ゆるキャンパーと新米姉妹   作:ある介

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ディナー後編です
書きながら思ったんですが、こんなに食べられるのかと……
まぁ、なでしことサチがいれば余裕?



ゆるキャンパーと新米姉妹のディナー~たけなわ~【終】

「そうですね。私もなんだか胃が刺激されたみたいで……他のも焼いていきましょう。そうだ、お二人ともこちらのお肉を食べてみてください」

 

 そう言ってあやりはある肉を焼き始めた。それは先ほど調理場で言っていたように、シンプルに塩コショウだけで味付けされた猪肉だ。

 

「お二人とも猪肉は市販の冷凍味付けしか食べたことがないということでしたので、ぜひ生のものを食べていただきたいのです」

 

「おー、猪。生のものって結構濃い色してるんだ」

 

「だねぇ。あ、そういえばわたし鹿も食べたことあったや。前にお姉ちゃんが買ってきてくれたんだ。奈良湖温泉?の古民家カフェ?に行った帰りに。なんか熊と迷ったとか言ってたっけ」

 

(湖の近くの古民家カフェってもしかしてあの時か?確かそれもなでしこのソロキャンの時……ってなでしこそれは奈良湖じゃなくて奈良田湖だ。惜しい)

 

「さぁ、どうぞ。塩コショウで味付けしてあるので、そのままどうぞ」

 

「わーい、いただきまーす……ん!なんだろう、臭みはないけど……濃い……のかな?おいしい!」

 

「ありがとう……うん、さすがに豚肉よりはちょっと歯ごたえがあるけど、臭みもなくてなんというかこういうのが滋味あふれるってやつなのかな」

 

「そうですね、猪は豚に比べて脂身が少ない一方でたんぱく質やビタミンに富むと言いますから正にといった感じでしょうか。ねぇ姉さん?」

 

「ふぇ?」

 

「……いえ、なんでもありません。ではどんどん焼いていきましょう」

 

 少し前から静かになっていたサチに水を向けてみると、しっかりと自分の分の肉を確保していたようで、幸せそうな顔で頬張っていた。それを見たあやりも、表情を緩めるとほかの食材も焼き始めた。ピーマンや玉ねぎなどBBQに定番の野菜をはじめ、みのりにもらった肉厚の椎茸や、中には自然薯なんてものもあったりとバラエティ豊かだ。

 それぞれ口に運ぶたびにわーきゃー言いながら楽しんでいる……といったところでなでしこのスマホのタイマーが音を立てた。

 

「あ、蒸らしが終わったかな……それでは、おーぷーん!」

 

 ちょこちょこ火加減の調整をしていた炊き込みご飯も炊きあがり、ようやく蒸らしまで終わったようで、なでしこが掛け声とともに蓋を持ち上げた。もわっと立ち上る蒸気が収まるのを待って、しゃもじでさっくりと混ぜ合わせると、周りでのぞき込んでいた三人からも「おー」という声が上がる。

 そこには出汁でほんのり色づいたご飯がランタンに照らされてキラキラと光っていた。

 

「リンちゃん、取り皿取ってもらっていい?」

 

「はいよ、なでしこ」

 

「ありがと。さぁサッちゃん、あやりちゃん、どうぞ」

 

 取り分けた皿を渡すと、少し緊張した面持ちで二人を見つめるなでしこ。四尾連湖やソロキャンでのことを思い出すと、知り合ったばかりの相手に料理をふるまうのは初めてではないが、今回に関してはこれまでのやり取りで料理上手――それもものすごく――と分かったあやりが相手ということでそれなりに緊張しているのだろう。

 その緊張がだんだんと高まり、限界へと達したその時――

 

「おい」

 

「はうっ」

 

「そんなにじっと見てたら二人が食べにくいだろ。何を心配してるのか知らないが、大丈夫だって」

 

「えへへ、ごめんごめん、なんか緊張しちゃって。二人とも気にせず食べて食べて」

 

 リンがなでしこの脇を突っついたことで、その緊張もすぐに霧散する

 

「あははっ、二人とも仲良いね」

 

「ふふ、そうですね。では冷めないうちにいただきましょうか」

 

 なでしこ達の漫才じみたやり取りに顔を見合わせて笑う姉妹。ひとしきり笑いが落ち着いたところでようやく箸を口に運ぶ。

 

「どう……かな?」

 

「うん、おいしいよなでしこちゃん!」

 

「えぇ、とっても。お出汁の加減がちょうどよくて、ヤマメもふんわりやさしい味が引き立ってます」

 

