三国志と劉備が好きな俺が三国時代に転生したけど、なぜか袁紹だったので、とりあえず袁家滅亡を防ぐために頑張ってみることにした件   作:ひいちゃ

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第拾話『白馬の戦い・参の幕~名将は名君(の卵)を知るんですか?』

 劉備軍が主力を率いて白馬港に出陣したのを利用し、俺たちの主力が劉備軍と戦い、撃破するのと並行して、南皮に謹慎していた顔良率いる別動隊が、劉備軍の本拠、平原を攻略する。

 これが、郭嘉が俺に授けた作戦だったんだ。

 

 本拠を失った軍勢はたちまち瓦解する。今やこれは常識!……と郭嘉先生は言ってたっけ。つまり、俺たち主力が苦戦していても、壊滅さえしていなければ、拠点を落とせば、戦術的には負けても、戦略では勝ちってわけだ。さすが郭嘉先生。足を向けては眠れないぜ。

 

 そして今、平原の方向からたなびいたのろしを見て、確かに劉備軍は動揺を示しているようだ。策はなれり、今こそ逆襲の時だ!

 

 俺は声を張り上げて叫んだ!

 

「皆の者! 顔良隊が平原を攻略したぞ! 今こそ反撃の時! 劉備軍を討ち崩すのだ!!」

 

 その叫びに、我が軍の兵士たちの士気はおおいに上がり、劉備軍は目に見えるように士気が落ち、瓦解していく。雑兵たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出していくのが、ここからでも見てとるようにわかる。武将たちが声を張り上げて叫んでも逃げていくのを止められないほどだ。

もうこうなっては、軍は戦う力も術も失ったも同然。

 

……勝ったな。

 

* * * * *

 

「何、平原が落ちただと!?」

 

 劉備は、眼前にひざまずく関羽からの報告を受けて、目を見開いて驚愕していた。

 

「は……済まない兄者。俺の才気が至らぬばかりに」

「いや、関羽のせいではない。私だって、袁紹軍がこのような手でひっくりかえしてくるとは思わなかったからな……」

「他の将たちは、兵たちと共に奴らに捉えられてしまった。俺は、味方の助けもあって逃れることができたが……。だけど逃れてきたところで、得ることができるのが拠点陥落の知らせだけというのが情けないが……」

「すでに兵たちも、袁紹軍の叫びを聞いて士気が崩壊しているからな……。悔しいが私たちはここまでのようだ」

 

 その時、関羽は気づいた。劉備の手が腰の短剣にかかっていることを。自らの義兄がこの場で命を断つつもりだということを。

 

「待ってくれ兄者! 俺たちの軍は確かにこれでおしまいだ。だが、兄者、俺たちはまだ終わってはいない!」

「雌伏して、再起を図れというのか?」

「生きていれば、他に取れる道もある! しかし、ここで死ねば、俺たちの夢はここでおしまいなんだ! 頼む兄者、生きてくれ!」

 

 そう言われて、劉備は短剣にかかっていた手を離した。

 

「わかった。だが、我が軍は瓦解し、袁紹軍がもうそこまで来ている。逃げようにも……」

 

 劉備がそう言うと、関羽は決意に満ちた表情を浮かべて、決然と言った。自分が全てを賭けるのはここだという確信をもって。

 

「任せてくれ。俺が本陣に突撃して、袁紹軍を混乱させてくる。うまく敵将を斬ることができれば、兄者や配下たちが逃げる時間を稼げるだろう」

「関羽……すまん。死ぬなよ」

 

 劉備はそう言うと、その場から馬で走り去った。最後にかけた願いがかなうことはないと、これが最期の別れになるだろうと覚悟しながら。

 

* * * * *

 

 戦場は完全に俺たち袁紹軍の完勝となっていた。俺たちの周囲に敵の姿はなく、逃げる敵兵や敵将を、我が軍の将兵たちが掃討していく状況だ。

 

 本当に死線をくぐりかけたが、なんとか勝ったな……。俺はふとそう安堵のため息をもらした。

 

 だが! そう思うのはまだ早かった!

