三国志と劉備が好きな俺が三国時代に転生したけど、なぜか袁紹だったので、とりあえず袁家滅亡を防ぐために頑張ってみることにした件   作:ひいちゃ

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第弐拾五話『陳留、陥落』

 いよいよ俺たち袁紹軍は、陳留へと軍を進めることになった。なお今回は、郭嘉は連れてきていない。体調が体調だからな。ボク陽で静養してもらい、彼の代わりに田豊についてきてもらっている。郭嘉本人はどうしても着いてきたがっていたが、何かあれば出てきてもらうと説得して大人しく留守番してもらった次第。

 

 陳留の南の汝南はすでに孫堅軍に攻略されており、この陳留を落とせば、曹操軍を虎牢関から西に封じ込めることができるのだ。孫堅軍が陳留を横取りしようとしたりしないか、という懸念があったが、郭嘉の話によれば、現状や孫堅の性格はそれはない、とのことだ。孫堅軍とやりあうことになったら、と思うと背筋に冷や汗が流れそうだが、そんなことにはならないようなので一安心だ。

 

 そうしているうちに、陳留が見えてきた。郭嘉が病床から指揮してやってくれた補給線寸断作戦が功を奏し、十分に攻略が可能な我が軍に対し、陳留の曹操軍は備えも兵力も不十分だという。

 油断大敵とはいえ、へまさえしなければ攻略は困難ではないだろう。

 敵もそれは理解している。とすれば、城にこもって籠城戦の構え……と思いきや。

 

 陳留の前面に布陣しているー!?

 

* * * * *

 

 袁紹軍と陳留の曹操軍の接敵から少し前。場は洛陽。

 

 その玉座の間で、夏侯惇は衝撃で表情をゆがませていた。

 

「な、なんですと!? 増援は出せぬ!?」

 

 その夏侯惇の言葉に、曹操は表情を一切変えず、まるで機械のような表情のままうなずいた。

 

「西の呂布がきな臭い動きを見せている。こちらが隙を見せれば、同盟を破り、こちらに攻めてくるであろう。そのような情勢の中で、わざわざ増援を出してこちらの守りを薄くするようなことはできぬ」

「そ、それでは曹操様は、陳留と劉備殿を見捨てるつもりなのですか!?」

 

 その問い詰めるような夏侯惇の言葉にも、曹操は表情を変えずに返した。

 

「そうだ。陳留と劉備には捨て駒になってもらう。陳留にはすでに、その民の一人に至るまで死守し、落城目前となれば、城を焦土とするよう伝令を発してある。彼らが捨て駒になって袁紹軍に消耗を強いることができれば、洛陽をはじめとした虎牢関の西にある我が領はしばらくは安泰となる。そうすれば、何か打開への道が開けるであろう」

「なんてことを……」

「国あっての民、わしあっての国だ。わし、そして国のためには一切の感情を排して、非情な道も選ばねばならぬ」

「くっ……!」

 

 夏侯惇は立ち上がった。しかしその彼を周囲の兵たちが押しとどめる。

 

「劉備の元へは行かせぬ。お前もわしの軍のためには重要な駒の一つだ。その駒を無意味に捨てる選択肢はわしの中にはない」

「……(申し訳ありませぬ、劉備殿……)」

 

* * * * *

 

 そして陳留。劉備と華雄を前に、曹操からの使者は信じられないことを言った。

 

「曹操様からの命令です。状況が悪く増援は遅れぬ。だが降伏は許さぬ。兵の一人、民の一人に至るまで陳留を守るために戦い、袁紹軍に出血を強いよ。陳留が陥落間近となれば城と町を焼き、奴らの補給を断ち、その身をもって進軍をくい止めるのだ、とのことです」

「な、なんだと!? 曹操様は我らに捨て駒になれとおっしゃるのか!? 陳留の民ごと!?」

 

 使者に食ってかかる華雄。その横の劉備は、ただ腕を組み、目を閉じたままだった。

 

「私は曹操様の言葉を伝えるだけです。お二人はその言葉に従えばよろしい」

「ぐぬぬ……!」

 

 今にも、一歩を踏み出そうとしている華雄を劉備が制した。

 

「良い、華雄殿」

「しかし……!」

「使者殿、お言葉、確かに承った。その返事をさせていただきます」

 

 そう言うと、劉備は刀を抜き、一刀でその使者を斬り捨てた!

