三国志と劉備が好きな俺が三国時代に転生したけど、なぜか袁紹だったので、とりあえず袁家滅亡を防ぐために頑張ってみることにした件   作:ひいちゃ

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第弐拾参話『書き変わった歴史では、この戦いが官渡の戦いと呼ばれるんですか?(後編)』

 万旋は決して無能な将ではない。何しろ、袁紹軍武官筆頭の顔良が『見どころがある』と見込んで鍛えた男なのだ。

 だが万旋は才能はあっても、実戦経験は少なかった。それが彼を窮地に追い込むことになったのである。

 

 実戦経験の少ない彼は、部隊の運用には秀でていても、友軍と歩調を合わせて動くことに慣れておらず、結果、敵の追撃に集中しすぎて、同じく前進を続けていた前軍中央の顔良隊、右翼の関羽隊から大きく離れすぎていたのだ。

 それを曹操軍・劉備は狙っていた。

 

「よし、第2隊、第3隊を動かせ! 万旋隊を半包囲するのだ!」

 

 万旋隊は敵を深追いするあまり、いつの間にか前進していた曹操軍両翼の隊に挟まれる形になっていた。その両翼の隊が劉備の指揮の元、挟んでいた万旋隊に攻撃を開始したのだ!

 

「し、しまった、俺としたことが奴らの策にはまってしまったのかじょ!?」

 

 敵に半包囲されたと気づいた万旋隊は、その衝撃の前に動揺し、たちまち崩れた。その崩れた万旋隊に、華雄は車掛かりで打撃を与え、両翼の隊は弓矢で攻撃を加える。三方からの攻撃に、たちまち万旋の隊は、数を減らされていく。

 万旋は奮戦し、指揮を振るうも、隊が崩れた状況で、しかも三方から半包囲されて攻撃を受けている状態ではいかんともしがたい。今や、万旋隊は壊滅寸前にまで陥っていた。

 

「お、俺はここまでしかこれない男だったのかじょ……。顔良様、申し訳ないじょ……」

 

 戦死の覚悟を仕掛けた万旋の元に、顔良隊、関羽隊が援軍に駆け付けたのはその時である。

 

* * * * *

 

「どうにか間に合ったようですな」

 

 物見からの報告を受けた郭嘉がそう言ったのと同時に、俺……袁紹は大きく息を吐いた。万旋の戦死という最悪の事態は免れたようだな。本当によかった。

 

「あぁ、本当によかったよ……でも」

 

 それでも、俺には気にかかることがあった。

 

「でも?」

「奴ら、万旋隊を潰してそれでよしとするつもりだったのか? そりゃ、万旋は確かに我が軍にとっては大切な優秀な将だけど、それでも俺たちの軍の全兵力からしたら四分の一だぞ」

 

 そう、いくらなんでもその四分の一を倒すために、こんな作戦を仕掛けるだろうか? そりゃ、万旋隊を潰せば、その分戦力比はあちらに傾くとはいえ、同じ手は二度と使えないだろう。顔良も関羽も才能も経験も兼ね備えた将なんだから。一隊ずつ各個撃破を狙うのはまず難しいし、非効率的だろう。

 

「ふむ……考えられることとしては……」

 

 と、そこで郭嘉先生は何か気が付いたようだ。

 

「物見、両翼の兵の兵力はいかほどであったか?」

「はい。それぞれ、我が軍の顔良隊、関羽隊それぞれと比べて三分の一ほどでした」

「そうですか……とすると……」

 

 考え込む郭嘉。曹操軍の狙いを考察し、その先を読んでいるのだろうか。

 そして。

 

「袁紹様、我が本隊も前進しましょう。それと、本隊に強弩装備を」

「お、おう」

 

* * * * *

 

 顔良隊、関羽隊が駆け付けたことで、万旋は九死に一生を得た。彼の隊は百数人しか残っておらず、もはや隊として活動することはできないぐらいであったが。

 

「無事だったか、万旋」

「はい。曹操軍にしてやられましたじょ。申し訳ないでございましゅ」

 

 万旋のその言葉に、顔良は笑って返した。

 

「まだ現在進行形だ。その後に『だが』をつけられるように奮闘するのだぞ」

「わかりましただじょ!」

 

 だがその雰囲気を壊す報告がもたらされた!

