二人で一人のウマ娘   作:なまたま

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散らした花

僕の知り合いのウマ娘で、花を買っていそうな子。

誰がいるだろうかと、頭を捻った。

 

 (...

 (テンポイント...

→(ライスシャワー、かな

 (アグネスタキオンはどうだろう

 (ビッグウルフ...

 

 

先代のトレーナーだったからか、現役の彼女とも何かと縁がある。

青いバラをトレードマークとする彼女なら、花の入手先も知っているかもしれない。

 

 

―――

 

―――

 

休日。ウマ娘寮の前でライスシャワーを発見した。

 

→(久しぶりだね

「あ、トレーナーさん...久しぶりです」

 

僕に話しかけられると、彼女は少し怯えたような表情になった。

 

...仕方がない。

何せ先代のライスシャワーを死なせたのは、僕なんだから。

 

もう十年前になるか、忘れもしないあの『宝塚記念』。

ファン投票一位。

ライバル不在で、得意コースにレースが急遽変更となった、中距離競争で実績を積むための絶好の機会。

 

あの時疲労が残っていたのは分かっていた筈なのに、僕は走らせて...

 

 

→(ちょっと、花屋を探していてさ

「前のお店に、行かないの...?」

→(もう、あの子の花を買った店は潰れちゃったんだ

「えっと、それじゃ...今ライスが使ってるお店何個か、教えるね」

 

そう言って差し出された連絡先と行き先のメモを受け取る。

 

→(ありがとう、ライス

 

やっぱり同じウマの魂を引き継いでいるだけあって、この子はとても似ている。

死んでしまった、あの子に。

 

だからからか、つい彼女の頭を昔のように撫でてしまった。

 

「ひっ!...あ...」

 

咄嗟に突き飛ばされて、石柱に背中を打ち付ける。

 

「っ、その、これは...えっと...」

 

 

→...ごめんね

 

もう、関わる資格すらないのに。

花屋なら、町で探せばいくらでも見つかる筈なのに。

...死んだ子の影を追うような真似をして、突き放されて。

 

抜けた腰を入れなおす事もせず。

冷たい感触を背中に感じていると、一人の青年がトレーナー寮の方角から走って来た。

 

「お前、うちのライスシャワーに何の用だ!」

「...あっ、お兄様っ!」

 

バカな真似をした。

それで勝手に傷付いてるなんて、人に話したら笑われる。

 

→(君が、今のトレーナーさんか

「それがどうした。死神め...」

 

聞き慣れたあだ名で呼ばれる。

担当したウマ娘を例外なく予後不良に追い込む、最悪のトレーナー。

 

→(決して、名誉や実績に目を曇らせるなよ

「ッ!...当たり前だ。ウマ娘の未来を奪うような真似は、絶対にしない」

 

 

四人ものウマ娘の命を奪った僕が言えたセリフじゃないのは分かっているけど。

たとえ実績が、ウマ娘自身の為であっても。

命より大事な物なんて、この世のどこにも存在しないことだけは伝えたかった。

 

→(...じゃあね

 

 

―――

 

―――

 

辺りに広がる灰色の風景。

緑も少なく、枯れ木が乱立した小丘の上にその墓はあった。

 

→(エレジーのお姉さんの、墓石

 

コケが生えて放置されたままの墓石が並ぶ中、一つだけ目新しい輝きを放っている。

 

ここに来る途中、ハリボテエレジーの家でご両親から聞いた話によると、理由も明かさずに自殺した者を先祖代々の墓に入れる訳にはいかなかったらしく。

 

経済的な理由もあり、こんな人里離れた場所に新しい墓を建てるしかなかったとの事だ。

 

→(死んだ後は、独りぼっちか

 

確かにこれじゃ、寂しいだろう。

まるで知らない場所。周囲に眠るのは全くの赤の他人。

一番仲の良かった家族は一度も顔を見せやしない。

 

→(...エレジー。お前の気持ちは、痛いほどに分かるよ

 

僕だって、いまだに夢に見る。

あの日。ライスシャワーが死なずにレースを制した、なんて光景を。

部屋で今も生きている青いバラを見るたびに、まだ彼女の心はここにあるんじゃないかって、思うこともある。

 

→(でも、だめなんだ

 

それでも、花にだって寿命があるように。

ウマ娘にも、人にも必ず終わりは来てしまう。

それがただの偶然だったのか、それとも避けられない必然だったのかなんて、神様じゃない僕達には分からないけれど。

 

→(死んでしまった事を...過ぎ去った過去を否定し続けたら、君のお姉さんはいつまでたっても、報われないんだよ...

