サブタイ通り、料理回です
というわけで麓のスーパーで諸々買い込んでからキャンプ場にやってきたサチとあやり。レンタルしたテントは初心者向けということもあって、説明書を片手になんとか二人でも設営が完了したので、ちょっと一休み。
「はぁ、お茶おいしいねー」
「そうですね、ティーバッグで入れた簡単なものですが、こういうところで飲むとなんだか違いますね」
「そうだねー……あ、あやり、あっち」
まったりとした空気が流れる中で、ぐるりと辺りを見回して何かに気がついたサチが指差した先には、釣りをしている少女の姿があった。
「あぁ、釣りですね、このあたりの子でしょうか」
「でも、ほら、あそこにテントもあるし、私達と同じキャンパーさんかも」
少し離れたところにあるテントを指差しながらサチがそういうと、あやりもそれに同意するようにうなずいた。
「そうですね、それに椅子の数を見るとあちらも二人のようですね……あの子は女の子のようですが……もう一人は……見える範囲にはいないようです」
そういうあやりに向けて、サチは意地悪そうな顔で口を開いた。
「ほほーぅ、もしかして恋人同士とかかな?いいなぁキャンプデートかぁ。あやりってばそこに気がつくとは、目ざといねぇ……興味……あるの?あー、でもカップルだったら一緒に並んで釣ったりするのかなぁ?」
「あ、いえっ、そういうのでは、ありませんから!それに、そうだったったとしても、私達には関係ありませんし!そうだ、そんなことより姉さん、お昼にしましょう!そうしましょう!」
サチのからかいに、あやりは顔を真赤にして慌てた様子で食材が入った袋を掴み、流し場へと歩いていってしまった。そしてサチも「赤くなっちゃって、かーわいー」などと言いながら、楽しげな様子でその背を追いかけた。
流し場についた二人は、気を取り直して早速昼食の準備を始めた。
「さて、あやりシェフ、今日のランチは何を?」
「はい、今日は折角のアウトドアですので、コッヘル一つでできる簡単スープパスタにしようかと思います。これなら手軽にできますし、ちょっと手の込んだものは夕食のお楽しみということで」
「スープパスタ……うんうん、それも美味しそう!……で、コッヘルって?」
「さっきレンタルした道具の中にあった、コンパクトに収納できるアウトドア用の小さめのお鍋……みたいなものでしょうか。普通のお鍋やカセットコンロもレンタルセットの中にあるのですが、よりキャンプ感が感じられるとおすすめされたので、コッヘルとバーナーも貸していただいたので」
あやりはそんな説明をしながら手際よく下ごしらえを進めていく。
「私もなにか手伝うよー」
「それでは姉さんはこのアスパラを切っていただけますか?斜切りでおねがいします。あ、包丁は一本しか借りていないので、このキッチンバサミを使ってください……そのほうが危なくないですし」
「りょーかーい」
さほど量もないので、二人で作業を進めればあっという間に下ごしらえも終わる。切り終わった食材をボウルに入れると、後は下でということで二人並んで降りていった……その道中……
「あっ、こんにちわー」
前から登ってきた二人の少女――なでしことリン――にサチが声をかけた。隣にいたあやりも会釈をしながら小さい声ではあったが挨拶をする。
「こんにちは」
「どうも」
するとその二人からも同様に元気な声と、ちょっと静かな声で挨拶と会釈が返ってきたので、会釈をしながらすれ違う。
「あのテントの子たちかな?恋人同士じゃなかったね」
「え、えぇ。友達同士のようでしたね」
謎のキャンパーが同じくらいの年代の女子二人ということが判明してちょっと安心しつつ、二人は笑いあいながらテントへの坂道を降りていった。
◇
そんな姉妹とすれ違った二人はといえば、こちらも流し場へ着くなり食材の下ごしらえを始める。と言っても、家から持ってきたものはすでに下ごしらえされて小分けにされ、クーラーボックスの中に入れられているので、ここでは先程釣り上げたヤマメを捌いていく。
(なでしこもたくましくなったな……いや、いろんな意味で元々たくましくはあったけど……)
そんなことを思うリンの視線の先には手際よくヤマメを三枚におろしていくなでしこがいた。
釣りを始めてからというもの、すっかり魚をさばくことになれたなでしこは、かつて浜名湖で入ったうなぎ屋で見た、目の前で捌かれているうなぎの姿に目を覆う姿はそこにはなく、食べることへの感謝と喜びを溢れさせたような表情でヤマメを捌く姿があった。
(……ま、そこまで考えながら捌いてるかはわからんけどな)
「はい、おしまいっと。リンちゃん終わったよー」
「ん、ありがとなでしこ。後は任せて」
片付けが終わったところで、なでしこから三枚おろしにされた身を受け取ると、キッチンペーパーにはさんで水分を取りながら小さなトレーに置いていくリン。
