三国志と劉備が好きな俺が三国時代に転生したけど、なぜか袁紹だったので、とりあえず袁家滅亡を防ぐために頑張ってみることにした件 作:ひいちゃ
劉備軍との戦い……白馬の戦いを制した俺たち袁紹軍だが、それで一息つくのはまだ早かったらしい。
戦いが終わった数日後、俺の執務室に、俺たちの軍の次席参謀である田豊が飛び込んできて、こう報告してきたのだ。
「た、大変です、袁紹様! ケイの城周辺の農民たちが、叛乱を起こしました!!」
「な」
なんだってーーーーーーーーーーーーーーーーー!?
まさか、俺の領内で叛乱が起こるとは!?……と、驚いてる場合ではない。すぐさま対処しなければ、叛乱で領内を荒らされるだけでなく、他国に付け入る隙を与えることになってしまう!
本当なら、領民に刃を向けることはしたくないが……仕方ない。涙をのもう。
俺は覚悟を決めると、傍らの郭嘉に顔を向けて、口を開いた。
「よ、よし、ではただちに鎮圧軍を派遣してくれ」
「御意。して、誰に指揮をとらせましょうか?」
「そうだな。関羽と張飛を派遣してくれ。彼らなら強いし、情もあるだろうし、なんとかうまくやってくれるだろう。そうそう、なるべく双方に被害が出ないよう配慮するように、と言っておいてくれ」
「わかりました。確かに、農民に被害が出れば、その分、生産力が下がりますからな。さすがです」
……いや、本当のところは、俺を慕っている民たちをなるべく殺したくないから、なんだけどな。まぁいいや。
* * * * *
そして、関羽と張飛の実力もあって、住民叛乱はあっという間に鎮圧された。よかったよかった。
戻ってきた二人に、俺はねぎらいの言葉をかけると一緒に、聞いてみることにした。
「二人とも、ご苦労だった。被害は最低限にしてくれただろうな?」
「はい、もちろんでございます」
「他の農民たちには目もくれず、首領のところに突っ込んで、とっ捕まえたら、みんなおとなしくなりやがった」
それを聞いて、俺は一安心したが、その後、関羽が気になることを言った。
「ただ……」
「何か?」
「この叛乱の背景には、我が国の貧しさと、それに付け込んだ曹操の画策があったようです」
「我が国の貧しさだって!?」
俺がそう聞き返すと、関羽は表情を曇らせてつづけた。
「はい。戦いの後、その農村に行ってみたのですが、ただでさえ、最近の不作に加えて、これまでの戦乱で、田畑は荒れ放題でした。おそらく、生きるのに精いっぱいだったのではないかと。首領の話では、そこに袁紹様から税の取り立てをされて苦しいところに、曹操から内応の使いがあった、と……」
「むぅ……」
報告を聞いて、俺はうなった。
言われてみると、首領や農民たちの気持ちもわかるな。俺だって、食っていけるかどうかわからない生活がギリギリの状態で、税を取り立てられたら、ふざけるな!とも思うし、そこに「いい生活をさせてやるから、俺たちに協力しろ」と内応の誘いがあれば、渡りに船とばかりに飛びつくだろう。さすがにこればかりは首領を責める気にはなれない。
そういえば、俺は今まで袁紹の領内を統治していたが、農村の暮らしまでは気が回らなかったかもしれん。そのツケが回ってきたのかもしれないな。
これは考えを改めて、対処しないと、俺の国がガタガタになってしまう。それだけでなく、俺としては、俺の下の農民たちに刃を向けるのは嫌だし、その命を奪うのはごめんこうむりたいからな。
「わかった。ただちに、内政についての緊急会議を開こう。関羽、お前も参加してくれるとありがたい」
「え、俺もですか? よろしいのですか?」
そう目を丸くして聞いてくる関羽に、俺はうなずいて答えた。
「ああ。農民たちの生活向上と、農村の立て直しには、その農村の様子を見てきたお前の見識が必要だからな」
* * * * *
かくして、俺命名・袁紹領内における農村の立て直し緊急会議が開かれた。
参加者は言うまでもなく、俺と、首席軍師である郭嘉先生、次席軍師の田豊、文官筆頭の董昭、技術部門代表の審配、そして関羽の6人だ。
まず、関羽から叛乱が起こった農村の状況が伝えられる。思った以上の惨状に、参加者からうめきとため息がもれる。
そこで俺が口を開いた。
「というわけだ。この状況をどうにかしなければ、また叛乱が起こり、それは結果として我が軍の弱体化、そして滅亡へとつながりかねない、と俺は思う。そこでみんなの意見を聞かせてほしい」
