二人で一人のウマ娘 作:なまたま
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メイクデビューまであと四週
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ウマ娘には、ある条件を満たす者にしか真の祝福を齎さない、特別な力がある。
→(...模擬レースのレポート
有名どころで言うとオグリキャップが持つ『勝利の鼓動』や、サイレンススズカの『先頭の景色は譲らない』等。特定のシチュエーションに陥った瞬間、宿ったウマの魂が呼応し...そのウマ娘独自の走法が目覚めるのだ。
→(最終コーナーまで先頭を奪えなかったから、サイレンススズカの『先頭の景色は譲らない』が発動し。僅か後方に控えていたオグリキャップの『勝利の鼓動』によって差し切られた...か
その名は、『固有技能』。
格の高いウマの魂を持ち、一定以上のラインまでその魂を覚醒させた存在のみが目覚める、強力無比の力。
取得方法が体系化されておらず、特定のウマ娘か、その強い因子を継承した者にしか使う資格のない技術。
→(基礎技能は、豊富なんだけどな...
対して、練習さえ積めばどのウマ娘であっても習得できるのが、トレセン学院に名称登録された『認定技能』。
その中でも『末脚』や『集中力』のように比較的習得が容易なものが『基礎技能』。
『ハヤテ一文字』や『円弧のマエストロ』のように取得難易度が高いものは『応用技能』と呼ばれている。
ハリボテエレジーは、トレセン学院に入学する以前から『認定技能』を独学で習得していた。
幾ら取得が容易な『基礎技能』とはいえ、専門家の指導無しで完成形迄こぎつけたそのセンスは正しく驚愕に値するものであり...
それが複数とくれば、間違いなく技術の天才と言っても過言ではない。
これは推測だけど、秋川理事長が担当無し、所属チーム無しでハリボテエレジーを放置せずに僕を使おうと思ったのは、要望を断るのが忍びなかったからではなく...
このあまりに尖りすぎた才能の持ち主を、どうにか生かし切れる方法を模索した結果なんじゃないかと思うんだ。
→(固有技能...
(応用技能...
固有技能は、見た目や動きだけを真似しても因子や魂が適合しない。
それに、因子だけの場合は効果が著しく減退するのだ。
一流のウマ娘のレースに於いて『固有技能』とはほぼ必須条件で、実力が近い者同士のレースでは、余程の事が無い限りこれを発動させたウマ娘たちが一着争いをすることになる。
魂の格が劣っているのか、それともまだ眠る力が目覚めていないだけなのか。
現実的に考えれば、身体能力の低さを鑑みるに...ハリボテエレジーは恐らく前者だろう。
本人の前では決して言えない。
けれど僕のトレーナーとしての勘が、囁く。
→(ハリボテエレジーは、G3ですら勝負にならない
センターを取るための舞台。重賞の中では一番下のグレード、G3。
これまでの記録を見る限り、どんな場合でも固有技能持ちが最低一人、多い時は三人程出走する。
→(...
僕は、今週からハリボテエレジーに技術のトレーニングをさせることにした。
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メイクデビューまであと一週
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私が指示されたレポートを提出した次の日から、トレーナーさんの様子がヘン。
同じところをぐるぐると回ってたり、きょろきょろと辺りを見回したり。
「でしょ?おねぇちゃん」
『確かにそうだね...なんか落ち着きがないっていうか』
私たちのメイクデビューまであと一か月を切ったというのに、ああもわたわたされると何だか不安な気分になって来るので、やめて欲しかった。
練習が終わった後、トレーナーさんを問い詰める。
「トレーナーさん、あんまりそわそわするのはやめてください」
『そうだよ!おねぇちゃんとして、妹を不安がらせるその行為!見のがせない!』
すると旋回が止まり、申し訳なさそうに頭を下げられてしまう。
何か罪悪感。
→(...ごめん、悪気はなかったんだけど
『だけど?』
→(二人に、大事な話があって悩んでいたんだよ
「私達に大事な話?」
そう言うやいなや、トレーナーさんは胸ポケットから大きなお守りを取り出して、私の手に握らせた。
何だろう、中にごつごつとした物が入っている。
「コレを渡すので悩んでたんですか?」
『へぇ、トレーナーって結構可愛い悩みしてるんだね!』
→(違うよ、その中身が重要なんだ
...中身?
そういわれてお守りの縫い端をすこし千切って開くと、Uの字に曲がった...蹄鉄が出て来た。
「...サイズ会いませんよ?この蹄鉄」
→(よく見てみて、蹄鉄の裏の刻印を
『刻印?』
ひっくり返したつま先の辺りに刻まれているマークを見て、気付く。
旧トレセン学院のマーク。新刷されたのは確か、十六年前。
『トレーナーが、シンザンと契約を終えた年の蹄鉄?』
「...おねぇちゃん、それだけじゃないです。このT字のブリッジ!」
→(そのまさか、だよ。
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これは、通常では耐えられない荷重をものともせず。
最も僕が苛烈に指導し続けたウマ娘にして、
唯一死神の鎌から逃れられる、神の脚の持ち主が装着していた...
