私はチームのみんなのデータを整理していた。
「ねぇねぇトレーナー、今大丈夫?」
テイオーが少し申し訳なさそうに尋ねてきた。トウカイテイオー、彼女は私が最初に担当したウマ娘だ。未熟だった私を信じ今日まで頑張ってくれた彼女には感謝しかない。それに彼女のおかげで私の今があると言っても過言ではない。関係は相棒のような、そんな感じだ。
「もう仕事も終わったし大丈夫だぞ」
「ならよかった。ボク、トレーナーにちょっと聞きたいことあったんだよね」
「何が聞きたいんだ?フォームの見直しか?」
彼女のためなら私はなんでも答えるつもりだ。
「そうじゃなくてさ・・・・この前キタちゃんと買い物行ってたよね?何買いに行ってたの?」
キタちゃんとはキタサンブラックのことだ。彼女はテイオーの大ファンでそのテイオーが所属するチーム ということで私のチームに入った子だ。
「ああ、実家に仕送りしたいから何送ればいいか相談されてな。それで買い物に付き合ったんだ」
「へー何買ったの?」
「練習教本」
「へ?」
「いやさ、何を送れば喜ぶかって話して結論として勝利を贈るのが一番だってなってさ。で、勝利に役立つものにしようってなったの」
「ふーん」
テイオーは何か安堵したように言う。きっとキタちゃんのことが心配で聞いてきたんだろう。自分を慕ってくれるかわいい後輩を心配するなんてテイオーも立派になったなと私は感動していた。
「あとさ、この前ネイチャとも出かけてたよね。あのときは何してたの?」
ネイチャとはナイスネイチャのことだ。彼女とテイオーはライバルで良き友人だ。どうやらテイオーはチームの先頭に立つ者としてみんなのことを把握しておきたいようだ。
「商店街のみんなを紹介したいって言われてついでにそこで買い物してきたよ」
「それだけ?」
「うん、それだけ」
皇帝に憧れ「カイチョー、カイチョー」と言っていた彼女が今では皇帝と同じく先頭に立ちみんなのことを引っ張ろうとしている。皇帝とは違う帝王として彼女が日々成長しているその事実に私は目頭が熱くなってきた。
「じゃあマックイーンとは昨日どこへ出かけてたの?」
「ああ、それは・・・・」
マックイーンとはメジロマックイーンのことだ。彼女は私のチームの子ではないが同じ趣味の持ち主でたまに遊んでいる。
「彼女のトレーナーに贈る誕生日プレゼントを一緒に選んでたんだ」
テイオーすまない。彼女の名誉のためにも本当のことは言えない。嘘をつくのは心苦しいが野球観戦が趣味なのは彼女のトップシークレットなのだ。
「・・・・トレーナー今嘘ついたよね。何かやましいことでもあるの?」
「えっ」
「何年の付き合いだと思ってるのさ。ボクはトレーナーのことならなんでもわかるんだよ」
「・・・・」
「本当は何してたの?」
「・・・・ごめん、言えない」
「・・・・そっか。ごめんね、聞きづらいこと聞いちゃって」
テイオーは悲しそうな顔をして部屋を出て行ってしまった。同時にその顔は何か決意していたようにも見えた。
テイオーへの謝罪を考えて早一時間。目元は少し赤かったが笑顔のテイオーが部屋へ戻ってきた。
「トレーナーはさ、どのウマ娘が一番好き?」
「・・・・?」
質問の意図がわからない。それに目元が赤い、きっと泣いたんだろう。そこから笑顔になった理由も泣いた理由もわからないしいったい何があったんだ?
「いいから答えてよ。さっき答えてくれなかったぶん」
テイオーが早く質問に答えてほしそうにしている。仕方ない、理由がなんだったかはひとまず置いておこう。
「・・・・」
どのウマ娘が一番好きかなんて決まっている。しかし面と向かっていうのは流石に恥ずかしい。
「その・・・・チームを運営するトレーナーとして誰かを贔屓するようなことは言っちゃいけないんだが・・・・」
「・・・・」
テイオーは無言の圧力をかけてきた。どうやら答えるしかなさそうだ。
「・・・・テイオーだよ。私にとっての一番はトウカイテイオーただ一人だ」
私には勿体ないぐらいの最高のウマ娘。それがトウカイテイオーだ。強くて素直で頑張り屋でかわいい、そんな彼女の担当になれたのは私の人生で一番の幸福だ。
・・・・やっぱり恥ずかしいな。相棒に対してこんなことを言うのは。一番とは言ってきたけど一番好きと言うと急に恥ずかしくなる。
まだ親愛だから口に出せたがこれが恋愛だったらとても恥ずかしくて口にできない。
「知ってた♪」
少し顔を紅潮させながら彼女は笑顔でそう答えた。憎たらしいほど眩しい笑顔だ。でも彼女の笑顔を見てるとなんでも許せてしまうのだ。
「ねぇトレーナー」
「なんだ?」
彼女は笑顔の中に強い決意を秘めていた。
「ボクね、一番であり続けるよ。レースだけじゃなくて他の全部!」
「ああ、私も君を支え続ける。トウカイテイオーという一番のウマ娘を」
テイオーが一番であり続けるのを支えるのは自分の役目だ。彼女の成長に負けないように日々精進しなければ。
「じゃあ、トレーナー。久しぶりにゲームセンター行こうよ。この前約束したでしょ?」
「はぁ、ゲームセンターはいいけど私はダンスやらないからな」
「えー。一緒にうまぴょいしようよ」
ゲームセンターに行くのはいい。支え続けると言った以上息抜きに付き合うのもトレーナーの役目だ。それに二人で遊ぶのは私も楽しいから全然オーケーだ。
しかしダンスに付き合うとは言っていない。私はテイオーと比べるとダンスが下手くそだ。一緒に踊ると差がはっきりしてしまう。
まあ・・・・最近テイオーは今まで以上に頑張ってるしこのくらいのことは聞いておこう。
そういえば泣いた理由と笑顔になった理由はなんだったんだろうか?
