今日、私は生徒会室に来ていた。
「久しぶりにチェスでもささないか」
「ルドルフさん、今日は仕事で来たんです」
「ルドルフさんか.....昔みたいにルナお姉ちゃんと呼んでもいいんだぞ?」
「揶揄うのはやめてください。あれは昔のことですから」
シンボリルドルフ、無敗の三冠ウマ娘として無類の強さを誇り皇帝と呼ばれる彼女はトレセン学園では生徒会長を務めている。
何故私がルドルフさんと親しいのかというと彼女は私の姉が担当したウマ娘なのだ。
私は小さい頃から彼女と知り合いなため、かの有名な皇帝を前にしてここまでリラックス出来ているということわけだ。
ルナというのは姉がつけたあだ名で白髪の部分が月のような形をしているからだと言っていた。
「それにしても成長したな。君もテイオーも」
「私はまだまだですけどね。でもテイオーは本当に成長しました。走ることだけじゃなく人間的にも」
「そう謙遜するな。テイオーだけではなく君の担当したウマ娘たちは皆レースで結果を出し始めているじゃないか」
「それは彼女たちの実力です。私の出来ることなんて本当に些細なことです」
トレーナーは無力だ。走るのは彼女たちで私じゃない。せめて足を引っ張らないよう彼女たちの道を整えるのが私の仕事だ。
「ふっ、姉に似ているな」
「そうですか?」
「ああ似たようなことを彼女も言っていたよ」
姉さんはトレセン学園でも有名な一流トレーナーだ。テイオーがルドルフさんに憧れたように私も姉さんに憧れてトレーナーになったのだ。
「それにしても感慨深いものがあるな・・・・」
「そんなお年寄りみたいな顔で言わないでくださいよ」
「私たちに憧れ目指してきたテイオーと君が私たちを追い越して皆の目指す憧れとなっている」
テイオーはそうかもしれないが私は違うだろう。彼女がいたから私は今もトレーナーをやれているに過ぎない。
「まあ確かにキタちゃんみたいな子も増えていくかもしれませんね」
「君も次代を担うトレーナーなんだ。先輩トレーナーとして後輩にアドバイスしてあげてくれ」
それからたわいもない話をしながら仕事を終えた。
「最後にちょっといいかい?」
「なんですか?」
「渾身のジョークを思いついたんだ。ぜひ聞いてくれ」
私はルドルフさんのギャグを聞く前に退散した。何故かって?ルドルフさんのギャグはやる気を下げるともっぱらの噂だからだ。
◇◆◇◆◇◆
トレーナーが生徒会室でカイチョーとイチャイチャしているのを見てしまった。
カイチョーのトレーナーがボクのトレーナーのお姉さんだってことは知っている。でもなんだったのあの呼び方。
しかもカイチョーのほうから切り出してた。ボクだってトレーナーにあだ名で呼ばれたことないのに。
カイチョーは姉の友人っていう美味しい立場を利用してトレーナーと逢引きしたんだ。
カイチョーのことは好きだ。尊敬しているし今でも憧れの人。でもレースの一着とトレーナーだけはカイチョーにだって渡せない。
「カイチョー、久しぶり」
「ん、テイオーか。さっき君のトレーナー君と君のことを話していたんだ」
カイチョーにさっきのことを隠す気はないみたいだ。ここは思い切って聞いてみようかな。
「カイチョーはトレーナーのことどう思ってる?」
「トレーナー君のことか・・・・私には年下の弟妹がいなくてね。だから正確には表せないが彼のことは弟や妹のように思っているよ」
・・・・この様子だとカイチョーとトレーナーはボクの想像するような関係じゃなさそうだ。よく考えればカイチョーはこういう恋愛ごとには関心がほとんどないしボクの早とちりだったみたい。
「そういえばテイオーにはトレーナー君について話したことあまりはなかったね」
