スペ「すぺしゃるうぃーく、さんさいです」   作:にゃるまる

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第14話

 

「むぅ…不愉快だ!実に不愉快だと思わないかねトレーナー君!!」

「…タキオン。とりあえず自分の胸に手を置いて冷静に自身を見つめ直してみるんだ。そうすれば納得出来る筈だからさ」

 

時間は少し遡る(具体的にはスズカがクリークに頼りに行った頃)

トレセン学園にある研究室。その部屋の主である《アグネスタキオン》は自身のトレーナーであり、モルモット君でもある青年に不満をぶちまけていた。その姿はまさに怒り心頭と言う奴だろう。

白衣の袖をぶんぶんと振り回しながら怒りを露わにするアグネスタキオンに対し、トレーナーである青年はため息をつきながらどうしてこうなったのかを思い返す。

 

数十分前はいつも通りだった。

今日も今日とて研究に明け暮れるアグネスタキオンと今日は何色に発光させられるのやらと実験の餌食とされるであろう己の姿を未来視し始める哀れなトレーナー兼モルモットの青年。

いつも通りの研究室の光景。それに変化が出たのは、1人のウマ娘の来訪からだ。

 

《失礼するぞアグネスタキオン》

 

部屋に訪れたのは今や世界中の誰もが知る名バ中の名バ《シンボリルドルフ》

トレセン学園において生徒会長として在籍している彼女の突然の来訪にトレーナーは驚き、アグネスタキオンは僅かに驚きを露わにしたが、すぐにいつも通りに戻ると彼女の来訪を歓迎した。

恐らくこの時点においてはまだ不愉快と言う感情は欠片も沸いていなかっただろうとトレーナーは思う。

あわよくば彼女のデータを得るとの、実験に協力してもらおうと言う欲望が見え隠れしていたから間違いないだろう。

そんな彼女が不愉快になった理由、それは―――

 

《アグネスタキオン。突然で悪いのだが、君に一つ知らせがある。君には悪いが今度暫くの間スペシャルウィークとの接触を禁止にさせてもらうよ。理由は――分かるだろ?》

 

――彼女が狙っていた次の獲物との接触を禁止されたからだ。

 

「何を言っているんだトレーナー君!!私は冷静だし自身の過去に恥ずる物は何一つないと断言させてもらうよ!!全く本当に不愉快だ!!どうして接触を禁止にするのか私には全く理解できないよ!!」

 

ぷんぷんとお怒り心頭なアグネスタキオンの言葉に、呆れに呆れた乾いた笑みを浮かべながらどうしたものかと考える。

実はアグネスタキオンはもうすぐあるレースを控えている。

G1ではないがそこそこ規模も大きく、注目度も高い。今後も考えるとこのレースでの勝利は欲しい所だ。

だが今の状態のタキオンが練習に参加しようと言う考えを生み出す可能性はハッキリ言ってゼロだ。

最低でもこの不愉快状態が解除されるまでは彼女は練習参加を拒否するだろう。

 

「(…はぁ…どうしたものかなぁ)」

 

どうにかして練習に参加してほしい、そう願いその手段を模索し始めるトレーナーに対しタキオンは不快な気持ちのまま研究室に置かれているPCを操作し、自身の研究成果を示すレポートを制作していく。

その手の動きには若干の荒れがあり、キーボードを打ち込む指1つ1つに込められた力強さは彼女の不快をそのまま形として示したものだろう。

 

「(全く会長には困ったものだ!)」

 

シンボリルドルフから告げられた知らせ――いや宣告には拒否権などなかった。

生徒の自由を尊ぶトレセン学園においては珍しく権力が行使されており、生徒会長であるシンボリルドルフはもちろん学園教師とトレーナー、そして学園長のサイン入りの書類を提示された時点でアグネスタキオンにそれを断る力は無かった。

 

「むぅぅぅ!!!!」

 