「よかったぁ。私たちも食べよ!リンちゃん」

 

「だから大丈夫だって言ったろ。今までだってうまいもん作ってくれてたし……それに失敗したってそれはそれでネタになるしな」

 

「うぅ、リンちゃーん!ありがとぉー…………最後の一言がなければ嬉しくって思わず泣いちゃったかも。チラッ」

 

「うっさい。『チラッ』って口で言うな」

 

(……最初の餃子鍋の時は知らなかったから大丈夫か?とも思ったけど、実は料理上手だったと。それに毎回腕を上げてるし、いつもおいしいものが食べられるのは感謝だな。ま、直接は言わないけど……はずいし)

 

 思わぬ言葉に抱き着こうとするなでしこと、照れ隠しに悪態をつくリン。そんな二人のやり取りにサチとあやりも声を上げて笑っていた。

 

 その後味噌仕立ての牡丹鍋で何度目かの歓声が上がり、場のテンションも右肩上がりというところで、そこにとどめの一品。鹿のローストが出来上がった。

 

「お待たせしました、鹿のローストです。今日はグレイビーソースは作れなかったので、ソースはニンニクマヨネーズとわさび醤油を用意してみました……あ、そちらの焼き肉のたれでもおいしいと思いますよ」

 

 ちょっと厚めに切り分けられた切り口からのぞくのは、きれいなピンク色。肉汁にしっとりと覆われており、その輝きはどこか艶めかしくも感じられる。その脇にちょんとクリーム色のマヨネーズソースを添えれば更にその魅力が引き立てられて、すでにいろいろな料理を平らげてきたにもかかわらず、彼女たちの胃袋をこれでもかと刺激した。

 

「はい、姉さんどうぞ……お二人も」

 

「ありがと。いただきまー……んー!おいふぃー!前にお家で食べたのよりなんかワイルドな感じ」

 

「そうですね。これは隠れた調味料が効いているのかもしれませんね」

 

 それを聞いて「かくれたちょうみりょう?」と首をかしげるサチ。そのかわいらしい仕草に頬が緩みそうになるのをグッとこらえながらあやりは言葉を続けた。

 

「最初に炭火で表面を焼いたことで肉汁が閉じ込められたのと、煙による燻煙効果で風味も良くなります。それに、良質な炭にはそれ自体にうまみ成分やミネラルが含まれていて、それが煙と一緒に食材に付着して正に調味料の働きをするのだそうです。今日の炭は備長炭ということなので、その質は言わずもがなですね……と、蘊蓄を語ってはみましたが、今みたいに野外で火を囲んで楽しく食べるというのが一番の調味料かもしれませんね」

 

 流れるようなあやりの解説に、きっかけになったサチだけではなくほかの二人も感心したように「へぇー」と声を上げていた。

 そんな二人を見て恥ずかしくなったあやりは、慌てて二人を促す。

 

「さ、さぁお二人も冷めないうちに召し上がってください」

 

「う、うん。いただきます……んっ!」

 

(元々の肉質なのか、下処理のおかげかはわからないけど、歯ごたえはしっかりしてるのに筋張ってる感じがしない。臭みもないし、脂っこくもない。それでいてジューシーで噛むほどに肉汁が口いっぱいに旨味を溢れさせる。更にさっきのあやりさんの解説を聞いた後だと余計に美味しく感じる……あぁ、今、私は『肉』を食べているんだ……ありがとう鹿さん)

 

 例によって脳内食レポを繰り広げるリンの脳裏で鹿が『イイッテコトヨ』と言ったかどうかはわからないが、隣に座っていたなでしこもまたそのおいしさに見悶えていた。

 

「おいしいよ!あやりちゃん!これは何というか……そう!『ザ・肉』って感じだね!」

 

「わかる!わかるよなでしこちゃん!『ザ・肉』だね!」

 

「うん!『ザ・肉』!だよ、さっちゃん」

 

 謎表現がツボに入ったのか、繰り返しながら笑い合う食いしん坊組二人。それを微笑ましく思いつつ顔を見合わせて苦笑いの物静か組二人。

 

 ひとしきり笑い合った後あやりがポツリと問いかけた。

 

「お二人はいろんなところにキャンプに行っているとのことですが、帰ってきた時とかなんだか寂しかったりしませんか?」

 

 そう切り出した彼女は、絵梨やなお、そして最近交流が深まったクラスメイト達のことを思い浮かべながら言葉を続けた。

 