確かにカイチョーからトレーナーの話を聞いたことはほとんどなかったかも。だってカイチョーと一緒にいるときの会話って基本カイチョーのギャグ尽くしだし。
水族館でもそうだったけど動物園でカモについて話してたとき「そうカモな」って自分で言って自分で笑ってたし。
ギャグ好きだったのはボクの知らないカイチョーの一面だから最初は本当にびっくりした。でもボクのカイチョーへの想いはこんなギャグ程度で変わるほど軽いもんじゃないけどね。
「・・・・というわけだ」
トレーナーについてカイチョーが色々話してくれたけど想像通りだった。昔から優しくて誰かのために頑張れる人。ボクの好きな人は昔からその根っこは変わらないんだ。
「小さいときのトレーナーって今とやっぱり同じ感じだったの?」
「今とは少し違うな。昔は今と違って意外と子供っぽかったよ」
「へー」
今のトレーナーは落ち着いてて周りがよく見えてて大人って感じの人だから子供っぽいトレーナーは想像がつかない。カイチョーみたいにボクが大人っぽくなったらトレーナーも子供っぽいところを見せてくれるかも。今度実践してみよう。
「そういえば以前君が皐月賞を終えたあと彼にこんな質問をしたことがある。『テイオーと私、走ればどちらが勝つと思う?』とな」
あのときのボクはまだまだ未熟でカイチョーの背中も見えていなかった。そんなボクとカイチョーを比べたらどっちが勝つかなんて誰でもわかることだ。
「トレーナーはどう答えたの?」
「トレーナー君は迷わずすぐに答えたよ。テイオーが勝つと。まだ君はデビューして一年も経っていなかったときにも関わらずだ」
まだまだカイチョーには遠く及ばなかったボクをトレーナーはどうして勝つと言ったんだろう?
「何故そう答えたのか。私も気になって聞いたよ。そうしたら『ウマ娘を信じ支えるのがトレーナーの仕事だからです』とトレーナー君は言ったよ。担当ウマ娘を信じて支える。簡単なことに見えて難しいことをトレーナー君は最初からやっていた。初志貫徹。彼にピッタリの言葉だ」
ボクとカイチョーに「せんせんふこく」した日からトレーナーはずっとボクを信じてくれていたんだ。ダービーのあと怪我したときもマックイーンとの対決で迷走してたときもずっと。
「君は本当にいいトレーナーを持ったよ。たまにはトレーナー君を労ってあげるといい」
「うん、ありがとう。カイチョー」
ボクのトレーナーは最高のトレーナーなんてことはカイチョーに言われなくても知っている。トレーナーのいいところも誰よりボクが知ってる。トレーナーと一緒にいる時間はボクが一番なんだから。
「あ、テイオー。トレーナー君に言おうと思ってたギャグなんだが・・・・」
気づけばボクは生徒会室を出てトレーナー室にむかって走っていた。
◇◆◇◆◇◆
私は生徒会室からロビーに向かっていた。たづなさんにレース場の手続きをするためだ。
ロビーに到着するとウマ娘たちが駆け込んでいる様子が目に入った。どうやら雨が降っているらしい。雷も鳴っているし今日の外練は中止だろう。
「あ、ブルボンさんのトレーナーさん」
「どうしたんだライス?」
何やら慌てた様子でライスが話しかけてきた。ライスシャワーはマックイーンと同じチームで私の友人がそのチームのトレーナーだ。ミホノブルボンは私のチームの一人でライスとは友人でありライバル関係だ。
「ブルボンさんがうずくまちゃって・・・・」
ライスの後ろには尻尾を股下を通して抱えうずくまるブルボンがいた。
「ブルボン大丈夫か?腹痛いか?」
「マスター、状態『腹痛』ではありません。それよりもライスさん、隠してください・・・・」
ブルボンは怯えた様子で答えた。一体何に怯えてるんだ?
