スペ「すぺしゃるうぃーく、さんさいです」   作:にゃるまる

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第1話

 

ーースペシャルウィークが病院に搬送された。

その突然の知らせを聴いたスピカの面々、そしてスペシャルウィークと仲の良いウマ娘達はすぐさま搬送された病院へと駆け込んだ。

 

「はぁはぁ……ッ!あ、あの!すみません!!スペシャルウィークが此処に搬送されたと聞いてきたのですが!!」

 

入口近くにいた看護師を捕まえ、スピカのトレーナーが息を切らしながらそう問い掛けると看護師はすぐに案内してくれた。

あまりにも突然の知らせに練習時のジャージ姿のままでやってきた面々もその案内に従い、不安そうな面持ちで病院内を進んでいく。

 

案内された先にあったのは個室が1つ。

この中にスペシャルウィークが居る。誰もがすぐに扉を開いて中へ入ろうとするが、それとほぼ同時に個室の扉が開き、中から高齢の医師らしき人物が出てくる。

 

「……?あなた方は?」

 

「あ、あの!スペちゃんこの部屋に居るんですか!?」

「ねぇねぇどうなの先生!」

「どうなんだよ先生!!」

 

医師へ向けられた質問の嵐。

それを前に戸惑う医師に気付き、トレーナーがなんとか皆を落ち着かせると、代表として質問する。

 

「自分はトレセン学園の職員で、スペシャルウィークが所属しているチームスピカのトレーナーをしている者です。あの…スペシャルウィークが運ばれたと聞いてきたのですが……スペシャルウィークは此処に?」

 

身元証明の為に提示したトレセン学園職員の名刺。

それを見て安心したのだろう。トレーナーと軽く握手をした後に恐らく彼女達が今一番気にしているスペシャルウィークの状態について説明し始めようとしてーーー

 

ガタンッ!!と病室内から大きな物音が鳴り響いた。

 

「……ッ!またですか……」

 

聴こえた物音に医師の表情が歪む。

《また》その言葉の意味が分からずとも医師の見せたその表情が状況を物語っている。

あの扉の向こうでスペシャルウィークに何かがあったのだと。

それを理解すると同時に全員が扉の向こうへと行こうとするが、それを医師が阻んだ。

 

「皆さんどうか落ち着いてください!皆さんのお気持ちも分かりますが、一斉に入られたらーー」

 

「そうだぞお前ら!先生の言う通りだ!まずは落ちつけ!!」

 

医師の制止、そしてトレーナーの一喝。

それらを受けるとウマ娘達は渋々とではあるが、扉を開けようとするのを諦めた。

その様子を見て一安心と小さく息を吐くと、トレーナーは医師に向き合った。

 

「先生、スペシャルウィークとの面会は可能ですか?」

 

「……はい、それは可能です。ただし……覚悟だけはしてください」

 

覚悟、その単語が嫌でも最悪な可能性を連想させる。

今は此処にいないサイレンススズカに起きた悲劇。スペシャルウィークが居たからこそ防げたあれをどうしても思い出させてしまう。

スペシャルウィークにも同じ様な悲劇が起きてしまったのでは、と。

 

浮かび上がる最悪な可能性。

それを前に僅かに迷いを見せるが、それでもトレーナーは首を縦に降った。

何が起きていたとしてもそれを受け止めてあいつの力になる、それがトレーナーとしての俺の役目だと、そう覚悟を決めて。

 

その覚悟を察したのだろう、医師は静かに扉を開けると中へトレーナーを案内していく。

ウマ娘達もそれに続こうとするが、トレーナーから「まずは俺だけで行ってくる」と告げられ、やむなく待つ事になった。

 

「……スペちゃん、大丈夫かなぁ」

 

セイウンスカイの発言に誰もが暗い表情を見せる。

医師が言った覚悟と言う単語、それはこの場に居る全員に良くない結果を想像させる。

そして同時に誰もが願っていた。

あの扉の向こう側、そこにいつもの元気なスペシャルウィークが居る事を、そう願い、全員が扉を見つめてーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「びゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーその扉の向こう側から聴こえた盛大な泣き声に固まった。

