狩りの練習を初めてから1年が経過した。レミリアは4歳に、アルジーナは2歳になり今夜もまた、相変わらず二人はレミリアの部屋にいる。
「運命?を操る?」
レミリアは自分の能力のことを自慢するように話していた。
『運命を操る程度の能力』とレミリアは名付けたその能力は、文字通り運命を操る。
ざっくり言えば、未来予知と未来を選べる感じだ。
「えっと……たまたま起こる運命?を選べる感じ?」
「そうね、そんな感じよ」
レミリアによれば、運命とは必然の運命と偶然の運命が枝分かれで繋がっている。
偶然の運命は文字通り偶然起こる運命のこと。もしかしたらそうなるかもしれない、程度のものだ。
それとは逆で必然の運命となれば、それは必ず起こる運命のことだ。そこに別の運命の選択肢は存在せず、他が存在しないのだから選ぶことも不可能だ。
「まぁ、能力を使って運命を選んだからって必ずそうなるわけじゃないけどね」
「そうなんだ」
運命を選べるからと言っても、それはただそうなりやすくなるだけでしかない。
自慢はしていたが、実際はそれほど万能な能力ではないのだ。
「アルはどうなの?どんな能力なの?」
自分のことはそれくらいにして、妹にはどんな能力があるのか気になって仕方がないレミリアだった。
自分に運命を操れる能力があるのだから、当然妹にも何らかの能力があるだろうという考えだ。
「ないよ。そんなもの」
当然あるものだと勝手に思い込んでいたレミリアにとっては、まったくの予想もしていない返答だ。そのせいか、「は?」と情けない声を出してしまって驚いている。
「いや、無いってことはないでしょ。だって私の妹なんだから」
「そんなこと言われたって無いものは無いもん」
そんなことはないと思うのだけど……、と言いながら考え込んでいる。
何やらブツブツと言いながら、自分はどうやって能力に目覚めたかを思い出している様子だ。
何分か経った後、ようやく思い出したのだろうか。
ずっと考え込んでいたレミリアは、まるで何かを閃いたかのように口を開きだした。
「アル、ちょっと目をつぶって自分の中を探る感じに意識を集中させてみて」
「……わかった」
どうしてそんなことをさせるのか理解できないまま、レミリアに言われるままに自分に対して意識を向けていった。
そこは真っ暗で周辺には何もない空間。意識の中なのだから当然なのだが、それにしてもなにもないのだ。
その人の心理状態を表している空間のようなものだが、その事に気づくことは無い。
ふと手を見れば、そこには暗い空間なのに何故か視認できる真っ黒なナニカが存在していた。
なぜそんなものがいきなり現れているのかという疑問はあるが、それを考えた内に手に表れていたナニカは消えていた。
消えたと思えば今度は何も見えないまま、しかしそこには確かにナニカが存在していた。そしてまた、そこに存在していたはずのナニカは消え去っていた。
それが何度も繰り返されて、感覚的には数分は経過している。
今度は先ほどのようなナニカが柱にように周囲に存在するようになっている。しかし、それもまたすぐに消えて無くなり、当然のように痕跡すらない。
既に数分と言わず十数分は経っている。いつまで経っても戻ってこない妹にレミリアは焦り始めていた
先ほどから意識が戻ってこない……といえば少し違うが間違ってはいない。さらに言えば姿勢も一切微動だにせず、それはまるで中身がすっぽりと無くなってしまった人形のような印象を受ける。
「アル?アル……?」
「──なに?」
今さっきまで返事もなく反応すら無かったのが、まるで何事もなかったかのように振る舞っている。
「なにじゃないわよ!よかった……」
アルジーナには理解できないでいた。どうして自分の姉が泣きながら縋りついているのか、どうしてそんな状況になっているのかがまったくわかっていないのだ。
本人からすれば、意識を内側に向けた後に外でどうなっていたかなど知る由もない。分からなくて当然だった。
それでも、きっと何かあったのだろうと察したのか、それともただ無意識なのか、泣きすがりつくレミリアに優しく両手を添えてあげていた。
「えっと……ごめんね、お姉さま。だいじょうぶだよ」
数分もすれば、レミリアは落ち着きを取り戻していた。
自分から確かめる術はないが、本人が大丈夫というのだからその言葉を信じて、これ以上妹の前でみっともない姿を晒し続けたくはないという思いもある。
「それで、どうだった?何かわかった?」
「ううん、よくわからなかった」
レミリアにそう聞かれたが、アルジーナは首を横に振った。
自分が体験したことを覚えてる限り話して、それを聞いたレミリアは顎に手を当てて考え込んでいる。
「何かが出てきてすぐ消える……どういうことなのかしら……。消す能力……?いや、でもそれならどうして現れるの?」
何かブツブツと一人で考え込んでしまっている。
気が付けば現れそして消えている。それが一度だけなら、消えるために準備されたと考えることはできる。それなのに、それが何度も繰り返したというのだからどうにも理解が出来ずにいる。
「でも消えた時不思議な感じだったかな……最初から無かった感じ」
「最初から……。アルの能力ってなにかを最初から無かったことにする感じなのかな」
聞いた限りの話でレミリアが考え抜いてたどり着いた答えは、今言った通り最初から無かったことにする力なのかもしれないということ。
詳しいところは本人にしか分からないためこれ以上の推測は出来ない。
「まぁ、詳しいことはそのうち分かるようになるわ。きっとね」
「うん、わかった」
その日の夜──ではなく正しくは朝方。
レミリアの部屋にいたアルジーナは、今日は自分の部屋に戻り寝床についている。
今夜のことを思い出し、あれは一体どういうものだったのかを考えながらも答えが出せないまま時間だけが過ぎ去っていっている。
彼女にまだ難しいことは分からない。それでもただ一つわかっていることは、もしかしたらその存在そのものを最初から無かったかのように消し去ってしまうのではないか、とそういうことだけだ。
だが、それならそれで疑問が一つあった。それが気になってどうしても眠れないでいる。
「なんでも消しちゃうなら、お姉さまのことも消しちゃうのかな……」
その能力で自分の姉を消し去ってしまうのではないのか。その事が頭を離れず、もし現実にそうなってしまったことを想像してしまい、怖くて仕方がないのだ。
「でも……それならとっくにそうなっちゃってるよね。なんでだろ……」
アルジーナの言った通り、既に能力が発動して消し去ってしまっていてもおかしくは無い。それでも今レミリアは無事に存在している。
ただ能力が発動する範囲の外なのか、それともただ気づかないうちに制御できているのか。
彼女がそれを理解するのは、まだまだ先のことだ。
「無くす程度の能力……。お姉さまはそう言ってたけど、なんか違う気がするなぁ……」
能力に呼び名が無いのは不便だということで、レミリアがとりあえずということで名付けた『無くす程度の能力』。
あくまで能力の本質を理解するまで、今わかっている力を表した仮称だ。
「そのうち分かるって言ってたし、いっか」
レミリアも最初から理解していた訳ではなく、能力に気づきそれからふとした時に理解した感じだった。
そのことを思い出して、あまり気にしても仕方ないと考えたのか、さっさと寝てしまおうと眠りについた。
外は既に日が昇り始めてきて、吸血鬼はとっくに寝る時間なのだ。