「ブルボン、一体どうしたんだ?」
「雷様に尻尾を取られてしまうので隠しています」
「「・・・・」」
ライスと私は絶句した。
「ライス、ブルボンのこと任せていいか?」
「はい!任せてください!」
ライスはブルボンとは逆にテンションが上がってキャラが変わっている。普段冷静なブルボンがかわいらしい理由で怯えてるギャップでそうなったんだろう。
私もこの空間でブルボンの様子を見ていたいが仕事もあるので惜しみながらもたづなさんのところへ向かった。
「はい、レース場の申請受理しました」
彼女には新人のころからなにかと世話になっている。
「トレーナーさん、今日久しぶりにラーメン行きませんか?」
「あー、それなんですけど今回はやめておきます」
「何か予定が?」
「そうじゃないんですけどテイオーが私がラーメン食べると嫌がるんですよ。匂いがキツイのかもしれません。だからテイオーがオフの日に誘ってもらえると助かります」
「・・・・わかりました。また今度お誘いしますね」
テイオーは別にラーメンが嫌いではないので本当の理由はよくわかっていない。まあ嫌がってはいてもたづなさんとラーメンに行ったあと、というかたづなさんと出かけたあとはテイオーの調子が上がってる気がする。嫌がってるのに調子が良くなるのは謎だ。
「トレーナー」
「おー、テイオーか。どうしたんだ?」
「久しぶりにさっ、一緒にトレーニングしない?」
たづなさんの方を向いていたら後ろからテイオーが話しかけてきた。一緒にトレーニング・・・・合宿を思い出すな。今のテイオーはちゃんと私に合わせてくれそうだし大丈夫だろう。
「じゃあ雨も降ってるしジムにしようか。たづなさん、失礼しました」
「・・・・ではまた明日」
私たちはジムに向かった。
「よーし、トレーナーにボクの成長を見せてやる!」
「おー、すごいなテイオー」
テイオーがやっているのはデットリフト。そういえば私のチームで1番の力持ちのブルボンが昨日持ち上げていたときよりも重い重量だ。さすがテイオー。一番はデットリフトでも譲らないということか。
「どう?成長したでしょボク。昔はカイチョーと同じメニューでひいひい言ってたけど今はへっちゃらだよ!」
成長は日々一緒に過ごしているときにひしひしと感じているので逆に成長を見てほしいと言ってくるのが昔に戻ったようでそのあべこべさに少し笑ってしまう。
それにしても尻尾ふぁさふぁさしてかわいいな。注目されてるときやはちみーを口にしたときはあんな感じだ。あと耳がうちによってピンとしてるのもかわいい。
「ああ、流石は無敵のテイオー様だ」
「トレーナーもやろうよ!もちろんボクよりもずっと軽いやつだけどね」
「合宿で同じメニューに付き合ったら大変なことになったからな」
でも久しぶりの運動だしちゃんとやろう。
「トレーナー足ぷるぷるしてるけど大丈夫?」
「・・・・ごめん、テイオー。久しぶりの運動なのにやりすぎた」
運動不足でやるにはちょっとキツすぎたみたいだ。トレーナーなのに自己管理がなってないと理事長に怒られてしまう。
「合宿のときみたいにボクがマッサージしてあげるよ」
「ありがとうテイオー」
「じゃあうつ伏せになってね」
テイオーに言われるがままに私はうつ伏せに寝転ぶ。テイオーのマッサージはとても丁寧で合宿のじゃれあいマッサージとは違った。
きっとテイオーはチームの子たちを気遣いマッサージをして技術が向上したんだろう。テイオーの頑張りが感じられて涙腺が緩む。
「・・・・」
顔を少しあげテイオーの方を見ると彼女は口を一切開かず真剣な顔で私の足を揉んでくれていた。
最初彼女と出会ったときよりも少し大人びたその顔は帝王の気品を感じさせるものだった。彼女の顔を見ていると以前温泉旅行で思ったことを思い出す。
『テイオーが気品のあるレディになっても、活発なお姉さんになっても、この瞳の真っ直ぐさだけはずっと変わらない』
私の思ったことは間違っていなかったみたいだ。
「次は背中やるね」
そういってテイオーは私の腰のあたりに体を乗せ体を倒してマッサージを始めた。テイオーの体温と重みが直に伝わってくる。運動後の少し高めの体温。それに屈強な男でも持てないものを軽々と持ち上げる筋力からは想像も出来ない体重の軽さ。
あと尻尾が足に当たって少しくすぐったい。まあ私はウマ娘の耳と尻尾は特に好きな部分なので嬉しい限りだ。感情に従って動く耳と尻尾。耳は何もなくてもピクピクと動いてかわいい。尻尾はふさふさしてかわいい。
