ディルはこの日を待ち望んでいた。そう、アルフェールの友達に会うからである。待ち望んでいた理由は、単純に気になるからでもあるが、何より約百年ぶりにディル自体の友達を作れるチャンスでもあるからだ。
「♪~」
「嬉しそうだな」
そう思っても仕方がないほど、今のディルは浮足立っていた。
「だって百年ぶりにアル以外の話せる生物と会えるからな」
その通り、ディルはここ百年間アルフェールとしか会話ができなかった。流石に話題も尽きてしまうとのことで、新しい話し相手ができることが楽しみとなるのは道理であろう。
「そうか? 我は前に会ったのが百三十年前だから…… 少し前だな」
神獣は数千年単位で生きているので、百三十年は人間でいうところの数ヶ月前に等しい。
「……はあ」
いつものことなのでディルはアルフェールの時間感覚には何も突っ込まないことにしていた。
「話はここまでだ。よし、早速背に乗れ。すぐ行くぞ」
そう言われるがままアルフェールの背に飛び乗ったディルは、初めて生物の背に乗った新鮮な感覚と羽毛によるもふもふ感を堪能しようとした。
「おお、アルの背中! ってええぇぇぇぇぇ!?」
だが背中に乗った瞬間に出発したため、ディルは準備出来ずに振り落とされそうになった。
「振り落とされるなよ」
ディル達の行き先は、北の“北焔の神獣”フォルテシアが住む火山、フォースである。ちなみに、アルフェールの二つ名は、“西嵐の神獣”である。
アルフェールの速度は、生物が出せる速度としては規格外であった。ディルも百年近くの訓練《しごき》により、本気をだせば普通の人の目には見えない速度を出せる。
しかし、それまでであり、アルフェールは光速とまではいかないが、音がナメクジに思える程の速度で動ける。
だとすると、アルフェールの背中に乗っているディルは振り落とされないのかという疑惑が出てくるが、アルフェールが風を操り空気抵抗を少なくしているため、その心配は無い。
「よし、もう着いたぞ」
フォース火山の上空近くに着き、そのまま減速して急降下しながらそう伝えた。
「えっもう?」
ルーフエからフォースまで行くには、大陸を横断し、国を跨ぐ必要がある。そのため、ディルはある程度時間がかかると踏んでいたが、その想定よりも何倍も速く着いた為に驚きを隠せなかった。
すると、山に降り立ったディル達に気づき、近付いていく一つの影があった。
「久しいな、フォルテシア」
「ふふ、 誰かと思えばアルフェールじゃない。どうしたの? かわいらしいお嬢さんを連れて来ちゃて」
その正体は“北焔の神獣”にして、正真正銘アルフェールの『友達』のフォルテシアであった。
その神獣と呼ばれる者らしい姿を見たディルは、驚きや感動よりも先に、あることを思っていた。
(炎を纏う鳥…… まるでフェニックスみたいだな。)
その通りフォルテシアは常に炎を纏っているが、熱気は感じられなかった。
「こいつはディルだ。つい百年前こいつを保護してな。頃合いもいいしお前達に挨拶しに回っているところだ」
「あ…… えっと、ディルです。よろしくお願いします。アルにお世話になっています」
初対面の人には敬語になってしまう、日本人としての、いや人見知りとしての性質が現れていた。
「あら、そんな畏まらなくてもいいのよ? それにしてもアルだって? いつの間にそんなに仲良くなっちゃってるのかしら。嫉妬しちゃうわ」
フォルテシアは、ディルとアルフェールが愛称で呼び合う仲なのを見抜き、微笑ましいといった感じに冗談をぶつけた。
「いやお前そんな言葉遣いだったか?」
敬語という文化が無いアルフェールにとっては、この変化を奇妙に思っていた。
この二匹の神獣の言葉により、ディルはこのまま敬語を続けてもかえって失礼になるのではと考え、いつも通りの素を出した。
「ああ、すいま…… スマン。俺はディルだ。名付け親はアルになっている。ちなみに会って数十秒で付けられた。これからよろしく頼む」
