東方無魔録   作:雫泉

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07話 変わらない日常と変わり始めた事

 連日の大雨は嘘のように過ぎ去り、今では星が見える夜空が広がっている。

 相変わらず外は騒がしく、人間達はいつも通り勝ち目の無い戦いを意味もなく続けていた。

 それでも、そんなことは彼女たちにとってはどうでもいい事。

 ようやく晴れた。大事なのはその事実だけだった。

 

「きれい……」

 

 無数に輝く星に、綺麗な真円を描いた月。

 アルジーナはただ一人で屋根の上で寝転がって、雲一つ無い夜空を眺めている。

 久々の外の空気と夜空に満月が見れたことに感動しながらも、未だ答えが見えない一つの疑問が頭に浮かんでいる。

 それは彼女自身の能力。未だに内容がはっきりとせず、とりあえずで名付けられた『無くす程度の能力』。

 

 外の騒がしさは無視したまま、考え込んでいる。

 無くす能力。確かにその通りではあったのだが、それでも未だ何かが引っかかる様子だった。

 

「だーれだ!」

 

 急に視界が真っ暗になって、アルジーナにとっては聞き覚えしかない声が聞こえる。

 

「フラン」

 

 答えるのに時間は必要ない。目の前からやられたのだから分からない方がおかしいし、声でバレバレなのだ。

 あっさり正解されて不服そうな表情を浮かべるも、すぐにそんなことはどうでも良くなったのか、笑顔を浮かべてアルジーナの隣に座った。

 特に何かを話すでもなく、ただ一緒に星空を眺め続けているだけ。姉妹だからこそ、これだけで分かり合えているとも言えるだろう。

 だが、それも長く続くわけではなかった。

 

「フラン、お姉さまは?」

 

 いつもならアルジーナかレミリアのどちらかか、もしくはその両方と一緒にいることが多いフランドールが一人でいる。

 

「レミリアおねーさまならおとーさまといるわ」

 

 それを聞いて頭に?が浮かんでいそうな顔で首を傾げていた。

 その頭の中は、「どうしてまたお父さまと一緒に?」という感じで疑問に思っている。今までそんな事もなく、むしろ姉妹揃ってずっと過ごしていたのだから尚更だ。

 いくら考えても答えは出ない。しかし、その答えは案外簡単に得られるものだった。

 

「おまえはスカーレット家をつぐ者だから、とかいってたわ」

 

 フランドールから理由を聞いて、「あぁ……」と声を漏らしながら納得していた。

 彼女たちの中で一番の年長者は、当然ながら長女であるレミリアだ。現当主であるノーラスの次に当主になるのならば当然一番上のレミリアということになる。

 もしも男の子が生まれていた場合は、年上年下に関係なくその子が次期当主となるだろうが、それは人間たちの場合であって彼ら吸血鬼には関係ない。

 

「寂しい?」

「ううん、だってアルおねーさまがいるもん」

 

 嬉しそうな笑顔を浮かべて、遠くの空を見ながらフランドールは言った。

 言われた本人も同じように嬉しそうで、一緒に空を見続けている。

 だからこそアルジーナは僅かな変化に気が付くことがなかった。

 

 ────フランドールのその笑顔、ほんの少し歪んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、外の人間たちは敗れて逃げるように(いつものように)帰っていった。

 本当の意味でようやく静かになった空間で、二人は変わらず屋根の上でくつろいでいる。

 一人かけているが姉妹同士、そこに水を差すものは居ない。

 

「ねえフラン……」

 

 不意にアルジーナが呼びかける。それは何か悩み事がある時の感じの声。

 

「ん-?」

 

 それに対して特に言葉として発するわけでもない返事を返す。

 

「私の能力ってなんなのかな……」

「それってレミリアおねーさまのみたいなやつ?」

「うん」

 

 アルジーナの能力が見つかってから既に数年と経っていたが、未だに分かりきっていない。そのうち分かるだろうと気にしないでおいたら、いつのまにか時間だけが過ぎて今に至るというわけだ。

 判明しているのは、物を『無くす』ということだけ。しかし本人にはそれだけではないという様な感覚が残っており、それが未だに分かっていないままだった。

 何か答えにつながるヒントが見つからないか。そう思ってアルジーナはフランドールにも話した。

 

「そんなこと言われてもわかんないよ?」

 

 現実はそんな甘くはない。第一、一番下の妹に聞いて分かるようならレミリアでも分かるだろうし、ましてや自分の事なのだから本人が一番分かるはずだ。

 

「なくす能力かぁ……ふぅん……」

 

 それとは別に、何やら嬉しそうに笑っている。その正体は考えるまでもなくフランドール。

 数日前にレミリアが持つ《運命を操る程度の能力》のことを教えてもらったが、アルジーナが持つ能力についてはまだ知らないままだった。

 また一つ、姉のことを知れて嬉しいといった様子だ。

 

「そういうフランこそ、どういう能力持ってるの?」

「うーん……なんだろ。わかんなーい」

 