「・・・・かわいいなぁ」
「!」
マッサージが気持ちよくてそのまま思ったことが口から出てしまった。まあウマ娘、それもテイオーがかわいいなんてこの世界では常識だしそんなに気にすることでもないだろう。
「トレーナー、今度温泉旅行行こうよ」
「・・・・ああ、いいなぁそれ」
「でしょでしょ!計画立てて行こうね!」
気持ちよくて答えるのが遅れてしまう。
あの旅館には私とテイオーの大切な思い出がある。テイオーが私のことを誰でもない特別な存在だと言ってくれた思い出が。あれで私はURA優勝後も自分に自信が持てたのだ。
それに温泉旅行はテイオーとまた行きたいと思っていたが結局時間がなくて行ったきり行ってなかったし時間の問題も含めチームのみんなで行くのはいい案だ。
「・・・・チームのみんなも喜ぶなぁ」
「・・・・どうしてチームのみんなが喜ぶの」
「・・・・だってみんなで行くんだろう。テイオーと行った旅館。あの旅館の温泉気持ちよかったしみんな喜ぶよ」
「・・・・」
テイオーの私の腰をがっちりと足で挟んだ。
「・・・・テイオー?なんか押さえる力強くなってないか」
「そんなことないよ」
「・・・・そうかな、そうかも」
気持ちよくて思考がまともに出来ない。
「トレーナー、二人で行こうよ」
「・・・・二人で?うーん、チームのみんなに悪いしなぁ」
「チームの子たちが一緒に行ってきてくださいって言ってたんだよ。いつも頑張ってるトレーナーにご褒美をだって」
「・・・・そうかーじゃあ行くかー二人で」
「うん!」
やがてマッサージは終わり極楽の時間は終わりを迎えた。
「トレーナー、今日はボクがみんなの服洗濯するから。あ、もちろんトレーナーぶんもボクがやるから」
「いいのか?今日はテイオーに頼りっぱなしだな」
「トレーナーはもっとボクに甘えていいんだよ。それにトレーナーの頼みなら何でも聞くよ!」
なんて嬉しいことを言ってくれるんだ。成人した子どもを持った親の気持ちがわかったような気がする。何でもはちょっと大袈裟だが。
「じゃあ尻尾触らせてもらおうかな」
何でもって言ってたから冗談混じりに言ってみたがセクハラにならないか心配になってきた。
「いいよ。はい」
「・・・・」
そう言ってテイオーはお尻を私に向け尻尾をふりふりさせた。・・・・思ってた反応と違う。尻尾はウマ娘にとって恋人相手にも中々触らせないようなデリケートな部分だ。
だからここは「それセクハラだよー」と突っ込まれると思っていたのに素直に差し出されたので正直困惑している。
「・・・・本当に触っていいのか?」
「言ったでしょトレーナーの言うことは何でも聞くって」
「嫌じゃないのか?」
「うん。どうしてトレーナーに尻尾を触られて嫌がる必要があるのさ」
テイオーの信頼が嬉しいと同時に彼女の信頼を邪な思いで利用してしまった罪悪感がある。
しかし尻尾をもふもふしたいのは紛れもない自らの意思。ここはお言葉に甘えさせてもらおう。
「・・・・じゃあ触らせてもらいます」
それからしばらく夢中になってもふもふした。
「ボクの尻尾どうだった?」
「非常に素晴らしいものでした」
「そうなんだ・・・・トレーナーが望むならいつでも触っていいからね」
「・・・・ああ、ありがとう」
テイオーの顔が見えないから言葉以上のことが読み取れない。怒ってはないし大丈夫だとは思うが本当になんとも思っていないのだろうか?
それは置いといてとにかく本当に素晴らしい体験だった。またやりたい。しかしいつでもやったらは流石に周りから変態だと思われる。TPOは弁えなければ。
そもそも二人きりだからと言って触っていいのか倫理的に怪しい気もするが。
「じゃあボクみんなの服洗濯してくるからトレーナーはボクとのうまぴょいの練習しておいてね」
「・・・・はい」
苦手だが今日はいつも以上にテイオーに頼りきりで申し訳ないし今度ゲーセンに行ったときのためにちゃんと練習しよう。テイオーも下手くそな私に少しでも上手くなってほしいから言っているんだろうし。体のほうはテイオーのマッサージのおかげでだいぶ回復したし頑張ろう。
そういえば桐生院トレーナーはうまぴょいが得意だしまた今度教えてもらおう。それで上手くなった私をみせテイオーをびっくりさせよう。
それから想像していたよりも遅くテイオーは戻ってきた。テイオーは大抵なんでも出来るので考えづらいが何かに手間取っていたのだろうか?