 

「お、落ちつけスペ!!俺だ!!お前のトレーナーだ!!」

 

「し゛ら゛な゛い゛ぃぃぃ!!!!し゛ら゛な゛い゛し゛ら゛な゛い゛し゛ら゛な゛い゛し゛ら゛な゛い゛し゛ら゛な゛い゛ぃぃぃッ!!!!す゛ぺ゛お゛じち゛ゃ゛ん゛な゛ん゛て゛し゛ら゛な゛い゛ぃぃぃぃぃ!!!!こ゛こ゛どごぉぉぉぉッッ!!!?お゛があ゛ち゛ゃ゛ん゛どこ゛ぉぉぉぉぉ!!!!う゛ぇぇぇん!!!!」

 

聴こえる泣き声、それは間違いなくスペシャルウィークのものだ。

だがその泣き声はまるで幼子のそれで、とてもではないがいつもの彼女と結び付くものではない。

一体何が起きているのかと、その泣き声を聞いて扉の前で待っていた面々も次々と中へと入っていく。

扉の開いた先、其処で待っていたのは―――

 

 

 

「や゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 

 

――もう滅茶苦茶に大泣きしながら手当たり次第にそこらの物を投げているスペシャルウィークの姿だった。

 

「す、スペシャルウィークさん落ち着いてください!!」

 

「そ、そうだ落ち着けスぺッ!!」

 

「す゛ぺお゛う゛ち゛か゛え゛る゛ぅぅぅぅッ!!!!お゛か゛あ゛ちゃ゛ん゛の゛と゛こ゛ろ゛に゛か゛え゛る゛ぅぅぅぅぅッッ!!!!!!」

 

医師とトレーナーが必死になだめようとするが、スペシャルウィークはお構いなしに物を投げ続ける。

枕やスリッパ、コップやタオル、挙句の果てには花瓶さえも遠慮せずに投げ飛ばして来る。

ただでさえ人よりも優れた身体能力を持つウマ娘の投擲、更に言えば感情が爆発しているせいで手加減などない上に投げてくる物の中には危険物も混じっているそれは、当たれば間違いなく大怪我は避けられないだろう。

だからこそ医師やトレーナーは必死になだめようとするが、今の彼女にとってそれは逆効果だった。

 

「びゃあ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」

 

先程のそれを上回るのではないかと言う程に声量を増した泣き声と共に物が激しく飛んでくる。

それを必死に躱しながらも宥める事を継続しようとしている医師とトレーナーの姿を部屋に入ってきたウマ娘はただ呆然と見る事しか出来ずにいた。

 

「…お、おいスぺ?」

 

病室の中で繰り広げられる理解が追い付かない光景。

それを前にゴールドシップが絞りだす様に彼女の名を呼び掛ける。

すると泣き声がゆっくりと止まり、その視線がトレーナー達から部屋の入口で困惑するウマ娘達へと向けられる。

1人1人の顔をじっくりと見つめていくその瞳は誰かを探しているようにも見えた。

時間にしておよそ数秒、全員の顔を確認し終えたスペシャルウィークは―――

 

 

 

「ま゛た゛し゛ら゛な゛い゛ひ゛と゛お゛ぉぉぉぉぉぉッッ!!!!お゛か゛あ゛ちゃ゛ん゛どこ゛な゛の゛ぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 

 

――また、大声で泣き始めると同時に投擲を再開した。

 

「うわ!?す、スぺちゃん!?」

「ちょ!?スぺ先輩危ないですって!!」

 

泣き声と共に今度はウマ娘達にも投擲の矛先が向けられる。

慌てて病室を一度飛び出した面々に続いて、医師とトレーナーも逃げてきた。

閉めた扉にガンガンと物が激しくぶつかる音を聞きながら、全員が危機を脱した事に安堵する。

 

