Contraindication 作:まっちゃんのポテトMサイズ
まっちゃんのポテトMサイズと申します。
拙い文章ですが、本編どうぞ。
夢の中で懐かしい昔話を見た。
幼い頃の俺の話だ。
小さな女子供を訳も無く救い、見返りも求め無かった。
ただ車に撥ねられるその子を助けなければと、咄嗟に身体が動いていた。
しかし、彼女の事をよく覚えていない。
ただ、右眼が髪で隠れていたウマ娘だったのを今でも覚えている。
家に帰る道を辿っていた時、二人の大人が俺の家から出て来るのを見た。
それから、父親は壊れていった。
何があったのかは知らないが、優しかった父の面影はどこにも無くなっていた。
煙草の吸殻を俺の腕に押し付ける、暴力を振るう、そんな事は最早日常茶飯事だった。
そんな傷も、翌日になれば完治していた為に、周囲の人間には気づかれなかった。
そんな日常が続き、俺が十二歳になった時、父親は何らかの罪を犯し、逮捕された。
父親をパトロールカーに入れていた警官に父親の罪を尋ねてみたが、その警官は俺から目を逸らしながら、知らない、と答えた。
そして、俺から逃げるようにパトロールカーの中に入った。
そのまま、パトロールカーは走り去って行った。
冷たい雨が一人取り残された俺の身体を打ち付ける。
そんな俺を気遣うように、爺さんは俺に傘を差した。
俺が爺さんの事を見上げると、険しい顔をしていた爺さんは、棒付きキャンディーを咥えながら明るい笑みを見せた。
「…ありがとう」
俺は顔を俯かせ、爺さんに背を向けてそう言った。
爺さんは「おう」と言いながら俺の頭を押し付けるように撫でる。
その手はとてもゴツゴツしていたが、父親のそれと似た様な何かが感じられた。
それから数年経ち、爺さんに引き取られた俺は今では普通の高校生だ。
爺さんはウマ娘とやらのトレーナーをしていた為に、家に戻ってくることは少なかった。
母親さえいれば、俺は爺さんに迷惑を掛けなくて済んだのだろうか。
父に母親の事を尋ねると、父は怯えたような表情をしながら、物心つく前には殺されていた、と答えた。
無邪気な頃の俺はそれを疑わずにすんなりと受け入れた。
余りにも、滑稽な話だ。
テレビで流れている車の居眠り運転の報道をキッチンから眺めながら自嘲気味に笑う。
「お、もう起きてたのか」
「…ああ、爺さん。おはよう」
寝癖を付けたまま、階段を下りて来る爺さんに視線を送らずに、丁度できた爺さんの分の朝食を机の上に並べる。
「悪いけど、後片付けを頼めるかな。今日は日直で速く行かなきゃいけないんだ」
パンを一枚食べながら、洗面所で顔を洗う爺さんにそう告げて、玄関に向かう。
そして、パンを飲み込んで、靴を履く。
「…行ってきます」
爪先を二回、地面に叩きつけて、そう言って外に出る。
爺さんの家の前は春になると、何時も桜が満開になって居た。
俺はそんな見慣れた光景を何故か珍しく思いながら、学校へと歩を進める。
新学期を迎えて数日、俺は人生で初めて友達というモノを作った。
俺に最初に話しかけてくれた天野と櫻井は何の面白みも無い俺とは正反対で、もうクラスの大半と仲良くなったらしい。
そんな彼らが何故俺に絡むのか、俺には理解し難い事だ。
そうして、学校の門を通り、教室に入る。
既に中には天野と櫻井と、もう一人の日直担当の白銀さんが机に座りながら談笑していた。
「…よう。お前ら、学校に来るの意外に速いのな」
俺はそう言って机の上に鞄を置く。
そして、彼らに近づき、会話に混ざる。
それから暫くすると、クラスの面々が集まってきて、俺は自然な流れで会話に付いていけなくなった。
俺は机に戻り、目の前にある日直日誌に時間割表を見ながら今日の時間割と担当の教師の名前を書き写す。
その作業が終わり、壁に掛けてある時計を見ると、もう直ぐ先生が来る時間だった。
そんな事を思っていると、先生が教室に入ってきた。