◇◆◇◆◇◆
トレーナーがまた女の人と話していた。トレーナーから女の人の匂いがするときは大抵たづなさんと出かけたときだ。
一度出かけたあとにボクの調子がたまたま良くなったからってあの人と出かけると調子が上がるとトレーナーは勘違いしている。
一回それとなく本当のことを伝えようとしたけどトレーナーは鈍いから「一緒に映画観たかったのか?」って的外れなこと言ってたし。まあ一緒に観に行ったけど。
それに調子がずっと悪いと何度もあの人と出かけようとするからそうならないためにボクは自分を奮い立たせて調子を上げてるんだ。トレーナーはそんなこと知らないけどね。
ただトレーナーにはっきり事情を伝えて頼めばたづなさんと出かけなくなるかもしれないけどトレーナーはあの人と良好な関係を築いてるしボクのわがままでトレーナーが嫌な気持ちにはなってほしくはない。
だから盗られないように牽制するのがボクの精一杯だ。
「トレーナー」
「おー、テイオーか。どうしたんだ?」
「久しぶりに一緒にトレーニングしない?」
「・・・・」
このまま話させると二人の仲が進展しかねない。それにカイチョーに言われた通りトレーナーを労うんだ。そのためにも今日はトレーナーも一緒にトレーニングしてもらわないと。
「じゃあ雨も降ってるしジムにしようか。たづなさん、失礼しました」
「・・・・ではまた明日」
名残惜しそうな顔をしてもダメだ。トレーナーはボクのトレーナーなんだから。
「よーし、トレーナーにボクの成長を見せてやる!」
トレーナーと二人きりでトレーニングするのは久しぶりだ。最近はチームのみんなのことばかり見ていてボクだけのことちゃんと見てなかったし。
「おー、すごいなテイオー」
あのトレーナーの顔を見ればわかる。ブルボンよりも重いってことに気づいたんだ。
もっとボクだけを見てトレーナー。
「どう?成長したでしょボク。昔はカイチョーと同じメニューでひいひい言ってたけど今はへっちゃらだよ!」
「ああ、流石は無敵のテイオー様だ」
やっぱりトレーナーに褒められると嬉しい。もっと褒めてほしい。誰からの賞賛よりもトレーナーの賞賛がボクには嬉しい。
でも今日は我慢。だって今日はトレーナーを労うんだから。
「トレーナーもやろうよ!もちろんボクよりもずっと軽いやつだけどね」
「合宿で同じメニューに付き合ったら大変なことになったからな」
あんなこと言ってるけどトレーナーは一回やり始めると熱中して自分の体のことは顧みずにやってしまう。
ボクのために治療方法を探し回って倒れたことは今でも強く記憶に残ってる。まあトレーナーとの思い出は全部覚えてるけどね。
「トレーナー足ぷるぷるしてるけど大丈夫?」
「・・・・ごめん、テイオー。久しぶりの運動なのにやりすぎた」
案の定トレーナーは限界を超えてトレーニングしてしまった。でもこれはボクの狙い通りだ。だって一緒にトレーニングしたのはボクが自然にトレーナーを労うためだったんだから。
「合宿のときみたいにボクがマッサージしてあげるよ」
「ありがとうテイオー」
「じゃあうつ伏せになってね」
トレーナーはなんの疑問も抱かずうつ伏せになる。どうしてマッサージにしたのか?と聞かれたら、それは以前からトレーナーにしようと思ってたしトレーナーの体になんの制限もなく触れられるからだ。
「・・・・」
ボクよりも太くて逞しい足。でもボクよりも全然力がないのが不思議だ。
キタちゃんにマッサージをして練習していたおかげか鏡に映るトレーナーの顔はいつもより、気持ちいいのか少しだらしない。
だがどうしてだろう。ずっと見てたくなる。きっとこんな表情はチームのみんなは知らない。いつもしっかりしたトレーナーがボクだけに見せる表情なんだ。
「次は背中やるね」
トレーナーの腰のあたりにボクは体を乗せて大きな背中に倒れ込む。なんだかすごい安心感がある。でも同時に動悸が激しくなる。トレーナーもドキドキしてるのかな。