◇◆◇◆◇◆
ボクのトレーナー、ちょっと抜けてるけどいつでも優しくて誰かのために頑張れる人。
ボクがトレーナーに初めて会ったのは選抜レースのときだった。最初はたくさんいるトレーナーの一人だったけどカイチョーに負けたあの日。
みんながカイチョーを見ている中トレーナーだけがボクのことを見ててくれた。トレーナーでもないのにとっても心配してくれた。
思えばあのときからもう決めていたのかも。
次の日二人でカイチョーにせんせんふこくした。皇帝を超えた帝王、一番すごいウマ娘になるって。
そしてボクはトレーナーをボクのトレーナーに指名したんだ。
トレーナーがボクのトレーナーになってからボクはどんどん成長していった。シリーズの途中で怪我で菊花賞に出れないってなったときトレーナーはボクの気持ちを尊重して必死になって出れるよう頑張ってくれた。
そのおかげでボクはカイチョーと同じ無敗の三冠ウマ娘になれたんだ。
他にもマックイーンとの勝負で挫折したときもトレーナーはボクを導いてくれた。
そしてカイチョーも超えてボクは初開催のURAで優勝することができた。
優勝したあと、ボクたちは福引券で当てた温泉旅館に二人で行った。
あのときはまだ自分の中にある思いがなんだったのかわかっていなかったけど結構大胆なことを言ってたかも。
「トレーナーはボクをトウカイテイオーにしてくれる人。トレーナーのいないボクはもうボクじゃない」
なんて今のボクには恥ずかしくて言えないや。これが大人になるってことなのかも。
大会が終わってURA優勝ウマ娘を輩出した一流トレーナーとしてトレーナーは一躍人気者になった。
結果、多くのウマ娘からトレーナーに担当してほしいと依頼が来たのでチームをつくることに。
あのときチームをつくらないでほしいと言っていたら今みたいな思いはしなくて済んだかな。きっとボクが嫌がればトレーナーはチームをつくらなかっただろうから。
でもあのときのボクはわかっていなかった。自分の気持ちもチームのことも。
最初は一緒に練習する仲間やライバルが増えて楽しいと思ってた。実際ネイチャやキタちゃんと一緒のチームで練習できるのはとっても嬉しかった。
でもボク以外の子と話して笑顔を浮かべているトレーナーを見ると胸がイガイガした。
カイチョーに負けてイガイガしたときと同じだった。すごいって歓声を独り占めしたいのと同じでトレーナーの笑顔もボクは独り占めしたかったんだ。
でもこの気持ちをなんて言うのかわからなかった。だからボクは親友のマヤノに相談した。
「それって恋だよ!」
「えっ?」
「テイオーちゃんにも春が来たねぇ〜」
そうかこれが恋なんだ。それに気づいてからのボクの行動は早かった。
他の子がトレーナーに必要以上に近づかないように練習以外のときはトレーナーの近くにいたしお互いの距離も以前より縮めた。
おかげでボクとトレーナーが付き合ってると思ってそういう目的でトレーナーに近づく子は減ってった。
ただ厄介なのは無自覚に近づく子、マックイーンやキタちゃんだ。二人にその気はないのはボクにもわかる。でもボクという前例がある以上いつ好意が形を変えるかはわからない。
だからボクは定期的に何をしていたかトレーナーに確認している。まるで束縛の激しい彼女みたいだけどトレーナーは何も疑わずに話してくれる。そういうところも好きだ。
けど今日。マックイーンと出かけた理由を聞いても本当のことを話してくれなかった。
マックイーンのトレーナーとトレーナーが仲がいい関係でトレーナーとマックイーンがそれなりに仲がいいのは知っていた。
でも二人がボクに言えないような関係にまでなってるなんて想像もしてなかった。一昨日聞いたときはそんな気配全然なかったのに。
ボクは急いでマックイーンにトレーナーに何をしたか聞きに行くことにした。
「あら、テイオー。そんな怖い顔してどうしましたの?」
「ねぇマックイーン。昨日ボクのトレーナーと何してたの?」
「えっ・・・・そ、それは言えませんわ」
やっぱり。ボクに言えないようなことを二人はしていた。ボクのトレーナーはもうボクのトレーナーじゃなくてマックイーンの恋人になっちゃうんだ。
早く気持ちを伝えてればこんなことにならずに済んだんだかもしれないのに。ボクはバカだ。何がワガハイは無敵のテイオーさまだ。
ああ、前がよく見えない。視界がぼやける。
