12月31日。
この日は元来、年明けを待つ日である。
しかしある年、その年の年末だけは違った。
後に世界を轟かす伝説が松橋牧場で産声を上げる。
名を「ハレバレ」。
競馬愛好者はもう二度と聞くことはできないと思われていた伝説の二つ名“神馬“、それをもう一度、その名が冠する意味と共に刻みつけることとなった。
その走りは見るものを惹きつけ、その姿は金剛の輝きすらも霞ませる。
ゆえに人々はその馬に神話を、夢を、伝説を、見た。
◇◆◇◆
「此処がトレセン学園‥…。」
思わず口から言葉が漏れてしまうほど雄大な校舎が目に入ってきた。
私はハレバレ。
今日から現役のウマ娘だよ!
あんまり人付き合いは得意じゃないけど転入初日だからみんなも仲良くしてくれるはずだよね!
だといいけどなぁ……。
おっと、みんなと仲良くしようと会話デッキ用意してきたのはいいけど早く来過ぎちゃった。
時計を見たら集合の二時間前。
門の前でうろちょろしててもみんなから変質者って言われても否定できないもんね!
それは困るしとりまそこら変で時間潰そ!
「そこの君。」
おやこんな昼間から門の前でうろちょろしている私に声をかけてくれるなんてどんな優しい人だろう!
記念すべき友人第一号だと張り切り後ろを向くと、
「君は転入生…転入生にしては時間が早すぎるな…見学者かい?」
トレセン学園の全生徒の代表の1人「シンボリルドルフ」ふくかいちょーがこっち見てんのやけど。
おかしいな、周りには誰もいないはずなんだけど、え?私に話しかけてきてる?アッハッハ、そんなわけないじゃん。
…スゥー。えっ、なんすか。
副会長がお迎えさんなんですか?
うせやん、初の友人が学園の生徒代表者だとは思わんやろ‥‥。
「…いいや、私はハレバレというものだが。」
ヤッベ緊張のあまり敬語使い忘れた。
「っ‥!そうか君があのハレバレか。ふむ‥‥少し時間も早いが歓迎しよう。」
おっふ、敬語もできないのかみたいな顔で驚かれてしまった…‥。
やっぱり友人なんてできないよ…パ○ラッシュ‥‥。
「まぁ歓迎すると言ってもここでするのは変だからな。案内しよう、着いてきてくれ。」
やっぱりスゲーカリスマですね。
同じウマ娘といえど何だかこの人の前ではピシッとしちゃいます。
わずかな緊張を納めようとしてるうちに副会長はもう昇降口に着いてしまった。
「ん?大丈夫かー?」
大声で呼んでくれて……!私はまだ門すら通ってないのに…。
……友達なんてまだまだ出来なさそうです………。
あぁドナドナが聞こえてきそうだよ……。
さて、ついて行って生徒会室に入ったのは良いのですが私はあんまり人と話せない人種なんですよ。
「ふむ。改めて私はこの学園の副会長を務めさせてもらっているシンボリルドルフというものだ。今後ともよろしくするよ。」
自己紹介から流れるように学園の話を進めてゆく、さすが副会長様だぜ!
しかし、改めて説明されたけどこの人三冠とってるんよね。
めちゃんこ緊張するよ…!こんな人と一対一なんて!おかげで説明が右から左だよ‥!
「……説明は以上だ。何か質問はあるかな?」
「……いや大丈夫だ。今後もよろしく頼む。」
「っ!…やはり君は凄いな。自分で言うのも変な話だが副会長である私に自然体で話せるなどあまり例に見ないのでな。俄然興味が湧いたよ。」
ぬああぁぁーーー!!副会長に敬語使わないことがあんまりいないって私問題児じゃないですかぁー!!
「…‥あまり他人と会話が得意でないだけだ。」
ヤバイヤバイっ!早く弁明しなくちゃ。ちゃんと伝わったかな…?
「なるほど。」
一言言うと何かを納得したように目とつぶる副会長。
ちゃんと伝わったようで安心したよ!
「まぁ、ほどほどにしてくれ。私も同じようなものだったのでね。」
「…同じとは……なるほど、あなたとは仲良くできそうだ。」
「あぁ、これからもよろしく。」
おお、コミュ障同士仲良くできたらいいな。
そう思いつつ差し出された手を握り返す。
話が終わってふくかいちょーと2人で廊下廊下に出たけど次は教室に行くのかな?取り敢えずいい雰囲気で話を終えられてよかったぞ。
しっかしここは凄い施設が充実してるな。
トレーニングルームに大小のプール、さまざまなグラウンド。
歩く度によく手入れの行き届いた種類の異なる施設が目にはいる。
やっぱり普通のところとはレベルが違うよねぇ、目指すとこG1やし、廊下は走るって書いてあるし。
しばらく歩いてたんだけど教室はどこかなぁ…?なんか校舎の外にでちゃったんだけど。
とっても不安なので、
「……教室はまだつかないのか?」
「‥?何を言っている?初めは体力測定だぞ?」
聞いてみた…のだが…えっ、聞いてないんですけど?
