Contraindication 作:まっちゃんのポテトMサイズ
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ありがとうございます。
ビワハヤヒデの元に向かう最中、脳裏にトレーナーになる為に必要な事があるのではないかという思考が過る。
俺は内心恐れながらスマホを取り出し、爺さんに電話を掛ける。
爺さんは直ぐに電話に応じて「どうした?」と言った。
「なぁ、爺さん。1つ聞きたい事があるんだが…」
「おう」
「トレーナーになる為の何か…例えば試験とか、そんなものってあるのか?」
「ああ、あるが…言ってなかったか?」
爺さんは今更その事に気が付いたのか、震えた声で言った。
俺は怒りを込めた声で「ああ」と返事をする。
すると、突然スマホの向こう側から、急いで手帳を取り出して、それを床に落とす音が聞こえてきた。
その音を聞いていると、爺さんが慌てている様子が容易に想像できる。
そして、溜息交じりに爺さんの名前を呼ぶ。
「お、おう。どうした?」
慌てた声で声に反応した爺さんは先程まで感じていた親としての姿を上書きするように落ち着きを失っていた。
その姿に内心失望しながら視界の端に写るレンガ造りの柱の裏に隠れている者に視線を送る。
その者は柱から白髪がはみ出しているのにも拘らず隠れているつもりであるらしい。
腰まで伸びた白髪の持ち主と言えば、俺の知っている限りではビワハヤヒデしかいない。
案外、抜けたところもあるのだな。
そう思うと、ビワハヤヒデの新たな一面を知れたことが爺さんに対する失望を上書きした。
クスッと思わず笑ってしまった後に、爺さんに落ち着きを取り戻すように催促する。
「取り敢えず、落ち着け。その試験の概要さえ教えてくれれば良いから」
「概要だけって、お前なぁ…」
「良いから早く教えろ。…それとも、俺の事を信頼してないのか?」
「いや、そう言う訳じゃないんだが…。問題はその試験までの日数なんだ」
俺は爺さんのそのちっぽけなカミングアウトを鼻で笑った。
日数が何だ。その程度の修羅場、幾らでも乗り越えてきたさ。
「大丈夫だ爺さん。俺は1日さえ在れば直ぐにその試験で受かって見せるさ」
「…まぁ、お前の夢を応援するって決めちまったしな。試験までは一週間しかない。それでも、受かることが出来るんだな?」
「ああ。…ビワハヤヒデの期待を裏切る訳にはいかない。彼女の期待に応えるぐらいだったらその程度の事、造作も無い」
俺は通話を切り、ビワハヤヒデに視線を送る。
「盗み聞きは褒められたものじゃないぞ。ビワハヤヒデ」
「…すまない。偶然君を見かけたので寮まで共に帰ろうと思ったのだが、誰かと喋っていたのでな、盗み聞きするような形になってしまった」
柱の陰から姿を現したビワハヤヒデはトレーニング終わりなのか、泥だらけのジャージ姿だった。
靴も酷く汚れており、俺は直ぐ様着替えて来るようにビワハヤヒデを更衣室に向かわせた。
汚れていては彼女の気分は少なからず良い物とはならないだろう。
彼女が出て来るまで更衣室の壁に寄り掛かりながらスマホを眺めていると、ある大学のネットニュースが流れて来た。
それをタップして開くと、ある教授の行方不明の事件についての事だった。
その教授は仙宮力也と言う名で、遺伝子組み換えの研究をしていたらしい。
どうやらその教授はその研究にだけは異常な程熱心に行っていたようだ。
それも、人体で実験してみたいと言ってしまう程に。
俺はそんな狂気に何故か恐怖心を抱き、身体が震えだしてしまった。
周囲の音が遠くなっていく。何も聞こえなくなっていく。
視界が暗くなり、遂には意識も危うくなってきた。
「…、…み。君!!」
俺の事を呼ぶビワハヤヒデの声でハッとする。
俺は振り返り、思わず一歩後退りしてしまった。
彼女の顔は俺の事を心配している様な表情を浮かべており、彼女は口を開いた。
「…大丈夫か?あんなに震えていたが…」
「あ、ああ。大丈夫だ」
俺は平静を装って先程の恐怖心を無理矢理消し去る。
怯えた所など、恥ずかしくて他人に見せられたものじゃない。
ましてや、未だ何も知らない彼女の前で、そんなことをしてしまえば、戸惑わせてしまうだけだ。
「そうか、なら良いが…。あまり無理はするなよ?君は私のトレーナーになってもらうのだからな」
「ああ、分かってるさ」
俺はスマホの電源を落とし、その恐怖心から目を逸らすようにそれを乱暴にポケットに突っ込む。
「さて、帰ろうか。…俺も、しなくてはならないことがあるからな」
そう呟いて歩を進める。ビワハヤヒデは俺の隣で歩きながら、妹の事や同じ時期にデビューしたウマ娘の話をしだした。
それを聞いている内に彼女の性格が何となく分かってきたような気がする。
恐らく、彼女は世話焼きなのだろう。
それが顕著に表れたのは、妹の話をしている時の表情だった。
彼女は「姉と言うのは苦労するものだな」と言いながら笑っていたのだ。
俺は口角を少し上げ、言葉を紡ぐ。
「妹の事、好きなんだな」
「ああ、一時期は姉として居られるのか不安だったが、それも今となっては笑い話だ」
「…そうか」
そんな他愛のない話をしていると、何時の間にかビワハヤヒデの宿泊寮に到着してしまった。
ビワハヤヒデは俺に別れを告げ、宿泊寮へと歩いて行った。
その背中を見送ると、俺も家に帰る為に歩を進める。
それから一週間後、遂にウマ娘のトレーナーになる為の試験の当日になった。
俺は爺さんから預かった、試験の対策用の教科書を一通り暗記した為か、緊張はしていなかった。
試験会場として指定されたビルの中に入り、試験票を試験官に提出し、入室して席に着く。
そして、最低限の筆記用具を机に並べて、教科書をサラサラと眺めていく。
そんな事をしている内に、試験開始の時刻になり、問題用紙と解答用紙の二枚の紙が配られる。
その直後、試験官の「試験開始です」と言う声が厳かな雰囲気の室内に鳴り響いた。
毎回読み上げていた、お気に入り登録してくれた方々の名前を読み上げるのはそろそろどれが既に読み上げた方なのか未だ読み上げていない方なのかが判別不可能になって来ましたので、辞めさせていただきます