 

「顔良様、我が隊後方に曹操軍が!」

「なんだと!?」

 

 顔良が後ろを向くと、そこには確かに、こちらに弓矢を放つ曹操軍の姿があった。

 

「奴らは、我らをも包囲の罠に誘い込むのが目的だったのか! いや、それより我々の前面にいるのが、曹操軍の前軍の全軍ではなかったのか!?」

「確かに……でも顔良しゃま、今はそれより……」

 

 傍らの万旋に言われて、顔良は思い直した。確かに今は、敵のからくりを探るよりも前にするべきことがある。

 

「よし、我が隊は後方の敵に対処する! 関羽隊には、引き続き、前方の敵に対するよう伝えよ」

「ははっ!」

 

 顔良の指示を受け、伝令が走り出す。だがその伝令は曹操軍の左翼隊の弓矢を受けて倒れた。

 

* * * * *

 

 曹操軍の本隊。そこで、劉備は前方の戦いを注視していた。その彼に、傍らの夏侯淵が声をかける。

 

「戦い、こちらが有利のようですな。これなら、劉備殿の最後の手段を用いることなく終わるのではないでしょうか?」

 

 だが、劉備は首を振ってそれを否定した。

 

「いや、袁紹軍にはあの郭嘉がいます。彼がこちらの手の先を読まないという保証はないでしょう。別動隊には引き続き、進軍を続けるように言ってください」

「御意」

 

 夏侯淵に指示を出した劉備の後ろの兵力は、通常の三分の一しかない。これこそ、劉備の仕掛けたからくりであった。

 そのからくりとは……?

 

* * * * *

 

 袁紹軍の顔良隊と関羽隊を後ろから攻撃している曹操軍の一隊。それを率いる将は曹洪、曹操の血族の者である。

 彼の顔には勝利を確信した笑顔が張り付いていた。

 

 目の前の袁紹軍は前後左右から攻撃を受けて苦戦を続けていた。奮闘し、壊滅する最悪の事態は防げているが、どこからどう見ても、ここから一発逆転する手はないように思われた。いずれは削り倒されるのは目に見えていた。彼が勝利を確信しても無理はあるまい。

 

「さすが劉備殿だな。このような必勝の手を仕掛けるとは。さすが我が殿が目をつけた大人物だ。そうは思わぬか、楽進よ?」

 

 彼に言われた副将の楽進も、笑顔を向けて答えた。

 

「まったくですな。このぶんだと……」

 

 だが、楽進は最後まで言えなかった。彼は突然落馬して倒れ、そのまま命を失ったのだ。

 

「が、楽進!?」

 

 驚愕する曹洪。彼が声をかけた楽進の遺体には無数の矢が刺さっていた。

 

* * * * *

 

「どうにか間に合いましたな」

「あぁ。とはいえ、目の前の敵はこちらの二倍というのが問題だが」

「何、心配はありません。我らと顔良殿の隊で挟撃すれば対抗できるでしょう」

 

 俺と郭嘉はそう言葉を交わしていた。

 さすがは郭嘉先生である。彼は、曹操軍の動き全てが、顔良隊、関羽隊を含めた、我が軍の前軍を包囲の罠を陥れるものだと見抜いたのだ。

 そこで俺は彼の助言を受け、本隊を急いで前進させたのだ。そのおかげで、前軍が瓦解する前に救援に駆け付けることができた。もし、苦戦の報が届いてから動いていたのでは、前軍は瓦解、最悪の場合壊滅していたに違いない。

 

 なお、その途上で、俺は曹操軍のからくりについてのレクチャーも受けていた。それによれば、万旋隊を挟撃していた敵の左翼と右翼の隊は、実は本来の左翼隊と右翼隊ではない。本隊から三分の一ずつ引き抜いて、挟撃の任に当たらせ、本来の左翼と右翼は、戦場を回り込み、我が軍前軍の後方に現れた……つまり、先ほどまで顔良隊、関羽隊を後方から攻撃して、今俺たちが当たっているのが、本来の左翼隊と右翼隊だったのだ。

 

 それも見抜き、さらに敵将の狙いまで見抜くとはさすが郭嘉せんせ……おや?