「・・・・かわいいなぁ」
「!」
さらに動悸が激しくなる。普段のトレーナーならこんな風には言わない。つまりマッサージのおかげでトレーナーのガードが緩くなってるってことだ。労うだけのつもりだったけどこの際色々してしまおう。
「トレーナー、今度温泉旅行行こうよ」
「・・・・ああ、いいなぁそれ」
やった!トレーナーもボクと行きたいんだ。
二人での初めてのお泊まり。忘れるはずがないよね。
ボクだけが知っているトレーナーの寝顔。あのときは夜更かし気味になるかと思ったよ。
「でしょでしょ!計画立てて行こうね!」
「・・・・チームのみんなも喜ぶなぁ」
チームのみんなもボクとトレーナーがゴールインしたら喜んでくれるってことだよね。
「・・・・どうしてチームのみんなが喜ぶの」
「・・・・だってみんなで行くんだろう。テイオーと行った旅館。あの旅館の温泉気持ちよかったしみんな喜ぶよ」
「・・・・」
・・・・わかってたよ。トレーナーは優しいもんね。責任感もあるし二人で出かけようなんてもう昔みたいには行かないよね。
でもひどいよトレーナー。あんな思わせぶりなこと言って結局ダメだなんて。
「・・・・テイオー?なんか押さえる力強くなってないか」
「そんなことないよ」
「・・・・そうかな、そうかも」
トレーナーを逃さないと足に力が入る。トレーナーは幸い気持ちよくて気付いてないみたいだけど。
もう一押ししてダメそうだったら諦めよう。トレーナーを悲しませるのはボクにとって不本意なことだから。
「トレーナー、二人で行こうよ」
「・・・・二人で?うーん、チームのみんなに悪いしなぁ」
チームのみんなに悪いってことはチームのみんながオッケーしてくれたら大丈夫ってことだよね。
「チームの子たちが一緒に行ってきてくださいって言ってたんだよ。いつも頑張ってるトレーナーにご褒美をだって」
今のは嘘。でもボクがチームのみんなに事情を話せばきっとわかってくれるよね。そうしたら今のは嘘じゃなくなるし。
「・・・・そうかーじゃあ行くかー二人で」
「うん!」
やったやった!トレーナーと一緒に行ける。あとはトラブルが起きて中止なんてことがないように周りを常に見なきゃ。チームのみんなにもボクの嘘に付き合ってもらうぶんのお返ししなきゃ。
「トレーナー、今日はボクがみんなの服洗濯するから。あ、もちろんトレーナーぶんもボクがやるから」
「いいのか?今日はテイオーに頼りっぱなしだな」
いつもトレーナーに任せっきりだしたまにはやらないと。それに家事分担がうまくいかず不仲になるカップルは多いし。あとはみんなにボクの誠意を伝えるためにも積極的にチームのために動かないと。
「トレーナーはもっとボクに甘えていいんだよ。それにトレーナーの頼みなら何でも聞くよ!」
トレーナーは絶対にボクにひどいことはしない。だからトレーナーが望むならボクはなんでも聞くんだ。
「じゃあ尻尾触らせてもらおうかな」
・・・・いきなり言われてびっくりした。冗談のつもりで言ったんだと思う。でもこれってチャンスだ。他の子に一バ身、いや大差をつけることができる。だって普通尻尾を触らせるなんて自分のパートナーか親くらいだもん。
「いいよ。はい」
「・・・・」
顔が見えてないからトレーナーに真っ赤になってることはバレないけど・・・・やったはいいけど流石に恥ずかしいよこれ。お尻を突き出してボク変態みたいじゃんか。トレーナーも喋らないし引いてるのかも・・・・
「・・・・本当に触っていいのか?」
あれ?困惑してるけどトレーナーは本気でボクの尻尾に触りたいみたいだ。もしかして尻尾を触らせるのが親密な関係の相手だけって知らないのかな?まあいいや。これで既成事実ができるもんね。
「言ったでしょトレーナーの言うことは何でも聞くって」