 

「り、劉備……!」

「我らだけが捨て駒になるならまだしも、兵や民たちを捨て駒にするような非情なことは、私にはできませぬ」

「そ、それならどうするのだ? まさか、袁紹軍に……」

 

 動揺した華雄がそう言うと、劉備は苦笑して首を振った。

 

「いえ。私は主を裏切るような、そんな器用な男にはなれませんよ。……守備隊長を呼べ」

「ははっ!」

 

 劉備の指示を受けた兵が走り去り、少しして陳留の守備隊長を連れて戻ってきた。

 

「私は、指揮下の隊と共に陳留の前面に布陣して、袁紹軍と正面から戦う。陳留、および守備隊は、我らが負けたらただちに袁紹軍へ降伏せよ」

「劉備様……」

「袁紹軍は、噂を聞く限りでは、降伏した城に無碍なことはしないという。速やかに降伏すれば、陳留の民に害が及ぶことはないだろう。今一度言う。陳留は我が隊が敗北した暁には、ただちに降伏しろ。これは命令だ」

「かしこまりました……」

 

 そして守備隊長は会議室を去っていった。そこで劉備が清々しくも哀しい笑顔を華雄に向けた。それが、劉備の複雑な内心と、悲壮な覚悟を表していた。

 

「華雄殿はいかがなさいます? 今なら城を抜け出して野に下る手もありますし、私を斬って、首を手土産に降伏する手もありますが」

「何度も言わせるな。貴様が無様にくたばる様子を見届けるのが、わしの最期の楽しみよ。一緒に出撃してやるわ」

「ふふふ……あなたは本当に物好きな人ですね」

「何度も言わせるな。貴様ほどではない」

 

* * * * *

 

 そして俺たち袁紹軍は、陳留の前面に布陣した曹操軍と戦闘を開始した。

 今回も前軍は顔良隊、そして関羽・張飛隊だ。万旋隊はもしもの時のために俺の隊と同じ後軍に配置している。

 

 本当は、関羽・張飛隊を控えにして、前軍には万旋隊を出す予定だった。

 敵の隊を指揮するのは劉備との情報が入っている。かつての義兄弟と戦うのは心苦しいと慮ってのことだったのだが、二人があえてと強く要望したので前軍に出したのだ。

 

 さて、戦いは終始こちらの有利で、郭嘉先生の策がなくても勝つことができそうだ。そう思っていたことが俺にもありました。だが!!

 

「袁紹様、緊急報告です! 上党から発した袁煕様の隊が洛陽攻略に失敗! 大きな損害を出して撤退したとのことです!」

「な」

 

 なんですとーーーーー!?

 

 これは緊急事態だ。袁煕の軍が大きな損害を出した、ということは、それだけ洛陽への抑えが弱まることを意味する。場合によってはこれを機に、曹操が、洛陽から陳留に援軍を派遣するかもしれない。そうなれば今度はこちらが挟み撃ちの危機だ。

 

「か……いや田豊。どうする? 俺は、万旋隊を後ろに配置して、洛陽からくるかもしれない援軍に対処すべきだと思うのだが」

「そうですな。それがいいかと思います。さすがは袁紹様。今日はなにかいいものを食べたかのようでございますな」

「……ほめられてるのかけなされてるのか、わからなくなりそうな評価だな」

「いえいえ、ほめているのですよ。それはそうと、念のためにボク陽のほうにも警戒を命じたほうがよろしいでしょう」

「そうだな。そうしよう」

 

 そして俺は伝令に、万旋隊への、我が隊後方への移動と、ボク陽への警戒命令を伝えて送り出した。これで最悪の事態は免れる……ような気がする。

 

「それと袁紹様」

「ん?」

「わたくしめは郭嘉ではありませぬ。郭嘉が極めて有能な軍師なのは確かですが、もう少し我らのことも信頼し、頼りにしてくだされ」

「あ、あぁ、すまん。気を付けるよ」

「やはり袁紹様には侍医に診てもらう必要が……」

「いや、それはいいから」

 

 久しぶりに聞いたな、その言葉。

 

 さて、それからも戦いはこちら有利に進んだ。

 幸いにも、洛陽から援軍が出てくることはなかったのだ。警戒していただけに肩透かしを受けた気分だが、厄介なことにならなかったのは、本当によかったぜ。

 

