女性が強い剣と魔法の世界で元剣士の男は剣帝になる   作:たこさぶろう

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更新が遅くて本当に申し訳ございません


不満解消──4

「こりゃ参ったなぁ」

 

「えぇ本当に、予備があるとはいえ傷薬をかなり使用してしまいました」

 

 

 

ミランとの戦いの代償は凄まじく、他の男と違い多少魔力に慣れていたホムラでなければ腕を切断を免れなかった傷と火傷だった。

 

幻惑魔法に対して何の対抗手段を考えつかなかったホムラにとってたった一回のチャンスを逃すわけにはいかない、必要以上に魔力を使用してしまった。

使用人としてやめてほしい気持ちと剣士として素晴らしい覚悟だと褒めたい気持ちがクリスの中でせめぎ合い、複雑そうにクリスはホムラの手当てをしていた。

 

 

 

「どうでしたかホムラ様、予定を狂わせてまで強い剣士と戦った感想は」

 

「そうだな、思っていた以上に強い剣士が沢山いて世の中の広さを知ったよ、もっと俺が強くなればさっさと本気を出してくれる剣士が増えるんだろうな、まぁ強くなった所で所詮俺は男だから期待できないけど」

 

 

 

ホムラは包帯が巻かれた腕を握りながら俯いた。

 

「ホムラ様……」

 

「さて行こうか」

 

 

 

 

 

「俺が決勝戦に勝ち上がってる……!? 」

 

 

 

クリスと別れ、心配をかけたし他の剣士達に顔を見せようと足早く向かうとミランから準決勝まで終わっている事を伝えられて思わず剣を落とした。

 

 

「旦那様の次の相手だったアリウス様は棄権、治療に時間が掛かるからと他の試合を進めてリーン様がメリル様、サリアヌ様、セイン様を下して決勝戦の組み合わせが決まりました」

 

「凄いなあの人、って言うかアリウスさんは何故棄権を? 」

 

「……私は愛した男一筋だと師弟仲良く帰りました」

 

「愉快な人達だなぁ」

 

 

 

この世界に生を受けて十三年、慣れたつもりでもこの世界の女性のパワフル差にホムラは驚かされる。

 

この世界において自分の母であるガリアも腹に子がいる状態でも剣を持ち戦ったと、しかも特別珍しい事でも無いのである。

 

だからこそこの世界の人間はとてもパワフルなのだろうなぁとしみじみ思う

 

 

 

「……その、それでホムラ様、腕の方は」

 

「あぁ旦那様でもいいよ、知らない間に本国じゃ皆の旦那になっているし、腕もまぁよくある事だね、でも一つだけ違う事がある」

 

「違う事────って旦那様!? 」

 

 

 

ホムラはミランの手を取り膝をついて礼をする。

 

 

 

「感謝する」

 

「それは、どう言う──」

 

 

 

ミランの疑問をかき消すかのように観客達の歓声が上がると、ホムラは静かに舞台へ向かう

 

 

 

「……なんだ、もう来ていたのか」

 

「待たせるのは失礼かと」

 

「貴様は客人なのだ。そんな事を気にするな」

 

「では私も、私が男である事をお気になさらず貴女の剣をお振るいください」

 

「そうか、ならばその言葉に甘えて今貴様の腕が使い物にならなくとも全力で戦わせてもらう」

 

 

試合開始の合図よりも早く二人は剣を打ち合った。

 

観客達を無視した目の前の相手にのみ集中した一振り、その鍔迫り合いでホムラは笑みを浮かべる。

 

 

(どこにこんな力が )

 

 

華奢とは言わずとも、力任せなタイプには程遠い身体のホムラは鍔迫り合いをしてもビクともしない、まるで根を張っているのでは無いかと錯覚した。

 

そして浮かべている笑み、死にはしなくとも今の一撃も下手をすれば大怪我は免れない、不意打ちでやったとは言えこの状況で笑みを浮かべるホムラに不気味さを覚える。

 

 

 

「ぐっ! 」

 

 

 

一度距離をとって体勢を直そうとするリーンの足をしゃがんで姿勢を低くしながら執拗に狙う、難なく避けて防ぐがしゃがみながら自分のスピードについて来て来る。

剣の一振りの重さが最初に打ち合った時と変わらない事からホムラの身体能力の高さに目を細めた。

 