「私は姉さんと出会ってから世界が大きく広がりました。その中で絵梨さんや篠田さんと出かけたりできることはとても楽しいのですが、その分家に帰ってた時の寂しさというか……それも姉さんがいてくれるおかげで大分緩和されているとは思うのですが……お二人とはここで初めてお会いしましたが、今この時もすごく楽しくて、それだけに帰ったあとがなんだか少し怖くなってしまって……」

 

 あやりはそう言ってマグカップを握りしめるとうつむいてしまう。

「わかるよ、あやりちゃん」

 

 少ししんみりとした空気が流れ、薪がパチリと弾けたところで口を開いたのは、なでしこだった。

 

「前にね、リンちゃんと話したことがあるんだ『旅が終わっちゃうのって寂しいね』って。でもその時に出た答えって結局『また行こう』だったんだよね」

 

「そうだったね。寂しいのは確かに寂しいけど、だからこそまたどこかに行けばいいんじゃないか?って」

 

 なでしこから話を引き継いだリンはそう言いながらマグカップを一度口に運び、ゆっくりと続ける。

 

「よく『家に帰るまでが旅行です』なんて言うけれど、それって安全に家に帰るってことだけじゃなくて、帰ってきた時の安心感とか、楽しい時間が終わってしまう寂寥感とか、そういうのもひっくるめて楽しんでこそ『旅』なんだと思う。それに、家に帰ってきたってことは、またどこかに旅に出られるってことなんだし」

 

「寂寥感を楽しむ……ですか」

 

 あやりがなでしことリンの言葉を噛みしめていると、サチが優しく声を掛けた。

 

「そうだよあやり、二人の言う通り、またどこかに行けばいいんだよ。そうだ、今度は絵梨達も誘ってキャンプしようよ。あっ、みのりさんに相談したらあの山使わせてもらえないかなぁ?端っこ、端っこでいいんだけど」

 

「そう……ですね。今度はみんなで行きましょう。それにみのりさんならノリノリで使わせてもらえそうですね。もちろんその時はみのりさんも一緒に」

 

「うん、それはもちろん!あ、でもこれからの季節は寒いかなぁ」

 

 さっきまでのしんみり感はどこへやら。楽し気にキャンプの計画を話し始める二人の様子に、なでしことリンも楽しそうな表情を浮かべる。更にサチが困ったように言った「寒いかなぁ」の一言になでしこが食いついた。

 

「サッちゃん!これからの時期のキャンプだったらリンちゃんに聞くといいよ!なんたってリンちゃんは『冬のソロキャンガール』なんだから」

 

「おいやめろ……あ、いや、間違ってはいないし、二人に何かあっても困るから教えるのはやぶさかじゃないんだけど……とりあえずなでしこはその顔をやめろ」

 

「なになに?『冬のソロキャンガール』って?その話詳しく!」

 

 そのあとも残った料理をつまみつつ、会話はあっちこっちに飛び跳ねて、話の花も満開で、いつもは静かで寂しいシーズンオフの山間のキャンプ場に、その日は遅くまで笑い声がこだましていた。

 

 

 

「ところで、リンちゃんや。この後は寝釣り……」

 

「……しないって」

 

 

 一方身延市内では……

 

 ――ペコン――

 

「ん?なでしこからか……って、なんだこれ?」

 

【なでしこ:『ザ・肉』! (写真)】

 

「いや、確かに肉だけど……にしてもうまそうだなこの肉…………うむ、実にうまそうだ…………って、くそっ、なでしこめ、昼間のサンドに続いてまたしても!あーもう!腹減った!肉食いてー!」

 

 バイト終わりの某部長の悲痛な叫びがこだましていたとかいないとか。

 




というわけで宴もたけなわではございますが
『ゆるキャンパーと新米姉妹』これにて終了です

翌朝の別れまでとも思ったのですが
冗長な感もあったので、この辺で締めるのがいいかなと。





最後なので、あとがきらしく思ったことを少し……

筆を取るのが久しぶりということもあって
起承転結と、何より最後まで書き上げることを意識して書きました。
最終的に25000字後半とあまり長くはないのですが
最後までまとめられたのはよかったかなと思います
(千明ちゃんの力を借りてしまいましたが)
でもやっぱり、小説って難しい……

今後は長いこと放置してしまっている2作品の
早めの更新に向けて頑張っていきたいと思いますので
いつになるかは未定ですがその時はまたよろしくお願いします


最後までお読みいただきありがとうございます
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