三国志と劉備が好きな俺が三国時代に転生したけど、なぜか袁紹だったので、とりあえず袁家滅亡を防ぐために頑張ってみることにした件   作:ひいちゃ

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史実では、郭嘉が亡くなるのは207年とまだまだ先なのですが、物語の都合上、さらに短縮しています。ご了承くださいませ。


第弐拾四話『孫堅の目と劉備の決意』

 汝南の城の玉座の間。そこに、孫堅は座っていた。防衛隊の奮闘もむなしく、城は孫堅軍の手に落ちたのだ。

 

 だが、孫堅軍はその汝南に入城してから、これまでの進撃が嘘のようにその歩みを止めた。この勢いがあれば、さらに先の陳留を奪うのもたやすいというのに。

 軍の主、孫堅はただ腕を組んで目を閉じ、玉座に座しているだけだ。

 

 その様子に、彼の息子孫権はおずおずと口を開いた。

 

「父上、なぜにここで動きを止めたのです? それに、ここで止まっている場合では……」

「……」

 

 孫堅は黙したままだ。息子の言いたいことは彼にもわかっている。

 通常であれば、曹操にかまっている場合ではないのだ。今、孫堅軍は、同じく大陸南に割拠している劉焉との闘いの真っ最中だ。戦況は孫堅軍に有利とはいえ、何かあればその戦況を覆される可能性もある、予断を許さない状況だ。

 本来なら、曹操と戦端を開いている場合ではないし、開いたからにはとっとと陳留を攻略してこの戦いにケリをつけるか、それともとっとと南に引き返すかして、南方の戦いに注力すべきなのだ。

 

 だが、孫堅がここまで来たのは、曹操を倒すためではない。

 

 彼は目を開くと口を開いた。

 

「仲謀よ、俺がここに来たのは曹操を潰すためではない。陳留の向こうにある光を確かめるためだ」

「陳留の向こうというと……袁紹軍のことですか? 確かに他の勢力とは大きく変わっているという噂ですが……」

 

 それだけで、特に気にする点はないのではないか、そう孫権は思うのだが。

 

「仲謀にはそこまでしかわからぬか。だが光を失ったこの目には見える。袁紹が持つささやかな光が」

「えぇ、袁紹殿に!?」

 

 驚いて聞き返す孫権に、孫堅は力強くうなずいた。

 その左目……瞳を失った片目が光る。

 

「そうだ。かの者の光はもしや、この大陸を平安に照らす光となるかもしれぬ」

「父上の眼力を疑うわけではありませぬが、果たしてかの者にそのような力と志があるでしょうか? 確かに、今のところは曹操との戦いを有利に進めているようですが」

 

 そう戸惑いながら聞く息子に、孫堅は笑いながら言う。その笑い声には確信の要素が多分に含まれていた。

 

「そうであるかもしれぬし、そうでないかもしれぬ。それを見極めるために、俺はここにいるのだ。この後起こるであろう、袁紹軍による陳留攻略戦。そこで答えは出る。もし答えが俺が思った通りなら、俺は喜んで袁紹軍に合流するつもりだ」

「そうですか。父上がそう言うなら、私に異論はありませぬ。ただ……もし袁紹殿が、父上の見込み違いだったらどうなさるつもりなのです?」

「……」

 

 孫堅は再び腕を組んで瞑目した。

 それが答えだと孫権は理解し、その意味もまた理解した。孫堅の息子というのは伊達ではない。

 

 その答え、すなわち。

 

 そのような者なら、曹操軍もろとも、袁紹軍をたいらげるのみ!!

 

* * * * *

 

 一方、陳留。孫堅軍が汝南を攻略し入城したという報告はすでに、城内にある会議室の中にいる劉備にも届いていた。

 

「今のところ、孫堅軍に動きはありませんか……。ありがたいところですね」

「まったくですな。とりあえず一息というところですか」

 

 そう言う夏侯淵に、劉備は厳しい表情を向けて返した。

 

「えぇ。でも予断は許さない状況です。別の物見の報告では、北の袁紹軍が再び、ここ陳留を攻略する準備を進めています。先の戦いで消耗したこの状態では、守り切れるどころか怪しいものです」

 

 夏侯惇がうなずいて口を開いた。

 

「確かに。袁紹軍は軍の再編を進めている模様。対してこちらは、袁紹軍による輸送妨害の影響もあり、軍備や兵の補充も不十分な状態です」

 

 劉備がうなずいた。

 

「えぇ。このままでは詰みです。……そこで」

「何か?」

「夏侯惇殿、夏侯淵殿、そして華雄殿、三人方は今のうちにこの陳留を脱出して、洛陽にお戻りいただきたい」

「!?」

 

 劉備からの爆弾発言に、華雄はともかく、夏侯惇と夏侯淵は激しく驚愕し、狼狽した。

 彼らのその心中を意に介せず、劉備は続けた。

 