→(...シンザン鉄、だ
本物の固有技能を、才能でしか補えない物をちゃんとした形で与える事は出来ない。
けれど、劣化コピーでも良いのなら、可能性を見せる事だけは出来る。
→(本当は、引退するまでお守りとして取っておくつもりだったんだけど
因子継承の方法は大きく分けて三つ。
一つは魂の覚醒したウマ娘本人と共に、全てのウマの租を形作った『三女神像』の前で継承の儀を行う事。
二つ目は、『三女神像』無しでの継承の儀。これは縁深いウマ娘同士でのみ可能。
三つめは...
→(ご利益、なかったから
継承元となるウマ娘の、強い願いの籠った『触媒』を用いる因子継承。
魂が宿るとされる心臓部の上に『触媒』を翳し、力を望めばそれで良い。
最も簡単で、最も確実な方法。
だが一度使えば、もうその触媒から因子継承を行う事は出来なくなる。
「二代目シンザンの、因子触媒...!?」
魂の目覚めていないウマ娘からの因子継承では、固有技能を受け継ぐ事は出来ない。
だが、二代目シンザンは覚醒済みだ。
「これ、売ったらそれだけで人生何回か遊んで暮らせる代物ですよ」
→(良い。僕は人間だし、持っていたって使えない
『...でも、私達よりも素質のあるウマ娘なんていくらでもいるのに』
→(『ハリボテエレジー』じゃないと、ダメなんだよ
(確かに、他の子だってたくさんいるけど...
二代目シンザンの固有因子継承自体は、何度か試みられてはいる。
だけど、そのすべてが失敗に終わっていた。
曰く、『因子が要求する走法が難かしすぎて実行できない』
曰く、『自分自身の固有技能が、シンザンの力を妨げてしまう』と。
通常、固有技能が目覚めないウマ娘はレースの世界から降りるか、認定技能以外の基礎能力を重視して鍛えるようになる。
だが、ハリボテエレジーは技能を磨き続けたのだろう。
奇しくもそれは、才能の無いものが取るべきセオリーの真反対、実技で実力が発揮できる筈もなく。
故に。
天才的な技術を持ちながらも、今後将来的に固有技能を獲得できる可能性が限りなくゼロに近い『ハリボテエレジー』にこそ、シンザンの因子は使いこなせるかもしれないんだ。
「お世辞でも、冗談でもないんですね」
固有技能継承実験の事を知っているようで、ハリボテエレジーが身をこわばらせる。
因子の要求する技術を今の自分が持っているのか、不安なんだろう。
→(僕は、二人が今まで積み重ねて来た努力を信じてる
「...でも、私達」
『いいよ、やろうよ因子継承』
「お、おねぇちゃん?」
『何をびびっちゃってるのさ!私達がやる事は今までと何もかわらないでしょ!』
「...絶対に、諦めないで頑張り続ける」
『そう!そうすればきっと大丈夫!お姉ちゃんがついてるから!』
「...おねぇちゃんが、そういうなら」
それでも姉の後押しを受けて、ハリボテエレジーは蹄鉄を心臓に翳し。
「すごく、あったかいね」
『うん。胸の奥に太陽が堕ちて来たみたい』
目を瞑って、静かに願う。
→(どう、かな
夢の先まで、辿り着くために必要な力を。
「多分...大丈夫です。ちゃんと、受け取れました」
『なんだか、すっごく無敵な気分だよ!力がどんどん溢れてくる』
そして蹄鉄は投げ返され、因子継承が完了した。
→(危な...!
そのぶっきらぼうな投げ方は、初めて担当した思い出の子によく似ていて。
→(...
因子を継いでくれた事に感謝する。
因子継承には限度があり、通常2度しか成功しない。
その初めてを使ってくれた事へ、僕はただただ感謝した。
成功者ゼロ名。なのに失敗すればほぼ間違いなくウマ娘としての将来に取り返しのつかなくなる大きな賭け。
→(絶対、使いこなせるようにしないとな
来たるは同期のあのウマ娘。
格高きウマの魂を継ぐ、『近代型ステイヤー』、『葦毛の怪物』、『イナリワン』の三強と、『異次元の逃亡者』、『白い稲妻』、が出走する、下剋上が出来なければ五着にすらも入れない。
...絶望が待ち受けるメイクデビューに向けて、最後の七日間が始まる。
その子、本当に初めて...?手慣れてませんか...?
ハリボテエレジーにメイクデビュー勝たせたいですか?
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