三国志と劉備が好きな俺が三国時代に転生したけど、なぜか袁紹だったので、とりあえず袁家滅亡を防ぐために頑張ってみることにした件   作:ひいちゃ

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第拾壱話『完結ではないですよ?』

 さて、劉備軍を撃破した俺たち袁紹軍は、意気揚々と、ギョウへの凱旋の途に……就く前にここで野営をすることにした。軍の再編もしなければならんし、兵たちもこの戦いで疲れ、傷ついてるだろうしな。それをいやす時間も必要だとの判断だ。

 

 その準備の途中で。

 

「袁紹様、本当によろしいのでしょうか? 関羽殿はともかく」

「すまんが、俺には良くないという理由が思い浮かばん」

 

 馬上からそう聞いてくる許攸に、俺はそう返した。彼が言っているのは、降伏した劉備軍の兵士の処遇についてだ。

 当然のことながら、この戦いの結果、多くの兵士が捕らえられ、捕虜になった。俺は彼らのうち、共に戦うことを希望する奴らはそのまま召し抱え、そうでない者たちは、それなりの支度金を持たせて解放してやった。

 意外なことに、捕虜になった者のうち、9割ほどの兵士たちが我が袁紹軍に加わることを希望した。あの関羽との戦いが、何か彼らの心に触れたのだろうか。ちょっとくすぐったいが。

 

 許攸が気をもんでいるのは、その兵士たちについてだ。彼らは武器こそ奪われている者の、手縄をされることも、鎧を脱がされることもなく、傍目には我が軍の兵士たちと変わらぬ姿で着いてきているのだ。それが、許攸には気がかりらしい。

 

「武器は取り上げておいたし、彼らが何かやらかしたら、責任は関羽が取ると言ってるし、問題はないだろ? 何より彼らは今日から、我が軍の兵士、いわば仲間なんだ。その彼らを我が軍の兵たちと対等に扱うことに何の問題がある?」

「それはそうですが……。やれやれ、本当に不思議な方だ」

 

 そう言って許攸はため息をついた。

 まぁ、彼の言いたいこともわからないではない。彼らが復讐に燃えて俺を殺しに来ない保証はないし、間者が彼らに交じり行って、寝首をかきにくる可能性だってある。何より、元からの我が軍の兵士たちとの軋轢も心配しているんだろう。

 だが俺が思うに、待遇というか扱いに差がつくほうが、よほど軋轢が生まれるのではないだろうか。扱いに差をつけると、そこから差別意識が生まれて、さらに溝が広がりかねない、そんな気がするんだ。こんなことを考えるのは、俺が現代人だからなのかもしれないが。

 それよりは、対等に扱い、今の段階から差別意識を生まないようにしたほうがいいんじゃないかと俺は思う。最初のころはやはり軋轢はあるだろうが、対等の立場で笑いあい、同じ釜の飯を食い、少しずつ仲を深めていけば、きっと団結も固くなるに違いない。

 もしその前に、もしものことが起こって、俺の首が(物理的に)飛んだら? そうなったら仕方ない。お人よし過ぎた俺がバカだったと思い、天国で呆れ笑いしてやるさ。

 

* * * * *

 

「見たか、兄貴。あのみんなの顔を」

 

 ある夜。袁紹軍の野営地に忍び込んでいた張飛は、彼と同じく忍び込んでいた義兄の劉備にそう小声で話していた。

 彼らの目の前に映っているのは、楽しく笑いながら飯を食べる、袁紹軍の兵士たちと、降伏した劉備軍の兵士たち。袁紹の下した処遇が生んだ結果だ。

 

「あぁ。みんな心から楽しそうな表情を浮かべている。あのように、心の底から幸せそうにしている兵たちは見たことがない」

「大した奴だぜ。風評を聞く限りでは、ただのお人よし過ぎるバカだと思っていたんだがな」

 

 そう、最初は劉備も張飛も、袁紹のことをそれほど評価してはいなかった。戦闘の指揮はある程度できたとしても、お人よしすぎるボンボンでしかないと。

 だがそうでないことは、今、こうして草葉の陰から見える景色が証明している。彼らは、袁紹に対する評価を改めねばならなかった。

 

