スペ「すぺしゃるうぃーく、さんさいです」   作:にゃるまる

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第13話

 

スーパークリークから託されたスぺちゃん当番。

それに対しグラスワンダーは何も不満に思っていない。むしろ歓迎する話だ。

スーパークリークに取られる筈だった時間を自分の物に出来る。そう思えば喜ぶしかないないだろう。

だがそれは――彼女自身の予定が空いていれば、の話に限るわけだが……

 

《さあ!!今日の主役グラスワンダーの入場です!!》

 

聴こえる実況の声にグラスワンダーは会場へと――今日の予定であったファン交流会の会場となるレース場へと足を踏み入れる。彼女の姿がパドックに出るや否や彼女の姿を一目見ようと集まった観客達から大きな歓声と鳴り止まない拍手が鳴り響く。グラスワンダーはそれに笑顔で手を振って応えながら、その視線を観客席の一部に作られた関係者席へと向ける。

 

「ぐらちゃ~!」

 

其処に居たのはスペシャルウィーク。急遽当番を代わる事となってしまった彼女が純粋無垢な笑顔で手を振ってくれている。それに観客へと向けるのとは違う笑みで応えながら、グラスワンダーは内心ひやひやしていた。

 

「(よりにもよって……)」

 

今日行われているファン交流会は元々予定されていたものだ。

レース場1つを貸し切って行われるそれは大規模なものであり、これだけの規模のイベントが行われるのはファン達の多くの期待とその期待に応え続けたグラスワンダーの実力だろう。その為にグラスワンダーはスーパークリークに当番をお願いしていたのだが、その彼女が急遽ダメとなってしまい、結果的には連れて来るしかない状況になってしまったのだ。

 

最初はスピカの面々に頼むと言う選択肢を考えた。

だが、トウカイテイオーとメジロマックイーンはレースの為に学外へ(トレーナーはこれに追従)。ウオッカとダイワスカーレットはレースの為に受けられなかったテストの補習。ゴールドシップは《北海道でアイヌの黄金がアタシを呼んでいる!!》と謎の伝言を残して旅立ってしまった(後日顔に傷のある軍人と小さな女の子と一緒に映った写真が送られてきた)。

その他も色々と考えたが、どれもこれも結果的にはダメになってしまい、その結果グラスワンダーはスペシャルウィークを会場に連れてくると言う決断を下したのだ。

幸い学園側からの連絡がスタッフに届いており、スペシャルウィークの周りには事情を知っているごく一部のスタッフが配置されているので、何かしらの問題があっても対応してくれるだろう。

そう、分かっているのだが……

 

「(ああ…スぺちゃん大丈夫でしょうか?はしゃぎすぎてこけたりしないでしょうか?それにあんなにはしゃいでたら喉も乾いてしまうのでは…スぺちゃんの大好きなニンジンジュース足りるでしょうか?今からでも追加で買ってきた方が…ああでもでも……)」

 

グラスワンダーの内心は、めっちゃ不安になっていた。

もしも彼女の身に何かあれば――そう思う不安が自然と身体に出ていたのだろう。

向けられる歓声や拍手に笑顔で応えながらも、その視線はついつい彼女の方ばかり向いてしまう。

それではいけないと、自分の為に集まってくれたファンに失礼だと思いながらも、どうしても自然と向いてしまう。それを一部のファンはさり気なく察していたのだろう。誰を見ているのだろうかと関係者席へと数人程度だが視線が向いてしまっている。

 

「(――ッ!いけないッ!!)」

 

スペシャルウィークは今現在世間的には療養とされており、記憶を失ってからは一度も世間に姿を見せていない。

そんな彼女が此処に居るとなれば騒ぎになるのは必然だ。それを防ごうと慌てて声を出そうとして―――

 

「はいは~い。どうもどうも~セイウンスカイだよ~」

 

そんな雰囲気を払拭するようなのほほんとした声と共にパドックに1人のウマ娘が姿を現す。

《セイウンスカイ》若手ウマ娘の中でグラスワンダーのそれに負けない人気を集めている彼女が突如姿を現すと会場の観客が僅かに戸惑いを見せた後にまた歓声を挙げ、その視線の全てが会場へと戻っていく。

 

「セイウンスカイさん…!?」

「はいはい~顔に出さない出さない。スぺちゃんが心配なのは分かるけど、目の前のファンの事も忘れたらいけないよ~ほらスマイルスマイル~」

 