「ええ、これから仲良くしましょ? 名付けの話は聞かないことにするわ。それと、ディルちゃんは女の子なんだからちゃんとおとしやかにしなさいよ」
「え? ちゃ…… ちゃんって…… そ…… それに女の子?」
自分が女の子である事実に目を背けつづけ、アルフェールにもそのような扱いを受ていなかった為、その事実を改めてたたき付けられたことにより、元男としての尊厳が崩壊し、困惑して、否定しようとして体が錆び付いたロボットのようになった。
すると、その様子を見たフォルテシアはあらぬ勘違いをした。いや、実際そうではあるが、理由とはなっていないことだ。
「はは~ん、さてはこいつにちゃんと女の子扱いされなかった? アルフェール、ダメよ? ちゃんと乙女には紳士的に接しなきゃ」
そしてさらにディルは赤面し、フォルテシアはその言葉遣いと裏腹にかなり威圧してアルフェールを見ていた。対してアルフェールは、フォルテシアには頭が上がらないため恐縮している。
その理由はフォルテシアはかなり好戦的な性格だからだ。そして、アルフェールが俊敏特化だとすればフォルテシアは攻撃特化である。
そのため、フォルテシアに攻撃され、まともにくらえばアルフェールといえども軽傷には済まされない。
その点も踏まえてアルフェールはフォルテシアの機嫌を損なわないようにしている。真っ先にフォルテシアのところに向かったのもそのためだ。なので、この状況はアルフェールにとって絶体絶命とも言えるだろう。
「あ、ああ、もう他の奴に会いに行く。またな」
そのことにすっかり怖じきついたアルフェールは、すぐこの場から離れたい一心でこの場を切り上げることにした。
「えっもう?」
ある程度落ち着いた後、アルフェールが怖がっているのを珍しく思ってたディルは、今から帰ることに早すぎないかと驚いた。
「もっとディルちゃんと話したかったけど…… じゃあね、また会いましょ」
フォルテシアは、アルフェールの言葉を聞いて、少々名残惜しそうにしながらもディルに別れの言葉を告げた。
「おう、またな」
同じく名残惜しいが、ある程度話せたことにより満足したディルは元気に挨拶を返し、アルフェールの方へ歩いて行った。
すると、突然フォルテシアが慌てたようにディルを呼び止めた。
「あっ! 待って! これあげる」
フォルテシアがそういうと、何事かと急いで戻ってきたディルの手元に赤い球が現れた。
「これは北炎の証よ。本当は手に入れるために試練があるけど…… どうせアルフェールに鍛えられているんでしょ? 見れば分かるからね。友達の証よ!」
「あっ、ありがとう」
ディルはそうやって認められた事が嬉しく、しばらくその証を眺めていた。ただ、本来は試練があると聞いて、少し困惑していた。
そんなディルの様子を見たフォルテシアは、少し小さな声でぶっちゃけた。
「実を言うと…… 試練なんか無くとも実力は見えているのよ。伊達に長生きしてないしね。試練をやらせるのは、まあ、自信がある人を集めるためね。自信が無いのはダメダメちゃんよ」
その話を聞いて、ディルは納得すると同時に自分の実力を見透かされていることを知って、恥ずかしくなり、少し俯いた。
「あと、その証、火の力宿しているから自由に火を起こせるわよ。上手く使ってね。そしてアルフェール」
「!!」ビクゥ
そんなディルを横目にフォルテシアに話し掛けられ、突然低めの声で呼ばれたアルフェールは無意識に背筋が強張ってしまった。
「ディルちゃんのこと認めたんならちゃんと証をあげなさいよ」
「わ、分かった」
有無を言わさないフォルテシアの迫力に押され気味なアルフェールは、内心そんなことかと安堵した。すると、そのことを察したのか再度フォルテシアに睨まれ、また背筋を強張らせた。
「それじゃ、長くなっちゃったけども、今度こそじゃあね」
今度こそ本当に別れるので、もう一度別れの言葉を告げた。
「ありがとう。それじゃあな」
フォルテシアに見送られながらディル達は火山を出た。そしてそのまま、次の目的地のある東の方向に出発した。