少しの沈黙。やがて、田豊が口を開いた。
「そうですな。まずは農民に当座をしのげるよう、税の取り立て停止と、食糧庫内の非常食の解放を行うべきかと思います」
「なるほど」
さらに、そこで董昭も手を上げた。俺は黙ってうなずき、発言を促す。
「ですが、それだけではその場しのぎに過ぎませぬ。それを行ったうえで、農村の生産力を上げる施策を行わなければ、問題の根本的解決にはならないでしょう」
「確かにそうだな」
うんうん、みんな建設的な意見を出してくれてありがたい限りだ。
「なに、もしものときは、飲食したり眠ったりしなくても働ける薬をいえなんでも」
という腹黒郭嘉先生の独り言は聞かなかったことにしておく。
「そういえば、今まで知ら……もとい忘れていたんだが、我が国の農業ってどんな風なんだ?」
「? かまいませんが、それは……」
と、怪訝そうな顔をした董昭からレクチャーを受ける。それによれば、苗は適当でたらめに乱雑に植え、肥料もなし、雑草も生えっぱなしという、現代人である俺からすれば稚拙なものだそうだ。
それはいかんなぁ。実は俺のいた会社は農業系だったから、少しはわかるんだが、乱雑に苗を植えるだけでは、ところどころによって、日光が良く当たるところと、あまり当たらないところと、差ができてしまって、安定した農業生産は望めない……と、会社の先輩に教わったことがある。
雑草を生えっぱなしにしておくと、せっかくの栄養や水分を、その雑草に横取りされてしまうし、肥料を与えないのは問題外だ、と俺でもわかる。これでも、前世では少し園芸をしてたからな。……プランター園芸だったけど。
ともあれ、まずは、そこから改善していくのがいいのではないだろうか。
「よし、まずは安定した生産ができるよう、そのための農業を指導することにしよう。まずは……」
と、俺はみんなに、俺の考えた改善法を話した。俺自身の経験や、会社の先輩から聞いたことをまとめただけなんだが、それでもみんなは感心と驚きをミックスした表情で、それを聞いてくれた。
「と、そのようにしていけばいいと思う。あとそれと郭嘉」
「はっ」
「その農業のやり方をできるように、それを助ける道具の開発を行ってほしいんだが」
「かしこまりました。会議が終わり次第、とりかかります」
「うむ……くれぐれも、アブナイ薬を使うのはやめてくれよ?」
「……了解です」
使う気だったのかよ!?
……何はともあれ、他にも堆肥の作り方の指導をしていくことや、そのほか色々な農業の改善策を開発し、広めていくことなどを決めて、会議は終わった。
* * * * *
それから1年後。北平の東にある壌平の近く。公孫サン軍唯一にして最後の拠点の攻略を目指す軍の中に、東部軍団軍団長・張コウと、袁紹の三男・袁尚の姿があった。
その二人の元に、偵察兵がやってくる。
「張コウ様、壌平が我が軍の降伏勧告に応じました」
「……」
「はっ。ただちに武装解除の用意をさせます」
そう言って、偵察兵は去っていった。
「……」
「なに、『どうしました袁尚様? 難しい顔をしていますが』だと?」
「……」
視線で問いかけられて、袁尚は唸った。
「うむ、何かわからないが、最近父上が恐ろしくて仕方ないのだ」
「……」
「いや、暴虐とかそういうのではない。最近父上はあの関羽や張飛を味方に引き入れたり、本土の生産力を改善したり、と、これまでの父上以上に有能に、そして情け深くなってきたように感じられる」
そして、袁尚は再び唸った。
「本土では、父上直々の農業指導もあって、我が領民たちも素直に父上に心服し、彼らの生活も向上しているという。我が軍の兵糧も十分用意できるようになった。それはとても喜ばしいことなのだが……」
「……」
「それは喜ばしく、ありがたいことなのだが、私には父上が、それまでの父上とは変わった者になっていく気がして恐ろしいと思えるのだ……」
「……」
「そうだな。例えどんな方であろうと父上は父上だ。部下に不安や不信を与えることはやめておこう。心配をかけてすまなかったな、張コウ」
「……」
そう言うと、袁尚は張コウとともに、目の前の壌平へと視線を戻した。
だが、その視線に懐疑と畏怖、そして恐怖が宿るのを抑えることはできなかった――。