エレメとシルイの準備が終わり、いざ出発という雰囲気になったそのとき、ディルがあることに気付いた。
「あ…… 顔を隠すローブが……」
ディルは極度の人見知りの為、素顔を出して歩くのは何としても避けたいようである。それだけでなく、このまま“臨廻の魔女”だと知られた際、魔女から魔法少女と呼称が変わってしまうかもしれないと言うこともだ。
元のまま呼び名でもディルにとっては気恥ずかしいが、さらに魔法少女というメルヘンチックな呼び名に変わってしまうのは、精神が男としては死活問題であった。
「いいじゃない、それでも」
「いや、何かな」
よく、こういった変な所で賢明になるイルは、ディルが素顔を晒したまま出歩く事による弊害を見つけた。
「そのままだと周りに変な勘違いされると思うけど……」
「へんなかんちがいー?」
「それは…… 魔女さんって見た目10歳前後の女の子でしょ?」
「あー…… しかも皆はディルちゃんの見た目知らないから……」
「どんな勘違いがされるか容易に想像できるな」
本人の心の内情だけでなく周りの目も気にしないといけない辺り、見た目が幼い少女になると世の中が生きづらくなることをディルは身をもって実感したようだ。
「へえー…… じゃあどうするの?」
「そう、問題はシルイの言った通りそこなんだよ」
「そうだ!」
「エレメ、何を思いついたんだ? 嫌な予感しかしないが」
エレメの作戦は理にはかなっていたが、実行する本人にとっては地獄を見ることになるような作戦だった。
それもそのはず、ディルに見た目通りの言動をしろということである。
そうすることで、ディルが魔女だと知られる心配はなく、レーメル夫婦がこの子は親戚だと言い張ることで、親戚の子供が遊びに来たという自然的なシチュエーションになる。
「どう?」
「なるほど……」
エレメが示した作戦に、イルは納得して賛成したが、ディルは断固として拒否しようとした。
「いや、俺は反対だが」
「じゃあ他にいい案があるっていうの?」
ディルは何も考えていなかったが、いざというときの為に結界魔法の一つである“隠蔽結界”を保険として使うことにしていた。それを思い出し、提案した。
「隠蔽結界で姿を隠すことができるが」
「まじょさんみえなくなっちゃうの? それはいや!」
無慈悲にも、純粋な子供の言葉という敵がディルの提案を拒んだ。これには何であろうと覆すことが出来ないであろう。
「……」
「決まりね」
「うぅ…… 何でこんなことに……」
「それじゃー! しゅっぱーつ!!」
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一行が訪れたのは、町の商店街にある古ぼけたような店であった。
「なあ…… ここはどこだ? ここで何を買うんだ?」
「ふふふ…… 世間知らずの魔女ちゃんにオススメの便利グッズを紹介してあげる」
「便利グッズ?」
「まずは見てみて」
ディルは、エレメが店の中に入って行くのでそれに付いていくように入店した。その店では、鞄やポーチ等の入れ物を取り扱っている店であった。エレメは入って早々、何かを探していた。
「あったあった……」
「?」
「じゃじゃーん!」
そう言ってエレメが棚から手に取った物は、一見するとただの皮で作られた鞄のように見えた。
「これぞ最近のヒット商品! 縮小鞄ー!」
「へえ…… で、どういうものなんだ?」
「フッフッフッ…… これは凄いのよ……」
縮小鞄とは、基本魔法の一つ、物を二十分の一に縮小させる“縮小化”を利用した鞄である。
鞄のふちに魔法式が書かれ、それに魔力を流すのと同士に何かしらの物を鞄に入れると、その物に“縮小化”が適用される。それによって、鞄の容量が従来より実質的に大きくなることになる。
「おお! それは便利だ! ……しかし道具に魔法式を書いておいて、それに魔力を流す事で魔法を発動させることが可能だったのか」
「つい最近ね、総合魔法研究所ってところがこの技術を編み出したのよ」
「総合魔法研究所?」
「そう、この縮小鞄はそこが開発したところなんだけどね、この技術を一般には隠しているみたいなの。縮小鞄自体はいろんな所からだされているけど、製造法は一部の人しか知らないみたい」
「まあ儲けれる物は独占したいだろうな」
そういってディルは鞄を持って会計の方へ行こうとしたが、エレメが思い出したように、驚きはしないが体の動きは止まってしまうようなことを言った。
「実はイルさん、総合魔法研究所の一員なのよ」
このことを聞いたディルは、驚きはしないものの会計へ向かう動作を止めてしまった。だが、そこから来る返事は辛辣なものであった。
「へえ、意外と魔法が扱えるんだな」
