ライブは順調に進み披露する予定の曲は全て歌い切った。会場では裏に戻った神代に向けてアンコールが響いている。
「お疲れ様です。」
神代「ああ、ありがとう。」
「アンコール、どうしますか?」
神代「ファンが待ってるんだから、行くよ。」
神代がもう一度集中力を高めて、ステージに向かう。
「待って!!」
声をあげた方を見ると神代と同じくらいの男が近づいてきて神代の手首を掴む。
神代「えっと…何か御用でも?」
響「私は西木野響と言います。突然こんなこと言うのは無礼かもしれないけど、奏さんの歌を聴いて、一緒に音楽がしたいと思った。だから…!
私のバンドに入ってください!!」
神代「……はぁ?」
スタッフも含めここにいる全員の目が点になった。
響「馬鹿に思われるかもしれないけど本気です。私は…貴方と音楽を奏でたい!」
神代は響をじっと見つめながらそれを聞いている。
神代「(バンド…か…)」
神代「ねえ、それってどれくらい本気?」
神代は少し冗談を言うような言い方で響に聞いた。
響「自分で言うものではないけど、私は冗談を言う人間ではないです。」
神代「そういうことじゃない。100か、90か…はたまた0か…数字の話をしてるんだ。」
神代は響がどれだけ本気なのか知りたかった。そして、少しだが響に興味を持っていた。
そして、神代の問いに響は迷い一つなく答える。
響「100…100%本気じゃないとここに来ませんよ。」
神代は響の本気、思いを理解して、一つ思った。
神代「…言ったよね。僕と音楽を奏でたいって。なら、俺の前で歌ってみてよ。」
響「えっ!?ここで…でも…」
「ちょっ!?ちょっと待って!アンコールは!?」
響もスタッフも神代の提案に驚いた。今はライブ中でステージからは今もなおアンコールが響いている。
神代「大丈夫、もう行くよ。響くん…だっけ?」
響「そうですけど…」
神代「後でこのステージにバンドメンバーを連れてきてよ。聴いてあげる…キミらの曲」
神代奏はそう言って輝く場所に戻っていった。
ライブが終わり、響は言われた通り拓也、光、駆を連れてステージに向かっている。
駆「えっと…どうして僕たちはステージに向かってるんですか?」
光「聞いてないの駆…?響が神代さんにバンドに入ってって言ったらしいよ。」
駆「えぇ!?随分と急ですね…」
響「…仕方ないだろ?勢いで言っちゃったんだから…」
光は神代に突然バンドに勧誘したのをあまりよく思っていなかった。神代奏とこのバンドの実力もキャリアも差が大きすぎる。
拓也「まあいいじゃねえの?響だってもう1人入れたいって言ってたし、俺らのこと見てくれるって言ってたんだろ?」
光「そうだけど……あの神代奏だよ?中学生なのにもうプロから注目されてる天才だよ。そんな子が私達のバンドに…?違和感しかない…」
光はさっきからそんなことを何度も呟いている。それを見た響はみんなの方へと振り向いて頭を下げた。
響「ごめん…突っ走ったばかりに…でも…絶対にこのバンドにとってプラスにする…だから、この馬鹿に少しだけ付き合ってくれないかな…?」
響は単独で動いてしまったことは申し訳ないと思ったが、バンドのためになると信じていた。
光「…仕方ないよね…決めた事だし…そのかわり、絶対に本気でやるよ!」
駆「僕は響さんが正しい道に一緒に突き進んでいきますよ。」
拓也「俺は元々賛成だったからな。ついていくぜ、響。」
響はそんな仲間に感謝の気持ちを持ちながら、ステージへと向かっていく。
ステージが見えてくると、ステージの真ん中に神代奏が立っていた。そして、響達の方に歩いてくる。
神代「キミらが響くんのバンドか…」
響「そうだよ。ギターの駆、ベースの光、ドラムの拓也、そしてボーカル、ギターの私の4人で組んでる。」