「す、スぺちゃんどうしたのさ…」

 

トウカイテイオーのもっともな疑問に全員の視線が唯一事情を知るであろう医師へと向けられる。

だが、その期待を裏切る様に医師は静かに首を横に振った。

 

「…申し訳ありません。実はスペシャルウィークさんが当院で目覚められるともうあの状態で…本人が診察を大変嫌がるものでまだ詳しい診察が出来ずにいる状態なのです……あの、失礼ですがスペシャルウィークさんは普段からあんな感じで?」

 

医師の発言に全員が戸惑いを見せながらも違うと即答した。

とてもではないが、今のスペシャルウィークは普段のそれとは掛け離れたものへと変貌している。

今の彼女は、まるで子供みたいで―――

 

「……こど、も?」

 

《子供》、その言葉で浮かび上がった1つの疑問。

それに唯一気付けたグラスワンダーが静かに手を挙げると――

 

「あの、少しだけ良いですか?」

 

――1つの提案をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静かに扉を僅かに開けて中を様子見すると、そこには先程のそれよりは感情の暴走が落ち着いてきたスペシャルウィークの姿があった。

けれど周囲をひっきりなしに見渡したり、怖がる様に布団に丸まったりと警戒だけは溶けていない。

恐らく些細なきっかけ1つあれば、また泣き始めてしまうだろう。

それを確認し終えると、グラスワンダーは静かに深呼吸をしてから、ゆっくりと扉を開けた。

 

「――ッ!!!?」

 

部屋の中に入ってきたグラスワンダーの存在に気付いたのだろう。

丸まっている布団を強く握りしめ、怖がっているのが一目で分かる位に震えながら侵入者であるグラスワンダーを注視している。

グラスワンダーからすれば今まで1度も向けられた事のないその表情にやはり戸惑いが生まれるが、今はそれを堪えて、静かに笑みを浮かべると腰を屈めてスペシャルウィークの目線に合わせた。

 

「こんにちはスぺちゃん」

 

笑顔でそう挨拶をするグラスワンダー。

しかし警戒しているスペシャルウィークは返事をする事なくゆっくりと後ろへと逃げようとしているが、それを気にせずにグラスワンダーは懐から何かを取り出す。

 

「……………?」

 

取り出したのは一枚の折り紙。

金色のちょっとだけ高級感が溢れるそれをスペシャルウィークが不思議そうに眺めている。

その様子を静かに見守りながら、グラスワンダーは手慣れた動作で折り紙を折っていき――

 

「はい、うさぎさんですよ~」

 

見事なウサギを作り上げた。

 

「――!!!?え!?え!?うさぎさん!?」

 

完成したウサギ、それをスペシャルウィークは困惑しながら見ていた。

一枚の折り紙があっと言う間にウサギになった事が不思議でたまらないのだろう。逃げる事も忘れて興味津々といった様子でウサギを見つめている。

その無邪気な姿を見ながら、これならばとグラスワンダーは完成させたウサギをスペシャルウィークに差し出した。

 

「はいどうぞ」

 

「ふぇ?い、いいの?」

 

「はい、いいですよ。これはスぺちゃんの為に作った物ですから」

 

差し出されたウサギ。それを迷いながらも受け取ったスペシャルウィークは手にしたウサギを嬉しそうに眺め、まるで子供がプレゼントをもらって喜ぶ様にコロコロと表情を変えて、手にしたウサギに満面の笑顔を向けている。

その表情に既に警戒心はなく、グラスワンダーもさり気なくその隣に腰を下ろしてみるが拒絶はない。

作ったウサギをキャッキャッと笑顔で弄るスペシャルウィーク。この様子ならば大丈夫だと思ったグラスワンダーは、静かに最も聞きたい《それ》を問いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇスぺちゃん。スぺちゃんは――――今、何歳かな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぅ?すぺはねぇ…さんさい!!すぺしゃるうぃーく、さんさいです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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