東方宙探録 / Star Trek : The Mirage World   作:Rommel

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 かなり遅くなってしまった......お待たせした読者の皆様には申し訳ないです


第1話「時空の切れ目から」第3幕

「単刀直入に申しましょう。今回皆さんをこのような形で呼び寄せた理由は────ボーグです」

 

 ────ボーグ。彼女がその単語を口にした途端、士官たちの表情は一変した。自我を持たぬ敵、文明の破壊者、そして......二度に及ぶ死闘。これまでの悪夢が、一気に脳内へと流れ込む。

 

 ピカードの脳内にも、過去のトラウマが映し出される。生気を欠き、ゾンビの様にこちらに向かってくるサイボーグたち。

『我々はボーグだ』

 電子音だけが鳴り響き、ボーグたちが整然と並ぶ、暗く、じめじめとした異質な船内。

 そして……同化された自分。

『────ロキュータス』

 ボーグとしての彼を呼び掛ける、機械的な声────

 

 

 

 

「ボーグ」

 

 我に返ったピカードが、重々しく反芻する。

 

「前回ボーグが連邦を襲撃したのは3年前、その前は更に6年前でしたから......予想よりも早い回復です。それにしてもまた侵略を仕掛けてくるとは」

 

 ウォーフが目を見開いて言う。憤りを露わにするときの彼の癖だ。「奴らは執念深いからな」とライカー。

 

「とにかく、今は対策を考えなければ。襲撃時の状況を訊いても?」

 

 険しい表情のままのピカードが紫に尋ねる。観察ラウンジには、張り詰めた空気が流れていた。

 

「ことの始まりは一カ月前、突然住民が妙な夢を見始めたんです」

「妙な夢?」ピカードが聞き返す。

 

「ええ、朝起きたら機械の怪人に────恐らくはボーグでしょう────囲まれている夢を見たと」

 

「成る程。そして実際に襲撃が起こった」

 

 ピカードが唸るように言い、紫が頷く。

 

「一週間前です。私の従者が襲われまして」

「貴女の従者も妖怪?」

 

 ピカードと紫のやり取りを聞いていたトロイが尋ねる。

 

「勿論。正確には()()と言うのですけれども」

「シキガミ?」とライカー。

 

「私の暮らす世界には神や妖怪と云った、表の世界では失われてしまったものが存在しているんです。式神は神の一種で、端的に言えば神や妖怪などの部下ですわ」

 

 どうやら目の前に座る人物が暮らす世界は、人知を超えたものらしい。ライカーはそう解釈すると、改めて宇宙の広大さを実感したのだった。

 

「しかし妙ですね。普通なら惑星全体を同化しそうなものですが」

「これはあくまで推測だが......ボーグは八雲さん(ミス・ヤクモ)自身を狙ったんじゃないか?」

 

 ラフォージの疑問に対してピカードが持論を展開し、「確かにあのような能力を持つ貴女なら、ボーグに狙われてもおかしくないわ」とドクターが紫の方に向き直る。

 

「ボーグは進攻の手始めとして、その集団の強力な人物やリーダー格を拉致することがありますからね」

 

 データも艦長の意見に同調する。

 

「それでは貴女の()()は────」「ブリッジから艦長へ、スクリーンの惑星から通信を求められています。旧式の信号のようです」

 

 突然の呼び出しに、部屋の人物たちがピカードの方を向く。

 

「こちらピカード、通信を許可する。観察ラウンジに繋いでくれ」

「了解しました」

 

 ピカードが立ち上がり、壁面に設置された通信スクリーンへ向かう。

 

 電子音の後、スクリーンに映し出されたのは狐と人類の特徴を併せ持ち、古代の中華風の服を着たヒューマノイドの女性だった。

 

「惑星連邦所属、USSエンタープライズ艦長のジャン=リュック・ピカードです」

「私は八雲藍(やくもらん)です。ピカード艦長、幻想郷を代表して歓迎致します。そちらに紫様がいらっしゃると思うのですが」

 