神代「ふーん…」
神代はひとつ頷くと、観客席の真ん中ら辺に立つ。そしてステージの方を指差して彼らに言う。
神代「じゃあ一曲聴かせてよ。それでキミらがどんなバンドなのか確かめるから。」
そしてステージに上がった4人は少し集まって話し合っている。勢いでここまで来たようなもので何を歌うのかも決めていない。
光「ねえ、何歌うの?」
駆「部紹介で歌ったインパーフェクトはどうですか?」
響「…いや、インパーフェクトじゃなく、別のでいこう。」
拓也「そうだよな…ここはまさにこの後のバンドを占う決戦みたいなもんだ。誰も聴いたことない曲で驚かせようぜ!」
響「拓也の言う通りだ。じゃあ……でいこう。」
話し合いを終えた4人は持ち場につく。マイクの前に立った響は深呼吸をして、神代に言う。
響「…聴いてください……ポラリス」
響: あの日「守る」と決めた
約束はこの胸に
全てを失うことで
今 救える命があるのなら
喜んで全部をあげよう
この気持ちが初めての生きがいだ
傷跡はかくさないで
絶望も武器にして
生きると決めたんだよ
精一杯この涙かきわけて
君に全てをあげるから
お願いどうか消えないでくれ
あの日「守る」と決めた
約束はこの胸に
消えそうな
響「はぁ…はぁ…ありがとうございました…!」
響達は今持つ全てを出しきった。この一曲に全てを込めた。
しかし、神代は特に拍手をしたりすることなく、ステージの方へふらふらと歩いてくる。
そして、ある"問い"をまた響に投げかける。
神代「響くんは何で音楽をしてるの?
音楽…をする理由…それは簡単なようで、難しい問いだった。響は下を向いてしばらく考える。
響(俺が音楽をする理由…か…)
考える時間はとてつもなく長く感じた。だが、響はある答えを見出した。
響「みんなが曲を聴いて楽しんでくれるから…そして、私自身がとても楽しいから…」
神代「楽しい…から…」
響「もちろん暗い曲もあるけど、その曲を聴いて、泣いたり、考えたり色んな視点で楽しんでくれて…何よりそれを見てる私自身がすごく楽しい。ありきたりで頭の悪い答えかもしれないけど、今はこれが音楽をする理由かな。」
響の答えをポカンとした顔で聞いていた神代は突然大きな声で笑いだした。
神代「あはははは…!!響くんって面白いんだね!よし、決めたよ。」
神代は右手を差し出した。頭に?が浮かぶ響に笑みを浮かべる。
神代「このバンドのキーボードを担当する、神代奏。よろしく。」
光「ほんと……!響!!」
響「本当にいいの?」
神代「ああ、ただし条件がある。」
神代はポケットからあるチラシを4人に見せる。
拓也「Major Dream Live…?」
駆「それって…!M.D.Live!?」
神代「ああ、それにこのバンドで出場する。それが条件だ。」
光「Major Dream Liveってあの売れてるアーティストを何人も輩出してる最高規模の音楽大会って言われてるあの!?」
M.D.Liveは本気でプロを目指す人達が集まる場所。そこに中学生が出るなど、聞いた事もなかった。
拓也「どうするよ?響…?」
前例がない…無理…そんな文字響には存在しない。言われた時から決断は済んでいた。
響「出よう。そして誰もやったことのない前例を作ってやろう!!」
駆「響さんが言うなら…頑張りましょう!!」
光「まぁ響はそういうよね…でも、私達なら出来る!」
拓也「前例がないなら作りゃあいいんだからな!」
神代「決まりだね。じゃあ、今日からスタートしよう。」
そして、自然と5人は片手を中央に差し出して、円陣のような形になった。
響「行こう…!俺達しかできない伝説を作ってやろう!!」
『おーーー!!!!』
こうして、5人による挑戦が幕をあけた。