三国志と劉備が好きな俺が三国時代に転生したけど、なぜか袁紹だったので、とりあえず袁家滅亡を防ぐために頑張ってみることにした件 作:ひいちゃ
陳登。
字は元龍。民衆のことを考えた行政を行い、飢饉のときには陶謙に抜擢されてその対策にあたり、どのような作物がその土地に育つのかよく調べ、堀を造り灌漑を整備して、陶謙の領地をその危機から救ったという。
それだけではなく彼は軍才にも優れ、史実においては、曹操に呂布を討つよう進言したり、呂布討伐の時には、彼からの圧力に屈せず、逆に呂布への包囲を狭めるなど、その手腕を振るったという。
史実では、陶謙→劉備→呂布→曹操と、幾度も主を変えることになった彼だが、宜園明が袁紹に転生してきたことで、歴史が変わってしまったこの世界では、彼はまだ陶謙の配下であった。
その彼は今、陶謙の窮地を知り、その援軍に駆け付けてくる途中で、凶報を知らされた。
陶謙が袁紹軍との闘いの末、敗死。
その報を聞いた時、陳登は最初は驚愕し、続いて血の涙を流すほどに悲嘆し、そして、袁紹への雪辱に胸を焼いた。
だが、数瞬の後、彼はそれを飲み込んだ。兵や民を第一とする、彼のその心根が彼が暴走するのを防いだのだ。
彼は一度深呼吸すると、彼の幕僚や兵たちのほうに向きなおり、口を開いた。
「皆の者、聞け! 陶謙様は、袁紹との闘いの果て、散華なされた!!」
それを聞いた、幕僚や兵たちの中から、驚愕の声やどよめきが上がる。
「皆も知っている通り、陶謙様亡き今、筆頭幹部の私が、その跡を継ぐことになる。だが、私が跡を継ぐことに不服な者もおろう。不服な者は、軍を離脱するなり、袁紹軍に走るなりするがよい。私は止めはせぬし、恨みもせぬ」
答えはすぐに返ってきた。
「何をおっしゃいます! 陳登様以外に、陶謙様の後を継ぎ、我らを導いてくださる者はおりませぬ!」
「我らや民を想ってくださるあなた様こそ、陶謙様の次に、我らの主にふさわしい方でございます!」
「我々皆、陳登様に従いまする。力を合わせて、袁紹めに一泡吹かせましょうぞ!!」
その後も、兵や幕僚から、彼に従う声が上がり続ける。それを聞き届け、改めてあたりを見渡すと、うなずいて号令を発した。
「よし、皆の者、下ヒに戻るぞ! そして、陶謙様の愛した地を、袁紹より守り抜くのだ!!」
* * * * *
一方、関羽は自軍の兵とともに街道を急いでいた。むろん、張飛も一緒だ。張飛の率いていた兵については、かなり消耗していたこともあり、北海に戻している。
「それにしても、もうひと働きすることになるとは思わなかったZE」
「なんだ? 力を使い尽くしていたのか?」
「まさか! まだまだ戦いたりないくらいだYO。それにしても、袁尚様、なんで勝手に追撃戦なんか仕掛けるんDA?」
張飛がそう聞くと、関羽は顔をしかめて答えた。
「張コウ殿より聞いたことがある。お前も知っている通り、袁尚様は、長男の袁譚様と並んで、袁紹様の跡継ぎの有力候補であられる」
「ああ、次男の袁煕様は、自分には才がないと、早々に跡継ぎを辞退したんだったKA?」
「そうだ。その後継ぎ争いなのだが、袁尚様は出遅れていて、焦りがみられるそうでな。それで張コウ殿も、それを気にかけておられた」
「袁譚様は、袁紹の旦那の補佐としてかなり功績をあげてるみたいだからNA。それで、少しでも差を埋めたいってことか。だけど、それで意気込んでやられて命を失ったら意味がないだろうに」
張飛の意見に、関羽もうなずく。
「袁尚様は、それなりの軍才を見せられるとはいえ、まだ16の若者。若さゆえの焦りがあるのかもしれん。だがそれを考えるのはあとだ。今は」
「袁尚様に追いつくことだけ考えることだ、NA」
そして関羽隊は、袁尚隊が通った道を怒涛の如く駆けて行った。
* * * * *
一方、下ヒと北海の中間地点の街道。袁尚率いる一隊は、陶謙隊の敗残兵を追撃し、その街道をひた走っていた。
関羽の言うことは当たっていた。この東部戦線に派遣されて以来、袁尚はさしたる功績をあげられておらず、その一方、袁譚は袁紹出陣時の守りやら、国境警戒など、いろいろな方面で功績をあげている。
(ここで戦果をあげて、袁譚兄者との差を埋めていかなければ……!)
