初めてやる試みなので手探りですが、お付き合いいただけるとありがたいです。
とある日の都電早稲田駅前に、佑磨の姿があった。そんな彼は、然りに時間を気にしており、手にしていた携帯の画面に視線を落とした。その直後、駅の中から彼の元に走り寄ってくる人影があった。
「おまたせー!」
「やっと来たな香澄」
「ごめんごめん! 寝坊しちゃって……」
照れ隠しの様に笑いながら佑磨の元にやってきたのは香澄。そんないつも通りの姿を見せる香澄に対し佑磨はため息をつく。
「いつも通りだから言うことなし」
「え、これがいつも通り? それって私らしいってこと?」
「一応補足するけど褒めてないからな?」
「ええ〜!? そんなぁ……あ、それで今日は何するの?」
佑磨の言葉に落ち込みを見せる香澄であったが、すぐに立ち直り彼へと問いかける。
「ん、ああ。さくらトラム沿線を巡ろうかと」
「へぇー。でもなんで急に?」
「まあ、なんだ……作者の戯れごとをね」
「あー……」
何かを納得したらしい香澄は佑磨に同情する様に頷く。
「……っと、早速だが行ってみようか」
「おー!」
画して、2人の旅路(?)は始まった——
駅を出た2人は北東へと向かい、神田川に沿って続く桜並木の遊歩道を歩いていた。
「ゆう君、こっちの方向って……」
「うん。多分香澄が普段から行ってる方向だと思う」
頷く佑磨を見て、香澄の表情が眩くなる。
「じゃあもしかして……!」
「あー、もしかしたらいるかもな……っと、見えてきたな、駒塚橋と——胸突坂が」
並んだ2人の目の前にあるのは、見ただけでも登るのが辛いとわかる急勾配の坂。香澄と有咲の通学路でもある。
「これ登るの辛いよなぁ……」
「え、そう?」
険しい表情で呟く佑磨に対して、涼しい顔で首を傾げる香澄。
「お前は普段から登ってるから慣れてるだろうけど、普段登ってない奴からすれば結構地獄だからな?」
「そういうものなのかな?」
「そういうものです」
キッパリと答えた佑磨は、再度坂を見上げる。
「登るか……香澄もこの上に行きたいわけ……だもんね?」
「うん!」
深い溜息をついた後、香澄の方へと向き直る。
「よっしゃ、いこうか」
息巻いた佑磨は香澄と共に坂を登り始めたが、坂の3分の1辺りの地点で息が上がり始める。
「え、なにこれ……ヤバすぎんだろ……」
「ゆう君はっやくー!」
そんな彼の先には元気一杯の香澄の姿。そんな彼女を見て佑磨は複雑な気持ちになるのだった。そして、そんなこんなのうちに2人は坂を登り終える。
「ゆう君大丈夫?」
「無理……お前、普段これをギター背負って登ってんの?」
「うん」
何食わぬ顔で答えた香澄に対して絶句する佑磨。
「お前ヤバいわ……」
「ええ?! なんか酷くない?!」
「お前ら……何やってんだ?」
「あ、有咲……」
たわいもないやりとりをしている2人の前に姿を現したのは有咲。
「有咲ー!」
「うわ香澄ッ! 抱きついてくんなー!!」
「ゆう君が虐めるー」
「虐めてない、本当のことを言ったまでだ」
「はいはい。それで、お前らこんなところで何してたんだ?」
「あー、実は……」
そう切り出した佑磨は、有咲にそこまでの経緯と意図を説明する。
「なるほど。それで、寄り道がてらこっちに来たと」
「「そういうこと」」
声を揃え頷く2人に、有咲は呆れたような表情をする。
「はいはいそうですか……」
「あ、せっかくだから有咲も一緒に行こうよ!」
「は?」
突拍子もない香澄の言葉に固まる有咲。
「いいよねゆう君?」
「いや、俺は構わんけど……」
「ぜってぇいかねぇぞ」
「有咲ぁ……」
同行することを拒む有咲に対して、涙目且つ上目遣いで何かを訴えかける香澄。
そして、有咲の叫びが付近一体に木霊するのだった——
胸突坂を降りた3人は、再び川沿いの遊歩道を歩いていた。
「ったく……あの坂登るのめんどくせーのに……」
「そう言いながら付いてくるところが有咲だよね」
「うんうん!」
「うるせー!!」
佑磨と香澄の言葉に対して激しく否定を示す有咲。だか、佑磨に軽くあしらわれるのだった。
「はいはい、日常茶飯事……っと、着きましたよ御二人さん。江戸川公園に」
3人が到着したのは、江戸川公園。神田川沿いにあるやや大きめの公園だ。
「江戸川公園……」
「私達の思い出が……たくさん詰まってるよね」
「SPACEのオーディション前の時……あれが1番印象に残ってるな」
かつて、ライブオーディションを前にして香澄は歌えなくなった。その時、Poppin'Partyの一同は香澄を励ました。この、江戸川公園で。*1
「そんなこともあったなぁ……あの時は、本気で心配したんだからな?」
「うん……ありがとう。あの時、みんなが励ましてくれたから……私は今もこうしてキラキラドキドキしていられる」
突然香澄から告げられた言葉に固まる2人だったが、我に帰るなり気恥ずかしそうにするのだった。
「べ、別に……」
「う、うん……俺もお礼を言われるほどのことだとは思ってないから……。そもそもいたか怪しいから……」
「あれ? 2人とも顔赤くない?」
「「赤くない!」」
同タイミングで香澄の言葉を否定する佑磨と有咲。
「アハハハ、2人とも面白ーい!」
「「面白くねーよ?!」」
公園内を、2人の痛烈な叫びが駆け抜けていくのだった。
今回はここまで。