 考えるのが面倒くさいのか。物事を投げ出すような感じでフランドールは寝転がった。

 

「もしかしたら無かったりね」

 

 意地悪な冗談を言う。

 あまりにその冗談に反応して、さっきまで寝転がっていたフランドールは飛び起きた。

 

「そんなのぜーったいイヤ!フランだけ仲間はずれにしないでッ!」

 

 よっぽど嫌だったのか、若干泣きそうな顔で訴えている。

 さすがに言い過ぎたと感じたようで、帽子越しに頭を優しく撫でてあげている。

 

「ごめん、今のは冗談」

「……しかたないからゆるしてあげるわ」

 

 許してなさそうな口調で、しかしその顔は分かりやすく頬が緩んでいた。非常に分かりやすいやつである。

 

 

 

 屋根から降りて、二人は広い庭にいる。

 攻めてきた人間も、それを撃退する使用人たちも既に居ない、静かで広い平和な空間。

 

「それで、おねーさま。どうやったらわかるの?」

 

 庭に植えられている花を見ながら、フランドールは尋ねる。それに対してアルジーナは考え込んだ。

 自分がこの能力を見つけ出した時の方法とか、それをどう説明したらいいものか。その辺をどうするか考えている。

 しかし、あまり長くはかからないくらいで口を開いた。

 

「んっとね、私は──自分の中にあるものを見つけた感じかな」

 

 正しくもあり曖昧でもある説明に、フランドールの反応は当然と言ってもよかった。

 本当に頭上に「?」が浮かんでいそうな気がするくらいに首を傾げ、その表情は意味が分からないと言っているようだった。

 

「おねーさまの言ってることわかんない」

 

 自分でもそれは言った後に思ったようで、フランドールのその発言に、アルジーナは「ごもっともで」と漏らすように答えていた。

 

「なんて言うべきかなぁ……私はこうやって胸に手を当てて探った感じだから」

 

 数年前にレミリアに言われるがままでやった方法しか知らないアルジーナは、それ以外に方法が思い浮かばなかった。

 だからと言って、姉に頼み込むわけにもいかなかった。レミリアは、ノーラスの元で次期当主として学ばなければならないことが山ほどあるのだ。今頼み込めば、確実に邪魔になってしまうだけだ。

 それに、アルジーナにも「自分はフランの姉」という自覚も存在している。姉として頼りにされたい欲も存在している。今回はそのためには絶好の機会なのだから逃すわけにはいかなかった。

 

 

 

 

 あれやこれやと苦戦しながら時間は過ぎ、月が一夜の内で一番高いところまで登っている。

 それなりに騒がしくて気になったのだろう。気が付けば母であるシルフィアがすぐ側に居た。

 

「あらあら、二人してどうしたのですか?」

 

 予想外の声に、二人は驚いている。

 

「お母さま、フランにも私と同じ能力あるよね?」

「そうですね、レミリアとアルの二人にもあったのですからフランにも何かしら持っていると思いますよ」

 

 母の言葉に、フランドールは目を輝かせながら食いついた。

 

「おかーさま!どうやったらわかるの!?」

 

 それはまるで欲しい玩具を買ってとねだる子供のようだった。実際に子供なのだからある意味正しい反応とも言える。

 

「フラン、まずは落ち着いてください。お母さんも一緒に考えてあげますから」

「はーい!」

 

 と言いながらも、シルフィアにはアルジーナ達のような能力は持っていない。今のままではいくら考えたところで答えにはたどり着けない。

 

「ですがフラン、この続きはお勉強が終わってからですよ」

 

 喜んでいるフランドールの顔が、笑顔から引きつった笑顔に変わる。

 

「どうしてもダメ……?」

「どうしてもです」

「ほんとのほんとにダメ?」

「ほんとにほんとにダメです」

 

 いくら訴えようとも変わることはなく、何度言っても返ってくる答えはダメだということだけ。諦めがついたフランドールは、仕方ないといった感じに戻っていった。

 

 

 再び一人になったアルジーナは、先ほどまでのように屋根へと戻って同じように寝転がった。

 その目には何も映っておらず、ただぼーっとしているだけで何も考えてはいない様子にしか見えない。

 しかし、実際にはある一つのことだけが頭の中を埋め尽くしている。それは、自分自身の能力に関することだ。

 ──「無くす程度の能力」。

 仮の命名がされたその力は、現時点で判明していることは何かを無くすことだけ。

 実際には、無くすということがほぼ正解に近い。しかし、そのことに本人は未だ気が付いていないのだ。他人へ説明できるほど理解していないのだから、当然両親へ相談して一緒に考えてもらうことも実現しない。

 

「ふあぁ……なんか眠くなってきた……」

 

 気が付けば日が昇り始める時間が近づいていて、空が少しだけ明るくなり始めている。

 夜に生きる吸血鬼であるアルジーナは、これ以上ここに居ることは叶わない。

 もう少し外に居たいような気持ちもあるが、仕方なくといった感じに部屋へと戻っていった。

 

 

 

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