってくる事も。トレーナーさんよりずっと早くから。

 

二度目のゲートイン。

奇妙な事に一枠一番が私で、二枠二番がこの人なのも同じ。

 

「...君は、選抜戦の時の」

「久しぶりですね!オグリキャップさん」

 

隣り合うと流石に気付かれた。

 

「その、随分と変わったな。良いトレーナーに会えたのか?」

「はい、理解のある優しい男性ですよ」

「そうか、よかった」

 

何故か安心したように息を吐くオグリキャップさん。

 

「どうしてあなたが安心するんですか?」

「いや、以前の君は何処か追い詰められているような感じがしてて...杞憂で良かったな、と」

「...自分が負けるとは、思ってないんですね」

「?何の話だ」

「この模擬レースの話ですよ。私を人としては意識していても、ウマ娘としてはまるで見ていないじゃないですか」

「...あ」

 

そこまで話してようやく何が言いたいのか分かったらしく、ばつが悪そうに視線を伏せた。

 

「すまない、悪気は無かったんだ。つい君の事が気になってしまって、レースから意識が逸れていたな」

「...分かればいいんです、分かれば。ね、おねぇちゃん」

『そうそう!分かればいいんだよ!』

「...誰だ?」

 

お姉ちゃんが喋った途端、きょろきょろと視線を彷徨わせ始める。

もう、さっきレースに集中してって言ったばっかりなのに。

 

『お姉ちゃんだよ、初めましてだね!オグリキャップ!』

「ど、どこに...?お姉ちゃん?」

「私のおねぇちゃんです、マスクにいますよ!」

「ま、マスクに姉...都会ではそういうウマ娘もいるんだな...」

 

マスクをしみじみと眺めながら、一人でこくこくと頷いている。

...へぇ、この人はおねぇちゃんがいないって、言わないんだ。

初めて会ったときは結構嫌いだったけど、そういうところは割と好きかもしれない。

 

「理解がありますね!その通りです!」

 

ふふふ、気に入った。

二人で考えていた口上を披露してあげよう。

 

『私たちこそ新時代のウマ娘!二人で一人のツギハギ姉妹!』

「『ハリボテ』「エレジー」なんですから!」

 

口元をにやりと緩ませ、マスクの左半分を剥がし、両手の人差し指をピンと立ててオグリキャップさんに向ける。

 

「おお...」

 

ぱちぱちぱち、とても小さな拍手をしてくれた。

ぼんやりしてるし天然さんっぽいけど、この人気遣いが出来ないって訳じゃないみたいだ。

気付けないだけで。

 

「さ、レースが始まりますよ」

『勝つのは私達だからね!』

「...ふふ、私も負けないぞ」

 

「各ウマ娘、ゲートイン完了。出走の準備が整いました」

 

合図と同時に、みんな走る体勢に移行する。

 

「ねぇ、おねぇちゃん」

『なーに?』

「このレースどんな作戦ではしろっか」

『逃げ一択でしょ!あの人差しと追い込みみたいだし、真っ向から戦おう!』

「...だいじょぶかな、私、勝てると思う?」

『だいじょぶだいじょぶ!お姉ちゃんがついてるから!思いっきり走ればいーよ!』

「うん」

『不安なら、私がはしろっか?』

「ううん、行けるよ。ちょっと長いけど、中距離なら私でも走れるから」

『私の方が得意なのに!』

「だから、長距離の時はお願いね」

『...まったく、調子がいいなぁ。もう』

 

ぐっと息を呑み込み。

 

「ゲートが今開かれました!」

 

私が持つ、スプリンターとしての脚で先頭を狙った。

踏み込みは強く、とにかくストロングに。身体がぶれる寸前までターボを掛ける。

 

...いい感じ。先頭のウマ娘は一人、これなら垂れてきても余裕で回避可能だ。

脚をステイヤーとしての...持久力重視に切り替える。

始めのカーブに差し掛かり、先頭との距離がさらに離される。

まだいける、垂れなくてもこの距離なら追い抜ける。

1200、1000 900...

 

しかし、残り700メートルになっても彼女の脚色が衰えないことで流石に違和感を覚えた。

 

そして観察すると、息の上がっている様子がまるでない。

 

...私にはおねぇちゃん程走りのセンスは無い。

でも、その分勉強はしたし、観察眼はそれなりのものだと自負している。

だから分かった。

あの子は、サイレンススズカはまだ脚を残している、と。

 

「...っ化け物め」

 

これだから才能の壁ってやつは大嫌いだ。スタートの直線は抑えていたとはいえ、スプリンターとして彼女に劣っている。

走りのフォーム、その効率性については勝っていても、生まれついてのスタミナも劣っている。

私が勝てているのは技量だけ。

 

「負けるかッ!」

 

