気温が30℃を越える真夏の都心は控えめに言って地獄だ。コンクリートの照り返しと逃げ場のない熱気で蒸し焼きにされている感覚になる。
呪術高専二年生は三人での任務が終わり、帰りに31アイスクリームが食べたいと駄々をこねる五条に付き合って街にくり出していた。
この気温では上着を着ると暑いどころか倒れる危険性があるため全員ワイシャツ腕まくりもしくは半袖Tシャツだ。
暑い死ぬ無理と交互に口にしながら歩いていると、見覚えのある背の高い金髪が見えた。一年生の七海だ。話している相手はオシャレなOLだ。白のカットソーにベージュのフレアスカートが大人っぽい可愛さを演出している。緩く巻かれたセミロングとワンポイントのピンクリップが愛らしい。
一番行動が早かったのは五条だった。携帯の連写機能でその光景を納める。家入もすぐさま貴透の番号をプッシュして呼び出す。夏油はというと五条にならって動画機能で仲睦まじそうに会話する二人を記録しておいた。思春期真っ最中の高校生がこの手の話題を嫌うわけがない。文明の利器に感謝である。
「あれ、なんだ先輩近くにいるんじゃん」
振り返るとパピコを咥えた貴透と灰原が手を振っていた。携帯の通話を切りポケットに突っ込む貴透のもう片方の手には七海の分であろうアイスが提げられている。
「ちょうど良かった。七海見てません?アイス買ったのに戻ってこないんですよ」
「あれ」
五条が指差す先を見て二人が目を見開く。一瞬のうちにアイコンタクトをして頷き合う。
「行こう灰原。フォーメーションNで」
「了解!」
「先輩ちょっとこれ持ってて」
夏油にアイスを押し付けて二人は七海目掛けて走っていく。これは後で確実にお説教コースだろう。五条も家入も分かってて焚き付けたのだが。
こっちまで巻き込まれては敵わないが、面白いもの見たさゆえにこの場を離れるわけにはいかない。とりあえず日陰に入って成り行きを見守ることにした。
七海と女性の近くまでいくと二人は立ち止まった。
「キャー!あれって七海くんじゃない!?」
「ホントだー!噂以上のイケメン!」
「カッコいいー!ナナミンこっち向いてー!!」
「素敵ー!抱いてー!」
唐突に黄色い声を上げてテンションを爆発させる二人。灰原にいたっては無理やり裏声を出して貴透に合わせている。
あ、そういう感じ?七海に特攻をかけて「誰よその泥棒猫」的な展開を予想していた夏油は笑うタイミングを逃した。隣の五条と家入は盛大に吹き出した後に爆笑している。
「パツキンさらさらヘアーが素敵ー!」
「身長高ーい!股下5mありそう!」
「彫りが深くて素敵ー!」
「クウォーターは伊達じゃなーい!やっぱ彼ピにするなら七海くんだよねー!」
「七三が素敵ー!」
「ちょっと老け顔ー!」
だんだん褒めてるのか貶してるのか分からない単語が混じってきているのがシュールすぎる。灰原は語彙が足りないのか先ほどから似たような言葉を繰り返している。ひきつり笑いから復活しかけていた五条がまた沈んだ。七海は振り返らないが背中からは明確な殺気が立ち上っている。
歓声という名のヤジを飛ばしてる二人を見て「なんか見覚えあると思ったけどあれだわ。ボディービル大会の応援」と家入が呟いたのを聞いて夏油もついに吹き出した。
七海は会話が終わったのか女性に軽く会釈する。女性も何度も七海に頭を下げながら去っていった。
振り返った七海の顔はまさに般若の形相だった。
貴透はすぐさま回れ右をして灰原の背中に飛び乗る。
「走れ灰原!追いつかれたらなますにされる!」
「うわ七海そんなに足早かったっけ」
「おい待てそこのバカ二人」
炎天下で始まった鬼ごっこを眺めながら面白いものを見せてくれた後輩たちに31を奢るべく、家入はメニューを調べだした。
頭に立派なたんこぶを作った灰原と貴透は涙目でアイスを食べている。七海はまだ怒りが収まらないのか眉間のしわをいつもの二倍深くしながらレモンシャーベットを口に運んでいる。
夏油はずっと気になっていたことを尋ねた。
「そういえばフォーメーションNって何のN?」
「『七海君すきすき大好きコール』のN」
ドリンクを飲んでいた五条が吹き出し、七海の拳骨が再び貴透の頭に落っこちた。