その思いが、彼にこの追撃をさせる一因になっていたのは否定できないであろう。
だが彼にとって不幸だったのは、それで頭がいっぱいになって、周囲の状況に対して気が回らなかったことだ。
突然、街道を進む袁尚隊に火矢が放たれた!!
「な、なんだ、奇襲か!?」
「袁尚様、後方から敵が!!」
左右から弓兵隊が弓を放ってくるのと同時に、横の森から別の一隊があらわれて、袁尚隊の退路を断った。
さらに、陳登率いる本隊が正面にあらわれ、袁尚隊への包囲は完成した。
さすがは、陶謙の後を継いだ陳登。彼は、袁尚隊が敗残兵を追撃しているとの知らせを受けると、敗残兵を救出し、進軍してくる袁紹軍に打撃を与えるため、袁尚隊の進路に伏せて、包囲の罠を仕掛けたのだ。そして今、袁尚はその罠に引っかかった。
* * * * *
「どうやら追いついた……が、案の定、やばいことになってるな」
「さすがに袁紹の旦那のお坊ちゃんだけあって、結構粘ってるみたいだけど、もう限界みたいだNA」
「よし、このまま突撃して、前方の隊を崩すぞ!!」
張飛の言う通りだった。包囲された状況ではあるが、袁尚は隊をよくまとめ、叱咤激励して、よく持ちこたえていた。さすがは袁紹の息子というべきであろう。だが、やはり包囲という不利な状況。次第に追い詰められてきて、このままでは崩されてせん滅されてしまうのは目に見えていた。
その袁尚隊を包囲している陳登軍の北海側に展開している一隊に、関羽隊は突撃した。迎撃態勢が整っていなかったその隊は、関羽隊の突撃の勢いの前に、大きく乱れた。それを見逃す袁尚ではない。彼も、父ほどではないが、それなりの軍才の持ち主なのだ。
「関羽隊が助けに来てくれたぞ! 敵が乱れたところから脱出する! 態勢を整えろ!」
袁尚隊は、彼の指揮のもと、崩れかけた陣を立て直した。そして、乱れた陳登軍の隊に向けて突撃する!! 関羽隊も、その脱出を援護するべく、その隊の横腹に突撃し、さらに敵隊をかき乱す。
「もう少しだ、皆の者、死力を尽くせ! 敵の包囲を食い破れ!!」
声の限り、味方を叱咤激励する袁尚。それに力を与えられた兵たちの奮闘もあり、ついに彼の隊は、陳登軍の包囲を破り、脱出に成功した! 北海に向けて撤退する袁尚隊を守るように、関羽隊も殿となり、ともに後退する。
それを見やる陳登。その彼に、副将が問いかける。
「いかがなさいます? 追撃なさいますか?」
だが、陳登は首を振った。
「いや、殿についているのはかの関羽と張飛だ。追撃してもやられるだけだろう。そんなやられるだけの追撃戦に我が兵たちを向かわせるわけにはいかない」
「ですが……」
なおも食い下がる部下に、陳登は穏やかな笑みを見せた。
「われらの目的は、敗残兵の救出と、敵の追撃を断ち切ることだ。その目的は果たしている。戦いでは負けたが、作戦上は勝ったと思っていいだろう。その勝利を喜ぶ彼らに、死という悪夢を見せるわけにはいかないだろう?」
「は……」
「よし、皆の者。下ヒに帰還するぞ、凱旋じゃ!」
そう兵たちに叫び、彼らの喝さいを受ける主君を見て、副将は甘いのではないかと思うと同時に、その甘さも悪くないとも思うのであった。
* * * * *
「やれやれ、今回の戦いは大変だったな。袁尚の坊ちゃん。勝手に突っ走ってもらっては困るZE?」
「……すまなかった。そなたたちがいなければ、我らは……」
その袁尚に、関羽が厳しい表情を見せて言う。
「ご無事で何よりです。ですが、今回のことは御父上にお知らせしておきます。この戦いが終わり、ギョウに帰還した後、殿からのお叱りを受けていただきますぞ」
「あぁ……」
「そう落ち込むなって! 俺たちがとりなしてやるからSA!」
そういって、張飛が袁尚の背中を強く叩く。袁尚は大きくせき込んだ。
「あぁ……ありがとう」
そう会話を交わしながら兵を率いて北海に引き上げる関羽たち。
こうして、北海攻略戦はとりあえずの終わりを見たのであった。
だが彼らは気づいていない。袁紹軍の部下の一人が、袁尚を邪な目で見ていたことを。
その男の名は高幹。
東部戦線編はこれにて終幕。
次回からは、再び袁紹サイドに話が戻りますZO!
そして袁紹軍に忍び寄る怪しい影。果たしてどうなりますか?