 

 向こうのほうから、何者かが突撃してきたのだ!! それは馬にまたがったひげ面の男……って、か、関羽ーーーー!!

 

「我こそは、劉備軍副将、関羽なり! 腕に自信のある者は名乗り出よ!」

「おう! 我こそは、袁紹軍、淳于瓊なりぃぃぃぃ!! 関羽殿と戦えるのは武将の誉れぇぇぇぇぇ!! いざぁぁぁぁ!」

 

 かくして、淳于瓊と関羽の一騎打ちと相成った。激しい槍の応酬が始まる。鳴り響く剣戟と怒号。我が軍の将兵も、劉備軍の敗残兵も、ただその戦いに魅入られている。

 

 だが、やはり淳于瓊では、三国志最強と言われる関羽の相手は荷が重いらしい。(体感時間)3分も立たないうちに、たちまち不利に追い込まれていく。

 そして態勢を崩した淳于瓊に、関羽が必殺の一撃を振り下ろす!!

 たまらず俺は両者の間に割りいって、剣でその一撃を受け止めた。

 

「淳于瓊、下がれ。お前ではこれ以上、関羽の相手をするのは無理だろう。俺が代わりに相手をする」

「は……殿、申し訳ありませんんんん! 無念ですが、よろしくお願いしますぅぅぅぅぅ!!」

 

 俺が淳于瓊から槍を受け取ると、周囲からざわめきがあがった。

 そりゃそうだ。敵の大将が一騎打ちに名乗り出たと聞いて、ざわめかない奴などいないだろう。

 

 一方の関羽は、一瞬意外そうな表情を浮かべたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。

 

「これは思わぬ僥倖。敵の大将を討ち取る機会が来るとは。いざ!」

「勝負!!」

 

 そして今度は、俺と関羽の戦いが始まった。が、淳于瓊の時とはくらべものにならないくらいの戦いだった。無様さという点で。

 さすが関羽、強い、強すぎる。『信長の〇望』の上杉謙信とタメはれるんじゃねぇか、と思えるくらい強い。こいつなら、万の軍を蒸発させられるんじゃないかと思うくらいだ。何を言っているのか自分でもわからないが(ry

 俺の体には『袁紹』としての戦いの技術が刻み込まれてるので、なんとか戦えているが、それでも関羽の攻撃をギリギリでさばく程度しかできない。防戦一方という表現すら生ぬるいぐらいだ。

 だけど、そんな無様な戦いでも、周囲から罵声や失望の声は聞こえてこない。部下のために命を張ってることに感動しているのか、それとも……呆れを通り越しているのか。

 ……後で、叛乱を覚悟しておくか。

 

「おぬし、その程度の力で、なぜ俺の前に立ちはだかった。それに、決着がつく前に両者の間に割りいるなど、将としてのふるまいではないぞ」

 

 その関羽の鋭い言葉に、俺は防戦しながら返す。

 

「将としてのふるまいや心構えなど知ったことか。俺は、護れる者がいるなら守りたいし、助けられる者がいるなら助けたいと思うだけだ」

「ほう……? そのために自らの命を散らしてもよいというか?」

「良いわけがないだろう。死ぬのは怖いのは誰だって同じだ。だがな、少なくとも、誰かを助けられないまま死ぬよりは少しはましさ」

「そうか。大した覚悟……だっ!!」

 

 そして放たれる関羽必殺の一撃。その前に、俺の槍は弾き飛ばされてしまった。

 それと同時に、周囲の将兵たちが、俺を守ろうと俺の周囲を取り囲む。だが、彼らでは関羽を止めることはできない。ただ無駄死にするだけだ。それはさせたくない。

 

 ……心は決まった。怖いのは消えないけど、な。

 

「いいんだ、みんな下がれ」

「と、殿!?」

「いいんだ、下がってくれ。俺はお前たちを無駄死にはさせたくないんだ」

 

 そう言うと、俺は馬を降り、鎧を外してその場に座り込んだ。

 ……そうだ、これはお願いしておかないとな。

 