不快、不愉快、怒り。

それらが入り混じりまるでリスが頬に餌を貯め込んだ姿の様に膨れっ面になるタキオン。

普段の姿とは異なるその姿をアグネスデジタル辺りが目撃すれば《尊い!!》とか言いそうである。

そんなタキオンが打ち込んでいたレポートだったが、完成したのだろう。

軽く悲鳴を上げ続けていたキーボードから眼を離し、その怒りが収まらないまま続いて研究を行おうとして――不意にそれが目に入る。

 

「おや?トレーナー君。これはなんだい?」

「ん?何って……ああこれね」

 

2人の視線の先に置かれていたのは一枚の書類。

其処に書かれているのは《グラスワンダー ファン交流会協力のお願い》。

 

「覚えてない?昨日ダイワスカーレットが持ってきた奴だよ」

「む?……ああ!!」

 

言われて思い出したのは昨日の事。

研究で丁度手が離せないタイミングで研究室に来訪してきたのがダイワスカーレットで、その要件と言うのが明日――つまり今日行われるグラスワンダーのファン交流会の最後に行われるレース参加への協力だった。

 

《本当はアタシが出る予定だったんですけど、前にレースで受けられなかったテストの補習が入っちゃいまして…代わりにタキオンさん出てくれませんか?出てくれたらアタシ嬉しいです!!》

 

つい忘れていたとアグネスタキオンは珍しく己の行為を恥じた。

不思議と可愛がってしまう後輩からの頼み。それを断るつもりはなかったが今から出向いても間に合わないかもしれないなと断りの連絡を入れようと伝えようとして――留まった。

確かグラスワンダーはスペシャルウィークのお世話当番なるものを担当していた筈。

ならば――会場に行けばスペシャルウィークが居るのではないか?

 

「――ふ、ふふふ」

 

確かに今のアグネスタキオンはスペシャルウィークとの接触を禁じられている。

だが、この場合はどうだろう?

後輩からの要望で参加したイベントで《偶然》スペシャルウィークと出会ってしまった。

意図的ではない。《偶然》なのだからこの場合は《仕方がない》のではないのだろうか?

その際に少し《お話》をしても《仕方がない》のではないのだろうか?

 

「…た、タキオン?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「善は急げだトレーナーくん!!すぐにこの会場へ行くぞ!!!!!」

「え!?ちょ、タキオン!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして駆けだしたタキオンの表情からは不快が消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は戻る。

 

「やあやあ!!こうして話す機会は中々に無かったが私は君の事は知っていたよ」

 

会場に到着してからアグネスタキオンは即座に行動を起こした。

イベント最後に行われるレースに参加できなくなったダイワスカーレットの代わりに来た事をスタッフに説明すると、彼等は疑う事なく彼女を会場へと入れてくれた。

其処からはもう自由だ。レースまでの時間は十分にある事を確認したタキオンは会場中を歩き続けた。

決して探してはいない。ただ会場を歩いていただけだ。

その過程で《偶然》スペシャルウィークを発見した彼女は《挨拶》をする為に此処にやってきた、ただそれだけだ。

そう、これは《仕方がない》のだ。

 

「……しってる~?」

「そうだとも知っているよ(視覚による計測で確実ではないが健康状態に問題は無し。四肢の動きに問題は無く記憶喪失による後遺症も見られず、か。ふむ…言葉足らずになっているのは精神年齢に肉体が引っ張られていると言う事か?だがしかしそれならば………ああ!!機材を持ち込めればもっと確実なデータを得られるのに!!だが欲は言うまい!今は確認できる範囲でデータを一つでも多く得らねば!!)」

 

ニコニコと笑顔で会話しながらその脳内では次々と得られるデータに尻尾が喜びを露わにしてぶんぶんと振り回すアグネスタキオンに対し、スペシャルウィークは何となく、そう何となくだが――危険を察知していた。

なんか危ない気がすると言う曖昧な子供ならではの勘が彼女にそう告げていた。

 

