Contraindication   作:まっちゃんのポテトMサイズ

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第四話 夢の始まり

 

「…ああ、分かった。昼飯を食べたらそっちに行く」

 

俺は爺さんとの通話を切り、目の前でスイーツを食べながら悦に浸る薄紫髪の子に視線を送る。

机の上を見てみれば、そこはスイーツの皿で埋め尽くされており、俺は溜息を吐く。

幾ら飢えていたとしても、この量は過剰摂取だろう。

 

「…まあ、そんなものか」

 

溜息交じりに呟き、彼女のこれまでの経緯を何となく思い出す。

どうやら、俺が初めてビワハヤヒデと出会ったあの日、逃げ出した俺を追いかける際に銀髪の子に、俺を捕まえられたらスイーツを沢山奢ってやる、と言われたらしく、本気で俺を追いかけた様だ。

その後、俺を捕まえたのだが、一向にスイーツを奢ってくれる気配が無かったようで、銀髪の子に詰問したところ、俺が代わりに奢ってくれる、と言われ、この数日間俺を必死で探し回ったそうな。

その哀れな経緯に普段は断る頼み事を仕方なく承諾してこの状況に至る。

 

「…お前も災難だな」

「まったくですわ。まあでも、こうしてスイーツを食べられてるのですから、貴方には感謝しかありません」

「…二度は無いぞ」

 

俺は席を立ち、トイレに行こうとそこに歩を進める。

すると、偶然にも櫻井と白銀さんに出くわした。

幼馴染の二人だ。きっと、遊ぶ約束でもして共にこのスイーツショップに来ているのだろう。

 

「…よう。お二人さん」

「よっ、奇遇だな」

 

櫻井は俺に気づくと、右手を上げて言った。

俺は目を細め、白銀さんを一瞥して「…悪い、邪魔したようだな」と呟き、その場から離れる素振りを見せた。

すると、白銀さんは顔を赤らめ、焦ったように俺に反論をしてきた。

 

「ば、バッカじゃないの!?そんな関係な訳ないでしょ!?」

「…何も俺はそんな関係だとは一言も言ってないぞ」

「ーっ!!」

 

俺がニヤリと笑いながら櫻井に視線を送ると、櫻井は僅かに笑いながら顔を少し赤らめていた。

恐らく、恋人関係だと遠回しに言われ、気恥ずかしくなっているのだろう。

恐らく直ぐにでも学校中にお似合いのカップルだと言われる事になる筈だ。

未だ少ししか話していない俺でもお似合いだと思うほどだ。

もっとも、櫻井がモテて居なかったらの話だが。

 

「…さて、それじゃあ、今度こそ失礼するよ。またな」

 

それだけ言って俺はその場から足早に立ち去る。

用を済まし、薄紫髪の子の元に戻る。

彼女はその間に更にスイーツを注文しており、俺は思わず溜息を吐いた。

 

「食いすぎだ。阿呆。少し自重しろ」

「そんなに食べてませんわ!!この程度…」

「食っている。見てみろ、伝票に記されている量を」

「そ、それは…」

 

彼女は気まずそうに俺から視線を逸らし、肩をすくめた。

そして、涙目で、何かを訴えるようにこちらを見つめて来た。

俺は額に手を付き、彼女を見つめた。

 

「仕方ないな。これで最後だぞ」

「ありがとうございます」

 

彼女は目を輝かせながら言った。

そして、タイミング良く、注文したスイーツの皿が机に並べられ、彼女は再び目の前のスイーツを食べ始めた。

全く、何も味のしない、見た目だけが一丁前に鮮やかな食べ物の何が良いのやら。

俺には到底理解が出来なかった。

 

「…なぁ、それってそんなに美味いか?」

「ええ、勿論ですわ。こんなにも甘い物、他にありませんもの!」

「…そうか」

 

暫くした後に、彼女は最後のスイーツを食べ切り、満足したような雰囲気で俺に感謝を告げた。

俺はそれに対して「気にするな」と簡潔に告げ、会計を済まして店の外へ足早に出た。

 

「それでは、失礼しますわ」

「ああ。じゃあな」

 