予定ではまだ姿を現す段階じゃない彼女が姿を見せた理由。

それを彼女の言葉から悟ったグラスワンダーは小声で申し訳ありませんと謝罪をすると、スペシャルウィークを心配する心に何とか蓋をしてファンに向けて笑顔を向ける。

その姿に一安心だと小さくため息をつきながら、セイウンスカイもまた目の前の人々に手を振るのであった。

 

――しかし後に2人は思う。

もしもこの時、スペシャルウィークに意識を向けていれば――あんな事にはならなかったのでは?と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐらちゃ~♪」

 

観客席の一区画を貸し切る様に作られた関係者席。

その中の1つに彼女の、スペシャルウィークの姿はあった。

舞台上に立つグラスワンダーへと向けて純粋無垢な笑顔を見せる彼女だが、その姿を抑えきれない戸惑いを露わにしながら見つめる1人のウマ娘が居た。グラスワンダーのファン交流会の為に集められたスタッフの1人であり、この会場に居るスタッフの中で数少ないスペシャルウィークの現状を知る人物でもあり、そして同時にスペシャルウィークのファンの1人でもあった。

 

「(…最初は信じれませんでしたけれど……)」

 

彼女を始め一部のスタッフに召集が掛かったのはつい数時間前の事だ。

1つの部屋に集められた彼女達に対し、上司からスペシャルウィークに起きた事態の説明を受けた彼女達だったが、最初は到底信じられる様な内容ではなかった。記憶喪失、それも過去に事例の無いウマ娘にそれが起きたのだ。信じろと言う方が難しいかもしれない。だが、今彼女はその認識を改めた――いや、改めさせられた。

 

「ははは!がんばれ~!!」

 

たどたどしい口調で笑い、与えられた飲み物やお菓子をボロボロと零しながら食べるその姿はまさに子供だ。

女性の知る《日本総大将》としての姿とあまりに異なるその姿に、否が応でも信じるしかなかった。

女性が憧れていた彼女は、数々のレースで勝利し、強敵ブロワイエをも破った彼女は――今はいないのだと。

目の前にいる彼女は、多くの人々が知る彼女でも、《日本総大将》でもない。

単なる――《子供》なのだと。

そう認識してしまうと、どうしても下を俯いてしまった。

いつか同じレースを走りたい。そう願って練習を続けてきた彼女にとって憧れの現状を認識させられた事はどうしても今の彼女を見る勇気を奪ってしまい、その視線を下ろしてしまう。

まるで見ない事で目の前の現実を否定するかのように。

 

「どーしたのー?」

「ふぇ!?え、あ!?」

 

しかしそんな彼女の様子がスペシャルウィークに何かしら気付かせたのだろう。

手にジュースを握ったまま下を俯いてしまった彼女に声を掛けると、女性は戸惑ってしまった。

いくら記憶を失っても、目の前に居るのは本来は話しかける事も話しかけられる事もない憧れの存在。

先程までの葛藤と突然の出来事に軽くパニックを起こした彼女は何かを喋らないといけないと周囲を見渡し、スペシャルウィークに渡されていたお菓子がもう無くなっている事に気付くと、これ幸いと動き出した。

 

「お、お菓子を持ってきますので待っててください!!すぐに!!すぐに戻りますので!!」

 

逃げる様に関係者席を飛び出す彼女にスペシャルウィークはきょとんとしながらも、グラスワンダーから言われていた「私が居ない間はこの人の言う事をしっかり聞いてくださいね」と言う伝言に従い、素直に待つ事にして再度舞台上へと視線を向けようとして―――

 

 

「やあやあスペシャルウィークくん。ちょっと良いかな?」

 

 

突然向けられた言葉に舞台上へと向けようとした視線が声の主へと向いていく。

先程彼女が出て行った場所と同じ所に姿を現した人物を、スペシャルウィークは知らない。

最低でももしも何かあれば声を掛けてほしいと紹介されたスタッフの中には目の前の人物の姿は無かった。

普通であれば不審者だと通報したりするのだが、今のスペシャルウィークにとって悪人と言う存在は絵本に出てくる架空上の存在でしかなかなく、純粋無垢な彼女は通報するや誰かに助けを求める事もなく、ただ己の中に芽生えた疑問を払拭するのに最も適した質問を彼女に問いかけた。

 

「だ~れ~?」

「おや?その様子を見る限り例の話は本当の様だね。ふふふ、これは知的好奇心が沸いてくると言う物だ。ん?ああ、すまないね君の質問に答えていなかったね。では名乗らせてもらおう。私の名前は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《アグネスタキオン》、君に大いに興味を抱いているしがない1人のウマ娘さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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