 

「どうした郭嘉? なんか顔色が悪いぜ?」

「い、いえ、大丈夫です。ともあれ、これで戦局は再び互角に戻りました。この後は、お互いがどれだけ先を読めるかで全てが……ごふっ!?」

 

 その時、本隊内に衝撃が走った。なんと、郭嘉が激しく吐血して倒れこんだではないか! その顔は本当に真っ青だ。

 

「ど、どうした郭嘉!? しっかりしろ! 衛生兵、早く郭嘉を!」

「は、ははっ!」

 

 そう慌てて指示を出す俺の目に赤い狼煙がたなびくのが映った。あれは……官渡港の方角!?

 

* * * * *

 

「劉備殿、赤い狼煙がたなびいております。どうやら、別動隊がやったようですな」

「そうですか。どうやら、この最後の手は読まれなかったようですね。よかったです。まもなく袁紹軍は動揺し、崩れるころでしょう。それを見逃さず、崩れたらすかさず攻勢をかけるように各隊に伝令を」

「わかりました」

 

 劉備から指示を受け、伝令に伝達内容を伝えながら、夏侯淵は劉備の軍才に舌を巻いていた。彼は、この包囲作戦が読まれ、膠着状態に陥った時に、さらにとどめの一押しを加えるべく、官渡港に別動隊を出していたのだ。

 袁紹軍は官渡港に今回の出兵に際しての物資をため込んでいるはず。これが陥落したと思わせれば、補給が途絶えたと知った袁紹軍は士気が落ち、崩れていくだろうという作戦である。

 別に無理に攻略する必要はない。狼煙を出すだけでも敵にそう思わせることはできるので、別動隊には無理をするなと言い含めてある。

 そのようななるべく犠牲を出さない劉備の手法は、甘くもあるが悪くはないと夏侯淵は思うのであった。

 

* * * * *

 

 俺は今、絶対絶命の危機の中にある!

 

 郭嘉が倒れて動揺が走った俺の軍に、さらに官渡港が落ちたかもしれない、という事実はまさにとどめの一撃となった。

 官渡港には、今回の出兵にさいし、物資をため込んで補給基地にしてある。それが落とされたとわかれば、我が軍はどうなるか。

 それがこの目の前の惨状だ。我が軍はたちまち崩れ、目の前の曹操軍の攻勢に耐えるのも難しいというかほぼ無理な状態にある。

 

 このままここにいては、俺はまだしも、多くの兵たちが命を失うことになる。それに、顔良や関羽たちまでも。それは避けなければならない。

 俺は決断した。この場から撤退するのだ。もしかしたらこれで俺たちの天下統一は不可能になり、曹操の軍門に下るしか道はなくなるかもしれないが、顔良たちや兵たちの命には代えられない。

 逃げ切れるかどうかもわからないが、このままやられるよりははるかにマシだ。

 

 俺は軍配を振り上げ、撤退の下知を出そうとした。

 だがそこで不思議なことが起こった!

 

 優勢に戦っていたはずの曹操軍が途端に撤退を始めたのだ。

 向こうが勝っていたはずなのに撤退するなんて、いったいどういうことだ?

 

* * * * *

 

「なに、汝南が!?」

 

 曹操軍本陣で、劉備は伝令から、その驚くべき報告を受けていた。

 

「はい。汝南に孫堅軍が襲来。汝南の軍は防戦中ではあるものの、かなり苦戦しており、陥落も間近な模様……」

「……」

「劉備殿……」

 

 夏侯淵に声をかけられた劉備は、無念さをにじませながら口を開いた。

 

「致し方ありません。汝南を奪われ、さらに陳留も失えば、我らは帰るところを失ってしまいます。この場の勝利は諦めなければなりますまい。陳留に退却しましょう」

「わかりました……残念です」

 

 かくして劉備率いる曹操軍は、無念さをかみしめながら、撤退する準備を始めたのだった。

 

* * * * *

 

 そのころ、汝南近郊。その汝南を包囲し攻略している軍の中に、炎に包まれた汝南を見つめている孫堅とその息子孫権の姿があった。

 




さぁ、ついに満を持して登場、孫堅軍!

果たして、孫堅がどのように動くか、こうご期待!!……いただけると幸いです(平伏
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