呪術師と駄菓子と人殺し   作:サイnon

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【9.5】閑話

 

恵と津美紀がアパートに帰るとデカいシューズの隣に見たことのない革靴が置いてあった。シューズは最近家に帰ってくるようになった放任主義の父親のもの。では、革靴は客人のものだろうか。

津美紀と目配せしてそっと靴を脱ぐ。

居間からわずかに話し声が聞こえてきた。音を立てないように引戸を開ける。

見覚えのないスーツの男と目が合った。

 

「おや、お子さんですか」

 

「お父さんのお客さん?今お茶を」

 

「いい。部屋に行ってろ」

 

津美紀の言葉を遮ったのは父親だった。こちらを見ることなく、ずっと男から視線をそらさない。その背中に言いようのないプレッシャーを感じて恵は後ずさる。

「行こう」と囁く津美紀に手を引かれ恵も自室へと向かった。

 

 

「可愛い良い子たちじゃないですか。あなたのようなタイプは所帯を持つようには見えなかったので意外です」

 

「うるせぇ。さっさと本題を言え」

 

胡散臭い笑顔を張り付けた男は星川と名乗った。彼は伏黒の不遜な物言いに眉一つ動かさない。

ちゃぶ台の上に置かれているのは銀色のアタッシュケース。男が持ち込んだものだ。つまらない話だったら即首をへし折って叩き出すと決めている。

 

「ここに五千万あります」

 

「あ?」

 

「あなたの仕事を邪魔してしまったお詫びと私からの依頼の前金を兼ねてです」

 

開かれた銀色の蓋の向こうにはぎっちりと札束が詰まっていた。偽札でも幻覚でもない、本物の現ナマ五千万円が鎮座している。

「仕事の邪魔」という言葉にすぐに伏黒はピンときた。

 

「はっ、呪詛師殺しの差し金かよ。つまんねえ呪術師同士のいざこざに巻き込まれるなんて御免だね」

 

伏黒はあれからも呪詛師殺しについて気が向いたときに情報を集めていた。あくまで片手間程度に、だが。しかし、そんな適当すぎる捜索は意外なところで功を奏す。

 

とあるホームレスから仕入れた情報だった。彼らは街中にネットワークを持っている。裏の事情ならそこらの住人よりよっぽど詳しい。

スモークガラスの車が夜の街で頻繁に目撃されている。その位置情報は消えた呪詛師が殺害されたと推定される場所と面白いほどに符合した。さらに僥倖だったのは車のナンバーを覚えていた人間がいたことだ。

関係者なら分かる暗号。高専の補助監督が使用する専用車の数列。

 

間違いなく呪詛師殺しは呪術師の世界に潜んでいる。

 

「それとも口止めか?生憎とそんなはした金で黙るようなお利巧な口じゃないもんで」

 

「まさか、言ったでしょう。前金だと」

 

「…何が言いたい」

 

「依頼を受けていただけるようならもう五千万。今度はあなたの望む形でご用意します。今回は信用していただくためにこうして持ってきたわけですから」

 

仮面のような笑顔は動かない、が嘘を言っているようにも思えない。

 

「話だけなら聞いてやる」

 

「ありがとうございます。ではこれを」

 

男が取り出したのは一本のUSBメモリ。どこにでも売っていそうなそれには「スペア」と書かれた付箋が貼ってある。

 

「なんだそれ」

 

「例えるなら時限爆弾でしょうか」

 

「はぁ?」

 

男はうっそりと嗤う。先ほどまでとは異なる、全てを嘲るような悍ましい笑顔。

 

「伏黒甚爾さん。いえ、禪院甚爾さん。あなたを排斥した呪術師の世界を叩き壊したくはありませんか?」

 

 

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