Contraindication   作:まっちゃんのポテトMサイズ

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第六話 疑心

 

試験から数日後、合否通知が家に届いた。

その中身を確固たる自信を持ちながら封筒から引き抜く。

畳まれたその紙を開いて結果を見ると、案の定『合格』の二文字があり、蹄鉄の形をした金色のバッジが顔を覗かせていた。

そのバッジを手に取り、それを何となく見つめる。

そして、それを胸の襟に差し込んで、鏡の前に立つ。

それに写る俺の姿はバッジがある事以外何一つ変わりないのに、何故か大人っぽく見えた。

 

「…そろそろ、爺さんに報告に行かないとな」

 

バッジを外し、合格通知書と共に封筒に入れる。

そして、それを制服のブレザーのポケットに突っ込んで家を出て、トレセン学園に向かう。

その道中、ビワハヤヒデが向かいの道で葉っぱを咥えた黒い髪をしたポニーテールの琥珀色の目をしたウマ娘と歩いている様子が目に入った。

そのウマ娘の容姿がビワハヤヒデから聞いていたのと同一だったため、そのウマ娘が妹の『ナリタブライアン』であると察した。

ならば、家族で共に時を過ごしているのだから、声をかけるのは野暮だろう。

何時家族との幸せな時間が終わるのか分からないのに、俺の為にそれを削るのは勿体無い。

そう、例えば、突然この場にトラックが突っ込んできていても可笑しくないのだ。

幸せな時間はたった一つの理不尽によって奪われてしまう。

その度に、その理不尽の被害者は自分を責めるのだ。

責めて、責めて、責めて…。

その果ては人それぞれだ。

自暴自棄になり、自殺する者も居れば、その悲しみを乗り越えて、また一歩を踏み出す者も居る。

俺はあの過去を乗り越える事が出来ているのだろうか。

 

「…俺は、まだ貴方を憎まずには居られないよ」

 

小声で呟いたその一言は、まだ少し肌寒い春風によって攫われていった。

俺は肩をすくめ、ブレザーを両手で身体に巻き付けるようにして開いている身体の前面を隠す。

 

「今日はやけに寒いな…」

 

そうひとりごちりながら、足早にトレセン学園へと向かった。

トレセン学園に到着すると、ピンク色の髪をしたウマ娘とぶつかってしまった。

勢い付いていた為、俺は少し後ろに仰け反ってしまった。

対してそのウマ娘は頭から地面に激突しそうになっていた。

俺は直ぐに体勢を整え、彼女の身体に腕を回し、こちらに引き寄せる。

傍から見れば、俺が彼女を抱き締める様な形になって居るだろう。

 

「…大丈夫か」

「うん!ありがとう!」

 

そのウマ娘はピンクの瞳で俺の目を見つめながらそう言った。

俺はその瞳の色に多少の既視感を抱きながら、視線を逸らす。

 

「ああ。…気を付けろよ」

 

彼女から腕を離し、その場から足早に去る。

彼女の瞳は、何処かで一度見た事があった。

その確信と共にチームスピカの部屋の中に入る。

そこでは、爺さんがチームメンバーと共にレースに向けての作戦会議を行っていた。

 

「…悪い。邪魔したな」

 

俺はそれだけ言って、封筒を爺さんに投げ付ける。

爺さんはそれを右手でキャッチして、戸惑いながらその中を覗いた。

すると、直ぐに顔を上げて俺にサムズアップだけして封筒を机の上に置いた。

俺は頬を緩ませながら頷いてその場から去る。

 

「さて、書類等は爺さんがやってくれるようだし、後は待つだけ、か」

 

夕暮れで橙に染まった空を仰ぎながら、顔も見たこと無い母さんに向けるように、歯を見せて笑う。

夢は夢のまま。俺はずっとそう思っていた。

だけど、彼女に出会ってその考えが変わった。

どこぞのフランスの皇帝が言っていた言葉にこのような言葉がある。

 

『じっくり考えろ。しかし、行動する時が来たなら、考えるのをやめて、進め』

 

彼のその言葉は多くの人間に届いたのだ。そうでなければ、それは後世には受け継がれてこなかった。

俺も、その大勢の中の一人だ。

だからこそ、その言葉の様に動いてみたい。

夢はもう既に見据えている。ならば後は行動するのみだ。

 

「…さて、取り敢えず睡眠は取らないとな。試験勉強で何回徹夜したのか…」

 

 

 

「…いやぁ、いくら慣れていてもアイツの記憶能力には驚くな」

 

トレーナーは合格通知書が入った封筒を手に取り、苦笑を浮かべながらそう言った。

赤茶色の髪をしたウマ娘が「何よ、アイツそんなに凄いの?」と言いながら腰に手を置く。

 

「ああ。何たって、俺が一年かけてギリギリ受かったトレーナー試験をたった一週間の勉強で受かりやがったんだからな」

 

自慢げに語るトレーナーの姿に薄紫髪のウマ娘と赤茶髪のウマ娘と焦げ茶髪のウマ娘は溜息を吐く。

そして、薄紫髪のウマ娘が訝しげな眼をしながら口を開く。

 

「…しかしまぁ、あの方は一体何者なんでしょうか。超人じみた記憶能力と身体能力。それに、素手でガラスを割っても痛がる様子をしない…。明らかに只の人間ではありませんわ。

…何かご存じですの?」

 

トレーナーに視線を移して、問いただす。

トレーナーは両手を肩の所まで上げて首を横に振った。

 

「何も知らねぇよ」

 

 

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