再び速度重視に切り替え、一息入れた分の体力を脚に回す。

が、距離が縮まらない。

最後の直線。さらにサイレンススズカは速くなる。

差はだんだんと広がり、私の方がバテてきた。

 

「大丈夫、走れる...!」

 

残った脚を使いつくす...末脚を発揮し、流石にサイレンススズカとの距離が縮まりだす。

残りは300メートル。

私とスズカとの差が一馬身となった辺りでギャラリーからどよめく声が聞こえた。

 

「外からオグリキャップ!外からオグリキャップが迫ってくる!」

 

それは、私ではなく。

英雄の登場を祝福する歓喜の声。

 

「まだだ、まだ、私はっ!」

 

オグリキャップに抜かれ、サイレンススズカの末脚で再び離され。三馬身差。

 

「オグリキャップ!サイレンススズカ!もつれ込むように今ゴールイン!」

 

結局、トップ争いに参加することもできず。私は三着。

...また、勝てなくて。

一番を争う存在にすら、なれないのが悔しくて。

 

 

「...ちくしょう」

 

一番低い表彰台に上るのが、惨めで惨めで仕方がなかった。

 

 

―――

 

―――

 

レース終了後。控室に戻って来たハリボテエレジーを出迎えた。

あのメンツで三着なら十分。きっと実力を存分に発揮できたことだろう。

 

→(よくやったな!

 (おつかれさま

 

「...今のレースの、どこが良かったんですか」

→(最終コーナーから直線まで

「末脚、あんな早くに切ってたら意味の無い札です。ラストで息切れなんて...バカな真似をしました」

→(それじゃあ、スタートが綺麗だった

「でもスズカさんに先頭は奪われた」

→(...トップスピードが

「オグリキャップさんに負けてますね」

 

てっきり意気揚々としているものだとばかり思っていたので、思った以上の落ち込みぶりに驚く。

あの二人は次元が違う。経験年数で劣るハリボテエレジーが勝てないのも無理はないのだが...

 

→(一番じゃないと、だめなのか

「...はい。センターの席は三つも無いので」

 

→(お姉さんはなんて言ってる?

 (それは、『ハリボテエレジー』として?

 

「今回のレース、確かに適性はおねぇちゃんの方が上でした。でも、私が走ったんです」

→(どうして勝ちたいのに、自分で

「...リベンジマッチ、みたいな感覚で」

→(リベンジ?

「おねぇちゃんがまだマスクに来てなかったころのレースで、負けました。だから、私が勝ちたかった」

 

そう語るハリボテエレジーの目には、見ているだけで背筋が冷えるような闘志が宿っていた。

拳を強く握り絞めて、プルプル震えている。

 

「でも、駄目だった。これじゃ私の強さの証明じゃなくて、オグリキャップさんの方が格上だって言ってるようなもの」

→(勝ちたかったか

「...トレーナー。私は負けたがるようなウマ娘に見えますか」

→(見えないな

「ならどうしてそんな分かり切ったことを」

→(勝つために必要なものは何か、聞きたかったから

「必要なもの...」

→(君なりの答えで良い。それを形にするのが僕の仕事だから

「才能。っていうのは流石にふざけてますよね」

→(全然、それでもいい。他には?

「え、それじゃあ...ご飯と寝やすいベッドです」

→それでおしまい?

「ま、まだ必要なものはあります!」

 

それからしばらく、ハリボテエレジーとじゃれ合うように勝つためのアイデアを出し合った。

 

―――

メイクデビューまであと七週

―――

 

『すーっかり乗せられちゃったね!』

「...そうだね、おねぇちゃん」

 

目の前で美味しそうにステーキを頬張る二人。

先週のレースの後、どうも疲労が抜けきらない様子だったので自分の休日を使って彼女とご飯を食べに行くことにした。

 

「トレーナーさん、本当に良いんですか?」

→(何が?

「もう五枚目...二万円近く食べてます」

 

彼女たちは小等部からトレセン学院に在籍していたわけではない。

むしろ外で生活していた期間の方が長いので、ウマ娘としての金銭感覚は幾分かおとなしめであった。

 

→(ウマ娘におごる時は、給料半月分持って行けって言葉があるんだよ

「...え?」

→(沢山食べるのはどうしようもないから

『そうなの?みんなやさしーんだね!』

 

ウマ娘は食費もでかいが、例外なく恵まれた容姿と高い身体能力を持っている。

稼ぎも、社会的地位も高い傾向にあるので、みな金銭的な理由で食事を遠慮することは少ないのだ。

むしろ遠慮するハリボテエレジーが異端ともいえる。

 

→遠慮せず食べてね

「わ、分かりました。それじゃあ、あと五枚お願いします」

 

 

結局、丁度財布半分で彼女は満足した。

...自費で外食に連れて行くのはかなりきついな、と改めて思う一日だった。

 

 

 

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