その日、天宮市で空間震が発生した。せいぜい百メートル程度の規模。規模としてみればまだ小さめな方だろう。だがまじかで見た五河士道にはその脅威を身をもって知っただろう。
そして、その中心。ひとりの少女が佇んでいたのだ。
「――――――」
まるでゲームのような幻想的な服装。その奇妙なドレスを着た少女が剣が刺さった玉座に足をのせて佇んでいた。
気が付けば士道は話しかける。たとえ少女に警戒されようとも。たとえ敵と判別されようとも。たとえ、少女が想像を絶する力を持っていようとも。それが向けられたとしても。
士道は見てしまったのだから。誰かを見た瞬間、少女がとても悲しそうな寂しそうな表情を。それをほおっておけなかったのだから。
次に現れたのは空を飛ぶ奇妙な人間たちだった。まるで機械を身にまとったは少女に敵意を向けてミサイルを次々と放っていく。
「こんなものは無駄だと、なぜ学習しない」
おそらく、少女に対して何度も行われたのだろう。少女の言葉からそれは効果はなく、あっけなく防がれる類の攻撃なのだろう。剣を持っていない方の手を掲げた。おそらくミサイルを止めるためだろう。
少女が止める前に切り払われた。ミサイルが爆発し、周囲を巻き起こすが士道には目には見えない何かが遮り通さない。士道はそれでも反射的に目を閉じてかばってしまう。
「またおまえか」
少女の声が聞こえた。目を開けるともう一人立っていた。一目でわかるのは時代逆行したような中世のフルプレート。闇をぶちまけたかのように真黒なそれは人の形をしているのに人でないような錯覚をさせる。手には彼女の持っている大剣ではなく長剣に分類される現実的な剣。見る人が見ればまるで黒騎士とも見えるだろう。奇妙にも不思議にも士道にはその騎士を知っている。こんなフルプレートを持っている人物なんて知り合いになんていないのにそんな気がした。
「答えろ! おまえはなんだ!?」
少女の問いに騎士は答えない。ただ不気味に佇むのみ。剥き身の刀身を手に持っている。けれども士道には知っているのと同じように騎士は自分
「おまえもわたしを傷つけるのか!?」
騎士に向かって少女は剣を振るう。それに対して騎士は半身ずらして交わすと同時に手に持った長剣を背後に振るう。そして数瞬遅れて爆発した。さきほどの繰り返しだ。彼女に向けて放たれたミサイルを切り払ったのだ。
(護っている?)
士道は下手したら巻き込まれるかもしれないのに冷静にその様子を観察していた。いや、彼女やほかの敵意から外れ傍観者となったからこそ見えてきたものがある。傍目八目である。
騎士はその長剣をだれかに向けて振っていない。少女や空を飛ぶ人間に向けられた敵意に対して振るっているのだ。士道から見ても騎士が振るう剣が達人の技であると判るほどに確かな技量を持って振るわれている。そんな技を持って振るえばこの場にいる全員を斬り倒すなんてことが出来るだろう。しかし、装備こそ破損しているし、倒れている者もいるが怪我すらしていないのだ。騎士は空飛ぶ人間の銃弾を切り落とし、少女の斬撃をいなす。それだけを剣ひとつで成し遂げている。
「一切、合切……消えてしまえ!」
騎士が防いでくれてはいるが自身を攻撃してくる空飛ぶ人間が煩わしく思えてきたのか風が靡き、衝撃が飛ぶ。少女が空を飛ぶ人間たちに向けて斬撃が放たれる。
しかし、それは届かない。斬撃の進路に移動していた騎士が切り払う。それだけで斬撃は進路を変えて誰もいない場所を斬る。なんという絶技。たとえ彼女と同じ力を持っていようとも目に見えない斬撃を正確に捉えて斬り流したは困難なことなのだから。
空飛ぶ人間と少女の戦闘は騎士によって膠着状態に陥っている。ふと騎士と切り結んでいる人間たちの中に見覚えがある顔が一つ見えてしまった。肩に届くか届かないくらいの白い髪に人形のような端正な顔立ちの少女は空飛ぶ人間たちと同じ機械を纏っている。
「鳶一……折紙」
士道とはクラスメイトであるはずの彼女がなぜここにいる? そんな疑問とともに彼女の名前が口から洩れてしまう。
「五河士道……」
彼女もつぶやかれた彼の言葉が聞こえたのかこちらを見る。それが少女にとって隙なのか見えたのか切りかかる。だがこうしてここにいる以上即座に反応して剣を取り出して受け止めた。少女と鳶一折紙が剣を交えた瞬間、衝撃が放たれる。