「隙あらば奴の寝首をかこうとおもったんだが、これでは無理そうだな」

「あぁ。それに、彼を殺すことは、その後の中国にとって大きな損失となる、そんな気がする」

「奇遇だな。俺もそう思っていたところだぜ」

 

 そう言って、二人は剣を腰に戻した。

 

「袁紹を討つのは諦めよう。私たちはあらゆる面で彼に敗北した。張飛はこれからどうするんだ?」

「あぁ。関羽の兄貴も袁紹の幕下になったし、袁紹の奴も面白そうだし、彼の下で働かせてもらおうって思ってる。少なくとも。今より退屈はしないだろうよ。劉備の兄貴はどうするんだ?」

 

 そう聞かれて劉備は、張飛に背を向けて歩き出した。まるでそれが答え、というかのように。

 

「私は、もうしばらく袁紹という人物をいろいろなところから見て、そして見定めようと思う。そして、彼が本当に中国の戦乱を終わらせることのできる大人物とわかったら、その時は躊躇なく彼の前に膝を折るつもりだ」

「そうかい。達者でな」

「あぁ、張飛も。関羽によろしくな」

 

 そして兄弟は心の中で、いつの日にかの再会を約し、袂を分かっていった。

 

* * * * *

 

 再編と兵たちの手当てや休息を済ませ、ギョウに帰り着いた俺たちだが、そこでは思いもよらないことが待っていた!

 

 城に戻って執務室に入るなり、郭嘉の奴が口を開くなり、こう言ってきた。

 

「おかえりなさいませ、袁紹さま。この度の戦勝、おめでとうございます。関羽との一騎打ちに割りこんだこととか、劉備軍の兵士たちの処遇などについて言いたいことが山ほどありますが……」

「は、ははは……」

 

 郭嘉の口は笑っていたが、目は笑っていなかった。やはり、冷徹な策謀家である彼にとっても、やはり俺の甘さは目に余るんだろう。俺が苦笑いを浮かべると、郭嘉はため息をついた。

 

「まぁ、仕方ありません。そのような主の甘さを補うのが臣下である我らの役目です。これ以上は何も言いますまい。ただ、少なくともご自分の御身の大切さだけはお忘れなきよう」

「あ、あぁ、わかった」

「さて、報告があります。張飛殿が、仕官を申し出ております」

「はい?」

 

 なんですとーーーーーーー!? 張飛だって!?

 

「あ、あの郭嘉さん、本当ですか? 張飛が仕官を申し出てきたって」

 

 俺が思わずそう聞き返すと、郭嘉は表情を一切変えることなく答えた。

 

「はい。その通りです。張飛殿が仕官を申し出ております」

「聞き間違いじゃないデスヨネ?」

「はい。確かに私は『張飛殿が仕官を申し出ております』と言いました」

「そ、そうか……」

 

 どうやら、郭嘉の表情や口ぶりを見るに、俺をからかったり、だましたりしようということではないらしい。まさか、張飛さんが幕下に加わるとはなぁ……。袁紹さん、びっくりだよ。

 

「よし、それじゃさっそく会うとするか。通してくれ」

「ははっ。……張飛殿、こちらへ」

「HAHAHA! 俺は張飛だ。袁紹の殿さん、よろしくな!」

 

 執務室に入ってくるなり、ひげ面の小太りの偉丈夫こと、張飛さんはそう言い放った。本当に豪快な奴だなぁ。彼がいるだけで、この部屋の温度が5度は高くなる気がするぞ。

 

 そんなことを思っている俺の前で、郭嘉は訝しそうな表情を浮かべている。どうしたんだ?

