デート・ア・ライブ 騎士は剣を   作:SUMI

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かなり遅れましたが第五話です。今回は十香とのデートの翌日のお話です。



秘密の訪問

四月十三日。昼間。

 

零士は珍しく寝坊をしていた。なぜかひどく疲れていたようでいつもよりも長く眠っていたようでもある。それでも完全に疲れが取れきっていないのか気だるそうである。

 

それでも家を預かる長男ゆえか。唐突になった呼び鈴に気だるそうな表情はすぐに引き締められる。客人に対して無様な姿は見せられない。

 

「あ、はい。どちら様でしょうか?」

 

零士が扉を開けるとそこには一人の女性が立っていた。二十代前半の女性で薄紫色の軽いウェーブがかかった髪を後ろでまとめている。何より特徴的なのが目の隈だ。明らかなほどに暗く刻まれたそれは墨でも塗っているじゃないかと思うほどに分かってしまう。

 

だがそれも彼女に魅力の一部となっていた。間違いなく個性的な美人であるだろう。そんな人物が訪れていた。

 

「私は村雨令音。琴里の知り合いでね。琴里から伝言があるためにこちらに赴いさせてもらった」

 

「なるほど、分かりました。でしたらこのまま用事も済ませて帰られるのもなんですし、お茶でもいかがですか?」

 

令音からすれば長くなりうるから家に上がらせてもらうのは好都合だ。一応琴里からも話は聞いていたが流石は家を預かる長男として風格があった。

 

「粗茶ですがどうぞ」

 

「ほう……これは」

 

令音はそれを口に驚いた。この紅茶は安物のティーパックで淹れたものである。だが確かな作法と知識を持って淹れられた紅茶は下手な喫茶店の紅茶よりも上等なものへと仕上がっていた。

 

「どうやらお気に召したようですね」

 

「ああ、これほどおいしい紅茶は久しぶりなのでね。私が訪れた理由なのだが……まずはこれを見てほしい」

 

すっと差し出された一枚の紙。小さく切られた長方形のそれはまさしく名刺である。零士はそれを不思議に思いながらも目を通すと逆に胡散臭いものを見る気分へとなる。

 

「『〈ラタトスク〉機関〈フラナシナス〉所属、村雨令音解析官』……ですか」

 

差し出された名刺にじっと目を通す零士。淡々と口に出して再確認のつもりだろう。だが、令音は疑問を覚える。

 

彼、五河零士は割とどこにでもいるような、ある程度は容姿が整っている青年だ。中の上から上の下くらいでおしゃれをすれば上の中くらいは狙えるだろう。だがその程度ならば世界を探せばどこにでもいるような平凡の類を抜けきれない。ただ落ち着いているせいかより大人に見えているのが特徴なくらいだろう。

 

琴里から直接聞いた彼は何も知らない、何の秘密もない一般人であってお父さんじみた義兄である位だ。つまりはただの人である。彼の対応からしても紳士的で大人びているが一般人の範疇である。

 

しかし、零士から疑いや困惑が感じ取れないからだ。常人ならばこんな秘密結社めいた名刺をぽんと渡されたとしたらいたずらかなにか疑うだろう。しかし零士からはこんな秘密結社みたいな組織を知っている。だが〈ラタトスク〉機関や〈フラクナシス〉自体は知らないのだ。どんなことをすればこんな中途半端な知識を持てるのだろうか? ますます、令音の解析がぶれてくる。

 

「〈ラタトスク〉にはそのためにも君に協力して貰いたいんだ。とは言っても活動するのでなく、琴里とシン、士道が活動することを黙認するだけでいい」

 

だがまずの目的は零士に士道と琴里が参加していることを説明して、活動することを融通することだ。活動は極秘裏に行われるためある程度は誤魔化しが効くと考えていたが。零士の様子からすぐに見抜かれるだろう。仕方なく話すしかない。

 

「所属については本人の意志次第ですから私がいちいち口を挟むのも無粋でしょう。ですが、活動内容だけは説明してもらいますよ」

 

そしてさらに令音の疑問は増えてくる。目的を理解するためにある程度以上の秘密を話すしかない。零士はそれを淡々と聞いているだけだ。本当に何も知らないだけならば質問や疑問が湧いてしかるべきなのに確認しているようにしか見えない。零士の表情は変わらずに微笑んでいるだけだ。その笑みを見て令音はすでに零士がただの一般人であるという先入観は完全に破棄した。