衝撃を受けて吹き飛ばれた。いつの間にか移動していた騎士が受け止めてくれたが衝撃に打たれ士道は気絶してしまった。
騎士は気絶してしまった士道を安全な場所に避難させた後、すぐに戻れば少女の姿はいなくなっていた。どこかに去ったのだろう。空飛ぶ人間たちは一堂に騎士の姿を認識すれば行動を始める。
「〈プリンセス〉消失。まだ〈ナイト〉は現存中です!」
一斉に騎士に向かって銃弾が放たれる。やはりと言えばそうだろう。騎士の周りに少女がミサイルを止めようとしたように目には見えない力場が展開され、銃弾を防いでいく。切り落としたのは跳弾や流れ弾の可能性をなくすためだろう。
銃撃がやんだ瞬間、騎士は地面に長剣を刺し、柄を踏み抜く。亀裂が走り粉じんが舞う。そして粉じんが風に流された後には誰も存在していなかった。空飛ぶ人間たちと惨劇しか残っていなかった。
次の日。夕暮れの校舎にて士道と少女は出会う。正直言って士道にはあまりの急展開に目を回す気絶した後に〈フラクナシス〉と呼ばれる運ばれたり、そこで義妹の琴里が二重人格とでもいいくらいに変わって〈ラタトスク〉の司令をしていたりとか空間震が精霊が違う世界から来る余波だとかそれに対抗するASTとかデートして恋させろとか。
そんなどこのSFだと言いたくなるような展開に突っ込みたくもあったが士道はあの時に遭った少女と話をしたかった。上手く行きかけたところに琴里からASTが動いたと連絡があった。
しかし士道は疑問を覚えた、外にはASTが攻撃を加えている。精霊と呼ばれるの特異な力をもった少女は何もしていない。なのに銃撃の音がするのにただの一発も銃弾が襲ってこない。いや、ごくわずかに壁を破壊する音が聞こえたが発射する音とは釣り合わない。
壁が崩れたときに見えた。そこには騎士が佇んでいた。<ラタトスク>でも殆ど正体がわかっておらず、かろうじてわかるのは精霊である可能性が高いと言うことだけ。そのほとんどが夕暮れの校舎を背に何一つ通す気はないと立ちはだかっている。
「…………」
騎士はなにも答えずに長剣で少女に向けて放つ銃弾を切りさばく。おそらく銃声がしたときからずっとこうしていたのだろう。ただひたすらにASTの攻撃を防ぎつつけている。なんのためにそうしているだろうか騎士の胸中は図れない。
「…………」
正直あの騎士がどういう目的を持っているのか分からない。〈ラタトスク〉でも精霊を護るためとは考えられてはいる。それが真実なのかわからない。だけど今は士道には都合のいい展開だった。
ASTは学校に現れていた学校の前に現れていたへと攻撃を加えている。〈プリンセス〉がいるであろう場所には〈ナイト〉が立ちはだかっている。〈ナイト〉に苦渋を飲まされたのは一度や二度ではすまない。
ASTでも精霊として認定はされているがあくまで暫定的なものだ。〈ナイト〉は初めて確認されたのは四年前に他の精霊との交戦中に乱入してきたのだ。乱入、当時の観測班でも空間震の予兆が全くなかったと報告された。それは〈ナイト〉が空間震を起こさずに現れたことを示していた。それこそが暫定的な理由。では精霊ではないのかと言われれば〈ナイト〉から霊力、精霊しか持ちえない力が観測されているからややこしいのだ。しかも全身鎧に特性なのか捕捉しずらくいつ乱入するか予測しずらい。一番厄介なのは〈ナイト〉は殆ど被害を出していない、空間震を起こさずASTとの戦闘でも負傷者は殆ど出ずそのくせ装備だけに被害が集中する。周囲には被害を及ぼさないからこそ危険度はかなり低くなっているのが忌々しさに滑車をかける。
周りの隊員たちも相も変わらずに邪魔してくる〈ナイト〉に歯噛みしている。いつも精霊がいるのに邪魔をする。漆黒のフルプレートに身を包んだ〈ナイト〉は表情は読み取ることが出来ず不気味に長剣を振るう。
四方八方から〈プリンセス〉をあぶりだすための攻撃も〈ナイト〉が防いでいる。折紙も攻撃を与えている最中、偶然空いた壁の穴からある一人の男子学生の顔が見えた。おそらくは逃げ遅れた生徒なのかと考える。だが
「―――っ!」
それはクラスメートの五河士道だった。それを認識した折紙はこれ以上ないくらいのスピードで行動へと移す。
「よせ折紙!」
「邪魔だ!」
隊長の制止は聞かず、誰であろうと突破するような気迫を持って対精霊用近接戦闘武装のレイザー・ソードを〈ノーベイン〉を構えて突撃する。