「ういー。でも、三枚におろしてって言われたからやったけど、リンちゃん何作るの?」
「それはできてからのお楽しみってことで。さ、戻ろう」
そう言うなりリンはテントへの道を戻り始める。その後ろを「リンちゃん、まってー」と慌てて追いかけるなでしこ。今日も二人はいつもどおりのようだ。
その後、先程すれ違った二人組が少し離れたところにいることに気づいて、視界の隅で気にしつつ、調理を始めたリン。まずはペーパーに挟んで水気を切っておいたヤマメの身に市販のハーブソルトを振りかけた。
「リンちゃんなにそれ?お塩?」
「うん、ハーブ入りのやつ」
「あー、家でもたまに使ってるよ。おいしいよね。なんにでも合うし」
(そう、これさえ有れば簡単にプロの味……ってスーパーのPOPに書いてあったし)
その傍らでスキレットを火にかけると、温まったところで少し多めにオリーブオイルを投入。全体に回して馴染ませたら、皮目を下にしてヤマメをそっと並べる。ジュウッと美味しそうな音と共に、香草の香りが立ちのぼり、そこに次第に皮が焼かれていく時の香ばしさが混じっていく。
「いい匂いー。皮はパリパリでお願いします、シェフ」
「はいはい」
横から覗き込むなでしこの調子のいい言葉を聞きながら、ヤマメの身を返していく。
皮目には程よい焦げ目がついていて、多めのオイルで揚げ焼きになっていることもあって見るからにパリパリだ。そのまま身の方を焼き上げたら形が崩れないように一旦取り出して、残った油でスライスした玉ねぎを炒めたら、追加で黒胡椒をちょっと振ってアクセントを加えるのも忘れない。
「なでしこ、パン取って」
「ほーい」
なでしこがリンに渡したのは、適当な大きさに切って、横に切れ込みを入れたバゲット。
しんなりして飴色に色づいた玉ねぎを取り出し粗熱を取ったら、上下に開いたフランスパンにレタス、ヤマメのソテー、飴色玉ねぎと順番に挟めば『バゲットサンド~ヤマメのハーブソテー~』の完成だ。
「わわっ、リンちゃんこれは美味しいよ」
(まだ食ってねえよ……まぁ、確かに美味しそうにできたけど)
「ねぇねぇ、半分に切ってみない?だんめん!断面見てみたい!」
「いいね、よし、切ってみよう」
パンの表面にサクリとナイフの刃を立て、そのまま切り進めていく。小ぶりのナイフで少し切りづらそうにしながらも、最後まで刃を進めると、ゆっくり断面を広げていく。すると立ち上る湯気とハーブの香り。
なでしことリンは顔を見合わせると、まるで何か二人だけの秘密を共有してしまったかのように、「ふふふ」と声を忍ばせて笑いあった。
「これは、あれだね、東京のおしゃれなカフェにありそうだね!雑誌で見たことあるよ!」
「そう……かな?さすがにもっとこう、ちゃんとしてるんじゃないか?そういう店は」
リンは「まぁいいや」と軽く流し、沸かしていたお湯を二人のマグに注いだ。
「さ、スープをどうぞお客様。って言っても、こっちはインスタントだけどな。それと、ソテーの上にレモン汁をちょっと垂らしてもおいしいよ。はい」
「ありがとー、あ、食べる前にみんなに写真送ろっと」
【なでしこ:みてみてー、今日のランチはこちら! (写真)】
【千明:あれ?お前ら今日は釣りキャンじゃなかったのか?いつの間にそんなオサレカフェに行ったんだ?】
【あおい:せやで、このへんでそんな粋なもん出すような店無かったはずや】
【なでしこ:ふっふっふ、こちらのシェフに作ってもらいました (写真)】
【千明:……ってしまりんじゃん。何気にドヤってるし】
【リン:おー、作ったった】
【千明:クッ、しまりんめ、いつの間にこんなスキルを……にしてもマジでうまそうだな】
【あおい:しまりんの料理スキルは私が育てたっ!(θεθ )】
【千明:ほら吹きイヌ子はほっといて……ならば私の昼飯も公開しようではないか(◎∀◎)ノ (写真)】
【リン:カップ麺じゃねぇか】
【千明:まー、バイトのときの昼飯なんざぁ、こんなもんよ。おまけに、今日はラストまでだからこの後長いんだよなぁ】
【あおい:ふーん、ラストまでそれだけで足りんの?】
【千明:まぁ途中に短い休憩あるからそこでなんかつまむけど、ちゃんとした夕飯は終わってからだな。っつーわけで、これ食ったら戻るからまたなーノシ】
【なでしこ:ファイトだよっ!アキちゃん!(`・ω・´)】
【リン:さぼんなよー】
【あおい:そしたら、わたしもちょっと買い物行ってくるわ】
(斎藤も今日はバイトって言ってたっけ。反応がないのは仕事中か?さすがにまだ寝てるなんてことは……まいいか)
「じゃぁ、スープが冷める前に、私達も食べようか」
「うん、いっただっきまーす!」