 そしてなんと! 曹操軍の前線が瓦解し、彼らの敗北が確定した時点で陳留が白旗を上げて降伏してきた。城は俺たちの手に落ちたのだ。

 

 それと同時に曹操軍も武器を捨て、投降した。戦いは終わった。

 

* * * * *

 

 そして陳留の城内。そこで俺は、敵将の劉備、そして華雄の二人と対面していた。

 

 顔を合わせてすぐ、華雄が口を開いた。

 

「敗軍の将の身でありながら、こんなことを願うのはいかがなものだと我ながら思うが、それでもお願いする! わしの首と引き換えに、劉備の助命をお願いしたい!!」

「華雄殿……」

「劉備は、陳留の民の命のためにあえて不利な野戦を挑み、ここを死地と定めた! そのような素晴らしい者を失いたくはない! どうか、どうか情けを!!」

 

 だがそこで、劉備が華雄を制した。

 

「いいのです、華雄殿」

「しかし……!」

「私はこの陳留の守りの責任者。私が討たれなければ、この戦いは本当に終わったことにはなりません。覚悟はできています」

「劉備……」

 

 そこまで聞いて俺は口を開いた。

 

「そこまで覚悟を決めているとは天晴な奴だ。ならばその通りにするのが彼への情けだろう。……関羽」

「ははっ」

 

 俺の指示を受けた関羽が重々しく歩き出し、劉備の前に立った。その手に、大きな刀を握って。

 

「覚悟はいいか……兄者、いや、劉備」

「あぁ……お前に首を斬られるなら本望だ」

「……ではっ!!」

 

 関羽が刀を振るった。その場の空気が凍り付く。

 

 だが、劉備の首は飛ばなかった。関羽の刀は、劉備の頭上の空気を薙ぎ払っただけだったのだ。

 

「今の一撃で、曹操軍の武将、劉備は死んだ。今ここにいるのは、ただの男、劉備だ。……だろ? 関羽」

「ははっ」

 

 一礼した関羽にうなずき、俺は再び口を開いた。

 

「お前のような良い奴を死なせるのは、俺としても心苦しいからな。俺の部下になれとは言わないから、これからは自由に生きてくれよ」

「袁紹様……」

「この世界はまだ捨てたものじゃないぜ? 民たちと一緒に田畑を耕し、一人の人間としてこの大地を生きてみれば、きっと今までとは違ったものが見えてくるだろ。それを全部見終えないまま命を絶つなんてもったいないぞ」

 

 我ながら稚拙な言葉だと思うが、それでも劉備は目を潤ませていた。その横の華雄とかいうやつには至っては男泣きしてしまっている。

 

「袁紹様のお言葉、この劉備のことに響きました。この劉備、これからはただの男として生きましょう」

「あぁ。またお前が俺の敵にならないことを祈るよ。お前も気をつけろよ? 俺はよくても、今度は郭嘉が許さないかもしれないぜ? あんな見た目でも腹の中が真っ黒だからな」

「わかりました……。袁紹様のご厚情に感謝いたします。それでは……」

 

 そして劉備は身分を捨て、陳留を去っていった。華雄の奴は、「お前の無様な死にざまを見届けるまでは貴様のそばを離れぬからな」と、なんかツンデレみたいな台詞を吐いて、彼の後をついていった。

 

 その去り際の後ろ姿を見て、俺は二人がこれから少しでも満ち足りた生涯を送ることを祈ったのだった。

 

* * * * *

 

 陳留の南の汝南。

 陳留に派遣していた間者から、劉備の処遇について聞いた孫堅は一言うなずくと、目を開き腕を解いて立ち上がった。

 

「やはり袁紹の中の光は本物であった。よし、俺はこれから袁紹軍に合流するため、孫策と陳留に向かう。仲謀(孫権)、汝南は任せたぞ」

「わかりました。お任せくだされ」

 

 江東の虎、ついに立つ―――。

 




劉備の処遇については、ちょっとパターン&甘いかな、と思ったのですが、普通に斬首した、というオチでは、孫堅が認めるには足りないかな、と思ったので、このような生存エンドにしました。

なお、劉備はこれで物語から退場となります。

さてさて、次はいよいよ、袁紹と孫堅の対面です!
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