「ふむ、お菓子を食べていた様だね?それならばこれを食べてみてはどうだい?トレーナーく――私が手作りしたクッキーなのだけれど、如何かな?」

 

そう言って出したのはいたって普通なクッキーだ。

強いて言えばバターのほのかな香りがする美味しそうなクッキーと思える位だろう。

実際、このクッキーは普通のクッキーだ。

トレーナーがタキオンのおやつ用にと焼いたクッキーの一つであり、薬品も何も入っていない本当に普通のクッキーだったりする。

タキオンならば薬物や薬液など混ぜてそうだと思う人もいるだろうが、彼女もそこまで馬鹿ではない。

仮に此処で注射器や薬品を出せば子供と同じ精神状態の彼女が逃げ出すのは目に見えて明らかである。

そうなれば研究云々の話どころでは無くなってしまうのは間違いないだろう。

 

ならばどうするか?となって考えのが、信頼関係の構築だ。

同じ条件でも相手に好意があるなしで結末は変化するし、信頼関係を構築していけば相手から自然と接触してくる事も多くなる。そうなれば接触禁止も糞くらえとなるだろう。

そんな風に先の事を踏まえて考えたタキオンは己の知的好奇心を抑えてまずは信頼関係構築とクッキーを差し出した。古来よりお菓子は子供に懐かれる最適手段だ。これならばと慣れない笑顔を浮かべながらクッキーを差し出す。(自身の手作りだと言ったのはちょっとした虚栄心)

 

さてそんな感じに差し出されたクッキーに対し、先程までの危機感を知らせる勘などどこへやら、スペシャルウィークは自然と笑みを浮かべて受け取ろうとした。

疑う事を知らない無垢な子供ならではの行為だろう。

差し伸ばされる手にアグネスタキオンは信頼関係構築への確実な一歩を感じ、内心喜びを露わにしそうになるが――不意にその手が止まる。

 

「―――?ど、どうしたんだい?」

 

止まった手に疑問を感じながらそう問いかけると、スペシャルウィークがゆっくりとだが後ろへと下がっていくのが分かった。

何故?と戸惑うアグネスタキオンだが、スペシャルウィークはそんな彼女に対し警戒心を強めていく。

 

スペシャルウィークがアグネスタキオンに対して警戒心を強めた理由それは――彼女からの《匂い》だった。

日頃から研究室で実験を繰り返すタキオンは自然と実験に必要となる多種多様な薬品を揃えなければならず、研究室にはたくさんの薬品がある。

そんな薬品の匂いがこもった部屋で実験するのだ、どうしても衣類に匂いが付くのは仕方がない。

だがしかし、アグネスタキオンがそう言った研究を行っているのは周知の事実である。彼女から漂う薬品臭を今更気にする人もさほどおらず、本人も気にする事は無かった。

だが――今回ばかりはそれが悪手となった。

 

アグネスタキオンから漂う薬品の匂い。

その匂いからスペシャルウィークが連想したのは――お医者さんだった。

経過観察でスペシャルウィークは何度か病院へと行っているのだが、子供と言うのは基本的に病院を嫌う物だ。

グラスワンダーが付きっ切りでいないと診察どころじゃない状況となってしまう程にスペシャルウィークは病院を嫌っている。

そんな彼女の目の前に病院の人達によく似た匂いを漂わせ、そして尚且つ病院の人と同じである白衣の人が出てきたらどうなるだろうか?

答えは単純明快―――

 

 

 

やぁぁぁ!!!!!!!

 

 

 

――――全力逃走である。

 

「え?ちょ!?す、スペシャルウィークくん!?」

 

アグネスタキオンの横をすり抜ける様にしながら叫んで走り去っていくスペシャルウィークを慌てて追いかけようとしたアグネスタキオンだったが、振り向いた時にはもうその姿は何処かへと消え去ってしまっていた。

 

 

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