 

外行き用の黒いスーツから、紫の線香とライターを取り出して火をつける。

くぼみの金網に乗せて、細い煙が空に上がった。

 

いつか、彼女が死んでしまったお姉さんに誇れるような実績と実力を持ち、元気なままであなたを受け入れられるように。

 

→(『ハリボテエレジー』の『ハリボテ』は、僕が死なせてみせるから

 

...だから

 

→(どうか、安らかに眠りながら待っててください。お姉さん

 

最後に両手を合わせて、振り返らずに墓地から立ち去った。

 

 

―――

 

―――

 

幼稚園のころ。

 

「…おお」

 

僕は、ウマが大好きだった。

 

周りの皆は、同じ空想の生き物ならドラゴンやUMAの方が面白いって言ってたけれど。

ウマ娘の言動から産み出された四足歩行の生き物。現実にいてもおかしくないと思わせる妙なリアリティ。

この生々しさと不気味さに心を捕まれて。

 

ゲームを持っていない僕が、ウマの本を読み漁るようになったのは必然だった。

 

といってもウマは実在しない。いるのはその魂を受け継ぐと言われるウマ娘だけ。どの本でもウマの生態=ウマ娘で書かれていて。

 

結果的に僕は、ウマ娘にやったら詳しい小学生に。

 

 

まぁ、クラスにウマ娘なんていなかったし。

元々好きで覚えた事。何かの役に立つなんて思っていなかったんだんだけど…

 

中学生になったとき、そのチャンスは唐突に降りて来る。

 

「…え?中央トレセン学院から、僕に?」

「先生も信じられないが、本当らしい」

 

そういって手渡された紙。僕をトレーナーとして雇用したいとの申し出。天国への片道チケット。

 

当時の僕はもう高校生にもなろうという思春期男子。高給取りでかわいい女の子だらけの場所で働ける、という最高の条件を逃すほど枯れきっているわけもなく。

 

「…や、やったぁ!」

 

十年近くを捧げて来た趣味の知識が、手の職に変わったという幸運にただただ感謝していた。

 

 

―――

 

―――

 

「歓迎するよ、新人トレーナーくん」

 

一応トレーナー資格の試験を受け、合格通知を貰った翌日。

僕は理事長室に呼び出される。

 

「あ、あの、い、一体ど、どうして」

「そう緊張するな、本来私はここに居ないウマ娘なんだから」

 

そう言われて落ち着ける筈がない。

だって今僕の目の前にいるのは、あの最も偉大なるウマ娘…

神とすら呼ばれた存在。

 

「シンザン、さん」

「すまないな、事前の話と食い違ってしまって」

「い、いえ!大丈夫です!あの、それで、理事長は何処に…?」

 

本来僕は、唯一の合格者としてここで理事長から証書を受けとる手筈になっていたのに。

なぜ雲の上のウマ娘と対面しているのだろうか。

 

「どうしても予定が会わなくてな、私がお前に証書を授与する事となった」

 

シンザンさんは悪戯っぽく微笑みながら僕に黒い筒を投げてきた。何とか落とさずにキャッチする。

 

「わっ!危な……ありがとうございます!」

 

慌てて感謝の言葉を伝えると、シンザンさんが質問を投げ掛けてきた。

 

「時に訊くが…今回の試験、自分は何位だったと思う?」

 

今回の試験。

想像以上に難しく、全て正解とは行かなかったが…

九割がた正解しているという自信はある。

 

「…恐らくは、一位かと」

 

相手が誰であれ、知識量で劣るつもりはなかったから。

自信満々で口を開いた。

 

「ああ、その通りだよ新人トレーナー。よくやったな」

 

最年少、歴代トップ成績でトレセン学院のトレーナーになった僕は。

 

「既にお前の担当ウマ娘は決まっているぞ?」

「へ?確かスカウトする側なんじゃ...」

「同年代のトレーナーが良いってウマ娘は多いのさ、人気者だな」

「ぎゃ、逆指名!?...そ、それで、その子は一体なんて名前なんですか...?」

 

当時もっとも人気が高く―――

 

「っふふふ、ふははは!」

 

―――のちに歴代最強のウマ娘と謳われる―――

 

「...目の前に、居るだろう?」

 

―――二代目シンザンを、任される事になったんだ。

 

 




進もうと足掻いた男。

ハリボテエレジーにメイクデビュー勝たせたいですか?

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