「もし次に袁紹軍なり孫堅軍が攻めてきたら、もう脱出はできないでしょう。そうなれば私たちの選択肢はここで討ち死にするか降伏するかだけです。三人は曹操様にとって大切な人材。ここで失うわけにはいきません」

「で、ですが、それでは劉備殿はどうなさるのです?」

 

 夏侯惇の言葉に、劉備はかすかに微笑んで答えた。

 

「城の守りを指揮する将も必要でしょう。それに、落城時に責任を取る者も必要と思います。私はここに残り、防戦に努めます」

「劉備殿……」

「大丈夫です。やすやす負けるつもりはありませんよ。夏侯惇殿。洛陽に戻ったら、曹操様に援軍をお願いしてください。もし曹操様が首を縦に振ってくれれば、もしかしたら陳留は助かるかもしれません。それが、陳留を守るための唯一つの道です」

「……」

「夏侯惇殿、お願いいたす」

 

 そう言って、劉備は夏侯惇に頭を下げた。その様子を見て、夏侯惇は悟った。

 劉備はここを死地と定めている。最悪の場合、陳留の民の安全と引き換えにここで命を絶つつもりだと。

 

 大した男だと夏侯惇は思った。ここまで命を懸けて民を守るなど。

 そして、この男を死なせるのは惜しいと、彼は考えたのだった。

 

「わかりました。必ず洛陽に戻り、曹操様にお伝えいたします」

「よろしくお願いします」

 

 その夜、闇に紛れて、夏侯惇、夏侯淵は城を出た。だがなぜか、華雄は城を出なかった。

 その彼に、劉備が訪ねた。

 

「華雄殿、なぜに脱出しなかったのです?」

「俺は夏侯惇殿ほど、貴様を信用しておらん。貴様が裏切らないかの見張りと……それと、貴様が無様に死ぬのを見届けようと思ってな」

 

 劉備はその言い分を聞いて苦笑をもらした。

 

「ふふ……。物好きな人ですね」

「ふん、貴様ほどではないわ」

 

* * * * *

 

 一方、ボク陽。

 

 倒れた郭嘉のことが心配な俺は、彼の部屋にお見舞いに訪れていた。

 

「具合はどうだ、郭嘉?」

「はい。だいぶ良くなりました。あの時は申し訳ありません」

 

 そう言って謝る郭嘉。謝るほどのことではないんだがな。命のことだし。

 本当にあの時は世界が凍ったかと思ったぜ。本当によくなってよかった。だが……。

 

「でも本当のところ、体の具合はどうよ? まだやばそうな気がするんだが……」

「……袁紹様、いつの間に医術を極められたのですか?」

「いや、そんな気がしただけだ」

 

 俺がそう言うと、郭嘉は苦笑した。

 

「正直、来るべきものが来てしまったようですね……」

「来るべきもの、ってまさか……」

「えぇ。私の天命です」

 

 郭嘉は自分の命に関わるとんでもないことを、まるで世間話をするかのようにさらりと言った。

 

「天命って……」

「自分の体のことですからわかります。そうでなくては、軍師は務まりませんからね。近くはないけど、そう遠くないうちに天命を迎えそうです。あと……1年から2年といったところでしょうか」

「お前、そんなやばいことをそんなさらりと……」

 

 俺がそう茫然としてつぶやくと、郭嘉は苦笑して言った。

 

「天命は誰にも変えることはできませんから。悩んだりしても仕方がありません。それよりは残された命を使う方法を考えたほうが建設的です」

「……」

「その表情は『ここから先は俺と田豊たちだけで十分だ。お前は少しでも命を伸ばすために養生してくれ』という顔ですね。でもお断りします。私はまだすべてをあなたのために使い切ったわけではありませんから」

「郭嘉……」

 

 俺がそうつぶやくと、郭嘉は真剣な、でもどこか懇願するような表情を浮かべて言った。

 

「私はあなたに仕える時に言ったはずです。袁紹様の覇業のために私の全てを使い、どのような手を使っても、あなたを中原の覇者にしてみせる、と。それを果たすまで、休むわけにはいきません」

「……」

「お願いいたします、袁紹様。どうか引き続き、この私をあなたのためにお使いください」

 

 そう言って郭嘉は頭を下げた。郭嘉が俺のところに来て6年。その6年で俺が始めて見た、彼が心から願いを込めて頭を下げる姿だった。

 それを見て俺は悟った。これを断ることはできない、と。これを断ることは、郭嘉の想い、誓いを踏みにじることだと。

 

「……わかった。でも、無理はしないでくれよ。お前は俺たちにとって、まだ必要な人材なんだからな。体に気を付けてくれ。もちろん俺も、お前の寿命を縮めないように努力する」

「ありがとうございます。もし断られたら、洗脳しようかと思いましたが」

 

 そう軽口をたたく郭嘉だが、その目尻にはかすかに涙が浮かんでいた。

 




さぁ、いよいよ佳境に入ってまいりました!

次はいよいよ、陳留攻略戦の予定ですぞ!
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