それだけ言って、彼女と離れ、昼食を済ませて爺さんに会いに行く為にトレセン学園へと歩を進める。

その途中、妙に何度も赤信号に捕まったが、恐らく今日は不幸な日なのだろう。

あの薄紫髪の子に出会ってしまったのだから、そう考えると辻褄が合わなくも無い。

そうして、トレセン学園に到着すると、急いでチームスピカの部屋に向かった。

何故か、背後から声を掛けられたような気もするが、その時の俺はそんな事を気にする余裕が無かった。

中に入ると、爺さんがキャンディーを咥えながら椅子に座っていた。

爺さんは俺を見ると、右手を上げ、「よっ」と言った。

 

「悪いな爺さん。こんなに遅れて」

「気にすんな。…まあ、早速本題に入るか」

 

爺さんは机の向こう側に折り畳み式の椅子を出し、俺はそこに座る。

そして、爺さんが椅子に座ると、口を開いた。

 

「…単刀直入に聞くぞ。お前はビワハヤヒデのトレーナーをしたいと言っていたが、これから先の事、どう考えている」

「俺は正直、彼女のトレーナーを出来るのだったら、何を捨てても良いと思っている。…だから、高校を辞めてでもトレーナーをやるつもりだ」

「もし、失敗したらどうする。ウマ娘のトレーナーはそう簡単に務まる事じゃ無い」

「…分かってるさ。だからこそ、俺は何を捨ててでもトレーナーになりたいって言ってるんだ」

 

俺はビワハヤヒデのレースを見た後のあの感動を思い出して言う。

あの子のレースを見た時のあの衝撃。あれは俺が初めて受けた程の衝撃を秘めていた。

そのおかげで、俺は初めて夢を見ることが出来た。初めての事をそう簡単に諦めてたまるものか。

この好機を逃せば、俺はきっと、もう夢を見る事は無くなるだろう。

だから、爺さんを説得させる。絶対に負かしてみせる。

 

「…爺さんも知ってるだろうけど、これは初めて俺が見ることが出来た夢なんだ。これを逃したら、俺はもう夢を見る事は無くなる。だから…お願いだ。俺をトレーナーにさせてくれ」

 

俺は立ち上がり、頭を下げた。そうでもしなければ、爺さんは絶対に認めてくれない。

出来る事は何でもしなくては、この人は認めない。

 

「分かった。取り敢えず、頑張れるだけ頑張ってみろ。きっと、その分ビワハヤヒデも応えるだろ」

「…っ。ありがとう、爺さん」

 

俺は顔を上げ、過去のトレーナーをしていなかった爺さんの姿を思い出した。

目の前に移る爺さんは、あの頃の爺さんの姿とは大きく違っていた。

その姿は、れっきとした親の姿であり、頼りがいのある先輩の様な姿にも見えた。

 

「…あのさ、爺さん」

「ん?どうした」

「俺はビワハヤヒデを上手く育てられるか、分からない。だから時には頼るときもあるかもしれない。…それでも、良いか?」

 

俺は俯き、ビワハヤヒデが負ける想像をする。

爺さんの言う通り、失敗してしまったら、彼女の人生は滅茶苦茶になってしまう。

トレーナーは、ウマ娘の人生を左右する大きな存在。そんな事はとうに分かって居た筈なのに、いざその立場になると、そのプレッシャーに押し潰されそうになってしまう。

 

「当たり前だ。お前は新人なんだから、先輩に頼るのは至って普通の事だぜ。どんどん頼って、俺から学べ」

 

俺は顔を上げ、爺さんを見つめる。

爺さんは誇らしげに胸に拳を置き、キャンディーをかみ砕いた。

俺はふっ、と息を吐き、笑みを浮かべた。

 

「ああ、分かったよ。爺さん」

 

全く、本当に頼りがいのある爺さんだな。

俺はそう思いながら椅子から腰を上げ、部屋の外に出る。

そして、ビワハヤヒデのトレーナーを務めさせてもらう為に、彼女の元へと急いで向かう。

 

 

 

 

「…さて、アイツの書類を出しておくか。今日は徹夜…。全く、親ってのは苦労するもんだな」

 

爺さんは小さな笑みを浮かべながらパソコンを開き、書類を記入し始めた。

 

 

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