後悔はしていない
夢を見る。
それは悪夢。ごうごうと一面を埋め尽くす劫火。逃げ惑う人々の悲鳴。
これは地獄。津波が何もかもなぎ倒すように人の命を刈り取っていく。
その片隅、少年と少女がいた。燃え盛る紅蓮の中でも生きていた。
少年は膝をつき、少女を抱えている。
「しっかりしろ! まだ、まだなんとかなる!」
少年は声を掛ける。まだ助かると諦めていない。
「――――――」
少女は否定する。
「――――――」
だって…………腹に穴開けた少女の血でおびただしい水たまりが出来上がってしまっているのだから。
「そんなこと言うなよ! まだ病院行って輸血すれば助かるかもしれないだろ!!」
少年はなんとしても諦める気はない。だが輸血など無意味だ。それどころか致命傷なのは誰の目から見ても明らかで少年がただその現実を認めたくないだけ。
「―――――――」
「――――――分かった。キスすればいいんだな?」
少年と少女の唇が触れる。やさしい口づけ。一瞬にも永遠にも思えるような口づけが終わると少女は満足そうに笑い、瞳を閉じて動かなくなった。
「…………おい、何満足そうな顔して眠っているんだよ。起きろよ。お前は満足したんだろうけど、俺は満足していねえよ」
揺する。だが少女はなんの反応すらも。少年もなんの意味を持たないなんてわかっている。だが心が分かっているのに理解するを拒絶している。理解してしまえば完全に離れてしまう。
「俺はお前と一緒にいるだけで満足だったんだ」
理解と拒絶。二つの相反する感情が少年の心をぐちゃぐちゃに乱し砕いていく。
「こんな急展開なんていらなかった」
血の池にポタリポタリと透明な雫が落ちる。もはやこれがなんなのかは語るまでもないだろう。それほどまでに少年にとって少女は大切な存在だったのだ。
「グダグダと過ごして、無駄話して、ふざけあって笑いあって…………そんな、普通のさ。どうでもいいお前との日常が好きだったんだよ。なあ、眠ってんなよ。起きろよ」
もう彼女は動かない、語らない、生きていない、笑わない。そして、二度と起きることはない。その事実が少年へ無慈悲に突きつけてくる。
「なあ…………起きてくれよ…………なあ」
炎の中、少年の嗚咽しか出てこなかった。それはまるで………
天に、いや純白の天使に祈るような呪詛のような嘆きでもあった。
「―――――――――ッハ!」
夢は醒めた。まだ日の上らない早朝の自身の部屋。顔に手を触れれば相当うなされたようで冷汗がべっしょりとかいていた。
「あの時の夢…………クソッ!」
八つ当たり気味にベットを殴りつけた。無論、それが無意味だと判っていてもだ。それでも感情が収まりを見せないのだから。
「ああ、ちくしょう……」
その後、シャワーで汗を流してリビングの机に伏してゆっくりしていたら、上からドスンドスンと飛び跳ねている音が聞こえてくる。おそらく義理の妹の琴理が同じく義理の弟の士道を起こしているのだろう。軽く説明すると妹の琴里については年相応のお兄ちゃん大好きな甘えん坊で士道はまあ、ごく普通のお人よしの高校生として言えない。そして二人には重大な秘密を抱えているらしい。なんでらしいかって? そうゆう一面もあると聞いているだけで見たことないからだ。後は俺には甘えてくれるどころか事あるごとにパンチとかキック飛んでくるんだよな。デレは士道限定なんですよ。
タタタと降りてくる足音がしたら琴里が降りてきた。
「ん、琴里か。おはぎゃぼ!?」
「兄さん邪魔!」
俺は無視かよ。いったいどこからそんな力が湧いてくるのか伏せていた俺を無理やりどかして机を盾にするように立てて隠れている。しかもなにかに怯えているようだ。
「でどうした? 琴里?」
「お兄ちゃんが! お兄ちゃんが~!」
そんなやり取りで納得した。おそらく士道がおふざけで琴里をびっくりさせたんだろう。それが予想以上に効いていたんだろう。
「はいはい、士道は俺がなんとかするから」
琴里をなだめていると制服に着替えた士道が入ってきた。目の前の様子にすこしだけ引いていた。
「あ、おはよう。兄さん」
「おはよう。士道もすこしふざけすぎだ」
で後は士道がおふざけを琴里に謝ってそれで仲直り。そんな日常。前とはほとんど変わりなく。唯一違うと上げるのならば空間震と呼ばれる災害だろう。
書いて文字通りの災害で空間そのものが揺らぎ、その影響で周囲を破壊するという。最初に確認されたのは最大級の三十年前のユーラシア級と呼ばれるもの。被害者は一億五千万人もの人が死傷した。
最初の空間震そのものに何かしらの秘密が隠されている……らしい。
あとはどっかのライノベみたいな日常を送っている。
ん? ああ、自己紹介が遅れたな。俺は五河零士。五河家の長男で19で大学生だ。後は俺のことをこういう人物がいるくらいかな? そう、転生者という存在でもあるのだ。ここはライトノベルの世界…………らしい。疑問形なのは知らんからだ。あとは知っている転生者から大雑把に聞いたくらいだ。そして今日が始まるとしか知らん。詳しい内容なんて忘れているも同然だから。
「兄さんも伏せていないで手伝ってよ」
ま、なるようになるしかないからな。未来なんてわからないもんなんだしよ。