 

「デートしてデレさせる。とフランクに言ってしまえばいいかな」

 

瞬間に部屋の空気が冷え込む気がした。感情を読み取ることに長けている令音は感じ取る。もしかしたらこれが逆鱗なのかもしれないと。

 

「つまり……士道にたくさんの精霊を口説いて落とそうとしている、という解釈でいいですか?」

 

零士の口調は淡々と落ち着いていて穏やかそうな印象を受ける。だが、令音にはそれが怖ろしく思えた。そこで確信が持てた。零士は本当の本心を隠すのがうまい。いや、上手すぎる。令音クラスでなければ騙し通せるほどに面の皮が厚い。令音でさえこれなのに琴里では完全に気が付かないのは当然だろう。

 

「いや、それは違う。〈ラタトスク〉の目的は精霊との対話、及び共存のための組織だ。士道にデレさせるのはあくまでも精霊の力を封印するために必要なプロセスであって、私たちとてもっと穏便な方法があるのならばとらせてもらうよ。それに彼女たちについては〈ラタトスク〉が存続する限り一生サポートは欠かさない」

 

直感で零士の逆鱗に触れたら致命的になる。間違いなく精霊を物のように見えてしまった言い方に怒っていた。それとは別の令音の警報が最大限に鳴らしている。だが令音はそれについては賛成しているし夜刀神十香についてもアフターケアのための準備も兼ねてきている。

 

「………………」

 

焦ってはいたが逆に信憑性を持たせることが出来たみたいで危険な何かは引っ込めたようだ。そこで零士に目に見えてわかるほどに雰囲気が変わる。優しい、でも今にでも泣き出しそうな感情。でも本気で悲しもうとしているのにできないでいるちぐはぐな感情。両方向こうとする矛盾した感情を持ち合わす彼。その時だけ令音ですらその感情を理解できなかった。

 

「おっと、お見苦しいところを……でもそんな危険なことを士道がやるのですか?」

 

まだ完全には凌ぎっていなかった。家族ならば誰とて危険に曝されるのは本意ではないだろう。保護者じみた一面を持つ零士には特に。

 

「現状では彼以外の封印ができる人材がいない」

 

だが現状では士道以外には誰もできないのだから。そして万が一が起こっても対処できるのは彼だけだから。

 

「出来ますよ。ほかの人でも」

 

零士から放たれた言葉は令音に思考を吹き飛ばすには十分すぎるほどの衝撃を持っていた。どうして士道以外には観測されていない事象を出来ると説明できるのだろうか?

 

「根拠は?」

 

「私ですよ」

 

たった数文字の何気なくかわすような言葉だった。〈ラタトスク〉でもほとんどわからないことであり、未だに士道以外には確認されていないことである。あっけからんと言われてしまえば驚愕しすぎで思考が停止しまった。令音には彼が真実を言っているのが読み取れてしまうのが皮肉である。

 

「論より証拠ってことで」

 

すると零士の紅茶から湯気が消えた。触ってみると完全に冷え切っていた。冷めたのではなく冷えた。常温でなく低温であること。自然に放置しただけではこうはならない現象が起こっていた。間違いなく零士は精霊の力を持っている上完全に制御をしている。ただの何気ない動作で引き出していることでそれを完璧に証明している。

 

「…………」

 

令音は言葉が出ない。驚愕が過ぎると思考が停止してしまうだなと明後日な方向に思考が飛んでいた。零士はいたずらが成功した悪戯小僧な表情でアイスティーになった紅茶を啜る。令音を持ってしてまでも零士の底が見えない。読み取ることが出来ない。いったい何者なのかさまざまな面を見せすぎてわからなくなる。シンにも秘密があったが自分自身も知らないタイプで零士とは違うタイプだ。しかし零士は確実にその秘密を知っている。

 

「いったい……どこで……」

 

「それについては企業秘密です」

 

零士はニコニコと微笑んでいて今ここで教える気はないのだろう。ここは引くしかないと令音は判断する。同時に疑問が絶えない。いつどこでどうやって零士は精霊の力の封印というものをしたのか? 〈ラタトスク〉が出来てから今まで観測されてきた空間震に彼が関わった記録は存在しない。 得体が知れないとはこのことだろう。