「俺の負けのようだな。好きにしてくれ。だが、俺はいいとしても、俺に従って戦ってくれた将兵たちに罪はない。彼らは無事にギョウに帰らせてやってくれないか」

「そんな、アキラ様……!」

 

 若晴がそう叫ぶ。俺の本当の名前を言うところからすると、かなり動揺しているようだ。だが、いいんだ。命を捨てるのは怖いが、みんなが幸せに過ごせるのなら、悔いはないさ。

 

「それともう一つ、もしあんたらが再起して俺たちの領地を支配する時が来たら、その時は彼らに幸せな暮らしをさせてやってくれ。それだけだ」

 

 そう言って、俺は目を閉じた。すると、背後から誰かが駆けよってくる音が聞こえた。そして抱きしめられる感触。

 誰だ? 死神か?

 目を開けると……。

 

「る、若晴!?」

「言ったはずです。私は死ぬ時も生きる時も、あなたと一緒だと。あなたがここで命果てるというのなら、私も一緒に……!」

「あぁ、そうだったな……すまん。今度生まれ変わる時が会ったら、その時は最初から仲良くしようぜ」

「はい……」

 

 そして改めて、関羽のほうを見る。すると、彼は槍を下ろして、静かに瞑目している。そしてその手から槍が落ちる。

 どうしたんだ?

 

* * * * *

 

 関羽は驚愕していた。彼は今まで、自らの義兄にして主である劉備こそ、仁に優れた名君だと信じていた。

 だが袁紹は、部下のために自ら自分との一騎打ちに臨んだばかりか、自分の身を捨ててでも、部下の命や民の幸せを望んだ。誰かのために自らの名や誉、そして命を捨てる主君などいるだろうか。

 

 当初は、口先だけかと思った。だが彼は敗北を悟ると、自らを守ろうとする兵たちを下がさせ、自分の刃の錆びになろうとした。先ほども言ったとおり、部下の命の助命を請うて。勝軍の将が、である。部下を救うために一騎打ちに割り込んできたことといい、それは劉備でさえもしなかったことだ。

 

 その立場や常識、そして命にこだわらず、ただ部下や民の命や幸せを想う。その態度に、関羽は名君の輝きを見た。ささやかなものではあるが。後ろから袁紹に駆け寄り、彼を抱きしめた女も、その輝きに導かれて、彼を愛するようになったのだろう。

 

 関羽は思った。彼の輝きはまだささやかな、星の瞬きよりも小さな輝きに過ぎない。だが、やがてはこの戦乱の中国大陸を照らすほどのまばゆく大きな輝きとなるに違いない。自らの兄、劉備を超えるほどの。

 彼なら、劉備や自分たちの夢、中国大陸を統一し、平和な国を作る夢をかなえてくれるかもしれない。

 

 自らの主君、劉備から乗り換えるのは少しばかり心苦しいが、それによって、袁紹が中国を平和に導いてくれるなら、それでもいいかもしれないと関羽は思った。いや、そればかりか、劉備や張飛も、彼のことを知れば、自ら袁紹の幕下に加わるかもしれない、と。

 

 そう考えるに至り、関羽にはいまだに袁紹に抗い続ける気はなくなった。劉備のために戦い続けることへのこだわりは雲散し霧消した。

 

 彼の手から、彼知らずその槍が落ちた。

 

* * * * *

 

 驚くことが起きた!

 なんと、俺との一騎打ちに勝っていた関羽が、下馬し、自ら俺の前にひざまずいたのだ!

 

「あなたの中に、中国を平和に導くことのできる輝きを感じました。この関羽、袁紹様の理想のために働く覚悟でございます。なにとぞ、私をあなたの幕下にお加えください」

「え、え?」

 

 そのとたん、周囲から歓声のどよめきが沸き起こった! 何しろ、一騎討ちで負けた俺が、関羽を従える結果になったからだ。俺もこの結果にはびっくりである。

 

「お、おう、これからもよろしくな」

「ありがたき幸せ。これからはこの関羽、あなたの剣となり盾となって働きましょう」

 

 周囲からさらに鳴り響く俺と関羽を称えるコール。

 

 かくして、白馬の戦いは幕を閉じたのだった。

 

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