有咲と別れた2人は、早稲田駅へと戻った後線路に沿って歩いていた。
「次はどこに行くの?」
「面影橋だな」
スマホに内蔵された地図アプリを眺めながら香澄の問いに答える佑磨。
「あれ、あそこって何かあったっけ?」
「……橋がある」
短く返した佑磨は即座に目を背ける。
「その反応だとゆう君もしらないのかな……?」
「普段あまり来ないから……」
気まずい雰囲気のまま並んで新目白通りを歩いて行く2人。すると大きなT字路に差し掛かる。
「ここも確か通学路だったよな……?」
「うん! 皆んなとよく通ったりしてるよしてるよ! *1」
「だったよな。しかしまあ、都電の踏切と横断歩道が一体になってるのすごいよなぁ……他にも何箇所かあるけどさ」
などと呟きながら坂を見上げる佑磨。すると、こんなことを呟く。
「そういえば、なんかおかしく無いか……?」
「何が?」
「いやだって、香澄達登校する時この坂の方に行くのにあの時——」
佑磨の言葉は三ノ輪橋方面行きの電車の音で掻き消される。
「えー、そうかな?」
「そうだよ。そもそも有咲の家とは——」
再び彼の言葉は、早稲田方面行きの電車の音で掻き消される。
「ゆう君、それ言っちゃうと多分お終いだよ……?」
「まあそうだろうな……現に2回も阻止されてるし」
不自然に通り抜けた車両を遠い目で見送りながら呟く佑磨。そんな感じの2人は、信号が青に変わったことを確認し道を渡って進んでいく。
「……しかしまあ、車通りが多いよな
「そうだね。でも、私達の登下校の時間はそんなに車走ってないよ?」
「嘘だろ……」
香澄の返答に硬直する佑磨。
「本当だよ?」
「ウソダドンドコドーン!!」
「え、ゆう君……?」
「あ、ごめん……なんかつい」
ドン引きする香澄に謝罪した佑磨は、即座切り替える。
「で、えっとそろそろ……お、見えた見えた」
佑磨が見据えた先にあったのは、道路のど真ん中を通る線路の横に設けられた乗降場。
「あれって」
「面影橋駅だ」
十字路を挟み手前と奥側に存在している乗降場は、それぞれ大きな横断歩道の半ばに入口を構えていた。
「これって、乗るの大変じゃない?」
「めちゃめちゃ大変*2だってさ……そういえばここって、香澄とかは乗り降りしてないのに縁があるって聞いたけど?」
佑磨の問い掛けに首を傾げた後、勢いよく顔を上げる香澄。
「うん! 春にここで桜を背景にしてポピパのみんなとこころんと彩先輩と蘭ちゃんと友希那先輩とで写真撮ったんだ! *3」
「あー、洸夜先輩と一緒に降りたら偶然みんなが集まってた日ね」
「そうそう」
何かを思い出すように頷く佑磨。
「いやー、あの時は驚いたね……ってアレ?」
「どうしたの……あ!」
2人の視線が捉えたのは、見知った藍髪で黒縁眼鏡をかけた少女の姿。対する少女も2人に気付く。
「か、香澄先輩と佑磨先輩!」
「「ロック? (!)」」
2人の前に現れたのは六花であった。
「お、お2人ともこんなところでどうされたんですか……?」
「実はかくかくしかじかで」
ここまでの経緯を聞いた六花は驚愕の表情を浮かべる。
「そ、そうだったんですか?」
「そ……しかもまだまだ始まったばかり」
ため息を吐き苦笑する佑磨。そんな彼の傍ら、香澄が口を開く。
「ねぇ、せっかくだから旭湯に寄って行かない?」
「……はい?」
香澄の突拍子もない提案に間抜けな声をあげる佑磨。
「いや、流石にいきなり行ったら迷惑じゃない?」
「行っても大丈夫?」
「大丈夫です! 是非来てください!」
「そ、そうか……じゃあ、折角だし」
心配する佑磨とは対照的に、熱のこもった声で応答する六花。そんな彼女の押しに負けた佑磨は、承諾するのだった。
画して旭湯な寄ることになった2人は、面影橋付近の交差点から早稲田通りの方面へと足を運んだ後、早稲田通りを横断するのだった——
入浴後、旭湯を後にした一行は坂道を下っていた。
「ゆう君気持ち良かったね!」
「ああ。久々銭湯とか行ったけど最高だったわ」
「喜んでいただけてよかったです」
2人の答えに微笑む六花。そんな彼女に対し、佑磨はかしこまる。
「でも、ごめんな。わざわざ見送りまでしてもらっちゃって」
「いえ! とんでもないです! 私がそうしたかっただけですから」
蛇行する道に沿って歩いて行くと、一向の目の前に鳥居が姿を表す。
「あ、神社だ」
「ほんとだ……『天祖神社』……?」
3人が意図せずに訪れたのは天祖神社。
「天祖って何?」
「……えーっと、今現在だと『天照大神』様を示すらしいよ」
「アマテラス……?」
「え、そっから説明しなきゃダメ?」
困惑しつつも香澄に説明をしていく佑磨。そして、かれこれ数分後。
「へぇー、そうなんだ!」
「はい……そういうことです」
「佑磨先輩詳しいんですね」
「まあ、色々合ってね……」
苦い表情を取った佑磨は、視線を2人から外すのだった。その傍ら、本堂を見つめていた香澄が徐ろに言葉を紡ぐ。
「ねぇ、折角だしお詣りして行かない?」
「ここにか?」
「うん! こうしてここに来たのも何かの縁だと思うんだ!」
「なるほどな……そうだな。ロックも良い?」
「はい」
3人は本堂の前に横一列に並び、各々お賽銭を箱に入れ瞳を閉じ祈る。暫しの沈黙の後、一同は閉じていた瞳を開く。
「何お願いした?」
「え、俺はこれからもみんなと音楽が続けられますようにって」
「ロックは?」
「私も佑磨先輩と同じです」
「香澄は?」
佑磨に問われた香澄は満面の笑みを浮かべ答える。
「『みんなとキラキラドキドキしたいです!』ってお願いした」
「なんとなく予想できてたわ」
「えー?! なんで?!」
「普段から同じこと言ってるから」
「そんなことないよー!!」
笑いながら答える佑磨と、不満気に頬を膨らませる香澄。そんな2人の姿を六花は優しく見守っているのだった。
今回はここまで