だがその蛮勇でしかなかった。騎士は複数の隊員たちと剣ひとつで渡り会えてしまう。そして一人だけかつ騎士の土俵である。二、三合剣を合せただけで〈ノーベイン〉と背中に装備したCR―ユニットは三つに分割された。防御フィールドの
『未熟、感情に囚われすぎだ』
折紙はそんな声を〈ナイト〉から聞こえた気がした。憤慨した、斃すべき精霊からそんな情けをかけられた。折紙には途轍もない屈辱でいつも無表情が崩れるほどで殺意で染めた視線を送るが〈ナイト〉はどこ吹く風のごとく視界にすら入ってはいなかった。
その直後に半壊していた校舎は耐えきれずに崩壊していった。戦闘の余波で基礎部分にダメージが蓄積しすぎたのだろう。〈ナイト〉はまぎれ何処へと消えていった。
夕暮れの校舎が崩壊した瞬間に〈フラクナシス〉へ回収され難を逃れていた。回収された後に反省会をやらされていたが夜には家へ戻ることになった。家には零士が、家族がいるのだ。流石に一日中家を空けるのは問題だろう。琴里は白いリボンに変えてある。まだ〈ラタトスク〉や〈フラクナシス〉のことを知らない兄さんに怪しまれてしまう。
「ただいま」「ただいまー!」
居間に入ると最低限の灯りだけでテレビもつけずに一人で何かを飲んでいる。ふと嗅いだことのある匂い。ために兄さんの零士は両親が居ないときに酒を飲んでいるだ。そして兄さんが酒を飲んでいるはどんな時か大抵決まっている。
「お帰り、二人とも。ずいぶんと遅かったな」
それは自分たちを心配しているときだけ。その時だけ兄さんは酒を飲んでいる。なんで酒を飲むのかはわからない。けど酒を飲むときは自分たちを心配しているのだ。兄さんが引き取られてすぐのことだ。
琴里が帰ってこなかったことがあった。今思えば〈ラタトスク〉に出向いていたんだろう。琴里のことを心配してずっと家で帰るのを待っていた。目元にはすっごい隈作ってすごく眠たそうな顔してうつらうつらしながら気付け薬代わりのお酒をチビチビと飲みながらずっと待っていた。それから心配しているときは気付け薬代わりとして飲むようになっている。
「あはは、今日は琴里がさ。どっかに出かけたいって言って言うこと聞かなくってさ」
「ごめんなさい、兄さん」
それを聞いた兄さんはただただ目を軽く細める見てる。家族だからこそ声の調子で嘘かどうかなんて見抜くなんて容易いだろう。それはすぐに戻って、軽い溜息を吐く。あえて聞かなったことにしたんだろう。
「そっか……ま、あんまり遅くなるなよ。士道たちになんかあったら父さんと母さんに申し訳がたたんからな」
そういって兄さんは優しく自分達の頭を撫でてくる。五年前にこの家に引き取られてからずっと。たかが五年、されど五年。零士が家族になるには十分な時間だった。士道には心配されるようなことをしたことがすこし忍びなかった。
「あー! これデラックスキッズプレートだ!」
琴里がびっくりしたような声を出していた。テーブルのほうを見てみればラップが掛けられてはいたがまるでファミレスで出されるようなエビフライなどが乗ったお子様ランチがあった。いやよく見れば皿は専用のものではなく家で使っているものだ。お店で注文したものじゃなくて兄さんが作ったものであった。
「せっかく琴里が食べたいって言ったデラックスキッズプレートだっけ? それを再現してみたんだがな」
「……どうして?」
「どうしてって、昨日の朝食べたいって言ってただろ」
その後にその機会がなくなっちまったからなと寂しそうに呟いた。そういえば昨日昼は空間震があり食事どころではなく今日だって夕方に発生している。そんな状況ではファミレスで食事どころではなく、琴里が楽しみにしていたことを覚えていたんだろう。真似事でも店で出しても遜色のない出来栄えで丁寧に手間を掛けて作られていることが見て取れた。冷めてしまったのが勿体ないくらいで琴里は帰ってきたらデラックスキッズプレートがあったことが予想外でとても喜んでいる。
「悪ぃ、そろそろ限界だから寝る」
琴里の喜びようを見て、満足したのかそれだけ言って兄さん出ていくが足取りはふらついていた。さっきまでいた場所に置いてある酒瓶の中身がほとんどなくて相当飲んでいたんだろう。そんな兄さんに隠し事をするのが申し訳なく感じた。
お酒は二十歳になってから。
零士君は気付け薬がわりですけど。