 藍の発言を受け、ピカードが紫の方を向く。「紫様!連絡が遅いのでみな心配していたんですよ?」と彼女を目にとめた藍が言う。

 

「それは心配かけたわね......悪かったわ。でも私はこの通り無事だから、心配しないで頂戴」

 

 ピカードの隣にやってきた紫が、スクリーン越しに話し掛ける。

 

「失礼、少し確認しても?」

 

 二人のやり取りを見ていたピカードが割って入る。「構いませんよ(わ)」と二人。

 

「先程の式神と云うのは、もしや?」

「ええ、この藍のことですわ」

 

 「やはり」と納得するピカードに「とても優秀ですの」と紫が付け加える。

 

 一方のクルーたちは、不思議だと言わんばかりの表情をしていたが、それも無理はない。何せ紫の話から推測するに、彼女はボーグの襲撃を生き抜いたのだから。

 

「紫様、詳しい話はこちらでしませんか?丁度あれも保管してありますし」

 

 クルーたちの表情から察したのだろうか、藍が紫に提案する。「藍もこう申していますし......如何ですか、艦長?」と紫。

 

「成る程......少し検討する時間が欲しい」

 

 二人にとってピカードの返答は意外だったのか、一瞬だが訝しげな表情を見せた。すかさず「上陸前には事前の調査が必要でして、ご理解願いたい」とピカードが弁明する。

 

 藍は「分かりました」と頷き、「では明日の昼までに回答を、艦長」と言葉を続けて通信を切った。

 

   ◇

 

 数時間後、観察ラウンジには再び士官たちの姿があった。ピカードが「さて......惑星への上陸についてだが」と議題を切り出す。

 

「問題は上陸が及ぼす影響だ。私としては惑星────幻想郷()()が現代と同等の文明を持っているとは思えんのだよ」

 

 ピカードがクルーたちを見回し、「まあ確たる証拠は無いが」と付け足す。

 

「不干渉の規則ですか、艦長(キャプテン)

 

 ライカーが真剣な面持ちで言った。「確かにミンタカの二の舞*1は避けたいですからね」とラフォージが同調する。

 

「二の舞?ジョーディ、ミンタカでの出来事はダンスではないと思うんだが」

 

 データが慣用句に対して疑問を呈する。エンタープライズの日常とも言える光景だ。

 

「以前にしたミスを繰り返してしまうことだよ」と説明されると「成る程、興味深い言い回しだ。ありがとう」とデータが頷きながら言った。

 

「文化への干渉は絶対に避けなければ。それに────」

 

 ピカードは一旦言葉を切ると、「ミス・ヤクモが真に我々の助けを必要としているのか、どうも疑わしい」と声を低くして続けた。

 

「それは同感です、艦長。あのような超能力を持っているのなら、彼女にとってはボーグなど敵ですらない筈です」

 

 ウォーフがピカードの意見を支持する。「カウンセラー、彼女から何か感じ取れるものはあったか?」ピカードがトロイに尋ねた。

 

「はい。それがとても不思議な感覚なんです。様々な感情が入り乱れているというか、通信が混線しているような。それにこちらの思考を逆に観察されている気がして」

 

 トロイが額を擦りながら言う。「流石は妖怪、と云ったところか」とライカーが頷いた。

 

「艦長、センサー・プローブで惑星をスキャンしてみては如何でしょうか?現地の住民にバレずに探査出来ると思います」

 

 ラフォージが進言する。ピカードは制服の弛みを直すと「よし、直ぐに取り掛かってくれ。結果が出たら報告するように」と言って立ち上がった。

 

   ◇

 

 エンタープライズのクルーたちが探査の準備を進めている頃、地上では対ボーグの会議が開かれていた。畳の敷かれた部屋に座るのは、幻想郷の有力者ばかりだ。

 

「それでその『えんたーぷらいず』とやらは異変解決に協力してくれそうなの?」

 

 藍の説明の後、最初に質問を口にしたのは紅白の巫女装束を身に纏った少女だった。

 

「ああ、いかにも。反対していた割には乗り気じゃないか、霊夢」

 

