三国志と劉備が好きな俺が三国時代に転生したけど、なぜか袁紹だったので、とりあえず袁家滅亡を防ぐために頑張ってみることにした件 作:ひいちゃ
高幹、袁紹の甥である。字は元才。
そんな彼は、大変な野心家だった。袁紹の血族ではあるが、息子ではない彼は、袁紹の勢力を継ぐ目はなかった。その境遇が、彼に野心を抱かせたのである。宰相となり、袁紹の勢力を陰から支配する、という野心を。
そのために彼は、袁尚に接近した。いうまでもなく、時が来たとき、彼を旗頭にして反乱を起こし、袁尚を袁紹軍の頭に据える。そして自分はその腹心となれば、野心は完成する。
今回の袁尚の失敗も、高幹にとっては、野心達成のための材料の一つに過ぎない。厳しく叱責されるなり処分されたりすれば、袁尚は父に反感を持つはず。そうなれば時が来た時に、彼が立つ可能性は高くなるだろう、と。
だがその策謀は、一人の男の人格と、その腹心の才覚によってとん挫を余儀なくされることとなった。
* * * * *
時は経ち、俺が転生してから5年……暦は西暦にして195年になっていた。そんな初春。
張コウたちが東部戦線から帰ってきた。
彼ら東部軍団は、俺……袁紹……たちの勢力の東にある公孫サンや、陶謙の勢力と戦っていたが、それを倒したので、報告もかねて戻ってきた、というわけだ。
陶謙軍との戦いは、最終的には、戦死した陶謙の跡を継いだ陳登が張コウたちの降伏勧告に応じたことで終わりを告げた。報告によれば、張コウはただ説得するだけでなく、捕らえていた陶謙軍の捕虜に、袁紹軍本土の様子を見せたうえで返したという。
彼らの話を聞いた陳登は、このまま戦い続けるより、俺たちの支配下になったほうが民たちにより良い未来が開けると判断し、降伏勧告に応じたそうだ。
俺としては、民たちに健やかに暮らしてほしかったのと、民たちと戦うのが嫌だったから、農業改革に手を出したんだが、それがこんな風に誰かを感服させる結果になるとは、なんともこそばゆい限りだ。
さて。
「父上、このたびは私の失敗によって、多くの兵を失いましたこと、この通りお詫び申し上げます」
そう言って、俺……というか袁紹の次男である袁尚が頭を垂れる。報告によれば、彼は功を焦り、陶謙軍の敗残兵を追撃した結果、陳登に包囲され、あわや壊滅の危機に陥ったんだとか。張コウの話によれば、関羽たちが駆け付けるのが遅ければ、本当に壊滅していたのかもしれないって話だった。
その報告を受けた時、周囲からは厳罰を、という話が出ていたが、俺はそこまですることはないと思っている。なぜなら。
「そうか。ではお前への処分を言い渡すぞ」
「は……」
「今から一カ月の間謹慎しててくれ。それから、さらに一カ月ほど、この本土の内政に関わるように」
「え……? そ、それでよろしいのですか、父上……?」
袁尚が顔を上げて、目を丸くする。厳罰を求める空気が濃い中で、こんな軽い罰で済まされればびっくり住むのも無理はないだろう。その傍らの高幹までとても驚いているのはどうしてなんだろう?
俺はせきばらいをして答えた。
「逸るのはいわゆる若さゆえの過ちってやつだからな。それを認めて反省し、次への糧にすればいいんだよ。それが若者の特権って奴だぜ?」
そう、これはあくまで若さからくる失敗だ。それなら、反省して次につなげればいい。それがさらに自分を高みにのぼらせる源となる。それが人だと思う……って、これは前世での上司からの受け売りだけどな。
きっとこいつも、反省して改めていけば、もっと優れたやつになるんじゃないかと思う。だが、処分しちえばそれで終わりだ。それは俺たちにとっても損だからな。
「次に戦う時は、今回の失敗を糧にして、もっと良い戦いをしてくれ。期待してるぜ」
「は……ははっ!」
そして袁尚は感動したかのように平伏した。この件はこれでいいかな。さて。
「それでは、郭嘉から今回の件についての論功行賞を発表してもらう。よろしく頼む」
「ははっ」
* * * * *
「おのれ……おのれ、袁紹、それに郭嘉め……!」
報告が終わり、宿舎に帰る道、高幹は暗き怒りに身を焼かれていた。袁紹のことを叔父上と呼ばずに呼び捨てにしているところからも、その怒りがわかるというものだ。
彼の目論見はとん挫した。袁尚は父からは寛大な処分を受け、さらに諭されて、父への尊敬を深めた。袁尚が厳しい処分を受け、父への不満を募らせる、という彼のシナリオは破綻したのである。袁尚に厳しい処分が下るよう、高幹が裏から手をまわしていたのに、である。
そしてそればかりか。
「まさか俺が袁尚様から切り離されるとは……。郭嘉の奴の差し金によるものか……! おのれ、おのれ……!」
そう、今回の論功行賞で、彼は袁尚から引き離され、旧チョウエン領に赴任する袁煕の補佐を命じられたのだ。ここまで絆を深くした袁尚に引き離されることになり、しかも僻地に飛ばされることになったのだ。
自らの思惑をぶち壊され、心の中で袁紹と郭嘉の二人への怒りと憎しみを燃え盛らせる高幹。今や彼にとって二人は、追い落とす相手から、必ず倒すべき相手へと変わっていたのだった。当然、そのことを表に出したりはしないが。
(見ていろ、袁紹、そして郭嘉め。必ずお前たちを打ち倒し、この俺が袁紹軍のトップになってやるわ!!)
* * * * *
さて、論功行賞とそれに伴う異動の発表が終わった後。ある文官が俺の元にやってきて告げた。
「袁紹様、仕官を求める者がやってきておりますが」
それはありがたいな。人材はいくらいても困ることがないからな。
俺は軽い気持ちで聞いてみた。
「そうか。で、どんな奴が?」
「はぁ、それが……です」
「はい?」
すまん、よく聞こえなかったんだが。
「袁術でございます」
「……はい?」
袁術ですと!?