「意外とってなんだよ意外とって」
先ほどから外野に弾き出されてしまっていたが、ディルの発言により、やっと会話の輪にイルは入り込めたようだ。
一方シルイは、この会話はすでに知っていることであったため、興味の方向を店の方へ移していた。
すると、会計の方から一人の老婆が現れた。
「おやおや…… 嬢ちゃん達ようきたねぇ……」
「あっ! ばっちゃん!」
すると、ばっちゃんと呼ばれたその老婆と、エレメが親しそうに会話を始めた。内容は最初の内は単なる世間話のようであった。しかし、次第に店のことの愚痴になっていった。
「近頃の若者はぜーんぶ流行りの店に行って…… まるでその店で買った事がステータスだと思ってるのかね。
しかも、そうごう……? えと…… なんだったかな……? まあいいや、なんちゃらってとこが縮小鞄なんて物を作ってからは…… どこもかしこも流行りに乗ろうと鞄ばっかり作って。
そうするとねぇ、みーんな有名な店で鞄を買うのよ。こちとら鞄を主にした革製品屋なんだがね…… ちっとも客が来なくなった。客足が遠のいたんだよ。こりゃあ商売上がったりだね」
この話を聴いているエレメは困惑顔でいた。なぜなら、こういった内容の愚痴を聞くのは二度目ということであったからだ。
「あはは…… ばっちゃん、その話前にも聞いたよ?」
「おっと、いかんいかん…… もうすっかりボケちまったかの……」
指摘されたことでひとまず愚痴が落ち着いた老婆は、傍にいたディルが目に入ったようで、珍しい物を見たような顔をしながらその隣にいるエレメに尋ねた。
「おや、この子は誰かいね」
先に打ち合わせをしていない場合誰しも回答に困るであろうその問いが、予想されていた通りに提示された。
しかし、二人には予め決めておいた親戚の子供という設定がある。そのためエレメは顔色一つ変えずに答えた。まるで本当にそうであるかのように。
「この子は私の親戚の子供なの。今日遊びに来たから、ここに連れて来てみたのよ」
「うん! 鞄屋のおばあちゃん、よろしくね!」
ディルはこの時、尋常でない寒気を感じた。もちろん、幼児の真似をすることにも寒気が生じるが、それとは別に得体の知れない寒気が襲い掛かったのだ。
そんなディルの心境を知らずしか、老婆はここ一番の笑顔であった。幼い少女を見て癒されたのだろうか。否、この店の新たな客が誕生し、更に増える可能性を見いだせたのがさぞかし嬉しいのだろう。
「そうかいそうかい、今後ともここをご贔屓にね」
少しも疑われなかったことに安堵したディルは、ふとエレメの方を向いた。いや、向いてしまった。そして、聞いてしまったのだ。エレメの「本当にそうなっちゃえばいいのに」という呟きを。
ここでディルは先ほどの寒気の原因を知った。エレメが顔色を変えずに嘘を言ったこと、仮にも何十年も接客をしている老婆を微塵も疑われずに欺いたこと、これも全てエレメのそうであってほしいという願望の強さから来ていたのだ。
それはそうと、この場から早く離れてしまいたいディルは、いそいそと縮小鞄の代金を払い、これまた早歩きで会計から離れて行った。イルという救世主とシルイという癒しに、この恐怖から救われたいがために。
このディルの行動に対し老婆は疑問を抱いたが、これまでの人生の中で不可思議な客は腐るほど出会ってきた為にすぐさま気にしないことにし、エレメに確認を取った。
「もう帰るのかね?」
「うん、それじゃあね」
「ほう、あたしが生きている内にまた会えたらいいがね」
「もう~ばっちゃんったら、縁起でも無いこと言わないでよ~」
「ほっほっ、冗談だよ、またおいで~」
「はーい」
エレメは簡単な返事をしながら颯爽とディル達がいる所に向かった。そして、老婆に一度お辞儀をしてから店を出た。後に続くディル達もそれを真似した。
一同の次の行き先は服屋である。理由はレーメル宅に泊まるためのディルの衣服を買うためだ。イルはとてつもなく嫌そうな顔をして肩を落とし、対するエレメは笑顔で浮かれたような足運びであった。
この店の出来事で、ディルはエレメに対して少し恐怖心を抱き、しばらくエレメを避けていた。
展開はやい?
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疾風の如くはやい
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別に
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ダレない程度におそく
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もっとかっ飛ばせ!