 

 

「なるほど、では次はこちらから攻めさせてもらおう」

 

「────ッ」

 

 

 

全身の鳥肌が立つような感覚、回避は間に合わないと判断したホムラは動きが鈍い左腕に喝を入れて両手で剣を持ち防御体勢を取ったその瞬間吹き飛ばされて地面を転がった。

 

 

 

「ゲホッ!カッ……グッ!! 」

 

「今の一振りを防ぐか」

 

「……本当、左腕が使い物にならなくなるレベルで魔法を使った俺の最大の破壊力を素で超えてくるんだから……!! 」

 

 

 

─楽しくてしょうがない─

 

 

 

「だああああああっ!! 」

 

 

 

目にも留まらぬ三連撃、一つ目を避け、二つ目を防ぎ、三つ目は避ける事も防ぐ事も間に合わずダメージを受けた。

 

 

 

「たった二回当たっただけで七割減ったのか」

 

 

 

装置に付いている鉱石が赤く点滅してこれ以上は危険だと警告する。

 

 

「まだやるか」

 

「勿論、こんなに楽しくてしょうがないのにもう終わりなんて勿体ない」

 

 

 

 

ヨロヨロと立ち上がり、剣を構えると一気に走り出した。

 

 

「ヤッ!! 」

 

「シッ!! 」

 

 

 

ほぼゼロ距離での剣の打ち合いは激しさを増していく、最初は攻めていたホムラもリーンの一太刀の速さに徐々に追い込まれて守りに徹する。

 

観客達は試合を開始してからずっと続けていたリーンへのブーイングをやめて二人の戦いに引き込まれていた。

 

 

 

(戦いの中で成長している──!? )

 

 

 

ホムラの動きの変化にリーンは気づく、防御では無く全身を使って全ての攻撃をを受け流している。

 

攻撃を受け流す戦い方をする剣士は珍しくない、しかし普段使いしている剣に比べてはるかに軽い剣でリーンの一振りは並の剣士では目で追えないスピードなのだ。

 

これまで完璧に防いでいただけでもリーンは驚いていたが、下手に動けば剣を満足に振ることができない程の間合いと速さの攻防の最中にホムラは戦闘スタイルを変えた上に最適解の動きで全て受け流す。

 

 

 

(なんと透き通った目だ……まるで清水のようでいて、深い、まるで海の底の底のような、光を感じない)

 

 

 

これ程までの剣技、これ程までの闘志、これ程までの戦いの執念、ホムラの剣を受けてリーンはホムラと言う男の事を多少理解したつもりでいた。

 

 

 

(────おもしろい、見せてみろお前の全てを)

 

 

この男をもっと理解してみたい、そんな思いを抱いてリーンは己の限界を超えてホムラに襲いかかった。

 

 

 

(こうじゃなきゃいけない)

 

 

 

全身が軋み悲鳴をあげる。

 

治癒魔法をまともに受けることができないホムラの身体は傷が完全に治癒するよりも新しい傷が身体に刻まれるのだ。

 

それでも心は、魂は戦いに歓喜し更なる戦いを求めて叫ぶ。

 

魂に刻まれた前世の自分は戦闘狂の人格破綻者だとホムラは嫌う、剣魔など大層な肩書きを持ったところで所詮は人斬り、しかしそのどうしようもない前世の自分がこの世界に役に立った。

 

経験が、感が、技が、現在を生きるホムラの剣を更に昇華させる。

 

 

「はあああああぁぁぁッ!! 」

 

 

四方八方から目にも留まらぬはさでホムラを襲うリーンの剣、まるで分身しているような連撃をホムラは全力で受け流す。

 

この戦いで朧げながらに覚えていた前世の自分の技を一つ思い出した。

 

苛烈な攻めをもって剣魔と恐れられたのでは無く、この技をもって初めて剣魔と恐れられた。

 

 

 

技の中は虚《うつろ》

 

 

 

そこに存在しているのに決して刃が届かない、斬るどころか触れることすらも叶わない究極の柔の技、前世のホムラ、吾郎はこの技で相手が疲れ果てるまで受け流し続け、そこから攻めに転じて逃げ惑う相手を嘲笑っていた。

 

 