先生の話を聞き流しながら、先程まで使っていたシャーペンをノックして芯を出し入れする。
やがて、それが終わり、俺が号令をかけて朝のホームルームを終わらせる。
それから数時間経ち、学校から帰っている途中、爺さんからメールが来た。
それを開き、内容を確認する。
「…全く、爺さんって人は…」
そう言って溜息を吐いてスマホをポケットに入れる。
そして、爺さんから頼まれた品を買いにスーパーへと向かう。
駅前にあるスーパーは品ぞろえも良く、父ともよく来た。
「…っ。いけないな、また彼の事を思い出してしまった」
そう言って、頭を振り、スーパーで買い物を済ます。
爺さんは父の兄貴に当たる人物だ。それなのに、こうも性格に天と地ほどの差が出来るとなると、本当に兄弟なのかと疑問に思ってしまう。
爺さんに頼まれた品と今夜の食事の材料を袋に詰める。
それを終えて、袋を片手に爺さんの居るトレセン学園へと歩を進めた。
その途中、こっそりと、買った棒付きキャンディーの詰め合わせの中から一本取り出す。
そして、それを咥えながらポケットに手を入れる。
暫くすると、煉瓦でできた校門が見えて来た。
その前には緑の服装をした駿川たづなさんが立っていた。
俺は彼女に入校許可証を鞄から取り出して差し出して見せ、会釈をした後に爺さんが居るであろうチームスピカの部屋へと向かう。
扉を開け、部屋の中に入る。
そして、棒付きキャンディーの詰め合わせをぶらつかせる。
「おい、爺さん。キャンディー買ってきたぞ」
「おう、サンキュー!」
爺さんはサムズアップをしながらそれを受け取った。
俺は背後にいるウマ娘たちに会釈をしてそのまま部屋を出ようとドアノブに手をかける。
「じゃあな、爺さん。またいつか」
扉を押し開け、ポケットに手を入れて校門に向かう。
空を仰げば、空は既に群青色に染められており、小さな星々が煌めいていた。
溜息一つ吐けば、腹の虫が小さくなった。
「…さっさと帰ろう」
そう言って横断歩道を渡ろうと、白線の上に歩を進めた時、暴走した大型トラックがこちらに向けて突っ込んできた。
「…」
俺はそのトラックから視線を逸らし、そのまま再び歩き出した。
背後では先程のウマ娘たちが俺に何かを叫んでいる。
俺は突っ込んで来るトラックを目の端で捉えて溜息を吐く。
「…後で運転手に文句を言わなきゃな」
そうして、目の前にまで迫ってきたトラックの右に回り込み、サイドガラスを拳で叩き割って中に入り込む。
その時に視界に入った、ガラスの破片で切り裂かれ、血が流れだしていた拳を見て、顔をしかめる。
中では運転席には穏やかな顔をした運転手がハンドルを握り、アクセルを踏んだまま眠り込んでいた。
俺は彼を叩き起こし、ブレーキを踏みこむ。
トラックは速度を落としていき、やがて、甲高い音を立てた後に止まった。
俺は溜息を吐き、助手席に腰を落とす。
「おい、あんた。睡眠不足か?」
俺は運転席にいる中年の運転手に顔を向けて、そう尋ねた。
運転手は未だ怯えているようで、声を詰まらせていた。
「あ、ああ」
「ちゃんと睡眠とれよ。あんたは俺みたいに、睡眠時間は短時間じゃ済まないんだから」
「わ、分かった。今後から気を付けるよ」
「なら良い。じゃあな」
それだけ言って俺は壊したサイドガラスから飛び降りる。
そして、トラックに背を向けて再び歩き出す。
その背後で、運転手はサイドガラスから顔を出し、俺に感謝の言葉を述べた。
俺は振り向き、サムズアップをした。
すると、運転手は運転席に戻り、トラックを走らせた。
俺は再び歩き出し、何事も無く家に帰った。
「…傷はもう、治っているな。良かった」
そう言って夕飯の準備を始める。
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では、此処まで読んで下さりありがとうございました。
また次回。