 

「張飛殿おひとりだけの仕官ですか? 劉備殿はどうなさったのです?」

 

 ……あぁ、そういうことか。そこにも目をつけるとはさすがだな。

 

 だが、劉備の行方は、彼の身の安全を考えれば答えにくい事柄であるだろうに、張飛は豪快に笑いながら、隠すつもりなど一切なく答えてくれた。

 

「あぁ。劉備の兄貴は、もう少し袁紹の殿さんを見定めたいということで、いったん俺とは別れたぜ。あんたが本当に素晴らしい奴とわかったらはせ参じるとさ」

「どうなさいますか、袁紹様? 草の根分けても探し出すこともできますが」

「お前だったら本当にできそうだよな……だが、やめておくよ」

 

 俺のその答えに、張飛は目を丸くしていた。一方の郭嘉は、さすがと言うべきか、俺の言うことがわかっていたかのような平然としていたけどな。うん、知ってた。

 

「俺が認められれば向こうからくる、と言ってるし、そう急ぐこともないだろ。無理に探して、関羽と張飛との間に軋轢を生んでしまうのもなんだしな」

「確かにそうですな。少し甘いとは思いますが、それともよしかと」

「というわけだ。張飛、これからは俺の元でよろしく頼むな」

「お、おう、任せてくれ!」

 

* * * * *

 

 そしてその日の夜。俺はいつものように、劉氏……若晴のいる大奥までやってきた。そういえば、ここもだいぶ寂しくなったな。若晴との一件の後、望まず迎えられていた側室たちを解放してやったことで、ほとんどが空き室になっている。

 俺……というか、かつての袁紹が、どれだけの女性を側室としていたかがよくわかる話だ。

 

「あ、お帰りなさいませ、アキラ様」

「あぁ。傷のほうは大丈夫か?」

 

 俺がそう聞くと、若晴は微笑みながら答えた。

 

「はい。ほとんど軽傷でしたし、腕の傷もそれほど深くありませんでしたので。やはり、アキラ様のあの手当のおかげだと思いますわ」

「そうか、それはよかった」

「はい。そういえば、これをごらんになってください」

 

 そう言って若晴が見せてきたのは、一枚のハンカチみたいな布だ。おそらくは手拭きだろうが、これがどうしたんだ?

 

「これは、殿が私の腕の傷を手当するのに使った袖の切れ端ですのよ。それを女官にお願いして、手拭き布にしていただいたんですの」

「そ、そうか。それは嬉しいような恥ずかしいような……」

 

 そう思いながら、彼女の体を見てみると、そこかしこに矢傷のものと思われる傷跡がのぞいていた。俺はそのうちの一つ、背中の傷跡にそっと触れてみた。

 

「アキラ様?」

「この傷跡、一つ一つが、俺を守るためについたものなんだよな。ありがとな」

「いえ。アキラ様と共に生き、共に死ぬのが私の望み。その私の望みをかなえるためのものですから、礼には及びません」

「それでもさ。ありがとう」

「ん……」

 

 そう言って俺は若晴の肩を抱きよせた。若晴はされるがままに、俺の肩にそっと倒れこむ。

 

「そういえば、こうやってお前と一緒に静かにひとときを過ごすのは初めてだよな」

「えぇ。もうずっと、こんな時が過ごせればいいのですが」

「残念ながらそうはならないだろうな」

「そうですね」

 

 そう、この中国大陸ではいまだに戦いが繰り広げられている。その戦いが終息するまでは、こんな静かなひと時は、本当にほんのひと時。戦乱という階段の途中の、狭く数も少ない踊り場のようなものにすぎないだろう。

 

 だが。

 

「……ですが、信じておりますわ。アキラ様なら、必ず戦いを終わらせて、この大陸にずっと静かな時をもたらしてくれると」

「あぁ。俺にどこまでできるかわからないけど、そのために頑張ってみるさ。もしうまくそれを成し遂げて平和になったら、その時は心行くまで、この月を眺めるとしようぜ」

「はい……」

 

 そして俺たちは、二人仲良く身を寄せ合い、そんな俺たちを照らしている月を眺めていた。

 

 

 

 ……その翌朝、郭嘉の奴に、二人して素っ裸になっているところを目撃されたのは、また別の話だ。

 

 

 

 ……まだ続くからな?

 

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