「て、テイオー!?いきなり泣き出してどうかしましたの、どこか痛いんですの!?」
「ぐすっ・・・・ボク、ボク・・・・」
マックイーンはとても慌ててボクを心配してくれた。泣きながら事情を話すとマックイーンは少し呆れたように昨日のことを話してくれた。
「はぁ、そんなことでしたの。私たちは一緒に野球観戦してただけですわ」
「そうなの?じゃあなんでトレーナーはボクに隠したのさ」
「それは・・・・私が秘密にしてほしいと頼んだからですわ。テイオーも誰にも言うんじゃありませんよ」
マックイーンは野球観戦が趣味だけど隠しているらしい。ボクは旧家のでだから趣味を気にする必要なんてなかったけど今も格式の高いメジロ家は厳しいのかも。
「うん、わかった。ありがとうマックイーン。ボクいきなり泣き出して迷惑かけちゃってごめんね」
「いえ、別に気にしてませんわ。あとあのトレーナーはあなたにゾッコンですから余計な心配しなくてもいいと思いますわ」
「トレーナーがボクにゾッコン?」
トレーナーはボクを大切にしてくれる。でもゾッコンというのは違うと思う。どうしてマックイーンはそう思ったんだろう。
「本当?って顔してますわね」
「だってボクにトレーナーはそんな態度見せないよ?」
「あなたの前だと恥ずかしいんでしょう。でもあなたがいないところだといっつもテイオーのことばかり話していますわ。私もトレーナーも耳にタコができるほど聞かされましたもの」
「なんて言ってたの?」
「テイオーはかわいいんだ、すごいんだ、頑張り屋さんだ等々褒めまくりですわよ。最近はチームのみんなを気にかけてくれて助かってるとも言ってましたわ」
「そうなんだ、トレーナーがボクを・・・・」
「もうこれでいいですの・・・・ってテイオーどこ行くんですの!?」
「トレーナーのとこ!ありがとうマックイーン!」
「はぁ・・・・世話の焼ける二人ですわね」
ボクは急いでトレーナー室へ向かった。
ボクたちは両想いだったみたいだ。早速明日うちに来てもらってパパとママを紹介しよう。二人もトレーナーだったら認めてくれるはずだよね。
部屋に入るとトレーナーがちょっとびっくりしたあと申し訳なさそうな顔をした。きっとボクのせいで不安にさせちゃったんだ。でももう大丈夫。
「トレーナーはさ、どのウマ娘が一番好き?」
「・・・・?」
「いいから答えてよ。さっき答えてくれなかったぶん」
「・・・・」
両想いってわかったけどトレーナーの口からちゃんと聞きたいよね。
「その・・・・チームを運営するトレーナーとして誰かを贔屓するようなことは言っちゃいけないんだが・・・・」
「・・・・」
トレーナーは恥ずかしがって答えようとしない。何が「チームを運営するトレーナーとして誰かを贔屓するようなことは言っちゃいけないんだが」だ。ボクのいないところで散々言ってたくせに。
ボクはトレーナーをじっと見つめて返事を待った。そうすると観念したのかトレーナーが口を開いた。
「・・・・テイオーだよ。私にとっての一番はトウカイテイオーただ一人だ」
「知ってた♪」
もし知らずにこんなこと言われたら顔を真っ赤にして気絶してたかも。でもごめんねトレーナー。ボク知ってるんだ。トレーナーがボクのこと大好きだって。
「ねぇトレーナー」
「なんだ?」
「ボクね、一番であり続けるよ。レースだけじゃなくて他の全部!」
「ああ、私も君を支え続ける。トウカイテイオーという一番のウマ娘を」
誰よりも「すごい」って歓声を浴びる一番すごいウマ娘。ボクが最初になりたかったもの。でもそれじゃ足りない。歓声だけじゃなくて大切な人の好きって気持ちも誰にも渡したくない。
だからボクは一番であり続ける。レースだけじゃない。誰よりもトレーナーに愛されるウマ娘であることも。
「じゃあ、トレーナー。久しぶりにゲームセンター行こうよ。この前約束したでしょ?」
「はぁ、ゲームセンターはいいけど私はダンスやらないからな」
「えー。一緒にうまぴょいしようよ」
支え続けるって言ったんだこのくらいのわがままはいいよね。それに両想いで出かけるってことは恋人になったってことだもん。だったら初デートは二人でめいいっぱい楽しまなくちゃ!
◇◆◇◆◇◆
このあと二人でめちゃくちゃうまぴょいした。
すれ違いって怖いね。うまぴょいがなんなのかは想像にお任せします。
今作ですがアプリでテイオーちゃんが出たので書きました。育てるとみんなかわいくて目移りしちゃいます。