デート・ア・ライブ 騎士は剣を   作:SUMI

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夕暮れ

夕暮れ。それは日が降りる時間帯であり、昔ならば一日が終わる時間でもある。また不安や恐怖が集う時間でもある。人は逢魔時と呼ぶ。

 

今はまさにそこに一つの終わりがあった。一人の学生が倒れている。誰の目から見ても即死であるのは分かるであろう程の穴が開いている。

 

ただ零士はそれを見つめることしかできなかった。動くことが出来なかった。ずっと見ていたのになんの反応する暇も許されずに。家族が撃たれ死に逝く様を見つめるだけ。

 

 

ああ、ああ、ああ、ああ、五年前(・・・・)と同じだ。方法の違いがあれども結果が同じだった。それは彼の記憶のフラッシュバックを引き起こす。

 

あいつが死んだ日と同じだ。いつも唐突に理不尽に俺から奪っていく。

 

どうして? なんで俺から大切な人を奪っていく? そんなに俺を苦しめたいのか?

 

また殺したのは誰だ? また俺から大切な人を奪ったのはどいつだ?

 

ああ、あいつか…………

 

あいつかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女、士道から十香と呼ばれた少女は完全に怒っていた。

 

否定され続けた中で自分を肯定してくれた、認めてくれた人を目の前で殺された。それだけでも心を怒りで満たすには十分すぎた。精霊に許された奇蹟。完全に解放された〈鏖殺公(サンダルフォン)〉-『最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)』。十メートル近くもはや武器でなく兵器といった方がいいだろう。振り回すだけで地形そのものを蹂躙するなぞ武器の範疇を軽く凌駕している。

 

「貴様だなぁ!」

 

それを手に振るう十香もまた超越の存在。先程までの制服はなく纏うは精霊の霊装。それは彼女の領地。引き出された力を持って敵を殲滅せしめる。

 

「よくもぉ!」

 

振り上げたときにどこからか誰か飛び込んできた。盛大に着地した衝撃で土煙が巻き上がる。

 

「くっ、なんだ?」

 

風に流され、正体を現す。それは闇をぶちまけたような漆黒のフルプレート。ASTの隊員たちは見間違えることはないだろう。散々辛酸をなめられ続けた相手を間違えることはまずない。

 

「〈ナイト〉…………出現」

 

だがここにいる全員が疑ってしまった。これは〈ナイト〉なのだろうかと? 何時も乱入し、邪魔してくる泰然とした力強さはなく。風に吹かれれば吹き飛びそうなほど力なくゆらりゆらりと佇む姿は幽鬼、亡霊と連想させる。長剣だけがやけにぎらぎらしているが余計に印象を刻み込む。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――――――――!!!!!!!」

 

突如として咆哮が〈ナイト〉から放たれる。まるで憤怒と嘆きの入り混じりった狂気の咆哮。咆哮自体に力が宿っているかのように隊員たちは弾き飛ばされる。

 

「一体……なんだ?」

 

あまりに違う、自分たちの知っている〈ナイト〉とは違いすぎる。いつものような騎士然としたものは存在せず、正気を失い狂気に囚われた狂戦士《バーサーカー》にしか見えない。

 

あまりの驚愕に囚われていたために気が使いていない。女性ではなく男性の声であることに。

 

「貴様もかっ!」

 

突然乱入してきた騎士へと十香が攻撃を仕掛ける。邪魔ものと見たんだろう、羽虫を払うには過剰すぎるほどの圧倒的な破壊の濁流。人ひとりをなぐにはあまりにも過剰すぎるほどの暴虐。天災と称しても問題ないだろう。あまりの威力にASTの隊員たちも回避せざるをえない。

 

「■■■■■■■―――!!」

 

それに〈ナイト〉は動じない。それどころか散歩にでも繰り出すかのように暴虐へと踏み出す。それだけ青年は木端のごとく巻き上げられる。それは間違いなく直撃。精霊でもただでは済まない。

 

「馬鹿な……」

 

なのにそれを目撃していた隊員たちは絶句していた。いくら〈ナイト〉でもあの攻撃を喰らったら無事ではすまないだろう。たとえ凌げても多少の負傷は免れない。

 

「無傷だと……」

 

結果は傷一つもついてなく全くの無傷。あれだけの暴虐に臆することなく踏み込みかわし切る。

 

「よくもっ!」

 

「■■■■―――!!」

 

だが十香には関係ない。仕留めきれなかった故の第二撃。それに対応するは狂戦士(バーサーカー)とは思えないようなそっと幼子を撫でるような優しく添えるだけ剣筋。それだけで破壊の暴虐はそらされ、まったく関係ない場所を破壊する。

 

「これが……精霊の……本気……」

 

ASTは戦慄する。彼女たちは精霊というものを過小評価していたんだと。なまじ抵抗できていたのも本気ではなかった。いやそもそも彼女たちにはうっとうしい程度の羽虫でしかなかった。倒すことはできなくても押さえることはできると思い上がっていたんだと。本気の精霊たちには歯牙に欠けない程度なのだと。

 