 

 

(この速さ、一瞬でも呼吸とリズムがズレたら俺の負けだ……!! )

 

思い出したところで本来の30%ほどの技の完成度、頭に浮かんでいる光景はこの技を使って相手を攻める事だってしていた。

 

何よりその場で立ち止まり移動することが出来ない時点で技としては未完成の証拠である。

 

 

 

「どうしたホムラ!? 貴様はその程度かっ!? 」

 

(その程度と言うか結構頑張ってる気はするんだけど……ま、頑張るだけなら誰にでも出来るか)

 

 

守ってばかりいても決着がつきそうにない、ホムラは意を決して攻撃のタイミングを伺った。

 

 

──背後からの一撃をしゃがんでよける──

 

──すれ違いざまに振り上げられた剣をリーンの手首を押してずらし、更に剣で弾く──

 

──弾かれた勢いを利用して顔面を狙った蹴りを左腕でいなす──

 

──着地して周りながら放たれた一撃を上に逸らした──

 

 

 

 

(今!!)

 

 

 

 

全身の力を込めて上に薙ぎ払った事で初めてリーンに隙が生まれた。

 

リーンの両手が上に向き、胴体はガラ空き、最初で最後のチャンス、再び魔力を解放する。

 

 

 

「これで────ッ!! 」

 

「振り下ろすスピードなら私の方が疾い!!! 」

 

 

 

 

リーンの剣とホムラの剣がぶつかり合い舞台が爆ぜた。

 

 

 

「ごはっ!! 」

 

「ぐっ! 」

 

 

 

『──────おぉっと!! 両者規定のダメージ量に同時に達してしまった! この場合先に立ち上がった方が勝利者になるぞ!!』

 

 

 

「っ、うおおお!!! 」

 

 

 

最後の一撃の余波でボロボロになった二人は起き上がる所から、這うことで精一杯な状態になった。

 

そしてそんな二人に観客達から声援が送られる。

 

 

 

「立ってくださいリーン様!! 」

 

「立ち上がってください!! 立って勝利を!! 」

 

「リーン様!! 我々の希望の星よどうか!! 」

 

 

「頑張ってホムラ様!! 」

 

「立つのよ! 立ち上がりなさい! ここまでやって負けるなんてあってはならないのよ!! 」

 

「おにいちゃーん!! がんばって!!! 」

 

 

 

「………………………………まけ、ない」

 

 

息絶え絶えに起き上がると剣を杖のようにして支えにする。

 

 

 

『ホムラ選手が立ち上がろうとするぞ! 』

 

「な、何故……お前は立ち上がれる……」

 

「ぼくはまけたくない……だれよりもつよく…………だれにも、まけな」

 

 

 

バランスを崩して膝を強く打ち、柄にも額を強く打ちつけた。

 

 

 

「ぼくがつよかったら、あのこをすくえ……かあさんも、いなくなら…な…」

 

「……?」

 

「ぼくは、剣……士だッ! 」

 

(────身体よ動け!! この男、意識が!!)

 

 

 

「貴女は無理しないでください、大丈夫です。私がいますから」

 

 

 

ホムラは立ち上がり、剣を空に掲げると倒れそうになったがどこからともなく現れたクリスが受け止めた。

 

 

 

『た、倒れてしまいましたが、最初に立ったのはホムラ選手です!! 優勝は、ホムラ選──』

 

 

 

会場中から湧き上がる歓声に司会の声は遮られる。

 

 

「……大丈夫なのか? 」

 

「しばらく安静ですね、リーン様がホムラ様の解放した魔力の余波を引き受けてくれたお陰で形が保ていますから最悪の事態は避けられました」

 

「…………私はここで剣士になる前に一度だけ男の使用人をした事がある。どうしようもない男だったよ、愚図と言ってもいい、何の力を持たぬ非力の分際でビクビクしながら偉そうにしていて心の底から気に食わなかった。お前はどうだ? その男に仕えて」

 

「いい男ですよ、真剣を振るい、好奇心旺盛で自由人で他所の女にモテて苦労する事の方が多いですが」

 

「ふっ、だろうな、苦労を一つ背負わせる事になる」

 

「……貴女もですか」

 

 

「もっとこの男と戦いたくなっただけだ」

 

 

 

 

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