 

「……なら〈ラタトスク〉に…………」

 

令音は言いかけて止める。封印し、保持している精霊の力。さらにそれを完璧に制御している人物が〈ラタトスク〉に協力してくれればどれだけの利益が生まれるのか計り知れない。それこそ今まで分からなかった精霊の謎に迫ることが出来るだろう。士道のデートの際に精霊の暴走に対する抑止力になりうるかもしれない。そうすればどれだけの損害を抑え込めるのか計り知れない。

だが協力してくれるのならば拒否をせず話すしてくれるはずだ。ならば無理やりと考え付いたがそれも取り下げる。零士は力を扱える故に精霊と同義と考えてもおかしくないだろう。もし零士の機嫌を損ねたりするならばどれだけの被害が出るか想像もつかない。もっともいままで人の中で暮らしてきた零士ではあまりにもデメリットが大きすぎるからまず切らない札ではあるが札があるだけで脅威である。

 

「〈ラタトスク〉でしたっけ? 個人的な感情で協力というかそうゆうものには出来ないんですよ」

 

はっきりと。ただその組織があるのは認めているし、確実に協力すれば悲劇を減らせると理解もしている。そのうえで彼は拒否している。

 

「漫画でもよくある話です。ただの八つ当たり。『なんでアイツを救ってくれなかった』って言う我儘じみた。子供のようなね」

 

はっはっはっ、とお道化たようにまだ漫画のような状態ならばいかように対処法があっただろう。だが厄介なことに彼はそれを自覚していて、肯定しているだ。琴里からの話から統合して事があったのは五年以上前のことだろう。しかし当時には〈ラタトスク〉はまだ結成されていない。つまりはどうしようもないである。

 

問題はその事実と感情を理解していて、制御していながら敢えて無視していることなのだ。意地とかプライドとか誇りなんて高尚な物でない、駄々をこねている。令音には安堵した少しだけだが彼のことに近づけた感触がしたからで得体の知れなさが薄れた気がしたから。

 

「ですが、精霊が暮らせるためには協力はさせてもらうよ」

 

それでも協力しないのは〈ラタトスク〉自体だからねと。零士は優しくお道化ていた。優しさの本位は令音には読めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後に細かなことを話し合ったあとに令音は〈フラナシナス〉へと戻っていた。いろいろと衝撃的な事実があった。だが最低限の協力を得られただけでも大きい。しっかりと士道の特異な体質についても説明したところで理解も得られた。

 

「ふむ、やはりままならないようだ」

 

まさかの事情説明でここまでのことに展開されるとは思いもしなかった。消極的ではあるが最低限の協力を得られたことは大きいだろう。仮に敵対されるとなるとどんな被害が及ぶか想像がつかない。まだ信用はされてはないがマイナスではないゆえにまだ取り返しはつく。きちんとした理は理解されていて問題は零士自身の感情故少々時間と掛けて少しづつ信頼されてもらうしかないだろう。現状でも感情を無視すれば好意的に受け取ってもらえているのだから。

 

「まずは彼について調べてみるか」

 

そのためにもより正確な彼を把握するためにも調べることは当然の行動でもあった。それが裏目に出てしまうことに令音は後悔してしまった。彼の過去を調べてしまったことを。そして……

 

「これを……琴里には知らせるわけにいかないな」

 

零士の過去はまさに劇薬も同然であった。琴里にだけは絶対に知られてはいけない。知らせれば最悪の事態になりうる可能性を秘めてしまっているのだから。それどころかそれよりも酷いことになりえることだから。

 

令音が見ているモニターにはこう記されていた。

 

 

 

五河零士 身長178cm 体重65kg

 

生誕年日不明。書類上は19と記入されているが正確な年齢は不明。

 

同じく正確な出自は不明。とある孤児院の前に放置されていたのを発見、保護される。

 

引き取られていた孤児院は五年前の住宅街火災事故によって焼失。その事件によって彼以外の孤児及び職員は一名が行方不明。残りの全員は火災によって焼死が確認された。その直後に五河家へ引き取られることになる。

 

 

 




軽く出ました零士くんの重い過去の一部。でもまだ重くなります。
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