そういった副会長の背後ではたくさんのウマ娘たちが互いに牽制していた。
眩しい屋外に芝の薫るバ場の真ん中でそれはそれはメンチを切りあうヤンキーの如く。
◇◆◇◆
馬場にいたエアグルーヴにハレバレを預けたシンボリルドルフは生徒会室に戻り窓辺にたっていた。
何やら楽しそうな雰囲気を携え窓の外に見えるハレバレを目で追っていると、不意に生徒会室にノックが響く。
「戻ったよ、ルドルフ。」
「お疲れ様です、シンザン会長。」
名馬シンザン、その末脚は「鉈の切れ味」と言われ日本競馬史上初の“五冠馬”の偉業を達成し、その功績の大きさから“神馬”と呼ばれることもあるほど有名な馬だ。
この世界では160cmを少し上回る身長と長く腰ほどで切り揃えられた濡羽色の髪、そして平均的な胸部とおおよそ平均とは言い難いスタイルをしており何より目を引くのはその容姿である。
大和撫子を彷彿とさせる容姿、それが何やら面白そうに表情が変形する。
「何やら楽しそうだな、ルドルフ。大方…転入生のことでも考えてたのだろう?」
ニヤニヤとシンボリルドルフの顔を見るシンザンは転入生について聞いた。
「時間は…そろそろか。迎えに行かなくて良いのか?」
見抜かれたシンボリルドルフは顔をシンザンから背を向け立て直すため咳払いをし話す。
「いえ、二時間前に正門前に来ていましたよ。」
「ほう。」
「なので…意地悪でしたが、入部テストに混ぜてみました。」
トレセン学園では転入初日に体力測定はない、つまりあのシンボリルドルフがハレバレに嘘をつき無理やり実力を見ようとしたのだ。
「……どこの入部テストだ?」
疑問が生じたのかるシンボリルドルフを若干諌めるようにシンザンは尋ねた。
それも当然と言えよう、原則転入一週間は学院に慣れてもらうため猶予が設けられているため、逸脱した行いに注意せざる負えない。
「……彼女は…いえ、ハレバレは強者にしかない雰囲気を持っていました。初めて会った時のあの大気が歪むような圧力に全てが下だと言わんばかりの立ち振る舞い。あれは……会長、あなたに匹敵するほどの人材です。」
しかし、それでも確かめたかったのだろう。
いくら品行方正、質実剛健のシンボリルドルフとてウマ娘である。
その体に流れる皇帝の血はその異才に嘶いてしまったのだ。
「会長、申し訳ありません。……しかし…私は‥それでも夢見てしまう…!この目で…この脚で…!」
「良い良い、お前がそこまで感じるのだ。誰も罰することはできんよ。それで…。」
先ほどとは打って変わってその言葉にシンザンは何かを予感するように目を煌めかせ、興奮で紅潮しているシンボリルドルフは何かを確信めいたように告げた。
「リギルです。チームリギル、この学園きっての実力者が集う入部テストに彼女を入れました。」
空いていた窓から声が聞こえた。
スタートの合図と、それに続く無数の足音が。
◇◆◇◆
あのー、私どうすればいいんですかね。
何やら周りはやる気満々のようですが。
そして右往左往していると後ろから声がかかる。
「おい、ハレバレと言ったか‥早くゲートへ入れ。」
あ、はい。
ゲート入りの指示が下され、とりあえず入ってみる。
思った以上に狭いなぁ…んあ?なんやこれ?まるでレース前のゲート入りじゃないですか。
「最終確認を始めます。2300m、芝、バ場状態良です。では、健闘を。」
ふむふむ、2300mと、俗に中距離と言いわれる距離ですな。
私?私は一応短距離と中距離が適正ですよ。
おかしいって?確かにそうですけど仕方ないじゃないですか。
最初からトップスピードか途中からスピードを上げるかでこの距離が適正になっちったし。
体力が無い割りに中距離がいけるのかお母さんは不思議がってましたよ。
「おいっ!早く走れ!」
「……。」
あ、うちの母親はトレーナーの資格も持ってて私を幼い頃から指導してくれてたんですよ。
何気に引退する前は名トレーナーとして名を挙げていたそうで。
あぁ……あの牧場が恋しいなぁ…出てきてまだ一日ちょっとだけどねっ、あっはっはっはっはっ!
「おい、ハレバレ!」
「……ん。」
「早く走らんか!」
え゛っ。
あまりの声量に耳を絞ってしまう私は何を言われたか解らなかった。
前を見れば集団が芝を抉り、ゴールへと駆けて行っている様子を見るまでは。
あ れ な ん か み ん な は し っ と る!!!!!!
目の前のゲートはその先の景色を見せつけるかの如く既に口を開き、私をバ場へと誘っていた。
無論、出遅れである。
誤字脱字などがあればご指摘よろしくお願いします。