二人で一人のウマ娘 作:なまたま
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メイクデビューまであと六週
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『校内発表!URAファイナルズ!』(URA)
本日、何故か僕達は体育館に集められ、トレーナーとその担当ウマ娘が何組も一堂に会していた。
→(なんだ、この騒ぎは?
「知らないんですか、トレーナーさん」
『先日マスコミ各社に向けて開かれた記者会見で、一大発表があったでしょ!』
→(一大発表?
「…大丈夫ですか、ほんと」
突然の事態に狼狽えていると、ハリボテエレジーが呆れたように説明をしてくれる。
「新設レース。学園内向けの正式発表ですよ」
→(…今日が発表日なら、知ってる筈がないんじゃ?
『でもオグリキャップのトレーナーは知ってたよ』
「情報の仕入れ先はオグリキャップさんでしたから」
→(あの新人贔屓されてるんだなぁ
「いえ、実際指導の腕は天才的です」
『周りの子も自分の事ほったらかして協力してたし、人望が厚いっていうか』
「天然タラシなんでしょうね」
→(うらやましいな
「ええ、まったくです。有能で才能があって、ちゃんとした理由で特権を持っている。私の一番大嫌いな人種ですよ」
→(それは言いすぎなんじゃ
『まあ、地べたを這ってきたってタイプじゃなさそうだし。私は嫌いじゃないけどね』
二人があの新人トレーナーに抱く感情は正反対のもの。
妹は才能のある彼を激しく嫌い、姉は純粋に実力を評価していた。
…本当に、すごい演技力だ。
そうこうしているうちに時間は過ぎ、壇上から理事長の声が聞こえて来る。
「諸君ッ!......急な発表に戸惑い、不安を感じた者も多いことだろう」
相変わらず、まだ小さな子供とは思えないような風格を纏い。
お気に入りの扇子を携えて眼下を見下ろす。
「だが、まずは聞いてくれたまえ!」
先代と比較すると目立った功績が無く、古参トレーナーには少し煙たがられているようだが、個人的には以前のこともあり、そこそこ信頼できる人物。
「新レース『URAファイナルズ』!、その意義を」
...だからこそ解せない。
仮にも組織のトップとしての意識は持っている人なのに、学園内で話が広がる程一人の新人に目を掛けている事実が。
「―――諸君は、悔しい思いをしたことはないか?」
扇子を動かす手首が止まり、ぴしゃりと閉じる。
「『有馬記念で勝ちたい!』『東京優駿...ダービーを取りたい!』...そして」
「『最強のウマ娘になりたい!』そう思っても―――」
「距離やコースへの適性がどうしても合わず、己の実力すら発揮できずに終わったことが」
最強のウマ娘。その単語が出た瞬間に反応する子は非常に多く。
「......。」
「ッ...!」
たまたま近くに居たウォッカとキングヘイローの息を呑む声が聞こえる。
しかしハリボテエレジーは...
『適性が合わないのは、確かにしょうがないよね...』
「それでも諦めなければ良いだけの話、甘いです」
姉はともかく、妹の方は何ともストイック極まるというか...なまじ自力で適性を獲得したからか、最後の一文には納得しかねる様子だった。
僕からすると理事長は、何も間違った事を言っていないと思う。
トレーナーとしての経験から分かるが、後天的に適性を得るのは修羅の道だ。
適性に合わないトレーニングを行い、自身に秘められた因子に願いを託すしかなく。
やっとの思いで得ることが出来ても1~2ランクが関の山。
どうしても勝てないレースがある、と言うのは悲しいけれど事実。
「諸君ッ!私が目指しているのは、レースを志す全ての『ウマ娘が』輝く世界だ!」
すぐ隣から、布地の破れる音が聞こえた。
→(...ハリボテエレジー?
(『エレジー』?
「...いえ、何でも、ありません」
→(ズボンが破けて...
「人間に、輝く方法は無いんでしょうか」
→(?