「嫌じゃないのか?」
「うん。どうしてトレーナーに尻尾を触られて嫌がる必要があるのさ」
ごめんよトレーナー。ボクが自分から積極的にお尻を突き出す変態にはなりたくないからトレーナーのせいにさせてもらった。
そもそもこんな光景見てる人いないから意味ないかもしれないけど。
「・・・・じゃあ触らせてもらいます」
トレーナーがボクの尻尾に恐る恐る触れ始める。最初は毛の部分しか触ってなかったけど徐々に尻尾の芯の部分を触り始めた。くすぐったいような気持ちがいいような不思議な感覚だ。
トレーナーのほうをチラッと見ると本当に楽しそうに子供のように笑っていた。写真に残しておきたいくらいいい笑顔。ずっと見ていたい。
それからしばらくトレーナーは夢中になってボクの尻尾を触り続けた。よっぽど触りたかったのかな?とりあえず他の子にしないように言っておかないと。
「ボクの尻尾どうだった?」
「非常に素晴らしいものでした」
「そうなんだ・・・・トレーナーが望むならいつでも触っていいからね」
「・・・・ああ、ありがとう」
ボクのならいつでもいくらでも触れるんだからこれなら他の子の尻尾を触ろうとはしないよね。
それにトレーナーとはいずれボクの尻尾を自由に触っても問題ない関係になるんだから予行演習だと思えばちょうどいいかも。
「じゃあボクみんなの服洗濯してくるからトレーナーはボクとのうまぴょいの練習しておいてね」
ダンスの苦手なトレーナーにこんなこと言うのは酷かもしれないけどこれはトレーナーが悪いんだ。だってこの前ミークのトレーナーとこっそりうまぴょいの練習してたんだから。
あのトレーナーはうまぴょいが上手くて有名だからトレーナーも頼んだんだろうけどあのトレーナーだけはダメだ。嫌な予感がする。
「・・・・はい」
トレーナーにもボクの思いが伝わったのか心なしか申し訳なさそうだ。
ボクはうまぴょいの練習をし始めるのトレーナーを尻目にトレーナー室に向かった。
「こんなにあるんだ・・・・」
すごい量の洗濯物。ボクたちウマ娘にとっては大した重さじゃないけどトレーナーにこの重さを洗濯室まで運ぶのは重労働だろう。ありがとうトレーナー。そんな気持ちでボクは作業を進めた。
「あ、これって・・・・」
作業を進めているとトレーナーのジャージが出てきた。この柄はいつもトレーナーが朝作業するときにきているやつで間違い無い。
「スンスン」
ボクは顔を埋めるようにジャージに顔をくっつけた。トレーナーに直接やりたいけど引かれたくない。だから今はここでトレーナー成分を補給しよう。
「スンスン」
「テイオーさん?」
「っ!」
「何してるんですか?」
「何もしてないよ」
危なかった。キタちゃんにバレるかと思った。キタちゃん経由でトレーナーに伝わる可能性も無いわけじゃ無いからね。
「それならいいんですけど・・・・テイオーさん何か困ったことがあったら言ってくださいね!」
「うん、ありがとねキタちゃん」
キタちゃんが純粋な子で助かった。それからは順調に作業を進めてボクはジムに戻った。
◇◆◇◆◇◆
それから二人でめちゃくちゃうまぴょいの練習した。
前回同様うまぴょいエンドです。何故うまぴょいが隠語と化したのか・・・・
個人的にですが私はテイオーはヤンデレみたいにはならなさそうだと思ってます。好きの思いが爆発してるだけで相手のことを蔑ろにしたりしなさそうというのともし自分の好きな人が別の人と結ばれてもいっぱい泣きつつも祝福すると思ってるからです。また彼女の一番好きは三つあってトレーナー、カイチョー、レースだと思ってます。あとはちみーかな?
あとミホノブルボンは最近引けて可愛いなと思ったのでねじ込みました。お父さんっ子で天然なところもあって面白いキャラだと思います。
ルナに関してですが史実での幼名がルナで由来も引用しています。