リンが促して、なでしこが応える。二人が「あーん」とサンドイッチに食らいつこうとした、その時。
「んぁ?」
「お?」
少し離れたところからも「いただきます」という声が聞こえて、思わず二人は手を止めた。
◇
四人がすれ違ったその少し後。先にテントに戻ってきた新米姉妹の二人は、あやり主導で料理を始めた。
「では姉さん、まずは具材を炒めましょう……火にかけて油をひいたコッヘルで、すりおろしたにんにく、ベーコン、玉ねぎ、アスパラを炒めます」
「なんかこのコッヘルってかわいいかもー」
「かわいい……ですか、なるほど……」
どちらかというと機能美が追求されてクールに見えるのですが……と聞こえないくらいの声でひとりごちながら、姉の独特な感覚に首をかしげたあやりだったが、気を取り直して調理に戻る。
「で、では、次に水を入れて、コンソメを溶かします……沸騰したらパスタを入れるのですが、このままでは長くて入りません。なので、姉さん、これを半分にお願いします」
「りょーかい……えっと、これもハサミで?」
「いえ、ハサミですとうまく切れないと思うので、手で」
「手で?」
「はい、手でこう……ボキッと」
ジェスチャーを交えながら説明する妹と、じっとパスタの束を見つめる姉。そして一つうなずいてから「ふんっ」と気合一発パスタの束を折って、どこかやりきった表情で「ふぅ」と額を拭う。
「ありがとうございます。これを入れて……しばらく待ちましょう」
そのまましばらく静かな時間が流れしばらくすると、バーナーの上のコッヘルがコポコポと沸き立つ音が聞こえてくる。
と、少し離れたところから何やら話し声が聞こえて来た。大きな声ではないので何を話しているかはわからないが、楽しそうな様子は伝わってくる。
「あっちの釣りガールたちもお昼かな」
「そのようですね」
「釣りといえば、ねぇ、あやり。前に行ったニジマス釣り楽しかったね」
「えぇ、そうですね」
パスタが茹で上がるまでの間、二人は以前絵里となおとの四人で行った釣り堀のことを思い出していた。
「こういう自然の川でも釣れるのかな?」
「そうですね、流石に釣り堀よりは難しいと思いますが、釣れると思いますよ」
「そっかぁ……そうだ、あやり。ご飯食べたらちょっとあの子達に挨拶しに行ってみない?せっかくご近所さんになったんだし」
姉からのそんな提案に、思わず「うっ」と言葉をつまらせてしまう人見知りのあやりだったが、遠目から見たなでしこ達が自分と同じくらいの年齢か年下のように見えたことや、最近の交友関係の広がりで人と接することに慣れてきたこともあって、すぐに断ることはなかった。
そしてそのまま少し考え込むと、決意の表情と共にサチに向き直った。
「わかりました。後でお茶を入れてご挨拶に伺いましょうか」
(……前までの私だったら絶対無理でしたね……こんな風に変われたのも、姉さんのおかげでしょうか)
自分の返事に無邪気に喜ぶサチを見ながらそんなことを考えていると、不意にサチがなにかに気がついた。
「あ、あやり、そろそろパスタいいんじゃない?」
そう言うが早いか、スマホにセットしておいたタイマーが茹で上がりを知らせた。
そのタイミングの良さに、思わず笑い合いながら、次の手順へと料理を進める。
「パスタがお湯を吸って水分が減っているので、ここへ無塩のトマトジュースを入れてひと煮立ちさせたら完成です……っと、このペットボトルでは大きかったですかね。少し余ってしまいました」
「じゃぁ飲んじゃっていい?」
あやりから受け取ったペットボトルに直接口をつけ呷るサチ。それを見て、500mlならともかく、この大きさのものはちょっとはしたない……と感じるものの、これも姉さんらしいかなと頬を緩めて、出来上がったパスタを皿に盛る。
「どうぞ姉さん。できました」
「ありがとあやり。この紙のボウルもなんかキャンプっぽくていいね。小学校の時の林間学校を思い出すや……というわけで、いただきまーす」
「ふふっ、そうですね。いただきます」
「んー!トマトと玉ねぎの甘み、ベーコンのしょっぱみがびみー!」
「はい、ニンニクもいいアクセントになってます。あ、姉さんこれもいいアクセントになりますよ」
そういってあやりが取り出したのは黒コショウだ。
「なるほど、それはおいしそうだね」
「えぇ、さすがに粉チーズとタバスコは用意できませんでしたが、コショウもおいしいですよ」
いつもとはちょっと違う状況で、いつも通りのおいしい料理を食べる。サチは今日も幸せだった。
というわけで二組が出会い?ました(すれ違っただけ)
……次回はしっかり絡みますのでご勘弁を……
〈次回予告っぽい何か〉
なでしこ「スロットル回したら動かないから、アレっと思ってギアいじったっけ、ロー入っちゃって、もうウイリーさ」
リン 「……とはならないからな」