「芸能も、スポーツも。人の営みは皆下位互換です」
→(ウマ娘としては、おかしい考えだ
「...それでも、思わずにはいられない。もしもこの世界にウマ娘がいなかったら、それらをしていたのも、ライブステージで歌を歌うのも、輝くのも、全部人間の仕事だったんじゃないかって」
→昔から、それはウマ娘の仕事だ
「...分かっています」
そう語る彼女の目は、普段の剣呑さがまるっきり消えていて。
ただただ虚しそうな、悲しい目をしていた。
「走るウマ娘の輝き、それは強い意志の同士の激突ッ!ウマ娘たちが頂点を競い合い、その身に宿る輝きを放つ事こそ我が理想ッ!」
理事長は閉じた扇子で体育館の中を仰ぎ、最後に肩へ乗せて。
「全てのウマ娘が全力を発揮できる、その舞台を!私は用意したいのだ!」
「通常のG1であれば、距離やコースはレースによって制定されているもの...だが」
「刮目ッ!URAファイナルズにおいては、『全ての距離』『全てのコース』を用意する!」
その発言に、ウマ娘がどよめきだす。
確かに恐ろしい計画だ。芝とダート、短距離から長距離までの計8コース。
確保するなど正気の沙汰ではない。
が、理事長としての初功績としてはうってつけだと思った。
さすが先代の娘、風評や世間体の重要性はしっかり把握しているらしい。
「参加資格を得られるのは、『有馬記念』や『宝塚記念』同様、ファン投票で選ばれたウマ娘!」
「即ち、トゥインクルシリーズにて活躍し、多くのファンを獲得したウマ娘―――スターウマ娘にのみ出走権が与えられる!」
「諸君!各々の舞台で走り、『URAファイナルズ』の頂点―――」
「『ファイナルズチャンピオン』の称号を掴んでみないか!?」
→(人気投票戦…か
「私は宝塚の二の舞…順当に行けば二流呼ばわりされるのが関の山だと思います」
『でも流石に生徒の有名どころは走ると思うし、第二の有馬になれるような気もするね』
「トレーナーさんはどう見ますか、このレース」
→(良い賭けだと思う
「...なるほど。賭け、ですか」
どう見ても無謀な新レースの設立。必ずしも成功するとは限らないだろう。
しかし成功した時に得られるものは多い。
学園主催になることによる収入、学園の知名度、理事長としての地位。
失敗してもまだ年齢で良い訳が効くし、新人びいきによる悪評もそのケアに回す際は、良い手札になる。
ならばこそ、まず真っ先に覚えたのはただただ感心だった。
あの違和感まみれの風評は、恐らく敢えて流布したもの。
期待値を下げるという、撤退戦に向けて打った布石。
→(失敗した際のリスクは最小限に、最大限のリターンを狙う。理想の賭けだ
理事長の現状を把握している者であればあるほど唸らされる。
ハリボテエレジーもやはり、その意味を理解しているようだった。
「さあッ!!皆、3年後新年の初開催に向け、ファンを集め、"スターウマ娘"となるのだ!」
「激動ッ!!期待ッ!!私は―――新たなるスターの登場を待っている!!」
最後に頭の上の猫が一鳴きし、理事長は体育館を去って行く。
新人を引き連れて行くのも、抜け目ない。
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メイクデビューまであと五週
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『夢の果て』(k)
いつものように二人とのトレーニングを終えて、寮に帰宅した時。
→ん?
ポストに一通の封筒が入っていた。
→なんだろう、これ
送り主は...分からない。聞いた事の無い名前だ。
しかし、『エレジーのトレーナーさんへ』と記されているので誤配じゃあない。
中には、三枚の紙が封入されていた。
一枚は、エレジーのご両親からの手紙。
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拝啓、トレーナー様。
エレジーは元気に過ごしているでしょうか。
寮のルールは守れていますか。学園内でいじめられたりしていないでしょうか。
私達はすっかりエレジーに嫌われてしまい、もう半年近く顔を合わせていません。
もしよろしければ、元気にしているエレジーの写真を送ってほしいです。
それと、都合が合う時にでも姉のお墓参りに来るよう伝えてください。
いつまでもエレジーがこないから、お姉ちゃんも寂しがっていると思います。
それが無理なら、トレーナーさん。
せめて、エレジーはエリート校へ入学し、名ウマ娘としての道を歩み出したのだと。
近寄りたがらない本人に代わって、お姉ちゃんに教えてあげて下さい。
エレジーの母より
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そこには、エレジーの姉のお墓参りに来て欲しいと書かれていた。
二枚目の紙は一万円札で、三枚目はお姉さんの好きだった花の名前と、お墓の場所が。
...これで買え、という事だろう。
ただ、花なんてどこで買えば良いのか、さっばりだ。
(『エレジー』を誘う
→(誰か、花を買っていそうな子を探す
ぽつんとひとり、エレジー。