破壊が吹き荒れる。巨大な剣を振り回すだけで地面は捲れ、木々は消し飛んでいき。長剣を振るうと両断する。ASTはそれに翻弄され、必死に今生き残ることしか許されていない。

 

「よくもよくもよくもよくも!!!!!」

 

「■■■■■■■■■■■――――――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。折紙が二人の視界に入ったのは。争いあっていた二人は剣を止める。剣を合わせるなかで。こいつこそが二人の敵なのだと。二人が止まったが故に出来た静寂がやけに不気味に感じさせる。

 

「貴様がァ!」「■■■■■■■■―――――!!」

 

折紙も咄嗟に随意領域(テリトリー)を張るが生半可なことでは生き残ることは許されないほどの暴力を持った精霊の攻撃の前では濡れた障子の張り紙よりも簡単に脆く引き裂かれ砕け散る。

 

「かはっ!?」

 

随意領域(テリトリー)が崩壊した反動と抑えきれなかった衝撃が折紙を襲う。軽減されているはずなのにすさまじい衝撃が折紙を傷つける。

 

「――――!!」

 

憎み切れない怨敵へと鉄槌を下すためにそれぞれの獲物を振り上げる。その時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「十ぉ香ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

 

はるか上空から声が聞こえた。そう、人間だ。人間が空からダイビングしてきたのだ。物語でもどうやったらこうなるんだよと突っ込まれるかもしれないほどに奇妙な光景。その光景に騎士の動きは止まった。どんな表情をしているかはわからないがきっと驚いているんだろう。

 

「シ、ドー……?」

 

でも十香には衝撃的な光景でもあった、その人間が撃たれて死んだはずの士道だったからだ。十香は一瞬だけ疑ってしまうがよく見れば士道の服に大きな穴と赤い汚れが付いているのが見える。間違いなく士道が着ていた服で本人である。

 

「シドー……」

 

どうして空からとかいろいろと疑問に思うところもあるはずだが、十香にはどうでもよかった。士道が生きていたことのほうが大事だった。

 

それが〈鏖殺公(サンダルフォン)〉の暴走をさせる、士道の生存に気を取られすぎたからでこのままいけば間違いなく暴走した〈鏖殺公(サンダルフォン)〉は周りを破壊し付くだろう。その時の被害は図り切れない。

 

どうするかと思えば十香とキスをしていた。訳がわからない。なんでどうしてこんな行動を起こしたのかおそらく当人ですらも把握していないのだろう。キスした本人がパニックを起こしかけている。

 

だが変化はすぐに起こる。今にも解き放とうとしていた巨大な大剣にひびが入る。解け淡い粉雪のような光へと散っていく様は幻想的な美しさを持っていた。

 

「…………」

 

次第に収まっていく力を見ている中でただ一人だけ警戒を解除しない。その懸念通りに封印されるはずだった力の一部。それが何の因果か漏れ出している。

 

「しまっ!?」

 

放たれた一部の力。それは地上へと十全に威力を発揮し蹂躙しようと牙を向く。地上には折紙がいる。二人の攻撃を受けたために負傷して動けず、満足に行動することすらできない。

 

「やめっ!」

 

誰もが折紙が蹂躙される未来を連想したところに、乱入者が現れる。

 

「…………」

 

それは騎士だった。先ほどまで敵だった折紙を前に立ちはだかる。

 

「■■■■■■■■■■■■」

 

十香の本気。全てを滅す波動。それに対するは黒いはずの鎧が灼熱に染まりまるで溶岩のごとく力を感じる。十香の〈鏖殺公(サンダルフォン)〉とは別の騎士に許されている奇跡なのだろう。灼熱に染まりまるでSFに出てくるような幻想を抱かせる長剣を手に対峙する。

 

「――――――――――――」

 

切りつけるけど放たれた余りにもちっぽけにしか感じない。想像通り弾かれる。

そのままその波動に……飲まれない。士道の目には弾かれたはずの騎士が斬りつける姿だった。分身したのか?違う、人間の目では駒落ちした程度しか見えない速度でもう一度斬りつけた。もしかしたらその動作が見えるときには既に何回も斬りつけているかもしれない。常人の目では写ることすら叶わぬ超高速機動。

 

「!!!!!!!」

 

だが悲しいかな放出された力に長剣の一撃ではごくわずかにしか抑えられない。だが、例え一回では敵わぬとも十回、百回ならば? それでもだめなら千回やればどうなる? 僅かにしか岩を削れない水滴でも何万何億と落ち続ければ穿てる。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――――――――!!!!!!」

 

ならば目に見えて削れることが出来るならば成せる。幾重ものの果て、破壊は斬り伏せられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これでこの騒動はおしまい。周囲はぼろぼろで負傷者もいるがまだ取り返しがつく範囲であり、間違いなくハッピーエンドだろう。灼熱に燃えていた鎧はすでに冷えてもとの黒に落ちつている。先程までの怒りと狂気はない。手には長剣はないことから戦意はないことが受取れた。

 

「…………」

 

十香と士道が無事を喜んでいる姿を見つめている様子はどこか優しげで、羨望のような感情を漂わせているのを誰にも気が付いていない。それを見届けた後、背を向けて何処へと去っていった。

 

その様子はただ一人、影を背負うように。

 

 

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