 藍から()()と呼ばれた少女────博麗霊夢(はくれいれいむ)は、「味方が多いに越したことはないじゃない」と口を尖らせる。

 

「でも何であのボーグ(からくり怪人)には弾幕が効かなかったんだ? マスタースパーク(いつものあれ)が効かない奴なんて滅多にいないぜ?」

 

 魔法使いの格好をした少女────霧雨魔理沙(きりさめまりさ)が藍に尋ねた。

 

「それが私にもさっぱり分からんのだ。私が襲われた際には紫様が助けて下さったが......」

 

 藍が悔しそうに天井を睨む。

 本来ならば式である自分が主人を守るべきところを、かえって助けて貰った。そのことに、彼女は恥ずかしさと自身の未熟さを感じていたのだった。

 

「そのことについてなんだけど」と襖を開けて入ってきたのは、月の民で永遠亭の薬師の八意永琳(やごころえいりん)だ。

 

「あら、永琳さん。今回の異変について何か分かったことでも?」

 

 藍の問い掛けに永琳は「ええ、ようやく分かったわ」と返すと他のみなと同様に座った。

 

「この間、例のボーグ(機械の怪)が紫のとこのマヨイガと、霊夢のとこの博麗神社、そして私たちのとこの永遠亭を襲撃したじゃない?」

 

「ええ」「そうね」

 

「そして三人の弾幕はどれも奴らには効かなかった」

 

 永琳が霊夢、魔理沙、藍を順々に見ながら言う。「何が言いたいのよ」と不満げな霊夢に「まあまあ、ここからが本題よ」と話を続ける。

 

「悔しいけれども、私の弾幕も鈴仙の弾幕も効果は無かったわ。そこで月で玉兎が使っている()()を使ってみたの」

 

 そう言って永琳が取り出したのは、栓抜きの先端を折り曲げたような物体だった。

 

 銀色に光る謎の物体を、興味深く観察する三人。

 

「これは電子銃という武器よ」

 

 永琳が一同を見回しながら言い、「まあそれでも倒すのは一苦労だったけど」と苦笑いする。

 

「でも何でこいつは奴らに効果があったんだ?私の弾幕よりも弱っちく見えるぞ」

 

 魔理沙が電子銃をつつきながら言った。

 

 質問を受け、待ってましたとばかりに永琳がニヤリと笑う。

 

「魔理沙、月と幻想郷には一つ異なる点があるわ。何か分かる?」

「うーん、こっちも月も結界はあるし......月との違い......あっ!」

 

「分かったぜ!」と何かに気付いた魔理沙が勢いよく立ち上がる。

 

「幻想郷は魔法や幻術を使うけど、月は科学技術を使うところか!?」

 

 魔理沙の回答に「ええ、その通りよ」と永琳が微笑む。

 

「幻想郷の弾幕は妖怪と戦う為にあるじゃない?そして妖怪は人々が生み出した幻想────つまりは非科学的な存在。一方のボーグ(機械の怪)は技術の結晶、いわば科学を極めた完全体────私たちと彼らはまるで正反対なのよ」

 

 永琳が真剣な眼差しで持論を展開し、魔理沙たちが食い入るように耳を傾ける。

 

「じゃあ性質の違いから攻撃が効かなかったってこと?」

 

 霊夢の問いに対し、永琳がそうだと言う代わりに頷く。

 

「本当なら全員分の武器を用意したいところなんだけど、永遠亭(うち)の備蓄にも限りがあるから」

 

「結局、()()()()()()って訳か」

 

 魔理沙が残念そうに呟く。エンタープライズのクルーたちはつゆ知らず、幻想郷は創設以来最大の危機を迎えていたのだった。

 

*1
TNG第52話『守護神伝説』での出来事を指す。前近代の文明を持つミンタカ3号星の原住民が、エンタープライズの高度な技術からピカードを神と勘違いし騒動に......というエピソード




 第1話はここまでとなります。次回はいよいよボーグの影が......コメント等々お待ちしています!今回もご覧頂きありがとうございました!
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